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ゴブリン族の秀才

夕焼けになって血なまぐさい悪臭を漂わせたゴブリン達がゾロゾロと始まりの街から外れた道に溢れてくる。


そんな溢れかえるゴブリンを見て始まりの街を出たばかりの新入りパーティ達は剣をカタカタと震わせながらゴブリンと呼ばれる棍棒を片手に持ち振り回すガタイだけ大きいモンスターに立ち向かう。


勇者と呼ばれる新入りパーティーは生死を賭け魔法やスキルを駆使し次々とゴブリンを倒しレベルを上げその場を去った。



そんな勇者達は知りもしないだろう。

その後、ゴブリン達はどうしているのかを。



ゴブリン達は夜になると『疲れた~』と自分たちの家へ戻り大勢で弱小パーティーたちに敗れ傷だらけになりながら夜、酒を酌み交わす。




夕方までやられていたゴブリンが生き生きとしているのは何故か。ゴブリンは何故、あんなにも数が多いのだろうか?繁殖率がただ多いだけなのか。



そんなすぐ考えれば『あれ?』なんて思うことを勇者たちはレベ上げのために倒すゴブリンについてなんかのことに考えもしないだろう。

ゴブリンだって直ぐに結婚、そして子とできる訳では無い。


ただ、ゴブリンは雑魚キャラなりに生に囚われたモンスターであり、

ゴブリンはやられたとしても多少時間はかかるものの蘇生し、強くなり生き返り戻ってくる。



ゴブリンのあのレベルは死んだ回数、死んで得た経験値なのだ。


因みにゴブリンなんかには故郷なんて存在しないために生き返った後、帰り戻った場所が『あれここ違う?まっいっか!』となることもしばしばある。




そんな雑魚キャラ扱いをされていたゴブリンだが、ゴブリン達の世界を変える大きく異常なゴブリンが今回生まれた。


ゴブリンを強調する脂肪のあるお腹もガタイもからっきしに無く、それはまるで人間のような顔と体をしていた。

しかし、唯一ゴブリンらしいところと言えばゴブリンの隠された能力【武器生成能力】であった。


ゴブリンが持つあのハンマーや棍棒はどこから来ているのか?それは数少ないゴブリンの魔力で生成された誰も知る由もないゴブリンたちの足掻きで出来たものだ。


普通のゴブリン達は自分ひとりで【武器生成】をするほどの魔力を持たないのでみんなで一緒に作り一気に多数生成するといのがゴブリン達の武器生成の基本である。


そう、何度も出来ないこの武器生成で作ったものをうっかり倒された時に落としたり、勇者に取られたりと貴重な武器を失うこともしばしある。


そんなゴブリン達の悩み事を彼は直ぐに解消した。

種族的には【ゴブリン】とはなっているものの、ステータスが異常だった。通常【魔法士】や【賢者】を超える【魔力】を生まれながら持っていたのだ。


それも、倒され蘇生してもその魔力量が減ることは無く魔力とレベルはあがるばかりでゴブリン達は彼をゴブリン族の救世主と呼ぶ他なかった。



そんな彼はある事に気づいた。


『何故、決まって近距離の武器を使うのだろうか?』

『高価な素材はあるのにわざわざ耐久の薄いものを使うのになんの必要がある?』



脳筋ばかりの出揃ったゴブリン達には考えない事を彼は思いついたのだ。

ゴブリンは武器を持っていかれる、だからわざわざ強いものを生成しない。

だが、彼は『ならば人間や他種族が装備できないようにゴブリンの呪いをかければいい』


彼の頭は姿はゴブリンには程遠いもののゴブリンと思えないほどの頭脳を持っていた。

自分の魔力を使い【ゴブリンの呪い】を生み出し、ゴブリンたちに近距離戦だけでなく、遠距離戦という手もあることを悟り、彼が生まれてからゴブリンたちの世界は変わった。



そんなある日の夜、珍しくゴブリン達は彼を抜いて集まり雑談とは違う話し合いを柄にもなく始めた。

その内容はいつもお世話になりっぱなしの彼をビックリさせてあげたい……と言ったものだった。


いままでは戦闘としか縁がなく、闘争心のみと言ってもいいほど心がなかったゴブリンたちは彼が居た事で微笑ましくも少しづつ変わっていっていた。


『あいつにはいつも助けて貰ってばかりダ』


『何かしてやりたイ』



心が人間に近づいたゴブリン達に魔の手が差し掛かった。それは外れ者の城下町では名の知れた悪い魔道士だった。

首元にはどこかのチームに所属していると見れるチームを象徴する黒くトゲトゲとしたオーラを圧倒的に放つ大きな【痣】があった。


魔道士は【ヤム】と名乗りゴブリン達に『彼を幸せにする手伝いをしたあげるよ』と唆した。


彼にはゴブリン族には言えない夢があった。


城下町には行けないからか、一度でいいから『人間になりたい』とそう密かに思っていた。

城下町には武器屋や防具屋、魔具なんかもあると聞く。既に自分が作ってるものこそが【魔具】とは知らずに作っていた彼には城下町は子供で言う【遊園地】のような夢ある場所だった。


武器屋以外にも宿屋やレストラン、訓練所に食べ物屋などたくさんの夢に溢れる場所だと数少ないゴブリン族の保有する書庫にあった本にそう(つづ)られていた。


『夢は見るからこそいいんだ』と言い聞かせていたのを彼の友人【ゴブリン族】の【戦闘員】カクは横で微笑ましく聞いていた。


カクは勿論、友人である為に『何が欲しいか』『夢は何か』などの情報収集を他のゴブリンたちに頼まれているビックリ作戦の決行者のひとりである。


その確かな情報を元に魔道士【ヤム】が提案したのは実に人間がモンスターを討伐しやすくする悪の手立てであった。



そして、決行日。それはゴブリンの救世主の伝説が始まった日。つまりは、彼がゴブリンとして生まれた名誉ある日だった。


その日は勇者たちを倒すのはお休みし、BOSS(ボス)ゴブリンも目を瞑り弱小なゴブリン達に彼の誕生日パーティーをしようとみんながみんな揃って一団となりパーティーを始めた。



血なまぐさい臭いになれず肉があまり食べれない彼のために森や川沿いに出向き【果物】や【野菜】などを集め人間はパーティーの主役には【花束】を渡すと言う雑学を魔道士【ヤム】から聞き、花びらはごつい手のせいか幾らか散ってしまってはいたが、根っこの付いた荒っぽい花束を彼に渡すことが叶ったのだ。



花束とは言えない雑草が紛れ中には根っこや土がついたままのゴブリン族らしい小さな花束を彼は『……らしくないことして……』と不満そうではあるが、心底喜び人生初の自分の【誕生日パーティー】を堪能した。



火を扱える魔道ゴブリン達のフィナーレの小さな花火とママさんゴブリンによる力強いダンス。


人間から見たら異様で嫌気も指すだろう、このダンスはゴブリン族でも選ばれたものにしか与えられることの無い人間で言うところの【ゴブリンの試練】という高難度なクエストで得られる報酬のひとつ。


【ゴブリンの恩恵】というスキルの受託を備えたダンスだった。




『いつもありがとウゥ!!ペケ丸〜!!』



ゴブリンと離れた彼は【ぺけ丸】と愛称の名で呼ばれた。

秀才の彼の名は【ぺけ丸】



これから人間となりゆる者である────。

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