割り切れない想い
彼は当たり前のように素早く立ち上がって部屋を出て行った。
そういうさりげない行動に私は優しさを感じてしまう。
私はたかひろくんを「彼」だと思ったり「弟」だと思ったり「たかひろくん」だと思ったりしている。
つまり、そのことは関係性が常に揺らいでいる証なのだ。
話しかけるときは「たかひろくん」なのだけど。
たかひろくんとの関係性をハッキリさせたくない理由は血縁関係が無いからだ。
それに、私のほうが年上だけど、年齢も近い。
そして最も大きな理由は私がたかひろくんに対して好印象を持っているからだ。
そうはいっても新しいお母さんを含めて私たち家族は再スタートした直後だ。
家族としての幸せな形を作っていくのなら、血の繋がらない母と弟を本当の肉親として思っていく必要がある。
私は生真面目さと好奇心の間で揺れている。
お母さんに関してはお父さんと仲良くやってくれたらいいと思うし、嫌いではないので私はもう全面的に母親として受け入れている。
でも、たかひろくんに対してのモヤモヤした気持ちはまだ割り切れていない。
考えてはいけないと分かっていても、年齢の近い1人の男の子として見てしまう。
それが好意的な感情だから、なおさら厄介なのだ。
たかひろくんは私のことをどう思っているのだろう?
いろいろ気を使ってくれたり優しいし、とても素直だ。
「お姉ちゃんのことが好きだよ」という言葉も変な意味は無いのだろう。
私はそんなことをぼんやりと考えながら、たかひろくんの部屋の様子を一人で眺めていた。
たかひろくんが普段過ごしている空間に自分がいることが嬉しい。
ただそれだけだった。
私は自分の気持ちを落ち着かせるために、問題集や参考書や教科書を読み始めた。
しかし、なかなか頭の中に内容が入ってこない。
この落ち着きの無さは仕方ないと思い、たかひろくんが戻ってきたときに不自然な感じにならないよう気をつけることにした。
そして、ドアの開く音が聞こえて、たかひろくんが戻ってきた。