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13(ディラン視点6)

フェリシアに婚約者が出来てからずっと荒れていた俺だが、ある時それは急変することになる。


丁度王都の大きめな夜会で会った時のことだ。壁の花になっていたフェリシアに声を掛ける。今日も婚約者に置いてけぼりにされたのかとフェリシアの婚約者に殺意を覚えながらもいつも通りを装う。

けれどその時はいつもと違った。手を引かれてテラスに連れていかれた後、直接聞かされたのだ。


「私の婚約者、イリスの事が好きになったんだって……それで婚約解消。まあ、自由になれたのはいいんだけど、少し複雑な気分かもしれない」


彼女は庭園を眺めながら、そうポツリと言った。

別に婚約者の事が好きでも嫌いだったわけではない。折角婚約者になったのだから、好きになろうと努力していたその人に”イリスが好きになったから”と振られて、少しもやもやするだけだと。そう寂しそうに小さな声で告白してきた姿が印象的だった。

けれどその直後には「本当に自由になれて嬉しいっていう感情の方が大きいんだけどね」と無理矢理に笑っていた。フェリシア自身何故傷ついているか分からないと言った風で見ていて痛々しい。


「……そう、か」


その一言しか言えなかった。フェリシアの婚約が解消されて嬉しい筈なのに……すぐにアタックすれば良いと分かっている筈なのに、俺にはもしかすると彼女の傷口を抉ってしまうかもしれないその行為が怖くて出来なかった。


「それにこんな状況で婚約解消や結婚やらなんて言ってられないから……」

「こんな状況……?」

「だから、魔王が現れたという今の状況!貴方の家は大丈夫なの?」

「っああ。今はどちらかというとヴェスベールからの侵攻の方が問題だな。なんだ?怖いのか……?魔王が」

「……ええ、認めたくはないけどね。正直、今はなによりもソレが怖いわ」


正直、驚いた。傍若無人且つ向かうところ敵なしに見えるフェリシアにも怖いと思うものがあったことに。それと同時にある決意が俺の中で固まる。


フェリシアに憂うものがあるのなら、俺がなんとかしてやろう――と。


それで何の憂いもなくなった彼女が俺に笑顔を見せてくれたら、それで満足だ。今の俺には、彼女の心を癒すことなど出来ないから……。


***


それからは今まで以上に武術や魔術の鍛錬に勤しむようになった。そして両親を説得し、そのまま王都の騎士団に入団した。”絶対に死なない事”を約束して――――。


王都の騎士団は今まで何度か魔王討伐隊を結成して、魔王退治に乗り出しているのだ。その隊に入隊するためにも、先輩や団長に積極的に教練をつけてもらい、時には血反吐を吐きながらも、知識を取り込んだ。


けれど、”まだ若いから”や”アッシュブレイド辺境伯の嫡男だから”と言った理由で魔王討伐隊に入れてもらえない日々が続く。増していくだけの焦燥感で、数年の間で何度、一人でも魔王討伐に出かけようとしたことか。それでも魔王を倒すのに一番近いのはここだと食らいついて、騎士団に居続けた。


そうして俺が魔王討伐に出られたのは騎士団に入団してから5年以上の月日が経った頃。ユリウス第二王子殿下が勇者に選ばれたパーティへ参加できることになったの時だった。


やっと悲願を果たせる。そう思ったのも束の間。そのパーティには、フェリシアがいた。


最初は”何故、勇者でも聖女でもないのにこんな危険なパーティに参加したのだ”と彼女を責めたものだ。けれど”イリスを守るためだ”と真っ直ぐに言われてしまえば、言葉を紡げなかった。俺と同じ理由だからだ。俺はフェリシアや家族を守りたい。だから魔王を討伐する。



そうして旅が順調に滑り出したかと思った最中、新たな問題が頭を擡げた。

気付いてしまったのだ……フェリシアが殿下を見つめる瞳は、俺に向けられたことのないもの――異性に恋するものだと。

何となく分かっていた。フェリシアが俺に振り向いてくれることなどないということは……。それでも俺はいつまでも彼女に対する気持ちを諦めきれないのだから、滑稽だ。そのくせ傷つけたくないと言い訳をしながら、今の関係性を崩す勇気もないのだ。情けない。


それなのに旅の中で何度も殿下に嫉妬して……それでも伝えることはしなかった。旅の途中だと更に言い訳を重ねて。


***


だから、臆病な俺は……ずっと動くことができなかった俺はせめて今はフェリシアの幸せを願ってやりたい。


王都で殿下と何かあったであろうことは何となく分かっている。でもフェリシアは一度頭に血が上ると何も聞かなくなるタイプだ。そのため、せめて頭を冷静にさせようとここまで連れて来たのだ。

彼女を幸せに出来るのは……俺ではないのだから。


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