あらやだ! 犯人を突き止めるわ!
「ええで。教えたるわ。あたしの知る限りの前世の記憶を」
あっさりと了承したあたしに困惑ちゅうか戸惑いの表情を見せるアンダー。
「いいのか? その知識を悪用するかもしれないんだぜ?」
「まあその可能性もなくはないけど、あんたは悪用せえへんやろ」
「ほう。それはどうしてだ?」
アンダーの鼻辺りをびしっと指差した。名探偵のように。
「もしもその気があれば『ウィンドウズ』で世界を牛耳ることもできるやろ。お偉いさんのスキャンダルや不正を暴いたり、脅迫したりすればええ。こんな地下に篭もることもないやろ」
「…………」
「それをせえへん理由は分からんけど、ひょっとして面倒やからか?」
「面倒? ……確かにそうだな。少し言い方が違うが」
アンダーは側頭部をぽりぽりと掻いた。それはある種、自分の能力の限界を明かすことに抵抗があるかのようやった。
「俺の能力、『ウィンドウズ』は古都を支配するだけで手一杯だ。大陸全土となると俺のキャパシティが足らねえ。それに大陸中を見張るなんてこと、普通の人間には無理に決まっているだろ。それこそ大陸で一番賢い皇帝陛下ぐらいしかできん」
「はあん。なるほど、よう分かった」
「うん? 何が分かったんだ?」
「裏を返せば、古都で知りえない情報はないっちゅうことやな」
「……抜け目のない女だ。流石に四十二年も前世で生きただけはあるな」
「中身はおばちゃんやからな。それよりもどないなことが知りたいんや?」
アンダーは「お前たちの世界には魔法がないんだろ?」と根本的なことを訊いてきた。
「ああ。そうやな。魔法なんて便利なもんは使えへん」
「代わりのものはなんなんだ?」
「代わりのもの? ああ、科学やな?」
「科学? 魔法の別の言い方か?」
「ちゃうねん。科学ちゅうもんはそうやな、たとえば遠くの人間と話したりできるな」
「ほう。どうやってだ?」
「詳しくは知らんよ。携帯電話いうてな、それさえあれば大陸の端から端まで会話ができるし、もしかすると違う大陸でも会話ができるな」
それを聞いたアンダーは「おそろしいな」と呟いた。
「便利な反面、危険すぎるだろ。情報が時間差なく伝達できるなんて、軍事運用でもされたらやばいだろ」
「流石に発想が物騒やな。離れた家族と会話できるとは思えへんのかい」
「そんな美しい関係は築いてないんでね。しかし、科学っていうのはどういう仕組みなんだ?」
「うーん、電気を使うんや」
「でんき? また訳の分からん単語が出てきたな」
「えっと、今ぐらいの季節にコートとか鉄のもん触ると、たまにびりっとせえへんか?」
「たまになるが……まさかそれがでんきか?」
「正確には静電気いうんやけどな。そういうビリビリしたもんを細かく分配して、各家庭に配給したりする会社もあるんや」
「待て待て。会社? 万能の力を配給する組織があるのか?」
「まあ値段はかかるけどな。使った分だけ支払うんや」
アンダーは腕組みをしながら「でんきは他にどんなことができるんだ?」と面倒な質問をしてきた。
「そうやな。冷蔵庫やクーラーみたいに物を冷やしたり涼しくしたりできる。逆に温めることも可能や。ていうかめっちゃあって一晩じゃ語れへんわ」
「なあ。でんきのほかに便利なものはあるのか?」
「便利なものか。えーと……」
「いや。それよりも疑問に思ったことがある。どうやってお前たちは人を殺す? 魔法を使わないでだ。剣か? ナイフか? それともでんきとやらか?」
あたしは「いやまあ、鈍器とか刃物とかも使うけどな」と前置きした後に言うた
「あたしらの世界で一般的に使われとんのは銃やな」
「じゅう? なんだそれは。数字か?」
「うーん。鉄でできとって、鉄の弾を火薬で爆発させて発射して殺すんや」
「かやく? もしかしてセントラルで使われ始めた火薬のことか?」
おっ。この世界でも火薬が見つかったんやな。この分やと電気が使われるのも時間の問題やな。
「そうやな。原理や仕組みは知らんけど」
「確認させてくれ。さっきから原理や仕組みを知らないというが、知らなくても生きていけるものなのか? それでも失礼だと思うがあんたが物を知らんだけか?」
「それは前者やな。あたしのおった大阪は日本ちゅう国の地方都市なんやけど、生きて死ぬまで銃なんて見たことはないし、電気の仕組みを知らんでも自然と家電製品を操作できるんや」
「それはなぜだ?」
なぜっちゅう言葉にいろんな意味が込められていたけど、あたしはシンプルに「義務教育があったからや」と答えた。
「小学校六年、中学校三年。高等教育に高校が三年、大学が四年ある。最高で十六年間も勉強すれば生きていけるんや」
「なんでそこまで勉強とやらをする必要があるんだ?」
「そら協調性とか社会性とかを身につけるためやろ。まあ知識を身につけることも重要やけど、一番はそれやと思う」
「あんたらの世界は平和なようだな」
「何言うとるんや。毎日毎日、人殺されとるわ!」
まあ益体のない話を延々続けるのも悪ないけど、そろそろ本題に入らんとあかん。
「なあ。前世のことを話したんや。クヌート先生の死の真相を知りたいんやけど」
「そうだな。正直文明レベルが違いすぎて参考にはならなかったが。約束は約束だ」
指をパチンと鳴らすアンダー。すると長方形のガラスみたいなもんが部屋中を埋め尽くすほど増殖した。そして一つ一つが違う映像を映し出す。
中にはイレーネちゃんとデリアが居た。食堂で一緒にご飯を食うとる。
東風亭のロイさんとエバさんが仲良く手をつないで歩いとる。
見覚えのある人が表を歩いてたりする光景も映っていた。
「さてと。クヌートの死の直後の記憶を映そう。覚悟はいいか?」
「覚悟ってなんやねん」
「人の死を見ることだ。これは過去の記憶だから、干渉はできない。観賞するだけだ」
「……分かっとる。見せてもらえるか」
アンダーは手を複雑に操って、たくさんのガラスを大きな四つにまとめた。田の字のように配置されたガラス。左上に映ったのはクヌート先生やった。よく見ても顔が分からん。けど、クヌート先生やと分かる。先生は魔法学校の外れにある建物の裏におった。時刻は深夜。月明かりでかろうじて見える。
「よくクヌート先生やと分かるな」
「ああ。認識阻害魔法をかけてはいるが、こっちはプロだ。かかっているならそういう奴を見つければいい」
「なるほどな」
「それに死体が発見された場所は情報として入っているからな。クヌートは結構有名人なんだぜ」
どんな風に有名人なのか訊ねる前に、映像が動き出した。
クヌート先生は誰かと待ち合わせしとるようやった。辺りをきょろきょろしとる。
そして相手が右下のガラスから現れた。男性やろか? 背が高い。目深にフードを被るそいつは、クヌート先生に話しかけた。
「ここから口論になる。話している内容は詳しくは分からん」
「なんでや? さっきみたいに音声を録音できひんのか?」
「何故かできなかった。クヌートの認識阻害魔法のせいかもしれない」
意外と制約があるんやな。
クヌート先生が呆れたように後ろに向いた瞬間、フードの奴はナイフを使ってクヌート先生の脇腹を刺した。倒れる先生に馬乗りになって、何度も何度も――
「――っ!」
「おい。目を逸らすな。フードの人間が逃げるぞ」
フードの奴はナイフを持ったまま逃走した。動かない先生をそのままにして。
「誰なんや? フードの奴は――」
「任せろ。フードの人間を追う」
『ウィンドウズ』を操作してフードの奴を追うアンダー。
話し合っていたちゅうことは多分クヌート先生の知り合いやろな。
もしかして、魔法学校の人間か?
「突き止めたぞ。こいつが犯人だ」
アンダーの声があたしを現実に戻す。
フードをゆっくりと外す映像が流れた。
「……嘘やろ?」
そのフードの下にあった正体は――




