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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

死にたい話

作者: 藍川 透

私の話です。

「生きているのが楽しくない」という気持ちが、「死にたい」という具体的な願望に変わったのはいつからだっただろう。

一見対して変わらないように思えるかもしれないが、私の場合、この二つの違いは大きかった。

「生きているのが楽しくない」と思っていたときは、ただ常に気分が重いという以外には何も無かった。

「死にたい」と思うようになってからは、自傷行為をしたり、自殺を図ったりするようになった。

つまり、はっきりとした願望を持つことによって、それを実現させるための行動を伴うになってしまったということだ。これは良くないということは自覚している。けれど、悪いと思っていることと辞めることができることとは別だ。

私が自傷行為をしていると知ったら、自殺に成功したら、数は多くないにしろ悲しんでくれる人がいるだろうこともわかる。恐らく悲しんでくれるであろう人たちの顔も目に浮かぶ。

一応、自傷の頻度を減らす努力もしてみた。しかし、そんな決意も泣きじゃくるほど苦しい出来事の前ではいつも消し飛んでしまう。カッターナイフを片手にしながらも、決意が頭をよぎり、やはり辞めようとも思ったが、結局は悲しみや苦しみに流されて、手首に刃を押し付けてしまう。

手首に一直線の傷をつけて、そこから滲む血を見ていると、不思議と心がすっきりするのだ。どういう原理でそうなっているのかはわからないが、とにかく落ち着きを取り戻すことが出来る。

恐らく、私はもう自傷をやめることはできない。それ以外で心を落ち着かせるのには時間がかかりすぎるからだ。自分を傷つければ、一瞬で落ち着きを取り戻すことができる。少しでも早く苦しみから逃れたい私に取って、どちらが良いかは一目瞭然だった。迷うことすらない。

私には恋人がいる。とても優しい人だ。優しすぎて、なんでも受け入れてくれるのではないか(実際はさすがになんでもというわけにはいかないだろうが)と思えるほどだ。

私が自殺を図って失敗したあと、彼が言ったことばを覚えている。

「透が今生きていてくれて、僕は本当にほっとしてる。生きていてくれてありがとう。透がいなくなったら僕は悲しい。好きな人がいなくなってしまったらすごく悲しい。だからもう、死にたいなんて思わないで。僕はずっと透の味方だからね」

嬉しいという気持ちもなくはなかった。しかし、最低な私は、心の中で彼のことばの揚げ足をとってもいた。

別に好きで生き残ったわけじゃない。本当に死にたかったんだ。失敗しただけだ、と。

それに、死にたいと思わないことはできない、とも。

そして、彼に対して実際に「私はほとんど常に死にたいと思っているから、死にたいと思わないで欲しいっていうあなたのお願いに応えることはできない。思っても言わないようにすることならできるけれど、そうした方がいい?」と言った。

本当に最低な女だ。恐らく本当に心配して、心の底からもう死のうとしないでくれと言ってくれた人に、突っぱねるようなことばを吐き捨てた。

もしかしたら振られるかもしれないと思った。しかし、彼が私へ別れを切り出すことはなかった。

いつも通り優しいままで「死にたいと思ったら、1人で実行に移す前に僕に言ってね。透が死にたいのを先延ばしにできるように、僕もいっしょに考えるから」と言った。

逆に別れたくなった。

こんなに優しい人が、私のようなおかしな人間と付き合っていていいわけがない。もっと普通の、自傷もしなければ死のうともしない、優しくて可愛い、彼にふさわしい女性がいるはずだ。こんな女と付き合っていることは、彼の人生にとって時間の無駄だから、別れたほうがいいと思った。

しかし、私は未だ彼に別れを告げることができずにいる。結局、自分から彼を手放すことができないのだ。

足りなかった家族からの愛情を、彼が補ってくれた。

ひねくれた性格のせいでずっといじめられてきた私にとって、こんなに優しくしてくれた人は初めてだった。

優しい彼を利用して、彼の人生を無駄にして、自分が満たされたいと思っている。こんな人間からはやく彼を解放しなければいけないのに、彼を失うのが怖いのだ。

自己中心的で、思いやりに欠けていて、自殺願望があって。いい所なんて何一つないくせに、こんな自分で生きていくことが自分でも苦しくて仕方ないくせに。早く死んでしまったほうが、自分にとっても彼にとっても、その他の人にとっても良いはずなのに、まだ死ねずにいる。

結局、私自身も自分のことがわかっていないのだ。

ありがとうございました。

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