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迷宮最深部での異常事態

誘導に従って、光る床に足を付けたとたん、ずぶりと体が沈んだ。

全身が飲み込まれると、そこはだだっ広い白い空間だった。何もない、いや向こうに何かあるぞ。

渦巻くような、もの凄い迫力の魔力を感じる。

それは極彩色の球だった。

最速で接近するがなかなかたどり着かない。

「どんだけ広いんだ?で、あの球はどれだけでかいんだ?」

{迷宮内亜空間ッス}{広さ無限大。迷宮とは繋がっとるはずじゃ}{転移は阻害でござる}


やっと近付けた。相当でかい。直径100m以上ありそうだ。そして吹き煽られるような魔力の圧力。

{なんという魔力量!}{(ゴクリ)}{更に魔力を吸収してやがる}

魔力が色とりどりの光の粒子となって、球に引き寄せられ吸い込まれている。

その際に球表面が粒子の色に発光する、それが球の表面を極彩色に見せているのだ。

{あーっ、主様の魔力と霊力がーっ}

気が付くと俺の体からも虹色の光の粒子が球に向って煙のようにたなびいていた。


「くっそ、このやろ、返せ!つか、これでも喰らえ!」

光矢、石礫、火球、水流刃、電撃。取り敢えず飛ばせる魔法を飛ばしてみた。

光矢が着弾すると僅かに白色に輝き、光の波紋が広がり、そして収まる。

火球は同様に赤い波紋、石礫は土色の波紋、水流刃は青い波紋、電撃は黄色い波紋。

おー、なかなか綺麗だ…じゃなくて。単に魔力を与えただけかよ!?


竜達からは、石礫、炎、落滴、風刃、闇針、聖光領域、雷牙。

これらも全て、色とりどりの発光と波紋を虚しくもたらしたのみ。

俺の波紋よりだいぶ大きかったけど、余計に悔しい。

{だめじゃのう。あ奴に餌を与えているだけじゃわ}

{ここは無限大の亜空間だから裂空を使っても危険はないわね}

{ならば伝家の宝刀、裂空をお見舞いするでござる}


天竜が腰を屈めて抜刀の構えをしたと思った次の瞬間、腕がぶれて見え、チンと納刀の音が響いた。

球は?おおー、見事に真っ二つ!やったか?

あ、半球のそれぞれから手が生えて来て…手を取り合い…くっつけた!!

{だめでござるな。アレは全身が魔石のような存在。2分割くらいでは生命力を失わないでござる}

{細分化してもらえれば妾の氷焉で粉砕できようがのう。あの程度では到底無理じゃ}


てことは、現状では手の打ちようが無い?

む、球の表面に棘のようなものが次々に生えて来た。

既に生えていた腕がその棘を掴み、抜き取ると、棘の先には上半身が発達した4足恐竜の姿。

ベヒーモスじゃん!

あ、あっちからはサイクロプス。ミノタウルス。でもって、もひとつベヒーモス。


「この球は魔力を吸収して、それを基に迷宮の魔物を生み落としているです」

「女王蟻とかそんな雰囲気だな」

まずいぞ。俺の魔力と霊力もどんどん吸われている。俺の養分で魔物を作るんじゃねぇ!

このままだと、俺は魔力霊力を吸われ尽くして干からびてしまう。

「ほら!後ろ後ろ。あそこから退却するです」

おや?背後に赤黒く光る扉があった。こんなのあったっけ?

とにかく、ありがたや!とりあえず扉を開けて脱出しよう。

*****


「ここは?」

白い空間から一転、洗練された重厚な調度類が置かれた落ち着いた感じの部屋に出た。

場違い感が半端ない。誰かいる。

「失礼ながら、私がお招きしました」

骨董調のソファに体を沈めた、シックな服装の青年が恭しく告げる。貴族的な顔立ち。

だが顔色は悪くて酷く青白い。

こいつも凄い魔力だ。あの球ほどではないが、質・量ともにベヒーモスを軽く凌駕する。

「あなたは?」

「私はノーブルバンパイアのバロン。この迷宮の管理者です。いや元管理者ですかな」


「迷宮の管理者?というとタリーの街に雇われている?」

「いえいえ、人族は運営しているつもりなだけで、真の管理者は私だったのですよ」

{迷宮の主ッスね}

「理解が早くて助かります」

{人を呼び込んで吸血してるのじゃな}

「それは人聞きが悪い。ギブアンドテイクという奴ですよ」

「てか、なんで念話回線に割り込めてる?」

「失礼。精霊の方々とお話しするにはこうするしかなかったもので」


{あなたは我々と敵対していないと考えて良いのですね}

「もちろんです。是非とも手を組んでいただきたいのです」

{あの球を倒すためにか?}

「そうです」

「あれは一体何なんだ?」

「私にもはっきりとは分かりかねます。元々は門番役のベヒーモスだったのですが、何らかの力を得て肥大化し、徐々に変質し、最終的にアレになりました」


{あんたとアレはどういう関係なの?}

「私は現状、アレに服従させられています。迷宮内に拘束され、アレの命に従ってアンデッドの作成管理その他迷宮のオペレーションを担当しています。球が迷宮の支配者で私は中間管理職ですかね」

「球が魔力を吸収して生きた魔物を作り出し、バロンさんがアンデッドを作ってるですか」

「ええまあそんなところです。あとは色々と細かいことを」

{この部屋での会話は聞こえてないッスか?}

「はい。そういう繊細な技術的分野は私の真骨頂ですから」


「で、協力して球を倒すためにどうしようと?」

「アレを両断できるあなた方の力があれば、この封呪刀を球内部に突き立てられるはずです」

バロンが差し出したのは深紅の短刀。

「刃の部分には触れないようご注意下さい。一族に伝わる宝剣です。尋常ではない力を内包しています」

{なぜ自分でやらぬのだ?}

「私ではアレの表面に傷すら付けられません。それに私は服従した身。直接反抗は致しかねます」


「間接的反抗はいいの?」

「そこはそれ、服従契約の盲点という奴ですよ」

やれやれ。抜け目のない奴。信用していいのかね?

「その封呪刀でも奴を倒せなかったら?」

「それはもう諦めるしかありません。でもその前にやれるだけの手は尽くして置きたいじゃないですか?」

なるほど、ユリアの言っていたダメ元で希望を託すというのはこのことか。


「分かった。やってみるしかないね」

「正しい判断に迅速に辿り着いて頂き、感謝します。さっそく門番の間、あのベヒーモスのいる広場に転送致します。既に門番が補充されておりますが、戦う必要はありません。素早く発光ゾーンから球の亜空間へ飛んで下さい」

マット及び竜達と軽く打ち合わせた後で、転送してもらう。

既に霊力は満タンだ。天竜の裂空は1発勝負。2発出すと、竜達が消えるのでそうなったら負けだ。


黒風とともに転送されると、門番のベヒーモスは既に3体がスタンバっていた。

予定通り、こいつらはスルーだ。

縮空で発光ゾーンへ飛び、ダイブするように潜り込んだ。

そして再びあの白い空間へ。

球は?いる。まだかなり離れている。

球から500mほどの位置に縮空で転移する。


さあ、打ち合わせ通りにいくぞ!

{まずは裂空を抜くでござる!}居合の姿勢から一閃!チン。

よし球は水平方向に真っ二つ。

「闇竜頼む」

{任せるのじゃ。ぬおぉぉぉ}

闇の手が数本、半球を固定する。別の闇の手が半球から生えて来る手を拘束する。


球体に闇の手が急速に吸収されて行く。黒い波紋が広がる。

{一瞬しかもたん。急ぐのじゃ}

「おう!」

切断面、双半球の隙間の中心部を凝視し、縮空で転移。

よし、到達した。

封呪刀を手にして突き立てた。床と天井の隙間がみるみる狭まる。双半球が急速に閉じようとする!


外へ転移。間に合えーー!!

痛!両足に痺れるような感覚。こわごわ見てみると、おおっと、両膝から下が無い!食われた。

球は?半球がくっついて一体化している。だめなのか?

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

何か物凄い波動。爆発的な衝撃波。

体勢を保てず、クルクルと回転しながら飛ばされた。


オオオオオオオオオオオオォォォォォォッッッーーーン。

音声ではないが、慟哭のような激しい感情の波が叩き付けてくる。

その方向を視線を向けると。

球の表面が波打っていた。目まぐるしく色が変化する。

形が崩れた。四方八方に触手が伸びる。アメーバー上に膨れ上がる。

うおっ、触手の一本が近くを掠めて伸びる。


各触手は虚空を掴むような仕草を見せた後、収縮し始める。

慟哭が弱まって来た。

球が小さく縮んでいく、どんどん縮んでいく。

…そして消滅した。


ちなみに、俺の失われた両下肢は聖竜の祝福で再生しつつある。


「消滅地点に何か小さいものがあるです」

「うん」

こわごわ近づいてみた。

球のあった場所には金属製の輪がひとつ浮いてゆっくり回転していた。指輪のように見える。

その指輪が光った。

『汝の糧とするものは何か?』

うわ!指輪から思念が流れ込んで来た。


糧とな?俺の場合は生活魔法から得られる食パンと水か?

いやいや、問われているのは精神的なものというか、魂的な意味合いの糧だろう。

俺がこの世界に来てからの精神的、魂的な糧か。なんだろう。

俺の存在を支え、仲間との絆を生み出す糧。うーん…あ。

「戦闘から得られる経験かな?」

あれ、何か戦闘狂っぽい。


『ほう、そうであるか。ならば我は、汝にその糧の豊穣を約束しよう』

え、そうなの?それはありがたいけど?

指輪を手に取り、指に嵌めてみる。

ふむ、自己鑑定によれば、このアイテムは『糧の指輪』。まんまじゃん。


「お取込み中ですが、この亜空間が消滅しますので、私の部屋にお呼びしますよ」

バロンだ。

「頼みます。お手数かけます」

もわっ、シュパッ。黒風に巻き取られるように転移した。

「大変お見事でした。討伐、感謝致します」

「いやーあの封呪刀、凄いですね」

「一族の宝でしたからね。しかし永遠の拘束からの解放と引き換えならば悔いはありません」


「あの球が指輪になったの見てましたでしょ?あれれ、無い?」

「体内に吸収されてしまったようですね。やはり呪われた指輪だったのでしょうか?よくまあ躊躇なく嵌めましたね」

{主さんは、後先考えない潔さがあるもんねー}

{蛮勇?}

「いやーなんか、嫌な感じは全然しなかったけど…」

{むしろ善意のようなものを感じましたわよ}

{自由人は呪いからも自由と聞いたことがあるッス}


「とにかく、あなた方が正気を保っているうちに、私はここを去ることにしますよ」

バロンが素っ気無く言う。

「迷宮の主が去るとここの迷宮はどうなっちゃうの?」

「普通の瘴気の洞窟として機能しますよ。地下3階までの迷宮部分は現状かなり魔物多目ですが、あなた方が軽く間引けば問題ないでしょう。その下の天然窟部分は手つかずにしておくことをお勧めします」

「なるほど」


「それではさらばです。短い出会いでしたが楽しくもありました。いずれまたどこかで」

一陣の黒風と共にバロンはいずこかへ去った。

「さあ、俺らも行くか」

バロンの部屋の扉を開けるとそこは門番の間だった。3体のベヒーモスがいた。ここはそっとしておくと。

「天竜、地下3階に転移してくれ」

{承知でござる}




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