ミスリルの聖者
チュンチュン、さわさわさわ。
小鳥の声と葉擦れの音で目が覚める。爽やかな風。美しい朝焼け。
「おおー、木の上の朝はいいなー」
この爽快感は病みつきになりそうだ。
洗顔も水浴びもせずに、その替わりに浄化の魔法を掛けて。
さて朝食タイム。今朝も食事が美味い。
ビッグボアとブラックマジックベアの肉の食べ比べ。
ボアの方が柔らかいけど、やっぱりブラックマジックベアだね。
しっかりした歯ごたえと濃厚な旨味。どこかハーブを連想させる香りも素晴らしい。
さすがランクBは伊達じゃない。
ボア肉は保存限界が近そうなので全部平らげ、パンも1斤しっかり食べる。
満腹になったところで、旅の再開だ。目的の街の方向に歩き始める。
獣道らしい細い道とも言えないような道を行く。
「おっ!なんだこりゃ?」
猪が地面から伸びる土の槍に串刺しになっている。
{我が設置しておいた魔物除けだ。土槍に獲物を串刺しにして縄張りを主張するブラックマジックベアの習性を利用させてもらった}
「へぇぇ。でも本家のブラックマジックベアが怒ったりしないのか?」
{それらしき奴の一部はすでにお主の腹の中だ}
あっそう。あれがそうだったか。ここらで一番強いとかって言ってたもんな。
「ボア肉確保して行こうか?」
{ここらはボアが多い。新鮮な奴を新たに仕入れた方が良いだろう}
しばらく歩くと、がさごそと何かが蠢く気配がした。
{ボアだな、飛び出すぞ。仕留めて見ろ}
がさごそ音が止んだその直後、ボアが前方の草むらから飛び出し、獣道沿いに突進してくる。
昨日のビッグボアに比べるとかなり小さく、迫力が段違いだ。怖くない。体重50キロくらいか。
俺は余裕の足さばきで進路を躱し、野球のバットスイングの要領でミスリルソードを一閃。
外角低めの棒球を痛打する感じ。
見事にボアは真っ二つ!さすがの切れ味だ。
例によって、食べやすそうな部分優先で背嚢に詰めるだけ積む。
「重い。重量がゼロになる魔法の収納があればなぁ」
{そういうものもあったように思うぞ。街に行けば手に入るかも知れん}
「それは欲しい、是非欲しい。でも高いんだろうな」
ずっしり重い背嚢を担いで道なき道を進む。藪が深くなって歩きにくい。
水音のする方向に下って行くと、川に出た。
「川沿いに進む方がましだな」
{まあそれも良かろう}
河原があれば河原を。河原が途切れれば、石伝いに川中を進む。
見晴らしがいいので安心して進める。他のことにも気を回す余裕が出来た。
「そう言えば、さっきの土槍。あれも土魔法?」
{そうだ。土槍だ。こんな具合だ}
石の隙間の地面から土槍が、岩の上から石槍が突き立つ。
「ほうほう、そうやるのか」
ビシュッ。土槍が出た!
ピコーン!『土槍G』
やった、土槍ゲット!
{ははは、お主は簡単にスキルを獲得するので小気味よいな。土槍は石礫ほど使い勝手は良くないが、障害物の影の敵などに有効だ}
うんうん。びしゅびしゅっと土槍を出して遊ぶ。ふふふ楽しい。
{だがな、土槍は手慰み程度にしてまず石礫を伸ばせ}
はいはい、分かってますよ。
今の魔力量は14なので、威力を絞れば石礫は14発撃てる。
ボアを一発で仕留めるような高威力にすると1発。ゴブリンの無防備な急所にあてて仕留める程度だと2~3発ということころか。
低威力を連射したり、威力を変化させながら速射したりして練習する。
清流を泳ぐ魚影が見えるので、石礫を当てて仕留めようとするがなかなか難しい。
「光の屈折のせいで狙いがずれる。石礫も入水する際に進路がぶれる。魚とりにはむしろ土槍の方が向いてるかな」
大きな魚を川底からの土槍で串刺しにして、やっとのことで仕留めることができた。
まだあまりお腹は空いてないが、荷物がいっぱいで魚を持てないので、ここで焚火をして焼き魚を食べることにした。食い溜めだ。
河原では乾いた枝がたくさん拾えて燃料に事欠かない。
焚火の準備が整いつつあったその時、只ならぬ気配を感じた。
バッシャーン!
向こう岸の小高い崖から川に飛び込んだものがある。
「助けて―!」
痩せっぽちの小さな女の子だ。
川の深さは女の子の腰ぐらい。
助けを呼んでいるのは追い掛ける者がいるからだ。
バシャバシャバシャーン!続けて3人の男が飛び込んだ。山賊だな。崖の上にはまだあと二人いる。
{うむ}地竜と目で頷き合う。
地竜が崖の上の一人を石弾で吹っ飛ばした。
もう1人も弓を持っている。
石礫でやれるか?顔面のど真ん中を狙って飛ばす。命中。昏倒したようだ。
残りは3人。地竜は消えている。俺の魔力もゼロになり、回復待ち。
ひとまず、ポーチから石を取り出し、投げる。当りはしなかったが、山賊の付近の川面に音を立てて落下し、奴らの注意はこちらに向いた。
俺はミスリルソードを抜き放ち、大声を上げる。
「うおぉぉぉー!」
3人の山賊は何か囁き交わしている。
俺が一人なのを見て取り、3人掛かりで俺を狙うことにしたようだ。向きを変える。
前の2人は俺と同等か少し弱い位、後ろの一人が俺と同等か少し強いかもというところか。
3人とも川を渡りきり、長剣を抜いて迫って来る。
先頭の奴が真っ向から剣を振り下ろしたのをステップで躱し、袈裟懸けに斬り下げる。
外角高めのボールを大根切り打法でたたく感じ?胴体を両断した。
さっきのボア戦のタイミングが生きている。
2人目は剣を正眼に構えたまま、つつつと歩み寄る。
俺は肩を上げてフェイントをかますと同時に、まだ完全には回復していない魔法力の全力を込めて顔面に石礫を飛ばす。
その衝撃に思わず剣を上げて防御する山賊。がら空きの胴体に、下方から擦りあげてざっくりと一撃。
刃が腹から胸の中心部を通り抜ける。これも致命傷だろう。
しかし、やばい!こんどは逆に俺の胴体ががら空きになり、手強そうと思った3人目がそこを狙って斬りつけて来る。重心が上に行ってしまっているので、足が動かせない。
やられる!!
と思ったその時、目の前で3人目の山賊の頭部が爆ぜた。
剣を握ったまま仰向けに倒れる山賊。両手の間には頭部の無い首だけ。その首の引きちぎられたような断面から骨と肉がのぞき、血が噴き出している。
地竜の石弾だ。間に合ったんだ。
{まだまだだな。今のは危なかったぞ}
「ふー助かったー。サンキュー地竜」
5人の山賊は全滅した。
俺が石礫を当てた対岸の射手も倒れたままだ。死んでいるのだろう。
ミスリルソードに浄化を掛けてから鞘に納める。カシュー、チン。
「あの、ありがとうございました」
さっきの飛び込み少女がぺこりとお辞儀する。
見るからにやつれた感じなんだけど、目だけはキラキラして嬉しそうな表情だ。
「ん?足を怪我してるな」
さっき飛び込んだ時に川底で切ったのだろうか。血が流れてびっこを引いている。
「川で足を洗って。すぐ手当をしてあげるから」
背嚢から取り出す風を装って、植物素材の魔法で包帯を作り上げる。
水で清められた少女の足の傷に浄化をかけて更に清めてから、包帯をグルグルと巻く。
「あいにく治療薬がないので、応急でこんなとこかな」
足を預け、無言で俺の肩に手を置いている少女の視線の先には、焚火準備と枝に刺した大きな魚。
「あ…、お腹空いてる?今から食べるところだったから良かったらどう?」
「え、聖者様にそんなにしていただくなんて。ホントに良いのですか?」
「ああ、持ちきれないから焼こうとしただけで、俺はお腹空いてないしね」
魚を焼きながら少女に尋ねる。
「ところでさっき、聖者様って言った?」
「はい。ミスリルの聖者様」
「ははは、何で俺が?」
「里長の言ったとおりです。絶対絶命の危機の時にはミスリルの聖者様が助けに来てくれるって」
は?どういうことだ?
ふと脳裡に浮かぶ滝壺の白骨死体。
これはまずいことになるのか!?
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クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法E
石礫D/土槍G←NEW!
植物利用
成長促進/植物素材
精霊術
練霊素/精霊の声/竜気
超取得/超成長/超回復/探知
スペック
FL20-31D(308)←UP!
フィジカルレベル20←UP!
戦闘力31←UP!
ランクD
次のレベルまでの必要経験値308
ML13-16/16E(10)←UP!
マジカルレベル13←UP!
魔力量16←UP!
ランクE
次のレベルまでの必要魔術経験値10
SL16-21/21D(135)←UP!
スピリチュアルレベル16←UP!
霊力量21←UP!
ランクD
次のレベルまでの必要精霊術経験値135
スキル
剣術D/槍術G/投石術F
装備
ミスリルソード150、ミスリルチュニック100、革のブーツ2
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D良い