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あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~  作者: 橋本洋一
第八章 魔法学校陰謀編

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あらやだ! 犯人と対峙するわ!

 裏ギルドを後にして、それから二日後。


 夕方。古都の街外れの墓場。決して少なくない墓標が並んどる。

真新しい墓石の前で佇んでおったのはアデリナ先生やった。手には花束。古くなったもんと交換して、祈るように手を合わせた。

 先生が何を想うとるのか分からん。アンダーも言うたように、どんな凄い能力を持っとるいうても、人の心の中は読めへん。分からへん。

 でも分かっとることはあった。アデリナ先生が毎日この時間帯にクヌート先生の墓に来とる。ということは――


「アデリナ先生……」

「うん? ああ、ユーリさんですか」


 あまり驚いておらん様子のアデリナ先生に「そこがクヌート先生のお墓ですか」と訊ねた。

 アデリナ先生は髪をかき上げて「ええ。そうです」と悲しげに言う。


「あの人には身寄りがありませんでしたので、ここに葬ったのです」

「先生はクヌート先生と親しかったんですか?」

「私が? ……親しかったのかどうか分かりませんね。あの人の素顔を見たことはありませんから」


 この人にも認識阻害魔法を掛けとったんか。ますますクヌート先生のことが分からんようになってきた。

 あの人は何者やったんやろ。


「クヌート先生は昔、私塾をしていたことを知っていますか?」

「聞いたことはあります」

「私はそこの生徒でした。いえ、弟子といったほうが正確かもしれませんね」


 意外な関係に驚きを禁じえなかった。ああ、そうか。年齢も分からんけど、そういう関係なのかもしれへんな。


「あの人は才能を見抜く力がありました。そしてそれを最大限引き出す力もありました」

「凄い先生やな」

「ええ。しかしそれが生徒にとって幸せだったかといえばそうではありませんでした」


 憂いを帯びた顔。あたしは沈黙して先を促した。


「先生は生徒の才能を引き出しすぎたんです。結果として強大となった生徒は危険な戦地に送られて――たくさん死ぬことになったんです」

「それはしゃーないやろ。才能を引き出した先生に責任はあらへんよ」

「私も当初はそう思いました。しかしあまりにたくさん死んでいく先輩や同期、後輩を見てきて考えを改めました。あの人が居なければ、優秀にならずに平凡のまま暮らしていけたのかもしれないと」


 あたしは当事者ではないから、何も言えへん――なわけないやろ。


「そんなんは結果論やん」


 あたしの底冷えするような言葉にアデリナ先生はあたしの顔を見た。それは見るちゅうより睨むみたいやった。


「……そんな風に切り捨てるような言い方はやめてくれませんか?」

「だってそうやろ。クヌート先生が生徒を優秀にさせたのは生き残る力を身につけるためや。死んだのは生徒たち自身の責任や。過信かどうかは分からんけどな」

「私たちの同胞を侮辱する気ですか……!」

「そんな気はあらへん。あたしが言いたいのは殺人鬼の親に死刑を求刑するのはおかしいやろってことや。生き残るための教育をした先生に責任なんてあらへんよ」


 アデリナ先生の顔が次第に怒りで歪んできよる。あたしはやばいと思いながらも言葉を続けてしもうた。


「もしもそんな理由でクヌート先生を恨むなら、逆恨みもええところや」


 アデリナ先生はキッと口を結んで、手をあげて殴ろうとしたけど、自分の生徒を殴ることができひんのか、それとも十才の少女を殴ることができひんのか、分からんけど結局せえへんかった。


「……あなたには、分からないですよ」


 俯きながら、アデリナ先生は言うた。


「誰かを恨まないといけない、誰かのせいにしないと生きられない弱い人間も居るんです。それをどうか、分かってください」


 そのアデリナ先生の言葉は重いもんやった。

 あたしの心に留まって。

 それからずっと覚えとった。


「それで、ユーリさん。あなたも祈りに来たんですか?」

「ちゃうで。ちょっと待ち合わせや」

「待ち合わせ?」


 不思議そうな顔をするアデリナ先生。

 さて、もうすぐ来る時間やけど――


「どういうつもりで呼んだのか知らんが、アデリナ先生まで居るとは予想外だったな」


 後ろから声がした。振り向くとモノクルをかけた学者然とした、ゴルド先生が居た。

 そう。呼び出したんはゴルド先生や。

 他の先生では抑え切れんやろうし。

 学年主任と戦闘訓練の先生。どっちが強いか知らんけどな。


「ゴルド先生……どうしてこちらに?」

「そこのユーリ生徒に呼び出されたのだ。クヌート先生の墓の前に来るようにと」


 あたしは「来てくださってありがとうございます」と頭を下げた。


「是非聞いてほしいことがありまして」

「……ここではないといけないのか?」

「そういえば、クヌート先生と親しかったんですか?」


 わざと話題を逸らす。しかしゴルド先生は気づかへんかったようで「親しいというかただの同僚だな」と腕組みをした。


「だから親しい間柄ではなかったな。尊敬はしていたが」

「尊敬、ですか?」

「指導力や才能を見抜く力が抜群だったな。だからこそ、君たちランクSの生徒を任されたのだろう」


 ……なるほど。嘘は言うてへんな。


「それで、他に訊きたいことはあるのか? というか犯人探しでもしているのか?」

「いえ。犯人探しなんてしてませんよ」


 するとアデリナ先生は「それでは、失礼します」と言うて帰ろうとする。

 そこであたしはすかさず言うた。


「どうして、クヌート先生を殺したんですか?」


 その言葉に反応したのは、犯人やった。


「――アデリナ先生」


 アデリナ先生は顔を蒼白にしてこっちを見てきよる。ゴルド先生は動揺しとる。


「な、何を言って――」

「初めは男かなと思うたんですけど、フードを取った顔見たら、アデリナ先生やと知って驚きました」


 質問に答えずに淡々と真実だけを言う。


「理由はさっき言ってた恨みとかですか? じゃあなんで毎日こうして祈りに来ているんですか? 贖罪のつもりですか?」

「――っ! 何を言っているんですか! 証拠はあるんですか!」

「裏ギルドで確認しました。証拠もあります。あなたの家の庭に埋めた凶器のナイフ。これですね」


 あたしはローブの中に仕舞っとたナイフを取り出した。それを見たアデリナ先生は顔を歪ませた。


「ゴルド先生。言ったとおりです。アデリナ先生を捕まえる手伝いをしてください」

「……だからここに呼んだのか」

「ええ。流石に一人で捕まえるのは無理ですから」


 アデリナ先生はうな垂れて抵抗らしい抵抗はせえへんかった。

 念のために呼んだのはゴルド先生だけやない。近くにはランドルフとクラウス、エーミールが待機しとる。何かあったらこっちに来る手はずになっとる。


「さあ。アデリナ先生。覚悟を決めて――」


 あたしはアデリナ先生に向かって用心しながら歩もうとした――


「悪いがそれは勘弁願いたいな」


 腹に衝撃。そして鋭い痛み。

 熱いような冷たいような。

 腹の中をかき乱されるような。

 そないな痛みが全身を走る。


「……あ?」


 振り返るとそこには。

 ゴルド先生が居て。

 ナイフをあたしに突き刺しとった。


「君はこう考えなかったのか? 『アデリナ先生に協力者が居る』と」


 何の感情もない声でゴルド先生は言うた。


「知りすぎたんだよ。君もクヌート先生も。魔法学校の暗部をな」


 そして抜かれるナイフ。

 おびただしいほどの出血。

 あまりの痛さに気絶しそうになる。


「眠れ。死人のように。おっと、場所もぴったりじゃないか」


 まさかグルやったとは思えへんかった。

 ――いや、予想しとくべきやったんや。

 魔法学校で殺したちゅうこと。

 そして目撃者が誰もおらへんこと。

 よくよく考えたら、協力者がおって当たり前やんか。


「ユーリさん! 大丈夫かおい!」


 あかん。ランドルフたちがこっちに来よる。

 駄目や。生徒三人でこの二人に勝てるわけないやろ。

 あたしは無理矢理自己治癒力を底上げして腹部の傷を治そうと試みる。


「思慮深いのか油断しているのか分からんな。アデリナ先生。適当に相手をして、記憶の改ざんをするとしよう」

「……了解しました」


 あかん。傷を治す前に気絶しそうや。

 どんどん周りの音が聞こえなくなって。

 視界も暗なって。

 あたしの意識は完全に途絶えてしもうた。


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