弟は素直だった
「お姉ちゃん、可愛い色の服を着てるんだね。」
たかひろくんはドアを開けてすぐに私の姿を珍しそうに見ていた。
またドキっとさせるようなことを言ってきたと思ったけれど、そう言われるのも納得いく。
私は最近滅多に着ないピンク色のパーカーを身にまとっていた。
お父さんが再婚してから私は家の中も外出する時も地味目な服を着るようにしていた。
新しいお母さんに派手な印象を与えないようにしようと思っていたら地味な服装に慣れてしまった。
だから、彼にとって私の今の服装は新鮮に感じたのだろう。
そうはいっても弟から「キレイ」「可愛い」と立て続けに言われたのは私には衝撃だった。
言葉はともかく今日はやけに彼との心の距離が縮まった気がする。
お互いに今まではよそよそしかったので尚更そう思う。
本来の私なら相手が弟だとしても容姿のことで他人に褒められるとリアクションに困る。
実際、髪がキレイだと言われたときには動揺した。
彼は私をからかうつもりはなさそうだったし、思春期の男の子っぽい感情は無さそうだった。
だから私は今回は素直に「ありがとう。お姉ちゃん可愛いかな?」と、おどけてみせた。
「うん。可愛いよ。」
彼は照れることなく澄んだ目をして言った。
ここで彼に照れてほしい気もしてたけど、その態度を見て私は確信した。
彼は本当に素直なんだと。
私は中学の時も高校に進学してからも男の子が苦手だった。
男の子は乱暴で雑で不真面目だという決め付けもあったけど、他の理由もあった。
中学2年の頃、私は偶然ではあったけど男の子たちが好きな女の子の話をしてるのを聞いてしまった。
好きな女の子の話をすること自体はたぶん悪いことではない。
でも、容姿のことばかり話していたのが気になってしまい、私はがっかりしてしまった。
男の子はみんなそういうものだとは思わないけど、外見で人を判断することを私はとても嫌った。
ちょうど私なりに異性への興味がわいてきた時期だったので尚更がっかりしたというのもある。
だから、本当はたかひろくんのことも警戒していた。
私の性格や気持ちをちゃんと見てくれるのかどうか不安だった。
たしかに彼は私の外見について、今日は大胆なことを言ってきたと思う。
でも、そういうことを彼が言ったのは今日が初めてだったし、言い方や態度が真っ直ぐな感じがしたので私は好意的に受け入れた。
「お姉ちゃんも自分の学校の宿題はあるの?」
彼は部屋着の件はもう気にしてない感じで私に聞いてきた。
「あるよ。」
「じゃあ忙しいんじゃないの?僕のことで時間をとらせてゴメンね。」
彼は気を使える中学生だった。
「大丈夫だよ。私は勉強が得意だから。」
実際、私は勉強が得意だ。
そんなことより、とにかく彼を安心させたくて優しい笑みを浮かべ、気にしなくていいと伝えた。
そして彼は今日何回目になるか分からない衝撃的な言葉を私に返した。
「僕ね、お姉ちゃん好きだよ。」