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あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~  作者: 橋本洋一
第八章 魔法学校陰謀編

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あらやだ! 再び儀式を行なうわ!

 あたしが前世で鈴木小百合として生きてた頃、こんな過去があった。


「鈴木、特待生で合格決まったぞ。おめでとう」

「本当ですか! やったあ! ありがとうございます!」


 中学三年生の冬、あたしはとある進学校の入試で高得点を叩きだし、特待生へと選ばれたんや。もしも特待生になれなかったら、進学を諦めるつもりやったから、これでひと安心したのを覚えとる。

 目の前の楠木先生は「よく頑張ったな」と褒めてくれた。


「だけどこれからが大変なんだぜ。成績は上位でなくちゃいけないし、生活態度も真面目じゃないといけないからな。正直窮屈だ」

「分かってますよ先生。あたし、こう見えて真面目なんですから」


 当時は埼玉の田舎の中学やったから、関西弁は使うてなかった。ていうか、この時点では大阪に住むとは思うてなかったし。


「それにしても偉いよな。鈴木は」


 やる気のなさそうな顔で、楠木先生は珍しくあたしを褒めるようなことを言うた。


「塾に通わずに自分で勉強して受かるんだからな。見た目はチャラチャラしてるのに、その根気はすげえよ」

「あはは。予習復習自習と授業でなんとかなりましたね」

「……だけどよ、これからが物凄く苦労するんだぜ」


 楠木先生は憂いを帯びた顔で言う。


「親のいない子どもは色眼鏡で見られる。本人は悪くもないし、原因は見ているほうにあるんだけどな。そんな理不尽に耐えていかなくちゃいけないんだ。高校三年間も」

「……今までも同じですし、中学三年間も耐えられたんですから、平気ですよ」


 すると楠木先生は「施設育ちの子どもは幼くして精神的なダメージを受けている」と真面目に語りだしたんや。


「親がいないという傷口が塞がらない子どもが居る。傷口を治そうとして悪化させる子どもも居る。何かで埋めたり、補ったりする子どもも居る。だけどな、親のいない辛さなんて、克服できるもんじゃねえ」

「…………」


 否定したかったけど、何も言えへんかったから、黙ってしまった。


「鈴木。親の遺産を使わずに高校に行く選択をしたのは間違いじゃない。大学への進学資金としてとっておくことも一つの方法さ。でもどうして大学に行くんだ? 早く働こうと思わないのか?」

「先生、決まっているじゃないですか。大学行ったほうが就職も楽ですし、給料も違うんですよ」

「はあん。本当にそれだけか?」


 あたしは楠木先生が真実を見抜いていることを知った。せやから、本当のことを言うた。


「……もう馬鹿にされたくないんです。親がいないことで」


 それ以上は言えへんかった。下を向いて唇を噛み締めて、何も言えなくなってもうた。


「……お前は優秀だからな。やっかみも多いし、妬みもあるんだろうな」


 楠木先生はあたしの目を真っ直ぐ見つめてくれた。そんなにあたしのことを真っ直ぐ見つめてくれた人はおらんかった。施設の人もクラスメイトも他の先生も。

 せやからあたしは楠木先生のことを印象的に覚えておったのかもしれへん。


「鈴木。お前の進路はお前が決めるもんだ。他人が決めるもんじゃない」


 その楠木先生の言葉が心に染み入って、今でも残っとった。


「人を見返してやりたいと思うのは自然だけど、それだけに囚われちゃいけないんだ。お前はお前の道を歩めばいい。お前なりの幸せを見つけるんだ」


 大人になって結婚して、子どもを持つようになってようやく気づけた。

 楠木先生は真っ直ぐ見つめておっただけやない。

 生徒のことを見守ってくれた優しい先生やったと。


 その三日後やった。バイク事故で楠木先生が亡くなったのは。

 卒業式に出てほしかったな。

 それだけが心残りやった。






 その楠木先生が目の前に居る。まるで幽霊を見とるようで、何を言えばええのか分からんかった。


「死人を見るような目で見るなよ。まあお前にとって、俺は二回死んだはずだからな」


 楠木――いやクヌート先生はあたしたち生徒の前で立ち止まった。

 そして、溜息を吐いた。


「まったく。教師相手に無茶をするな。半人前の生徒のくせに生意気だぞ」


 なんや知らんけど、前世の楠木先生の記憶と今のクヌート先生の現実がごっちゃになって、混乱してきた。


「ちょっと待ってください。質問させてもらえませんか?」


 耐えかねたのか、クラウスがこの状況を打破すべく、クヌート先生にズバッと訊ねた。


「どうして、生きているんですか?」


 まあ確かにそれが聞きたい。アンダーの能力で、確かにこの目で見たんや。アデリナ先生に殺されたところを。


「まずそれからか。でははっきりと答えよう――」


 そう言うたクヌート先生は罰の悪そうな顔になった。


「そもそも俺は殺されてなどいなかった」


 全ての前提が崩れるようなことを言うたクヌート先生にいち早く突っ込みを入れたんは、デリアやった。


「はあ!? 偽装殺人だったわけ!?」

「そうだ、デリア。ていうか伏線は貼られていたはずだ。そうだろう――アデリナ」


 すっとクヌート先生の後ろから現れたんは、アデリナ先生やった。にこっとあたしらに微笑んでおる。


「なるほど。犯人と被害者が共謀してたのなら、どんな犯罪も行なえるわけか」


 ランドルフの呟きにアデリナ先生は「そうですね」と肯定した。


「じゃあ、あんとき語ったクヌート先生への恨み言は――」

「ユーリさん。近くにゴルド先生がいらっしゃることは分かっていました。だからあの場では嘘をつくしかなかったんです」


 縛られとる校長先生は「くそ、裏切ったのか!」と怒りのあまりじたばたし始めた。


「裏切る? いいえ、初めから欺くために潜入してたんですよ」

「欺くため? どういう意味だ?」


 ランドルフが問い質すとクヌート先生は「俺たちはイデアル王直属の部下なのさ」と言って懐から紋章を取り出した。なんや見たことのない紋章やな――


「それは――『護衛騎士』の紋章!」


 突然、デリアが指差して紋章の正体を言い当てた。なるほど、あれが『護衛騎士』の紋章――はあ!?


「それじゃあ、ドランと同じ、『護衛騎士』なんか!? アデリナ先生も!?」

「そうだ。俺たちはいわゆるスパイって奴さ」


 紋章を懐に仕舞いこんで、クヌート先生は説明を始めた。


「まあ『護衛騎士』は何も護衛ばかりしているわけではない。国内の治安維持のために動いたり、こうしてスパイとして潜入することもある。だから『護衛騎士』に誰が任命されているのか、いまいち分からなかっただろう」


 確かに、ドランの件もあるし、分からんでもないけど。


「魔法学校で怪しい儀式や教師の不審死が前々からあってな。そこで時期をずらして、俺とアデリナが赴任してきたというわけだ。しかし意外と早く信頼されたよ。自分の代で終わらせようと焦ったんだろうな――校長先生」

「ぐっ! 貴様がスパイだと知っていたが、まさかアデリナまでが――」

「おっと。知っていたんじゃない。わざと明かしたんだ」


 クヌート先生はこの場に居るみんなのために分からせるよう噛み砕いて話す。


「目的はアデリナを信用させて、儀式の詳細を調べさせるため。そして死んだ俺が儀式を邪魔する役割だった。だけど、ユーリがいろいろ企んでいたから、邪魔するタイミングを失ってしまったけどな」


 そしてあたしの前に来て「無茶をしやがって。お前はいつもそうだ」と説教を始める。


「裏ギルドに行きやがって。あそこ危ないんだぜ?」

「なんで知ってますのん!?」

「そりゃあ尾行してたからな。オスカーとの戦いも見てた」


 そしてクヌート先生は呆れた顔であたしに言うた。


「前世でも異世界でも、お前は俺に心配をかけさせる。悪い生徒だよ」

「あはは。なんかすんません」


 そんなやりとりをしとるとイレーネちゃんが「ぜんせ? いせかい? 二人は前々からの知り合いだったんですか?」と問うてきた。

 あらやだ。やばいかも。


「まあ話は後だ。早く『天才』を解く方法を教えてくれ」


 ランドルフが遮ってくれたおかげでなんとか誤魔化せた。おおきにやで。


「そうだな。ていうかいいのか? 『天才』のままでいなくていいのか?」

「なんちゅうか、なったらなったで何にも変わらん気がするなあ。特別頭良くなったわけでもないし」

「力が馴染むには数日必要だと、預言書に書いてありました」


 アデリナ先生の言葉にクヌート先生は「なるほどな。人から神へ一気になっちまったら、精神がもたないしな」と納得した。


「まあ望まない才能ほど、害悪なもんはないな。それじゃあ解くから、噴水の中に入れ」

「また入るんか。しゃーないのう……うわ、冷た!」


 文句を言いながらも中に入って指示を待つ。

 校長を含めた六人の教師をどかして、再び儀式が始まった。

 クヌート先生はあたしをじっと見つめた。

 その目は何故か、覚悟を決めたような目やった。


「……クヌート先生?」

「よし、行くぞ。人は産まれ、老いてゆく。この美しい時の循環に逆らうことをやめ、残酷なほど正しい世界の輪に戻ることを願わん。戻れ、戻れ、戻れ。人の身に余した神の如き力を――天に還さん!」


 噴水が波打ち、水があたしの身体に纏わりつく。しかし冷たさは感じひんかった。

 そして汚れを落とす洗濯機のようにあたしについた光を削いでいく。

 周りが銀色の光に包まれて、何も見えへんかった。何も聞こえへんかった。外の様子も分からんかった。

 それがかなりの時間続いて――ようやく儀式は終わった。


「やっぱ、虎柄じゃないとあかんな」


 元通りの虎柄のローブ。赤毛。こうでなければいかんな。

 周りを見渡すと、何故かみんなは一様に下を向いとった。

 いや、デリアとイレーネちゃんが居らん。

 アデリナ先生は目に涙を浮かべとる。

 うん? どないしたんやろ?


「すっかり大阪のおばちゃんになっちまったな。どうしてそうなったんだか」


 噴水から出るとクヌート先生が苦笑いをしながら、あたしに声をかけた。


「まあ先生が死んでから、いろいろあったんよ」

「そうか。時間が空いたら、そのいろいろを聞かせてくれよ」


 そう言うて、クヌート先生は――

 吐血して、その場に崩れ落ちた。


「……はあ? クヌート先生?」


 何が起こったんか、分からんかった。


「ユーリさん! 治癒してやってくれ!」


 冷静なランドルフの焦った声。我に返って、治癒魔法をクヌート先生にかける。

 せやけど分かってもうた。身体中の肉や骨、内臓が破壊されとる……!


「どないなっとんのや!」

「儀式の代償です! 『天才』を解くための生贄になると、クヌート先生は言ってました!」


 まさか銀色の光に包まれとる間に、そないなことが……!


「こんなに反動が、あるとはな……一人でやろうとしたせいか」


 クヌート先生が喋れる状態やないのに、ぽつりと呟いた。


「先生! 喋らんといて! いや、意識を保つ程度に話して!」

「生徒に、痛いこと、させたくなかったんだ……」

「分かっとります。先生はそういう人です!」


 クヌート先生は「大丈夫だ……」とあたしに微笑みかけた。


「俺は、死なねえ。生徒を残して、死ぬのはこりごりだ……」


 そして、ゆっくりと、目を閉じた。


「先生? クヌート――楠木先生?」


 返事がない。あたしは――


「先生! 嘘やろ! 起きてください!」


 治癒魔法を掛け続けた。まだ死んどらん!

 最後まで、諦めるもんか!

 絶対に死なせない、生きてもらうんや!


「死んだらあかん! 頼むから、死なんといて……!」


 必死の治療は夜通し続いた。

 やがて日が昇り、クヌート先生は――

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