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あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~  作者: 橋本洋一
第八章 魔法学校陰謀編

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あらやだ! 休校になるわ!

「まさか死にかけるとは思ってなかったな。ははは」

「……笑い事ちゃいますわ」

 

 目の前に居るクヌート先生を睨みつけながら、あたしは青りんごの皮を剥く。

 『天才』を作る儀式をぶち壊しにして一週間が過ぎた。

 ここは古都にある医療院の個室やった。拙いあたしの必死の治療で九死に一生を得たクヌート先生は、こうして入院生活を送っとる。まあイレーネちゃんとデリアが走って医者を呼んでくれたおかげやな。あたしは精々、止血しかできひんから。


「ていうか、なんであないな無茶をしたんですか?」

「預言書には死にかけるとは書かれてなかったからな。代償を払うと言っても、そこまでの代償とは考えなかった」

「……考えなしに行動するのはやめましょ」


 りんごの皮向きが終わったんで、適度な大きさに切り分けてクヌート先生に食べさせた。

 先生は腕も脚も動かせんから、まるで介護しとるようやった。

 包帯をぐるぐる巻きにさせられてるからミイラ男みたいで気味が悪い。


「それでだ。あれから一週間経ったわけだが、学校はどうなっているんだ?」

「もちろん休校ですよ。校長先生以下、主要な教師がぎょうさん拘束されたんですから」


 アデリナ先生の指示で儀式に関わった教師は古都の牢獄に連れて行かれた。多分、二十人くらいやったと思う。

 そこまでして『天才』を作りたかったんか。それとも無理矢理強要されてしもうたんか。

 真偽ははっきりと分からへんけど、それでも悪事に関与したのはいただけないわ。


「そうか。他の連中はどうしているんだ?」

「ああ、ランドルフは騎士学校の生徒と勉強してます」


 ランドルフを誘いに来た騎士学校の生徒が来たときにクリスタちゃんに「私を鍛える約束はどうなっているのよ?」とジト目で見られた。いや、忘れとったわけやなくて、いろいろと忙しかったからなあ。埋め合わせにクリスタちゃんに柔道を教えたりしとった。まあ護身術程度やけど。ちなみに明日も会う約束しとる。


「クラウスは知り合いが経営しているレストラン、東風亭で料理作ってます。アルバイトみたいなもんですね」

「まさか、魔物料理とか作ってないだろうな」

「あはは。それはないですよ」


 一応否定はしてみたものの、案外黙って作っとるかもしれんな。


「イレーネちゃんとデリアは魔法学校に残って自習。エーミールは実家に呼ばれて帰省中。まあそんなところです」

「お前は帰らないのか?」

「今回の件でまだまだ未熟だって分かりましたから。せやから残って勉強しとります」


 クヌート先生は「昔みたいに勉強熱心なんだな」と懐かしそうに言うた。


「あ、後から聞いたんだが転生のことを三人には話してなかったみたいだな。すまなかった。後から何か訊かれたか?」

「うーん、イレーネちゃんはごたごたで忘れてしもうたみたいですけど、デリアは疑っとるようですわ。エーミールはなんやランドルフに訊ねてましたけど、詳しくは知りません」


 デリアの目つきはなんちゅうか親の浮気を疑う子どものようやった。あかん、昼ドラを思い出してしまう。


「なるほどな。ま、言うか言わないかはお前の自由だからな」

「……先生はどうしてこの世界に転生したんですか?」


 訊きたかったことを訊ねるとクヌート先生は「俺の意思じゃないけどな」と遠い目をした。


「バイク事故で死んだと思ったら、目の前に女の子が居たんだ。確か名前はミルフィーユだった」

「あ。あたしと同じですわ」

「うん? 複数人居るのか?」

「ランドルフとクラウスはちゃうようですけど」

「じゃあお前も女神の加護をもらったのか?」

「ええ。『飴ちゃんをポケットの中から好きなだけ取り出す』ちゅう能力です」


 クヌート先生は呆れながら「なんだそりゃあ?」と言うた。


「もっと良い能力もらえよ」

「クヌート先生はどんな能力ですか?」

「うん? 『人の育て方が分かる』能力だ」


 なんや教師らしい能力やな。


「それでこの世界に転生されたんですか」


 クヌート先生は「何がなんだか分からないうちにこの世界の住人になったというのが正しい」と語りだした。


「別に何をしろとは言われなかったからな。世界を救えとも言われなかったし。だから勇者になる必要はなかったんだが、いつの間にかイデアル国の『勇者』に任命されちまった」

「その経緯はどういうものですか?」

「どうやら転生者には才能があるようで、お前らランクSの魔力を持つように、俺にも同等の魔力があったんだ」


 なるほど。魔力が多いのは転生者にとって基本のようやな。


「夢とかなかったから、お前と同じように魔法学校に行って、卒業してアストと戦ったり、魔族と戦ったりして、武功みたいなものを積み上げていったら、『護衛騎士』に任命されたんだ。俺は偉くなりたいわけじゃないのにな」

「凄いじゃないですか」


 素直な感想を述べるとクヌート先生は「そんなに凄いもんじゃない」と否定した。


「それだけ、たくさんの人を殺した、というわけだ」


 重すぎる言葉に何も言えへんかった。


「それに嫌気が差して、早々に『護衛騎士』を引退して、私塾を開いたんだ。女神の加護があったし、金はたくさん貯めてたしな」

「この世界に来ても、やっぱり教師を続けたんですね」

「ああ。俺が教師になったのは人に何かを教えたいからだ。何かを残したいからだ。人を殺してようやく分かった。教師という、人を生かして活かす職業が好きだとな」


 立派な心がけやと思う。改めてあたしはクヌート先生に尊敬の念を抱いた。


「だけど魔法学校の危険性を知って、『護衛騎士』に復帰したんだ。魔法学校の卒業生でもあるし、一人の教師として見過ごせなかったからな」

「先生は『天才』を創ることに反対やったんですね」

「当然だ。もしも全ての人間が『天才』になってみろ。他種族を殺し尽くして、最後には自分たちで殺し合いさ。そんな未来はごめんだ」

「どうして自分たちで殺し合いになると?」

「人間、自分が一番になりたいと思うだろう? 特に頭の良い奴ほどその傾向にある。だから自分以外を排除しようとする。賢くなるほど愚かな行動に出る生き物なんだよ。人間は」


 もしも世界が優しくて、人間も心優しい生物やったら、戦争は起きひんやろな。

 でも世界は残酷で、人間は心醜い生物や。

 なんかままならんな。


「それでだ。鈴木――いやユーリと呼んだほうがいいか?」

「ユーリでいいです。もう鈴木小百合は死にましたから」

「そうか。お前はいつ死んだんだ? 何歳で異世界に転生した?」


 あたしは四十二歳で死んだことを告げた。


「そうか。それで、家族は作ったのか」

「ええ。鈴木貴文さん――妙な偶然ですけど、同じ名字なんですよ。その人と出会って、三人の子どもを授かりました」

「良かったと言うべきだな。しかしまさか大阪のおばちゃんになるとはな。前々から関西に行きたいと言ってたけどな」

「あれ? そうでしたっけ?」

「うん? その様子じゃ違うのか?」


 あたしは照れながら「実は貴文さんとのラブロマンスがあったんですわ」と言う。


「おいおい。やめてくれ。生徒の不純異性交遊なんて聞きたくない」

「不純やないですよ! 清純です! 人聞き悪いわ!」

「冗談だ。だけどよく頑張ったな」


 しみじみとクヌート先生が言うもんやから、なんや知らんけど戸惑ってしまう。


「良い人と出会って、家族になって、子どもも作って。幸せになったんだな」

「まあ、最期はトラックに轢かれて死んじゃいましたけど」

「人を助けて死ぬなんて、お前らしいよ」


 クヌート先生はあたしの前世のことを語りだした。


「困っている人を見過ごせない、おせっかい焼きの世話好きな、心優しい生徒。それがお前に対する印象だった。それは今でも変わらないんだな」

「……クヌート先生」

「初めてユーリとして出会ったとき、どこか鈴木のような印象だった。だから気づけたんだけどな。お前は変わらないよ」


 あたしは下を向いて「ほんま、泣けるようなことを言わんといてください」と言うた。


「先生に再会できたんは、あたしのほうが嬉しかったですよ。だって卒業証書、先生からもろうてないですもん。もしかしたら、異世界で貰えると思うと、胸が一杯ですわ」

「……魔法学校が廃校にならなきゃいいけどな」


 あ、その可能性があった。そりゃあ校長先生が捕まったんやから、ありえないことやないな。


「この先、学校はどないになるんやろか……」

「さあな。アデリナに訊いてみないと――」


 そんときやった。病室の扉をノックする音がした。クヌート先生が「どうぞ」と言うと見覚えのある男性が「失礼する」と入ってきよった。


「あ、あなたは確か――」

「久しぶりだな、ユーリくん。クヌート教諭は覚えているかな」

「……クロム卿」


 そう。中に入ってきたのはクロム・フォン・ククルドフさん。確か十三人居る理事の中の一人や。前に会ったときと違ってコートを着込んどる。まあ医療院には暖房がないからな。あたしも虎柄のコートを着とる。


「理事のあなたがどうしてここに?」

「一つ訂正しておこう。僕はもう理事ではない」


 辞めたんですか? という前に何の感情もなく、はっきりと言うた。


「僕は理事長になった。つまりは魔法学校のトップだ」

「……お若いのに、どうしてそないに出世できたんですか?」


 クヌート先生も不思議に思うたらしい。するとクロムさんは「簡単なことだよ」と疲れた口調で言うた。


「他に『神族計画』に加担している理事が多くてね。前任の理事長もクロだった。それにやる人も居なくてね。仕方がないから僕が選任された」

「……なんや面倒みたいですね」

「当然だよ。こんなに面倒なことはない。廃校寸前の学校の理事長を務めるなんて、真っ平ごめんだ」


 当たり前のことを聞いてしまったわ。それに苛立っとるようやから「なんかすみません」と頭を下げた。


「君が気にすることはない。むしろ不正を暴いてくれて良かったよ」


 せやけどクロムさんはどこか面倒事を増やしてくれたなと思うとるようで、目つきが悪い。


「それでだ。クヌート教諭とユーリくんに伝えることがあったんだ」

「なんですのん?」

「イデアル公の決定で一年間の休校が決まった」


 それに対して怪訝な表情をするクヌート先生。


「一年間の休校? 廃校じゃないんですか?」

「イデアル公としては伝統と歴史ある魔法学校を廃止したくないと考えている。まあそれは建前だが。本音を言えばソクラ帝国でのイデアル派の勢力を拡大させたいんだろう」

「イデアル派、ですか?」


 あたしの問いに「どうやら派閥ができつつあるんだ」と簡単にしか教えてくれへんかった。


「とにかく、魔法学校は存続させる。しかし生徒には一年間我慢してもらう。いや、一年間遊べると思えば楽しいかもしれないな」

「はあ……」

「それだけだ。しっかりと伝えた」


 話は以上とばかりに早々に退室しようとするクロムさんに「クロム卿、給料はどうなりますか?」とクヌート先生が俗っぽいことを訊ねた。

 クロムさんは不機嫌そうに振り返った。


「そんなもの出るわけないだろう」


 そう言うて、忙しいのか足早に去っていった。


「……俺の生活は、どうなるんだ?」


 ……一年間も給料出えへんなんて、ブラック企業もびっくりやな。


「あーあ、まったく。嫌になるぜ」

「先生は『護衛騎士』から給料もらえへんのですか?」

「うん? いや前払いだったからなあ。それに俺も裏ギルドを利用して情報を集めてたからほとんど残ってない」


 なんか可哀想になってもうた。この人どうやって生活するつもりなんやろ?


「仕方がない。冒険者の真似事して金稼ぐか。ユーリ、ここの治療費、貸してくれないか?」

「生徒にたからないでください」


 あたしは「まあ半分は貸してあげますわ」と言って部屋から出ようとする。


「おい。もう行くのか? 退屈なんだよ、もっと話そうぜ」

「あたしにも予定ありますから。明後日また来ます」

「淋しいなあ」

「子どもやないんだから……そういえばクヌート先生」


 あたしは一番聞きたかったことを質問した。


「獣人に嘘言って、スイレンの花を生徒から奪わせようとしたんは、先生の仕業ですか?」

「うん? ああ、そうだ」


 クヌート先生は悪気のなさそうな顔で答えた。


「そうしたら、お前は獣人の村を助けに行こうとするだろう?」

「まさか、助けることが狙いやったんですか?」

「ああ。ちゃんと調査したさ。コレラじゃなくて狂獣病だってこともな。獣人たちも助けられて、お前のスキルも高められる。一石二鳥だな」


 それからクヌート先生は言うた。


「お前は本当に心優しい生徒だよ」


 あたしは呆れながら言うた。


「クヌート先生はほんま、計算高い先生やわ」


 そういえば、クヌート先生の担当教科は数学やったな。

 まあ、今となっては関係あらへんけど。

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