ティータイムその2
「うちに来てから楽しい?」
私のその質問は特に深い意味はなかった。
単純に「楽しいよ」と答えるのだろうと思っていた。
「楽しいよ。」
たかひろくんは予想通りそう答えた。
私は「そう。それなら良かった。」と適当に流すつもりでいた。
たかひろくんは「楽しいよ。」と言った後、ほんの少し私から目をそらすようにして言葉を続けた。
「今までと比べたら」
その声に力は無くて、表情も曇っていた。
私は彼の「今まで」を深く聞くべきかどうか迷った。
私たちは今日ようやく仲良く話せるようになったけど、お互いの過去のことを詳しく知らない。
私は、彼やお母さんの今までのことを聞いてはいけないと思ってたわけではない。
新しい家族としての現在と未来を大事にしたかった。
だから、自分からわざわざ過去のことを聞かなかった。
でも、もしも、聞く機会があれば、耳を傾けてみよう、過去を受け入れようと思っていた。
もしかしたら、それが今この瞬間かもしれない。
私は催促することなく、彼が話したければ話を聞こうと思い、しばらく黙っていた。
そして沈黙は破られた。
「お父さんがいなくなってから、お母さんは寂しそうだったんだよね。」
「だから、」
彼はゆっくりと話し始めた。
「お母さんが楽しそうになって良かった。」
たかひろくんらしいというか、自分よりお母さんを心配するところが健気だと私は思った。
でも、直接的に言葉には出さなくても、私にはもう一つの想いも伝わってきた。
たかひろくんも寂しかったのだろう。
実際、私も亡くなったお母さんのことを忘れられないし、お父さんが少し無理をして明るく立ち振舞っていたのは感じていた。
だから、たかひろくんの気持ちは胸が痛いほど分かる。
そもそも冷静に考えてみると、私たち新しい家族4人は心に大きな傷を負っている。
身内を亡くしたという大きな悲しみと寂しさ。
そのポッカリと空いた穴を埋めようと明るく振舞ってみたり、新しい家族の絆を作ろうと努力しているのだろう。
悲しい過去を忘れることで前に進もうとしていたはずだった。
たかひろくんは、さらっと言ってみたくらいの感覚だったのかもしれない。
だけど、その話は、何年も前に吹っ切れたはずの弱くて寂しい私を呼び覚ましてしまった。
私の目から涙がこぼれ始めた。