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あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~  作者: 橋本洋一
第八章 魔法学校陰謀編

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あらやだ! 裏ギルドに行くわ!

 裏ギルド。平和で素朴な古都にそないなもんがあるとは思えへんかった。

 でもまあ、前世に住んどった頃にも地元にやくざがおったし、転生してからも近くに元やくざのランドルフがおるし、考えてみると意外と裏社会ちゅうもんはあたしらの身近にあるのかもしれへん。表裏一体って言葉もあるしな。


 オスカーに案内された場所は冬ということを差し引いても底冷えするような裏通りでイレーネちゃんやデリアを連れて行けないくらいの闇深いところやった。おっかないと思う反面、まあ裏ギルドなるもんがここにはあるなと納得もできた。

 人気がない場所やのに、視線を感じる。多分どこかで見張っているんやろな。おー、怖。まるで幽霊さんに睨まれているようやな。


「あそこに人がいるだろう。あれが案内人だ」


 オスカーが指差す先にはスキンヘッドで長身の真っ青な顔色の男が立っとる。顔面、左目付近に大きな刀傷があって、多分失明しとる。だって明後日の方向に目がむいとるから。

 大きな灰色のコートを羽織っておるけど、治療魔法士の勉強をしているおかげで、その人が軽い身体障害を負っておることに気づけた。


「お前は黙っていろよ。受け答えは俺がするから」


 受け答え? なんやろ、暗号とか合言葉とかを言うのやろか。


「……剣士」


 ある程度近づいたとき、しゃがれた声で男は言うた。すかさずオスカーは「魔法使い」と応じた。


「……若鶏をどう調理する?」

「焼いて食べる」

「……通れ」


 男の後ろには汚い扉があった。どうやら許可が出たらしい。

 オスカーは男に構うことなく扉を開けた。あたしもそれに続く。扉の奥は階段になっていて、地下へと続いておった。


「なあ。さっきの合言葉やろ? どういう風に決められとるんや?」

「合言葉? ああ、あれは意味なんてねえよ」

「うん? どういうこっちゃ?」

「向こうの門番が適当に言った言葉に対して、こっちは何でもいいから反対語や意味に合った言葉を言う。自信満々にな。答えに詰まったら通してもらえない。ただそれだけだ」


 はあ。上手いこと考えとるんやなあ。


「ところで調べてもらいたいことってなんなんだ?」

「ああ。クヌート先生が殺されたんや。その死の真相を調べてもらいたくてな」

「クヌートか。なんかよく分からねえ先生だったぜ。顔も思い出せねえのに、教わった内容は頭に入ってるんだよな。不思議なことに」


 なんや。あたしらだけやのうて、オスカーとか他の生徒も分からなくなっとるんやな。これもまた不思議やな。


「さあ。着いたぜ。ここが裏ギルドの入り口だ」


 階段の終わって、少し開けたところに出た。目の前の黒い扉に手をかけるオスカー。あたしは頷いた。

 扉を開けると、そこは別世界やった。


「へい! 次の対戦のオッズはこうなっているぞ! 買わないか!」

「ねえ。あたしと遊んでよう」

「表じゃ売ってねえヤクがたくさんあるぜ! どうだあんちゃん。買わねえか!」

「ドリンク一杯八イデアル銅貨! こいつは効くぜ!」


 なんやこれは。いたるところで飛び交う声。その内容は違法闘技場の賭け、売春、薬物の取引、そして飲酒。この世の悪徳が地下に押し込められたような、そんな印象やった。


「こんなもんが、古都にあったんか――」


 想像してほしい。地下に歓楽街があり、しかもそこらの歓楽街と違って煌びやかで輝いておる。上品さと下品さが上手い具合に重なっとる。石造りの街。地下なのに街灯が煌く。そして人が多くもないけど、少なくもない。

 これが裏ギルド――


「ここは地下の楽園さ。ここで手に入らないものはモラルぐらいだって言われているぜ」

「上手いこと言うたもんやな」


 子供には刺激の強い光景やな。いやおばちゃんでも目を覆いたくなるわ。


「それで、どうやって調べるんや? 情報屋でも居るんか?」

「そのとおりだ。この裏ギルドを創った人間こそ、伝説の情報屋だったりする。ついて――」

「その必要はねえ」


 オスカーが歩き出そうとした瞬間、制するようにそのおっさんは現れた。

 灰色のローブ。顔は強面で糸目。黒髪で口髭も黒やった。髪は長く、ポニーテールに結んどる。背は高い。多分五十代くらいやろな。傍に剣を腰に差した二人の護衛を連れとる。


「待ってたぜ。平和の聖女。俺がこの街の仕切りをしているアンダーというもんだ」

「アンダー? なんか偽名っぽいなあ」

「そうだ。偽名だ。本当の名はとうに捨てた」


 そう言うてアンダーは手を差し伸べた。ほとんど反射的にあたしは手を握る。


「流石に度胸も勇気もあるな」

「ていうか、なんであたしの身元とか来るんの分かったんや? 見張ってた部下のおかげか?」

「いやそうじゃない。まあ立ち話もなんだ、こっちに来い。茶でも出すぜ。オスカーはどうする?」

「俺は遠慮しとくぜ。あんたとお茶会なんて真っ平ごめんだ」


 首を横に振るオスカー。案外度胸ないんやな。いや、君子危うきに近寄らずか?


「そうか。じゃあ行くかユーリ」


 アンダーに先導されて奥の部屋に向かう。

 まさか裏ギルドのボスがこんな早く接近してくるやなんて、予想できひんかった。

 隙を突かれた感じがしてならんな。


「お前たちもここまででいい。サシで話したい」


 大広間の前に案内されると、アンダーは護衛の者にそう命じた。あたしは特に緊張しとらんかったけど、おっさんと二人きりになるのは、なんか危ない気がしてきた。

 でもまあ流れに乗るしかないな。

 大広間の扉が開いた。そこには茶道具とテーブル、椅子が二脚しかなかった。こんなに広い空間やのに、どうしてやろ?


「待ってろ。お茶を淹れてやる。紅茶でいいか? 俺はコーヒーは飲めない」

「ええけど。お茶の前に話したいことがあるんや」

「まあ待て。せっかちは身体と精神に悪影響を与える。心に余裕がなければな」


 そう言われたらしゃーないな。あたしはおとなしく紅茶を待った。

 アンダーは大量に砂糖を自分のカップに入れた。糖尿病になるんちゃうかなと心配になった。


「仕事前には紅茶を飲むのがルーティンになっているんだ」

「仕事? なんの仕事や?」

「決まっているだろう。クヌートの死の真相を知りたいのだろう?」

「なんや。そこまでお見通しかいな。話が早くて助かるわ」


 あたしは遠慮なく「じゃあ教えてくれるか?」と率直に訊ねた。


「その前に対価の話をしよう」

「対価? ああ、料金のことか? 今手持ちがあんまり――」

「金じゃねえよ。そんなもん、いくらでも手に入る。俺が知りたいのは別にある」


 アンダーはあたしに向かって言うた。


「あんたは『転生者』なんだろ。その情報が欲しい」


 あたしは「はあ? 『転生者』? なんやそれ?」と一応とぼけてみるけどアンダーは「誤魔化すな。全部知っているんだ」と自信ありげに言う。


「魔法学校の入学式のときに、クラウスとランドルフに自分が『転生者』だと言っただろう。まあその二人も『転生者』だったけどな」

「……どうやって調べたんや? それは三人の秘密なわけやけど」


 アンダーは軽く笑った。そして種明かしをするかのように手のひらを上に広げた。

 すると何もない空間に横に長い、顔ぐらいの大きさの長方形が浮かんだ。


「な、なんやそれは!?」

「あんたらが女神の加護と呼んでた力、かもしれないな」

「はあ!? 女神の加護!? あんたも『転生者』か!?」

「残念ながら違うな。まあ俺のことはどうでもいい。これをじっくり見てくれ」


 言われたんで長方形を凝視すると、あたし、ランドルフ、クラウスの姿が映っとった。

 しかも音声が出ておる。


『それじゃあユーリさん。話してください』

『うーん、何から話したらええんやろうか。とりあえず前世の名前は鈴木小百合。死んだのは四十二歳のときや』

『なんだ。俺より年上じゃねえか』

『僕よりもですね』

『なんや。みんな若くして死んだんやなあ。可哀想に。そんで夫と子ども三人の家族で毎日面白おかしく暮らしとった。でな、ある日買い物を終えて帰ろうとしたとにな。仲の良いママ友にあったんや。それで機嫌よう話してたら目の前にサッカーボールで遊んどる子供が見えたんや』

『……なんとなく想像できますねその後のことを』

『多分当たりやわ。ボールが道路に転がって子供が取りに行こうとして、トラックに轢かれそうになったんや。そこを助けたんのは、何を隠そうあたしなわけや!』


 そこまで言うた後、映像は止まった。


「トラックがなんだか分からないが、多分馬車のようなものだろうな」

「まあ外れではないな。ていうか、なんやねん! その能力は!」

「俺は『ウィンドウズ』と呼んでいる。まあ予知能力者ならぬ既知能力者というのが正確だろう」


 アンダーは続けてこう言うた。


「俺に分からないことは人の心と運命だけだ。多分、この力を使えばクヌートの死を知ることができるだろう。代わりに前世のことを教えてくれ」


 そしてにやりと笑ったんや。


「前世の知識があれば、この街を、裏ギルドをもっと発展させることも可能になるからな」


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