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朝はヴィロン村の炊き出しの用意。そして昼から日が暮れるまでは瓦礫を退かしたり、無事だった木材や煉瓦を使って家を出来るだけ元の形に近く修復していく作業の繰り返しだった。

人の手で出来る所は村人と協力して。どうしても修繕に魔法が必要な時は、魔法が使用できるキャリーやアメリア、フェリシアが主導権を握って作業を進めていく。


フェリシアはそれなりに身体を鍛えている方だという自負はあったが、この作業はいつもと違う筋肉を使うため中々の重労働だった。毎日限界まで魔法と肉体を使い続ける日々――――。


けれどフェリシアにとってはこの忙しさが丁度良かった。何かしらの作業をしていれば、嫌な事を忘れることが出来たからだ。それにここ数日で村の人々、キャリーやアメリアともかなり打ち解けてきていたため、このヴィロン村は居心地が良かった。



そんな日々が1週間程続いたある日のことだ。とある家を直し終えた直後。その家を見た年若い女性に抱き付かれて、涙ながらに礼を言われた。これまでにも感謝の言葉を述べられることはあったが、ここまで感動されたことはなかったためにフェリシアは内心少し驚く。


一方的に抱き付かれて行き場のない手を彷徨わせているフェリシアに気づいたのであろう女性は、いきなりこのような行動に出てしまったことを謝罪しながらも事情を話し始めた。


話を聞いてみると、フェリシアが先程修繕した家はどうやらこの女性――ミーアの夫の残してくれたものだったらしい。

ミーアの夫は二年前、魔物からミーアとその子供を守るために囮になって死んでしまったらしい。

その日は丁度前日の魔物との戦いで城塞の壁で破損していた部分があったらしく、そこから侵入してきたという。それ以前にもそのようなことは何度かあり、その時は村に駐屯している兵が討伐していたが、その日はあまりにも運が悪かった。駐屯兵が怪我をしたために代わりの兵が来たばかりだったのだ。それ故に対応が遅れてしまった。


様々な要因・不運が重なって、村の外れにあったこの家に数匹の魔物が襲撃をかけてきたのだ。そうして彼女の夫は妻と子供を逃がすために囮になり、魔物を全て引き付けて近くの森に魔物を引き離したのだという。

ミーアも兵が到着してすぐに森に向かってもらったそうだが、その時には魔物の周辺に血だまりがあっただけ。夫は肉の一片も残らず食い殺されていたそうだ。そうして兵が魔物を討伐して残っていたのは血だらけになった衣服の一部だけ。

彼のお陰でこのミーアにも子供にも他の村人にも被害はなかったが、彼はもう……ここにはいない。

だから彼の形見でもあるこの家を以前の様に修復してくれて嬉しかったのだそうだ。


ミーアはフェリシアが去る最後の最後まで感謝の言葉を尽くしていた。”わざわざ王都から来て、私達の家を直してくれてありがとう”と……。


「……私、そんな立派な理由で来たわけじゃないんだけどな」


夜、アッシュブレイド城塞の客室。与えられた部屋の天蓋付きのベッドの上で仰向けになりながら、手で顔を覆う。自分が恥ずかしかった。だってフェリシアは逃げてきただけだ。嫌な事――怖い事から。

それに毎日ずっと作業を続ける理由もそれらを振り払って少しでも忘れる為だ。だから自分はそんな立派な人間ではないのだ。


その日は色々な思いがこんがらがって、フェリシアは朝日が昇る直前まで寝付くことができなかった。


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