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猫奴隷

国境近くにカーゴの猫獣人戦士の集落のような場所がいくつもある。その一つを潜入先に選んだ。

「見た目だけでも猫獣人に変装するといいです」

マットのアドバイスに従い、鍛冶と植物加工の技を駆使して、猫耳と猫尻尾を作成して付けてみた。

見た目はなかなか、触らない限り偽耳偽尻尾とはバレないはず?

{ほほほほ、これは愉快じゃのぅ}闇竜が謎のやる気を出して、闇糸や闇手で偽耳や偽尻尾をそれらしく動かしてくれる。

奴隷が嵌めている黒い首輪風の輪っかもちゃんと嵌めて。

よし、これで完璧、だと思う…。


集落の中を歩いて見た。よしよし、誰にも怪しまれてないぞ。

それにしても皆、やる気がなさそうというか退廃的というか、場の空気が澱んでいるかのようだ。

「よお、見ない顔だな。おめえ新入りか?」

少しマシな見た目の、それでも十分に薄汚れた猫獣人の男が話しかけて来た。

「ええっと、そうなんですよ」

「廃棄処分になったのは最近か?」

「ええ」なんだろ、廃棄処分って。とりあえず話を合わせておこう。


「糞人間どもを、ご主人様と呼ぶことと、奴らと話すときに語尾に『ニャ』を付けることを忘れるんじゃねぇぞ。良くて鞭打ち、下手すると隷属の首輪が締まって殺されるからな」

「ああ、そうでしたね。ところで首輪って締まるんたっけ?」

「当たり前だ。首輪は奴らの操作で締まって命を刈る。だから俺達が隷属するんだろ。おめえ、アホっぽいな。ヤクのやり過ぎか?ほどほどにしろよ。長生き出来ねえぞ」


アホっぽいは余計だが、この男ダルモは親切で面倒見が良かった。

他の猫獣人がぼーっと歩き回ったり寝転んだりしているだけなのと比べると、まだしも元気だった。

「俺か?俺はな最初に鼻がイカレちまったのさ。そんでヤクが美味く感じなくなって、あんまり摂らねえようになった。そしたらアラ不思議、だんだん頭がシャッキリして来たのよ。既に廃棄処分になってここへ送り込まれちまってたからもうどうしようもないけどな」

「えっと、廃棄処分で何でしたっけ?自分、ヤクのやり過ぎで記憶があやふやで」

「そうやって使い物にならなくなった奴隷が戦場に送り込まれて、使い潰されるのが廃棄処分ってことよ。全くしょうがねえな」


この調子でダルモからいろいろと聞き出すことが出来た。

廃猫人が多いのでダルモには話し相手がおらず、一応まともに話せる俺は良い退屈しのぎになるとのこと。

「という訳でな、戦場ではネグアの傭兵達が上手い事手加減してくれるんだ。だから戦ってるフリだけしてればいい。ホントにイカレた奴はフリも出来ずにマジになったりミスったりで死んでるから、手抜きがなかなかバレねえ。ネグアの傭兵も事情が分かってる奴が多くて協力的だが、中には本気の兵もいるからそれだけは気を付けることだ」


「自分、まだ戦場に出たこと無いので心配ですよー」

「おっと、配給と振り分けの時間だ。俺は狩猟班に入ることにする。ここでの食料は自給自足だからな。俺は狩が出来る奴扱いされてるから狩猟班選抜はほぼ保証されている。新入り、お前も狩班を目指しな」

「そうします。狩もしたこと無いので心配ですよー」

「全くしょうがねえな。狩りは得意ですと言うんだぞ。俺も推薦してやるから」


猫獣人達はそれまでのダラダラした様子から一変、ダッシュで配給所に列を作った。

「狩猟班希望はこっちだ。戦場班より食料もヤクも少ないが気にするな。自前で食べられる」

「なるほど」

横柄な態度の人族が猫獣人達に配給品を渡して班の選別をしている。

「ダルモか。また狩猟班希望だな。いいだろう、お前の狩の成果には期待している」

「へへっ、ありがとうですニャ。で、こいつですが、娑婆での知り合いで狩りの腕は保証しますよ」

「ええっと、自分も狩猟班希望しますニャ」


「ん?お前はここの奴らにしては臭くないな。そうか収容所入りしてまだ日が浅いか。丁度いい、お前は護衛班に入れ」

「ええ?それは何ですニャ?」

「つべこべ言わずにあそこへ行け。ほれ、配給品は多目だ」

「ありがとうですニャー」

配給品は、腐りかけた肉と謎の粉の薬包だった。包を開けると甘酸っぱい臭いのする粉が入っていた。


{これ何ッスか?}{知らんな}{さあ?}{…}

竜達もマットも誰も知らないようだったが、これはきっとマタタビだ。

他の成分も入っているかも知れないが、マタタビが猫獣人を惹きつけ、そしてダメにしたのだろう。

摂取する振りをして、肉も薬も収納した。


護衛班には十人が集められていた。

共通するのは、獣人化が薄く人族に近い、耳と尻尾だけ猫の属性の者達だったこと。

臭くないかどうかは良く分からなかったが、取り敢えず皆余り覇気が無く、俺にも無関心だった。

まあそのせいで、正体がバレることも無いから良かった。

「貴様らには街へ向かう馬車に追従してもらう。街へ着いたら折り返しの馬車が出るので今度はそっちの護衛をしながらここへ戻って来るのだ。道中、食料と薬は配給する。魔物と盗賊が出たら対処するだけの簡単な任務だ」

「「それはありがたいニャー」」


説明はそれだけだった。どうやら行きの馬車には狩で取れた食料や毛皮を載せて運び、帰りの馬車には新たな廃棄奴隷を載せて収容所へ連れて来るらしい。

{夢も希望もない生活でござる}

{廃棄奴隷とのことですから、こんなものッスよ}

{酒飲みの傭兵とどこが違うのじゃ?}

全然違うでしょ!自由意志でやってるのと、首輪で命を握られて従属させられているのとでは。


護衛馬車での生活は退屈だった。なので隅で体を縮めて毛布をかぶり、寝てばかりいた。

といっても実際に寝ているのではなく、寝たふり人形を鍛冶と植物加工を駆使して作り、マットをポケットに忍ばせておいて、必要な時には天竜の転移で戻って素早く寝たふり人形を収納して入れ替わる。

妙な技が上達してしまった(笑)。

人形を配備している間、俺は周囲を飛び回って観察したり、瘴気の洞窟で訓練したり、ツリーハウスで食事や睡眠をとりユリアと魔話機でお喋りしたりしていた。


「ふうん、そんなことになってるんだ。無茶しないでね。国政には深入りしない方がいいと思うよ」

はい。ケフでは思いっ切り深入りしちゃってるし、ネグアでもそこそこ介入してるからなあ。

ネグアと交戦中のカーゴに介入したりするとややこしくなりそうだよ…。


道中、魔物は出なかった。

しかし、二日目に異変が起きた。盗賊に襲われたのだ。

「賊だ。身を挺して壁になれ!」

「「はいですニャ。ご主人様の言う通りにしますニャー」」

賊は街道の左右の木陰や草陰に身を隠している。かなり人数は多い。50人以上いそうだ。

おっと、賊が一斉に姿を現したぞ。


「我らは山猫党。奴隷化を免れた誇り高い猫獣人だ。奴隷達よ、抵抗しなければ乱暴はしない」

「騙されるな。賊を殺せ。殺せないまでも肉壁になれ!」

奴隷たちは混乱している。

同族といやいや戦って殺されるか、憎い人族の主に逆らって首輪に縊り殺されるか。

どっちがましなのか?

「何をぼやぼやしている。命令に従わないとこうだぞ」


「「「うぐぐっ」」」

首輪が締まって苦しいのだろう。奴隷たちはのろのろと立ち上がって、賊に向い剣を抜いた。

荷物を載せた馬車はその隙に逃げ出そうとしている。

{見るに堪えぬ。首輪を斬っても良いでござるか?}

{ああ、そうしてくれ}

{御意!}


天竜が霊刀で瞬く間に、10人分の首輪を切断した。

地に落ちた首輪を投げ上げてミスリルソードで斬ってみたら、鋼の首輪だが俺でも容易に斬れた。

しかし、動く標的の首を傷付けずに首輪だけを斬る技量はまだ俺には無い。

おっと、俺自身の偽首輪も斬らないと。




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