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勇者レギオン  作者: 塩幸参止
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第二章 魔族来襲・その7

 俺が言ったら、ミレイユが驚いたように目を見開いた。


「人間界のアトランティス大陸は、伝説ではなく、存在したのですか?」


「例によって情報操作と隠蔽工作で、なかったことにされてるけどな。そのほうが表の世界には都合がいいし。ただ、アトランティスは実在したし、オリハルコンも、真鍮じゃなくて本物が存在する。純粋なオリハルコンそのものはそれほど硬くなくて、装飾にしか使えないんだけど、他のレアメタルと混ぜて合金をつくると飛躍的に強度が上昇するんだ」


 俺は自分の剣に目をやった。


「俺の剣は、オリハルコンをベースに、アダマンタイト、ヒヒイロカネ、ミスリルを混ぜてつくってもらった。限界まで硬度と靭性をあげてくれって『レギオン』の武器製造チームに特注した極超過鋼合金だよ。延長補助ビッカース硬度基準で九万HV、破壊靱性数値は三千八〇〇。標準的なオリハルコン合金の約三倍だな。何があっても、絶対に折れず、曲がらず、傷つかず。レッドドラゴンの牙を叩き切っても刃こぼれひとつ起こさないって保証されたよ」


「硬さの数字がわかりません」


「ダイヤモンドの八倍硬くて、ステンレス鋼の十八倍折れにくいってこと」


 簡単に説明したら、ミレイユが、少しだけ静かに俺を見た。


「そこまで硬い金属は魔界にもありません。剣どころか、鎧に使う材料にも」


 ミレイユの言葉は賞賛するようだった。


「人間界の技術の最高水準を、いま、わたくしは知りました。ただ、なぜ、そこまで霧島さんは剣の硬さにこだわったのでしょうか?」


「俺は臆病者なんでな。剣が折れたとき、どう闘っていいのか、不安だったんだよ」


 俺は冗談めかして本音を言っておいた。ちなみに、ひい爺さんの聖剣は俺のよりも頑丈だったと聞いているが、あれは製造方法が非公開になっているからどうしようもない。宮古が俺を見あげてきた。ちょっと不安そうである。


「霧島くん、ひょっとして、竜も殺す気だったの?」


「あ、そんな気はなかったんだ。『レギオン』が言っただけだよ。俺はただ、頑丈な剣が欲しかっただけだ」


 実際の話、俺も竜と闘り合った経験はないし、闘る気もない。ただ、昔、採石場で試し斬りをしてみたら、三〇〇キロくらいある御影石の塊が、ダイヤモンドカットと言えばいいのか、あんな感じでパッカンパッカン切断できた。借金してでも特注したのは正解だったといまでも思っている。


 俺の返事に、宮古が笑顔をむけてきた。


「そうなんだ。霧島くん、竜は殺さないんだ。よかった」


 言い、腕に力を入れてくる


「だから胸があたってるぞ」


「いいじゃないべつに」


「おふたりは、どういう経緯で知り合ったのでしょうか?」


 ミレイユが訊いてきた。興味深そうな顔である。


「あたしが、中学生のころ、不良みたいな人たちにナンパされて困ってたんです」


 隠すでもなく、宮古が説明した。


「それで、そのとき、霧島くんが助けてくれたんです。すっごく格好良かったんですよ。あたし、運命の出会いだって思っちゃって」


「気のせいだ」


 宮古が笑顔で俺を見あげた。


「だったら、根性で気のせいを真実にして見せるから」


「あのな」


「それはハラスメントになるのではありませんか?」


 やんわりとした感じだが、ミレイユは忠告をしているのかもしれなかった。


「わたくしも、霧島さんが強いということはよくわかりました。お優しいことも。ただ、その優しさに甘えて、いつまでも付きまとうのは感心しません」


 なんとなくミレイユを見ると、笑顔の種類が、前に見たのと少し違う気がした。


「いつか、本当の意味で、霧島さんを必要とするものが現れる可能性もあります。それを覚えておいてくださいね」


「――ふうん。そうなんですか」


 宮古の返事も、普段とは少し違うような気がした。


「でも、それこそ気のせいだと思いますけど」


「わたくしは、こちらの世界に慣れておりませんので」


 ミレイユが、なんか少し怖い笑顔で言う。あれ、面倒くさいことになっちゃうのかな、と、ちらっと思ったが、俺はなるべく考えないことにした。




 その日の夜、買い物から帰った俺と宮古と、それから、どうしてかミレイユと一緒に夕食をとり、そのあと、宮古を家まで送り届けてから、ヒジリを媒体に『レギオン』と通信して、判明したことがあった。


「東京都内に、休戦協定を無視した魔族が乗りこんできてるって」


 ヒジリの言うことはシャレにならなかった。


「わかっているだけで、三体。そのうちのひとりはドゾだね」


「だろうな」


「それから、その魔族を追いかけて、『レギオン』のアメリカ本部からソードファイターがきてるって」


「あ、そうなんだ。じゃ、そいつに任せておけばいいか」


「それが、援助要請もきてるって」


「へえ」


 ま、金がでるんなら、俺はなんでもやる。本部からも、魔族を追いかけているソードファイターがいるんだし、これ以上、大変なことにはならないだろうと俺は思っていた。

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