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11(ディラン視点4)

そこからは堰を切ったように言葉が溢れ出した。男なのに泣きべそをかきながら気持ちを吐き出していく。


“こんな家には生まれたくなどなかった ”、”家を継ぐことが怖い”、“本当は家を継ぎたくなんて、ない――”、


既に一つ、自分の弱さをさらけ出した俺は止まらかったんだ。今まで誰にも言うことが出来なかった弱さがとめどなく流れ出ていく。


全てを吐き出し終える頃には日は既に落ちかけていて、辺りには柔らかい夕闇が広がっていた。灯ったばかりの街灯のお陰で近くにいるフェリシアは目視することができるが、もうかなり暗くなっている。


先程までは賑やかだった噴水前は俺達以外の人間がいなくなっていた。流れた涙で固まった目元を擦る。冷静になってみると、こんなところで泣き出して、初対面の人間にあんな弱みを隠さずに見せたのが恥ずかしかった。


「……忘れろ」

「ん?」

「だから、その……さっきまでのアレは忘れてくれ。誰にも言うな」

「……(キミ)が泣きべそかいて、ウジウジしていたこと?」

「っ~~!!」

「忘れろ、誰にも言うな、かー。……どうしようかな」


先程まで静かに俺の話を聞いていたからから忘れていたが、こいつはこういう人間だった。そんな奴の前で泣きながら弱みを見せたことを今更ながら後悔した。俺がまた怒りに任せて怒鳴り出そうとしたところでフェリシアが口を開く。


「冗談よ。流石に衝撃的すぎて忘れることはできないけど、先程までの事は誰にも言わない……約束。誓って秘密にする」

「……最初からそう言えよ」


その言葉を聞いて安心する。フェリシアは先程とは真逆の真面目な声音で俺の瞳を見つめて、そう誓ってくれた。思わずぽつりと文句を言ってしまったことは仕方ないだろう。

色々と吐き出したこととフェリシアの口止めに成功したことで体の力が抜けた俺は彼女が座っているベンチの隣に何も言わずにドサリと腰を下ろした。

俺はまだ家に帰りたいと思えるほどの心情ではなかったし、フェリシアも特に立ち上がる気配を見せなかった。


辺りを静寂が支配する。

俺もフェリシアもどちらも無言だった。でも不思議と居心地は良くて、心地よい静けさだった。

それからどれほどの時間が経ったのだろうか。空気が澄んでいるせいか、刺すように明るい月とそれを包むように瞬く星々をぼーっと眺めていると、隣のフェリシアが言った。


「私が言うのもなんだけど、君はもう十分頑張ってるんだから、家の責任とかそういうのを考えずにもう少し肩の力を抜いたほうが良いんじゃない?君の人生なんだから、少しは君のしたいようにしなくちゃ。今回私にぶつけてきたみたいにさ」

「……あぁ。そう、かもな」


この空間の居心地の良さもあって、フェリシアの助言はすんなりと俺の心に溶け込んでいった。

今まで俺はずっと肩肘を張って、親父に言われる通りに勉強し、武術も鍛えてきた。そこには家の誇りのためだったり親父に怒られるのが嫌だからだったり……俺の意志は介入していなかったのだ。これからは少しは俺のしたいことを主張しても良いのかもしれない。家と親父と向き合って。自分の事を主張しないと何も始まらないのだ。

そう思うと、心も体も少し軽くなったような気がした。


「よし!帰ろうか。きっと君の御両親は心配しているよ」

「……(キミ)、じゃない」

「え……?」

(キミ)じゃなくて、ディランだ。ディラン=アッシュブレイド」

「私はフェリシア。フェリシア=アーゼンベルク。それじゃあね、ディラン」

「……待ってくれ」


そのまま立ち去ろうとするフェリシアを思わず引き留める。俺は思いの外彼女の事を気に入ったようで、このまま会えなくなるのは惜しいと思ってしまったのだ。


「うん?一人じゃ怖くておうちに帰れない~とか?」

「違うっつーの!……その、手紙――とか書いて良いか?」


馬鹿にしたような口調に軽く反発する。この時には今まで感じたことのない程に満たされた気持ちだったせいかフェリシアのこういう返しにも怒りを感じることはなかった。

それどころか気付いたんだ。こいつは俺を揶揄うような口調でも、覗き込むように此方を伺う瞳の中では常に心配そうな色を見せていることを。

それに暫く一緒に過ごして思った。こいつは俺と同じように孤独で寂しくて、他人が怖くて、こんな風に敢えて他人を突き放そうと厭味な態度を取るのかもしれない。


でも心の底からは人の事を馬鹿にしていない。だから帰りたくない俺の態度も悟って、黙って俺の傍に今までいてくれたのだろう。今だってフェリシアの瞳には隠せていない俺への心配が見え隠れしている。本当にこいつは素直じゃない。


「……好きにすれば」


俺が真っ直ぐにフェリシアの瞳を見つめて提案すると、彼女はまたもや素直ではない返しをする。しかし、暗い中でも分かるほど耳が真っ赤だった。


「じゃあ、書くよ。……気が向いたら返事をくれ」


そうして彼女との不思議な邂逅は終わった。

家に帰ると、マーカスが血相を変えて家を走り回り、俺を見つけた母は泣きながら俺を抱きしめた。親父もばつが悪そうに俺に”おかえり”と言ってくれた。


そうしてこの言葉のお陰で俺はこの後、親父と自分の意志で向き合う事が出来たんだ。自分の気持ちを伝えることができた。


結局俺は守りたい者……家族やフェリシアのために剣の道を取ることになるが、このことによって変われたことは多かった。

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