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あらやだ! コレあれやろアレ! なんやったっけ? そうや転生やろ! ~大阪のおばちゃん、平和な世の中目指して飴ちゃん無双やで!~  作者: 橋本洋一
第三章 郊外訓練編

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あらやだ! 準備と修練だわ!

 魔物――人に害しか与えん非食用動植物かつ危険動植物の総称や。

 元々は人間やなく、魔力を主食にしとったらしい。それがどないして人間を食べるようになったんか。

 この世界に神々――そないなもんがおるとは思えんが――が住んどった大昔、魔力は鉱物のような液体のような、なんやはっきり分からん形状をしとって、あっちこっちにあったんや。せやけど神代から現代に至る過程で魔力が自然発生せんくなってしもうた。

 人間でも動植物でも、飢えたら何しでかすか分からんように、魔物も魔力を摂取するためになりふり構わんかった。結果として潜在的に魔力を多く持っとる人間を襲うようになったんや。

 まあ魔物も魔力を持っとるから、強い魔物が弱い魔物を襲うこともある。せやのに魔物は優先的に人間を襲うんや。理由は分からへん。でも足らん頭で必死こいて考えてみると、おそろしゅうておぞましい考えが頭をよぎったんや。

 もしかすると、人間を襲うんは、魔力云々以前に、魔物にとって人間は美味しいからやろか――


「ユーリ、お願いだから変なことを言わないでください。これ以上不安にさせないでください……」

「イレーネちゃん、堪忍やで。でもな、魔物を知ることは大事やと思うんや」


 掲示板で知らせを見た後の放課後、イレーネちゃんと一緒に修練塔に来ると、既にランドルフとクラウスが居った。ランドルフは昨日と同じく真剣で素振りをしとった。クラウスは難しい顔で古都周辺の地図を広げながら、印を付けとる。いや、左手にはなんらかの本を持っとる。題名は『魔物分布図・古都テレス編』と書かれとる。

 その脇にもぎょうさんの本があったから、気になったもんを「クラウス借りてええか?」と断りを入れてみる。クラウスは「いいですよー」と快く言うてくれた。


 そんで『魔物史』の一巻をイレーネちゃんに読み聞かせとったんや。今朝から元気のないイレーネちゃん。少しでも気を紛らわそう思うて、かいつまんで話したんやけど逆効果みたいでますます顔を暗くしてしもうた。


「ユーリ、どうして意地悪するんですか?」

「意地悪なんてしとらんよ。少しでもイレーネちゃんの緊張をほぐそう思うてな」

「魔物のことを知って、どうするんですか? ますます怖くなりました。だって人間を食べるんですよ?」


 あたしは「知らんほうがもっと怖いでー」とわざと気のない返事をした。


「し、知らないと怖い、ですか?」

「そうやな。アデリナ先生と魔物、どっちが怖いんや」

「そ、それは魔物です。だってアデリナ先生は厳しい人ですけど、人を殺したりしないですもん」

「それは間違いやな。アデリナ先生を見くびっとるんとちゃうの?」

「み、見くびるって――」

「やってそうやろ? 怖いっちゅーことは、アデリナ先生より魔物のほうが強いっちゅーこっちゃろ?」


 そこまで言うとイレーネちゃんは「……あっ!」と何かに気づいたようや。


「ア、アデリナ先生は魔物より強いですよね。魔法学校の戦闘訓練の先生ですから」

「そうや。弱い人間が先生やっとらん。この周辺の魔物ぐらい、楽勝に倒せるで」


 ほんであたしはイレーネちゃんに優しく言うた。


「知らへんのは余計な恐怖を生むんや。よくよく考えてみれば大したことあらへんのに。せやから、こうやって勉強しとるんや」

「……やっぱりユーリは凄いです」


 尊敬の眼差しで見るイレーネちゃん。せやけど、これは前世の経験のおかげなんやな。

 昔、一美――あたしの娘が小学生やったとき、女の子が東京から転入してきたんや。せやけど無口な彼女はクラスに馴染めへんかった。心優しい一美も初めは関わらんとしてたんやな。

 そんな一美にあたしは説教したんや。


 ええか、一美。その子は転入して周りのことが分からへんのや。やから助けてやりいな。

 すると一美は口を尖らせて言うた。

 でもなおかん。その子、なんだか人と喋らんと、ずっと黙ったままやねん。どないしてええんか、分からへん。

 あのな、一美。その子のことを知ろうと努力したか? その子のことを分かろうとしたんか?

 ……ううん。せえへんかった。

 せやな。その子も同じやねん。周りの人間のことが分からへん。でもな、それは仕方ないことやねん。環境がちゃうし、方言もちゃう。どんだけ心細いか、大阪生まれの大阪育ちのあんたに分かるか?

 なんか、おかんの言おうとしとること、分かる気がしてきた。

 知ることは重要やって貴文さんも言うてたやろ。な、明日から話しかけてやり。一美ならできるやろ。

 結果としてその子は言葉がちゃうから話されへんかっただけやった。あたしが死ぬ前ぐらいやけど、中学生になったその子は一美の親友やったりする。

 不気味に思うんはまったく知らんからや。理解をせんからや。そう信じとる。


「それで、ユーリ。これからどうしますか?」

「そら修練と言いたいところやけど、気になることがあってな」


 二人で悩んでもしゃーないのと考えを聞かせたいと思うたから「ランドルフ! クラウス! こっち来て!」と呼びかけた。


「なんだユーリさん。郊外訓練のことか?」

「僕もそれで忙しいんですけどね。ユーリさんに言われたら仕方ないですね」


 そないに素直に言うことを聞いてくれるんは、あたしが年上やからかな? 転生仲間やからやろか?


「そうや。対策、っちゅーよりも疑問があってん」

「疑問? ああ、僕も疑問はありますね」

「奇遇だな。俺も疑問がある」


 ランクSの三人が声を揃えて言うたのでイレーネちゃんが「その疑問ってなんですか?」と質問してくれた。


「なんでこの時期に郊外訓練をやんのか、やな」

「一年生だけやるのは、どうしてですかね」

「具体的に何をすればいいのか、示されていないことだな」


 三者三様の疑問。なんや、同じ疑問やと思っとったのに。


「まず、クラウスの疑問から考えるか」


 ランドルフの言葉にあたしらは頷いた。


「一年生しかやらへんのは、二年生以降は去年同じようにしたからちゃうの?」

「普通、このような訓練は上級生を伴ってするはずです。一年生は未熟な上、魔法も満足にできない十才の少年少女です。それに上級生にも指揮監督を実践できるというメリットもあります」

「なるほどな。そう考えれば単独でやらせる理由がないな」

「料理人と見習いと一緒なんですよ。料理は盗む物という考えは古いです。傍に居て基礎を教えるのが常識です」


 このように深く考えてもおかしな話や。いわゆる士官候補生なら、指揮監督を習わせる機会のはずやのに。

 クラウスは確かに賢い。前世の経験もある。せやけど、歴戦の魔法使いであろう教官たちがこのことを思いつかんわけがないな。


「次にランドルフの疑問やけど、具体的に何をすればええんかは、当日に知らさせるんとちゃうの?」

「ユーリの言うとおりです。試験内容が明かされていたら対策できますよ」

「おいおい。ただでさえ危険な郊外訓練なのに、対策なしで挑むのは無茶ってもんだ。実際こうして俺たちは修練しているじゃないか」

「つまり、対策を練られると困るのか、それとも自主的な対策を推奨しているのか、はたまた対策を取っても取られてもどうでもいい簡単な訓練なのか、定かじゃないですね」


 クラウスが言うた最後の考え、簡単な訓練っちゅうのはないやろな。わざわざ準備と修練を怠ることのないようにと釘を刺しとったし。


「ユーリさんの疑問は、入学して間もないのに、どうして行なうのか、だな」

「そうや。付け焼刃でなんとかなる訓練ちゃう思うねん。もっとしっかり訓練してから行なうべきなんや」

「僕もそう思います。せっかくの教育機関なんですから、ろくに勉強させずに訓練するのは確かにおかしい」


 話し合って答えを見つけようとしたんやけど、なかなか答えは見つからんかった。

 するとイレーネちゃんがおずおずと「あの、その、多分なんですけど」と口を開いた。


「どないしたんや? イレーネちゃん」

「もしかして、郊外訓練とは入学試験のことなのかもしれません」


 その言葉にイレーネちゃんを除く全員が首を捻った。


「入学試験? ちゃんと入学する前に……」

「それは登録ですよね? きちんとした入学許可は出てましたか?」


 そう言われると、なあなあになってた気もせんでもないな。


「まさか安心しとるこの時期にやるっちゅうことかいな?」

「はっ。不意打ちみてえなことしやがるな」

「カリキュラムも組んでくれたのにですか? クヌート先生も人が悪いですね」


 イレーネちゃんの考えが正しいんか分からんけど、頭には入れとったほうがええな。

 しかしそれが判明したところで何の解決にはならへんな。


「なあ。新たな疑問が生まれたぜ」


 唐突にランドルフは閃いたようやった。


「なになに? これ以上混乱させること言わんといてえな」

「今の戦闘訓練を思い返すと、あのペースで基礎的な魔法がいつ使えるようになるんだ?」

「僕の見立てですと、郊外訓練の前後ですね」


 ランドルフは「ああ。そうだろうな」と頷いた。


「つまり、ほとんどの生徒は魔法を使えずに郊外訓練をすることになるな」


 それを、聞いて、頭の中のピースが、つながったんや。


「イレーネちゃん。得意な武器はあるか?」

「えっ? 特にないですけど……」

「ランドルフ。イレーネちゃんでも扱える武器ってなんや?」


 突然の質問やったけど、ランドルフは真剣に答えてくれた。


「そうだな……弓は時間不足だ。あれは扱いが難しい。槍しかないだろうな。槍は素人でも突くくらいことはできるだろう」

「教えられるか?」

「ああ、大丈夫だぜ」

「ちょ、ちょっと。ユーリ、どうしたんですか?」


 あたしは「ちょっと図書室で本借りてくるわ」と立ち上がる。


「みんなに言うとくで。『魔法以外の武器が要る』。せやから急いで対策練るで」

「……何か分かったんですね」

「ああ。おばちゃんやから分かったんや。まるでタイムセールでの商品の取り合いと似とるからなあ」


 イレーネちゃんは「おばちゃん? タイムセール?」と首を傾げとったけど、構わへん。

 あたしは全員に向かって言うた。


「これは入学試験なんて、生優しいもんちゃう。言うなれば、選抜試験、選別試験や」


 それからあたしは役に立ちそうな魔法を習得すべく、図書館と修練塔に通いつめた。

 まず、水の魔法を重点的に行なった。人間、水がないと生きていかれへんからな。

 そうして役に立ちそうな魔法を次々と覚えた。攻撃魔法以外なら習得は容易かったんや。


 そして、二週間が経ち。

 郊外訓練の当日となった――


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