食卓
たかひろくんもお父さんもお母さんも昨日と同じような感じがした。
いつものような朝の食卓だ。
でも、私は何故だか神経過敏になっていた。
たかひろくんの一挙手一投足がやたらと気になってしまう。
ちょっとした目や口の動きさえ追ってしまう。
箸を動かす指先さえ見てしまう。
私はそれを悟られないように、うつむきながらチラチラと彼のことを見ていた。
どうやら彼も私の奇妙な様子に気が付いたらしい。
彼も挙動不審気味に私を観察し始めたようだ。
この感覚はなんなのだろうか。
私は昨日の一連の出来事を嬉しく思う一方で、恥ずかしさや情けなさも感じている。
たかひろくんと打ち解けられたのは良いことだと思うけど、近づき過ぎてしまった気もするし、弱さを見せ過ぎた気もしている。
「姉」という実体験が無いし、ましてや義理の姉なので、正しい距離感が分からずにいる。
そもそも正しい距離感は無いことは分かってるのだけど。
やはり、義理の姉であること、そして、異性としてたかひろくんに好意を持ってるせいでモヤモヤしてしまう。
私は自分に正直であるべきなのか、「姉」として立ち振る舞うべきなのか。
いつか決断する時があるだろうと、朝ごはんをむしゃむしゃと食べながら難しいことを考えていた。
私は朝ごはんの味を忘れてしまうような不思議な思索の時間を過ごしていた。
そして、朝ごはんを食べ終わった。
私のナイーブな気持ちを知ってか知らぬか、たかひろくんは無邪気な笑みで話しかけてきた。
「お姉ちゃん今日も一緒に行こう」
その言葉はとても単純で自然だったのだけど、やはり昨日とは表情や口調が全く違っていた。
彼は私に懐いているのだ。
甘えるような感じもありつつ、私を全面的に信頼してるような感じもある。
彼の中では私と一緒に通学することへの抵抗や疑念が全く無い。
私と彼の関係は1日で大きく変わったのだと確信出来る。
それが私には照れくさくて、恋する乙女のように恥ずかしそうに「うん」と答えてしまった。
彼は不思議そうな顔をして私のほうを見ていた。