動揺と休憩
たかひろくんの指先に触れてしまったのは勉強中のふとした出来事だった。
隣に座って問題の解き方や解説をしてるのだから、たとえば肩が触れたりしても当たり前の距離だ。
それを頭では分かっていても、意識しないようにしても、私は意識してしまう。
どうして意識してしまうのか、自分自身よく分かっていない。
男の子への苦手意識のせいなのか、血の繋がらない弟への複雑な感情のせいなのか。
おそらく両方が入り混じって、余計に分からなくなっているのだ。
だから、ほんの少し指先が触れただけで私は大きく動揺してしまった。
動揺というよりは奇妙な行動をしたと思う。
私は無言で無表情で素早く立ち上がったのだ。
たかひろくんは驚いた表情をしていた。
おそらく、指先が触れたことへの驚きや戸惑いではなく急に立ち上がったことへの驚きである。
奇妙な感じに思われても仕方がない。
彼は数秒間ぽかーんと私を見上げてから
「足がしびれたの?」
と冷静に聞いてきた。
急に立ち上がるのは不自然過ぎるから、そう考えるしかなかったのだろう。
その問いかけによって、私と指先が触れたことを彼が過剰に意識してないことも分かってしまった。
私は再び複雑な感情を抱きつつ、ひきつった表情で「うーん、ちょっとね」と答えた。
そして、ひきつった表情は足がしびれたという嘘に説得力を与えた。
「お姉ちゃん、顔色悪いよ。大丈夫?」
彼はとことん根が優しい素直な子だった。
おそらく指先が触れたことへの動揺も全く気がついてないのだろう。
本当に足がしびれたと思って心配してくれてるようだ。
「ちょっと休憩しようか。何か飲み物を持ってくるよ。」
と私は言おうしたが、
同じことを彼に言われてしまった。