8(ディラン視点)
三年ぶりに帰った故郷は変わり果てていた……。
俺は勇者の剣が見つかってから旅に出るまではずっと勇者候補として王都に居た故に、ここ数年の故郷の様子は殆ど知らない。だからこの景色を視界に写した瞬間の衝撃は凄まじかった。
元々戦地と言えど、それなりに豊かだった大地は、よほどの食糧難だったのか草木一つない程に荒廃し、俺が育った当時の面影などない。その光景を頭で理解すればするほど、心が抉られるように痛むのを感じた。
********
俺たちの魔王討伐パーティは少数精鋭で組まれたものだった。なにせこの国を出た後は、魔王の居城に到着するまで魔物達に滅ぼされた大地が続く。要は孤立無援の状態で魔物との戦闘だけが待つのだ。今では誰も話題に出したがらないが、第一陣の勇者パーティはそこで失敗した。
これはあくまで当時流れていた噂だが、国王は第一陣の勇者パーティが失敗することを知っていたという。それでも出陣させた……。元々それほどまでに絶望的な戦いだったのだ。この魔王討伐は。
だが、俺達のパーティは第一陣とは違う部分があった。国内から聖女が発見されたのだ。聖女とは体内に強力な白の魔力を持つという勇者と同じく伝説上のものとされていた存在だった。これで勝率は一気に上がることになる。
それ故、第一陣の時よりも国王は慎重になったのだと思う。
勇者にはより王家の血が濃い王族の中から第二王子・ユリウスが選ばれ、他のメンバーとして国内でも指折りの実力者が選ばれた。
そしてもう一つ。第一陣の時と違ったのが、国王の命令だ。第一陣の勇者パーティは国周辺の魔物を出来るだけ狩りながらの旅だった。しかし俺達が命令されたのは王都の脅威となる魔物を狩った後は、国を出るまで魔物との戦闘は避け、出来るだけ万全の状態で魔王の居城までたどり着くための旅だった――――。
だから俺は旅をしていた間の魔物との戦地の状況を殆ど知らない。
それに実際、最初の頃はある程度は楽しいこともあった旅は日を追うごとにその姿を変えていく。
毎日続く魔物との戦闘で全員日に日に疲弊していた……特に魔王の居城周辺では俺も仲間も明日にでも魔物に殺されて、いなくなってしまうかもしれないという死と隣り合わせの状況。これは国でずっと戦っていた人間にも言えることだろうが、地獄の様な日々だった。そんな状況で故郷の事など考えている暇などあるわけがない。少なくとも俺にはそんな余裕はなかった。
けれど魔王を打倒し、国に凱旋するとそれも変わる。
これでも両親からの手紙に帰ると返礼した時から覚悟はしていたのだ。しかし本当に帰ってきてみると、そんな覚悟は儚く崩れ去る。
(だから、ここに帰ってきたくなかったんだ……)
俺はずっとパレードや騎士団の仕事だのを言い訳に、故郷から目を背けて帰るのを先延ばしにしていた。騎士団の団長や部下からも帰らなくて良いのか、と何度も聞かれたというのにその度に誤魔化して……。そうして丁度仕事も王都での事後処理も全て終わり、もうそろそろ帰らないとなと思っていたところでフェリシアが王都から抜け出そうとしていた場面に遭遇したわけだ。
……でも俺はきっと怖かったんだ。荒れた自分の故郷を見ることが、失ったであろうものに向き合うことが――。
両親は手紙でも何も言わなかったが、最前線だったこの城塞ではかなりの被害が出ているなんてことは聞かなくても分かりきっていた。だからと自然と足は遠のいた。
今ここでフェリシアが隣にいてくれた事が幸いだ。こいつがいなかったら俺は叫びだしていたかもしれない。
隣に旧知の、それも昔から負けたくないと思っている人間がいるというだけでフェリシアと同じくらいに意地っ張りの俺は“いつも通り”を演じられた。それくらいに到底受け入れ難い状況だったのだ。情けないことに手が震えるのが自分でもわかる。
それでも何とか平静を装い、フェリシアと共に城塞に足を踏み入れた。
感想欄に感想が来ているのに今更気づきました。申し訳ありません。なろうは通知が来ないので、確認するのが遅れてしまって……。今更向こうで返すのもどうかと思うので、此方で質問の方には答えておきます。
Q.どれくらいの長さになるのかについて。
A.既にシナリオは出来ているので、10万字以内では終わるとは思います。決してエタることはありませんので、安心してください。