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怪異の迷宮へ潜入

迷宮への扉を開けると階段が地下へと続いていた。石造りで壁には松明が燃えており、いかにもそれっぽい。

「迷宮って、人の手による建造物なんですか?」

「ええ。地下3階までは整備されています。天然の瘴気の洞窟に手を入れて、訓練、娯楽、観光の施設として街が運営しています」

階段を降りると、新たな扉。この先は魔物が出る迷宮の地下1階だ。


先頭は騎士2名と俺の3人編成。中央がジャックリンと応援部隊隊長の魔法騎士ソフィア、魔法使い2名の4人。後衛には騎士1名と魔法騎士2名。3-4-3の陣形だ。

先頭の騎士2名とジャクリンは迷宮を熟知しているとのこと。頼りになる案内人だ。

扉を開けると、石の廊下が長く続いており、両サイドに扉が連綿と連なっている。

「扉を開けると、部屋か新たな通路になっている。部屋単位で魔物が湧き、戦闘になる」


廊下の右側の扉からは異臭が漂い、左側の扉からは瘴気と魔力が感じられる。

前衛の3人は目線で合図して意思確認をとり、おずおずと右側の扉を開けた。

「うっ」グロイ。魔物の死体や手足、肉片、臓器が無造作に山積みになっている。いや、魔物だけでなく人の死体と部品類も混入している。

魔法使いの1人が堪らずに嘔吐した。壁に向って跪いてえずいている。

わーやめて。ただでさえ酷い臭気なのに甘酸っぱい匂いが混じってもう…。


急いで扉を閉める。今度は左側の扉を開ける。剣を抜き、詠唱の準備を整え、戦闘に備えて身構える。

む?部屋の中には色とりどりの玉。ビー玉?

「これは瘴気を閉じ込めた玉のようだ」

部屋の中に魔物はいない。玉が床にザラーッと広がり、ところどころ重なって山になっている。

「これは、魔物の素材?」「肉と玉を組み合わせて魔物を作るのだろうな」

これだと、死体を回収されると永遠に使いまわされる?そりゃあまずいわ。


「夜になるとアンデッドが出来上がりそうだな」

「急ごう、陽が落ちないうちに」

既に夕方の5時過ぎ頃のはずだ。あまり時間的余裕がない。

最短コースで地下2階を目指す。途中で経由した小部屋は大体似通った様子であった。

地下1階は素材置き場であると。


地下2階になると、瘴気の玉の代わりに魔石がゴロゴロ転がっている。全部ランクCの魔石だ。

「ここはランクCの魔物の製造場のようだ」

瘴気玉はランクD以下相当だったわけだな。

ここにも生きた魔物はいない。ていうか変だな。罠ですか?


地下3階へ踏み込んだ。魔物が徘徊している音がする。この階には明らかに、素材ではない魔物がいる。

扉を開けるとそこにはオーガが20体程。床に座ったり寝転がったりして寛いでいる。

きょとんとこちらを眺めていたが、調査隊全員が部屋に入り扉を閉めると、突如襲い掛かって来た!

そういう仕組みですか?


前衛で壁を作って、中央と後衛を保護しながら、オーガ共を迎え撃とうとした。

数体のオーガが突っ込んでくるのをグンニグルで打ち倒す。左右の騎士が盾で受け止め槍で突いて牽制してくれている隙に、グンニグルで吹き飛ばす。

このまま衝撃波で殲滅しようとしたが、そう簡単には行かなかった。

多数のオーガが石や棍棒を投擲して来る。なかなかの脅威だ。

踏みとどまっていては被害が大きすぎる。


なので、前衛3名はオーガの群れの中に斬り込んだ。手当たり次第に撃ち倒したいところだが、さすがに数体に集られると騎士達も苦戦する。

その間に側面や後方に回り込むオーガがいる。

魔法騎士の剣戟、魔法使いの攻防魔法が飛び交っている。

乱戦になって来たので、味方を害さないように双剣スタイルに切り替えて、手数でオーガを弱らせて止めを刺す方針でしばし戦う。


5~6分も戦っていただろうか。思ったより苦戦した。

オーガどもを殲滅はさせたが、味方にも被害が出た。

重傷1名、軽症2名、魔力枯渇間際1名、魔力半減1名。この5名はここで離脱させることになった。

「まだ行けます!」

「ならぬ。重傷者を庇いながら撤退せよ。そしてここまでで判明した情報を外部に伝えるのだ」

「魔石と瘴気玉も持てるだけ持ち出せよー」


そして残りは5人になった。

前衛は俺と魔法騎士、中央にジャクリンとソフィア、後衛に騎士。

オーガ部屋の奥の扉を開け、通路を進む。

そして行き止まりに扉。

そこを開けると、中にはトロルとサイクロプスの死体があった。いや動き出す。ゾンビだ!


全員ゾンビに有効な攻撃に切り替える。

攻撃手段を持たない最後尾の騎士は、ポーションを取り出して回復役に徹するようだ。

俺はミスリルソードと吸魔剣で斬るだけなんだけどね。

スケルトンやグール、バッファローやムスタングのゾンビが次々に湧いて出る。

どこかに召喚している奴がいるに違いない。

いた。部屋の隅、トロルの影にレイスとレイスクイーン。あいつらだ!


闇竜が闇の手で邪魔なゾンビどもを押しのけて道を作ってくれた。

俺はそこを駆け抜けてレイスクイーンに迫る。肆竜が地火風水魔法で左右のアンデッドを攻撃している。

尚も新たな召喚を続けているレイスクイーンめがけて吸魔剣を投擲する。

「キヤアアァァー」悲鳴を残してレイスクイーンが消滅する。

左右の2体のレイスは天竜が霊刀で両断していた。

視線を巡らしながら動いているアンデッドを光矢で攻撃して弱らせ、双剣で止めを刺して回った。


ひとしきり掃討を終えて味方を見ると、既に全員ボロボロの満身創痍だった。

死者も歩けないほどの重傷者もいないのが幸いである。

「ここまでだな」

「ああ。急いで引き返そう。既にアンデッドの時間帯のようだ」

「無事に戻れるだろうか?」

各自が手持ちのポーションで応急手当を済ませ、回れ右して、来た道順を逆にたどる。


予想に反して、帰路では魔物に遭遇することはなかった。

「たどり着けた!」

「この扉を出れば地上に続く階段だ」

ここで空気を読まない一言。

「えっと、忘れ物しましたので、ちょっと引き返しますね」

「はぁ?」

*****


やっと一人になれた。これで心置きなく危険に挑める。

「天竜、さっきの最深部に転移できるか?」

{お安い御用でござるよ。よっと}

レイスクイーンの部屋に転移した。

む、奥の扉が赤黒く光っているぞ?


扉を開くと、下り通路。ごつごつとしたむき出しの岩肌。自然の瘴気窟のままなのだろう。

赤黒い光に導かれるように歩く。

周囲全てが光っているわけではない。分岐があれば明るいのはそのひとつだけ。まるで道案内だ。

「これは罠かな?」

{何者かが導いていることは間違いないですわね}{いやーな予感がするな}

「外への転移は出来そうか?」

{問題ないでござる}{じゃあどんどん行っちゃえー}


光の案内に従ってどんどん降りて行く。途中いくつもの魔物の気配を感じたが何事もなく通過する。

ケンタウロスやミノタウルスもいたと思うが、スルーだ。なんか変だな。

魔話機でユリアを呼び出し、念話回線でここの様子と光の案内の映像を伝える。

「ユリアの印象はどう?」ユリアの悪意を見抜くスキルに頼ろう。

「うーん、悪意と誠意が混じってる。ダメ元でマサトに何かを期待している感じ?」

良く分からないが、この何者かの誘導は、悪意一辺倒でないようだ。ならば乗るのみ。


あ、久々に扉があった。錆びた鉄の扉だ。動物の絵が描かれているぞ。

上半身の発達した四つ足の恐竜?顔つきはちょっとバッファローっぽいが、2本の大きな角が前方に突き出している。鞭のような尻尾の先には釘バットのように棘が生えている。

{ベヒーモスか}{そッスね}{強敵}{でもやれる}{重ねての祝福を}{グレーターデーモンをやれたのだからの}{斬るだけでござる}

「ランクSの魔物ですよ。もしも2体いたら撤退をお勧めするです」


ギィイィィーー。錆び付いた扉を押し開くと、そこは広々とした空間だった。

ドーム球場数10個分くらいの広さか。

そしてベヒーモスがいた。相当な巨体だ。遠近感が狂うが、体高10m、体長20m程度だろうか。

それが3体!撤退が頭をよぎったその時、ガギィーン、扉が急速に閉じた。

「転移は可能か?」

{阻害されているでござる}

うん、やるしかない!


天竜と闇竜がベヒーモス各1体、俺と肆竜で一番大きな1体、聖竜は援護。

とっさに役割分担を決めて、戦闘開始!

ベヒーモスの2本の角が帯電して不穏な気配を醸す。これは一か所にとどまると危うい予感。

縮空で転移を繰り返しながら、攻撃魔法を撃ちこむ。

おっと、さっきまでいた場所に落雷。ど太い稲妻だ。あっぶねー。


えーっと、俺の攻撃魔法は全く通用しません。体表面で散らされてしまう感じ。

肆竜の各攻撃も浅い傷を作る程度。即座に再生されているので、ほとんど効果はないようだ。

おっと、落雷が直撃したが聖結界が防いでくれた。聖竜ナイス!

{縮空先が念話回線で分かるので先回りしてます。でも常に上手くは行きませんわよ}

雷撃だけではない。足の踏み潰し。前足2本はパンチのような動きもする。頭を振ると風切り音とともに通り過ぎる巨大な角。そして鞭のように振り回される先端部は音速を超えるトゲトゲの尻尾の打撃。

そのどれもが恐るべき一撃で、当たれば確実な死をもたらす。


俺の魔力、霊力の残量は?うん今のこのペースなら大丈夫そうだ。

でも念のために回復促進薬をぐい飲みしておこう。

闇竜は?闇糸を上手く使って、なんとか敵の動きを封じてはいるようだ。

天竜は?再生速度以上に少しずつダメージを蓄積しているように見える。

俺達はどうしようか。今のところ逃げ回っているだけなんだが。

「今朝試したアレ、やってみようか」

{うむそれが良い}{やっるよー!}{(コクコク)}{いつでも合わせるッスよ}


地竜の最大級の石弾に水竜がニトロ的な炸薬を仕込み、火竜が炎で溶岩弾に変化させる、『溶岩榴弾』。

それを突風プラス飛行スーツで飛翔する俺の速度を載せて、最大速度で発射。

更に風竜が暴風で加速。仮称『加速溶岩榴弾』。よっし、ここで発射だ!

ベヒーモスの顔面に見事命中、爆発。角を吹き飛ばし、奴の眉間を割った!

「ヌンッ」更にそこへ速度を載せたグンニグルの衝撃捻り突き!!

どうだ?


「効いてるよー」{だがまだ持ちこたえている}{も一発ぶちかまそっ!}

加速は不十分だが、ゼロ距離から再び『加速溶岩榴弾』!

更にそこへグンニグルのー、あ、生命反応が消えた。グンニグル空振り…。

{やった}{いやっほーッス!}

{呑気に喜んでないで、こちらに手を貸すのじゃ}


闇竜が闇糸と氷杭でベヒーモスを俯せの恰好で地面に繋ぎとめている。

よし、好機!

隙だらけの延髄に向けてー、充分に加速を載せた『加速溶岩榴弾』!

ぱっくり開いた傷口に、追随して闇針の束!更にグンニグルの衝撃捻り突きー!!

よし、もう一匹仕留めた!


天竜は?

おー凄いな。超速で転移しながら霊刀の斬撃を叩き込み続けている。

ベヒーモスは防御一辺倒ではあるものの、凄い高速再生で回復し続けている。

天竜の速度について行けずに攻撃を諦めて、再生に専念したようだ。

天竜の与ダメージとベヒーモスの高速回復力の綱引きの体力勝負だ。

若干天竜優位で、徐々にダメージが累積しつつある。

角や四肢そして尾が切り落とされては生え変わり、その間に目鼻口やら下腹部やら首筋に裂傷。


このままでも勝てるかもだけれど、時間がかかりそうなので、ベヒーモスのどてっ腹に、『加速溶岩榴弾』、そして闇針束とグンニグルー!

よし、沈めた。

「手出しして悪かったかな?」

{全然無問題でござる。聖竜殿の聖光領域の助力で辛うじて均衡してただけでござった}

{こやつら、ベヒーモスにしては小さめだったのぉ}

{(コクン)}

あれで小さめなのか…。


ランクSを3体仕留めたはずなのに、死体も魔石も無し。あーあ、迷宮に横取りされてるよ。

そして広間の奥の一角に一際明るく光る怪しい場所がある。

「あそこに行けってことだよな」

{行くしかないねっ}

{今なら外へ転移可能なれど、先へ進めばまた阻害されそうでござるよ}

「どうしようかな。多数決とろうか。退去がいいと思うのは?」

「はい!え、アレっ?」

「マットの一票だけね、じゃあ進むとするか」

「みんな頭おかしい!もう、知らないですよー」








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