15(ユリウス視点2)
「ディアンサ=サウスナディアと結婚しろ」
玉座の間にて跪いていた俺に掛けられたのはそんな言葉だった。その言葉に自身の耳を疑う。今、父上は”結婚”と言ったか?
今迄あんなにも俺に対して関心もなく、第一王子のスペアとしか扱ってこなかった彼が。俺を魔王討伐のパーティの勇者として死地に放り込んだ彼が――。
ふざけるな!
俺には既に心に決めた相手がいるんだ。まだ指輪は渡していないが……彼女が承認してくれるかも分からないが、俺は彼女の事しか見えないくらいに好きなのだ。
それなのに急にディアンサ=サウスナディア……隣国の女帝と結婚しろだと?父上の話は虫が良いにも程があった。彼の言動に反吐が出る。
「お断りします」
「……ユリウス、貴様今何と言った?」
「だから、お断りします。耄碌して頭だけでなく耳まで悪くなられたのですか?父上」
父上は唖然としている。確かに今まで……旅に出る前の俺だったらこんなことを言うなどありえなかっただろう。でも、俺はもう操り人形ではないのだ。俺はフェリシアや仲間のお陰で変わった……変わることができたんだ。
「魔王討伐という役目はきちんと果たしました。これ以上俺に役目を押し付けないで頂きたい」
「お前には王子として国を支えようという心はないのか!!?」
「ありません。逆に今まで俺を1人の王子として扱ってきたのですか?第一王子のスペアとしてではなく?」
明らかに怒りを示す父上にきっぱりと反論する。今まで恐ろしいと思っていた父上はこんなことで怒りを示すとても小さく、愚かしい存在に見えた。だからどんなに彼が凄んで来たとしても現実を冷静に見つめることができる。
サウスナディアといえば、女性優位の国で皇帝も女だ。基本的に男性は奴隷のように扱われていて、一妻多夫制。女帝にも既に沢山の夫がいるらしい。そこに新たに夫として入ったら地獄……家畜のように扱われる生活が待っている。
しかしそれに対しては誰も文句を言えない。それだけサウスナディアが権力のある国だからだ。
しかし今現在はイースディールはサウスナディアとは友好的な関係を築いているし、貿易も上手くいっている。
だとしたら考えられるのは……最近高まってきている俺を次の王にと持ち上げる声とあとはサウスナディアへ俺が行った時の相手側からの報酬と言ったところか。父上は俺を体の良い厄介払いとして、サウスナディアに売り払おうとしているらしい。
俺はこの人にはもう為す術がないほどに嫌われているようだ。
しかし、それもそうだとすぐに納得する。元々、第2王子と言っても俺は彼が城に来ていた踊り子に手を出して出来た不義の子供だ。
「俺には既に心に決めた相手がいるので」
「それはあのパーティの聖女か?」
少し、父上の態度が和らぐ。聖女との結婚だったら国に聖女という神聖な存在を留めて置けて、俺はその伴侶として”権力の偏りをなくすため”などと言って司祭の役でも押し付ければいい。一石二鳥だと思ったのかもしれない。
けれど違う。俺の想い人は彼女じゃない。
「いいえ。聖女……イリスの姉であるフェリシアです」
「ハッ!あの女か。……許さんぞ。聖女ならともかくただの伯爵令嬢との結婚など、王として許さん」
先程のサウスナディアの女帝との婚約を断ったときよりも更に怒りを滲ませて、反論してくる。
「許さなくても結構です。勝手にするので」
今まで俺は何一つとして自分のことを決めることを許されなかった。
称賛なんていらない。報奨も褒め言葉もどれも俺には必要じゃないんだ。その代わりと言っては何だが……あの闘いを勝利し生き残ったのだから、これからは自由に生きさせて欲しい。
そのまま唖然とする父上を置いて、玉座の間を出た。
#彼__・__#に会いに行く事を決意しながら。
簡単な補足解説:
①サウスナディアについて
サウスナディアは女性優位の国であり、女帝はかなりの男好き。中でも美しい男や価値のある男を夫として寄越した国にはかなりの額の報奨金を渡すほど。
②王からのユリウスへの扱について
不義の子供ということもあり、かなり嫌われているのに加えて、厄介払いをしたいと思っている。しかし勇者として生きて帰ってきてしまったので、王族から追放ということもできないためにサウスナディアに送り付けるという無理矢理なことをしようとした。サウスナディアへは外交を円滑にするため等と言おうとしていた感じの設定です。(かな~りユリウス不憫)
(勇者についての詳細はこの後のお話で出てきます。)
基本的な価値基準としては 勇者<<<<<聖女 という感じになっている(この辺の理由も後々)。




