迷宮の怪異 2日目
目が覚めたらもう明るくなっていた。秋口に入ったといえまだ陽は長く、秋晴れの日は朝から明るい。
朝の浄化魔法とパンと水と適当な食事、その後ランクAの洞窟に転移して一通り早朝稽古をこなしてから、迷宮とクフ街壁間の上空に向う。
「さて、戦場はどうなってるかなー?」
クフ守備兵側は、街壁上に弓兵と投石兵を、壁の外に主力部隊を配し、遠隔攻撃の射程内で戦う算段だ。
20名程の騎士と魔法使いの部隊が新手の援軍らしい。
一方迷宮側は、続々と魔物を吐き出し続けている。ゴブリン、コボルト、オーク、これらは昨日の主力だが、今日は上位種が小隊長や中隊長として集団をまとめている。
昨日は数えるほどだったオーガやトロル、サイクロプスも数が増えている。
更には、馬系牛系の魔物も登場し、それをケンタウルスとミノタウルスが纏めている。
「これは一方的になりそうだぞ」
魔物の頭数は昨日の倍以上、強力な魔物が増えているので戦力的には10倍以上になっている可能性がある。
他方、クフ守備兵側はわずかな援軍があるものの、死傷者の穴をかろうじて埋めているかどうか?
とても勝負になりそうもない。
「今日は、攻撃魔法のみ封印で、補助魔法と防御魔法は使おう。もちろん物理攻撃も。それで戦線を出来るだけ支えてみよう」
感知能力に優れる漆竜が戦場上空各所に分散して戦闘情報を収集し、高速解析が得意なマットが司令塔となって瞬時に戦力投入の決断を下し、俺は実働部隊となる。基本戦略はこれだ。
はい、俺はたぶん一番簡単なお仕事だと思います!
{跳んで斬るのは拙者向きでござるが、今日は殿に譲るでござるよ}
「そうそう。ヒット&アウエイで行くです。獲物はメインをミスリルソード、サブを吸魔剣にして魔力は常に満タン近くに維持して戦うのです」
{必要なら聖光領域や祝福で援護するわよ}
おっと戦端が開かれたようだ。矢が雨のように注ぎ、たまに投石が飛び、それらをくぐり抜けて来た魔物が盾兵槍兵で形成される前線と激しくぶつかり合う。
マットが念話回線で、馬系魔物が前線を突破した映像と位置情報を送ってくる。{ここ!}
竜発マット経由の映像は自分の視線と同義なので、その映像と位置情報を頼りに直接縮空が発動出来る。
戦場は埃が立ち込めて見通しが悪いため、突如転移で出現しても周囲に驚かれることはなかった。
先頭のユニコーンの真横に転移してその後ろ足を斬り飛ばす。後続のムスタングに踏み潰されないように体を捌いて前足を斬る。バランスを崩して停止した2頭に後続が衝突し、馬たちの足並みは停滞した。
槍兵達が停止している馬系魔物に集るようにして攻撃を加える。
それを横目で見ながら俺は、一際大型で足に炎の輪を纏わせている部隊長格の黒馬の横腹を吸魔剣でざっくりと斬りつけて屠る。すると馬系魔物達の統制が緩んだ。
どうやら前線を抜けて駆け込んで来た馬系魔物の集団に対しては、一応の対処はできたようだ。
{次は、牛ですー}
最後尾から勢いを付けて牛系魔物が突進してくる。先頭は巨大なデスバイソンだ。
腰を落として大盾を構える盾兵達の一歩前で、特大サイズの石炎盾を3枚重ねで展開して構える。
ドガーン、ガゴッ、ガシッ。どうやら3枚目で何とか食い止められたようだ。
後続が先頭のデスバイソンを押し出すようにして圧力を掛けて来る。
だがもう大丈夫だ。突進の勢いは消した。あとは盾兵に任せよう。
前線前方からゴブリンアーチャーが弓を射かけて来る映像が届く。
即座に、ゴブリンアーチャー集団の背後に転移し、双剣で存分に蹂躙する。
「ピギャ?」「グギャー」集団は大いに乱れて散り散りに逃げ出した。
トロル、サイクロプスの巨人集団に対しては、背後や側面から斬り込んで、矢次早に奴らの腱や足そのものを切断して動きを封じて弱体化する。
オークやオーガの部隊は、将校級に的を絞って屠った。
ボスが倒れて指揮系統が混乱すると、魔物部隊は烏合の衆と化す。
こんな感じでかなり頑張った。
しかし、それでも魔物は個々でも強いモノが多く、俺1人では戦場全体に与える影響には限度がある。
{クフ側が押されてるですー}
{漆竜も各自の判断で補助魔法、防御魔法を使って介入して!}
{よし}{待ってた}{コク}{やるッス}{守るわよ}
あ、闇竜と天竜はどうしようか?
{闇の手でいたずらするのじゃ}{魔物の武器を斬るでござる}
…ご苦労を掛けます。
肆竜は透明化した盾を要所に展開して、敵の一撃を効果的に無力化している。
馬系や牛系が突進の途中でスッ転んでいるのは地竜が植物操作で足を引っ掛けたんだな。
水竜も霧を使って敵の機動力を奪ったり、犬獣人の奇襲を隠して成功に導いたりしてる。
敵の矢を逸らしたり、味方の矢の射程を伸ばしたりしてるのは風竜の手腕だね。
トロルが投げた岩の直撃を防いだのは聖竜の結界か。おお聖光領域が既に戦場全域に展開してる。
あちこちで敵がバランスを崩してるのは闇の手のいたずらかな。
巨人の振り回す棍棒や丸太がバラバラになってるのは天竜のしわざだ。
漆竜それぞれの活躍でだいぶ雰囲気が変わって来たぞ。
{マスターはこれを何とかして}
マットから指示されたのはケンタウルス。漆竜の妨害工作すらも意に介さず暴れ回っている。
馬の体に、筋肉ムキムキの人間の男の上半身。とにかく大きくて力強い。
盾兵でも槍兵でもお構いなしに踏み潰して蹂躙している。
うむ、こいつには縮空を使った嵌り手がありそうだぞ。
ということでケンタウルスの背中に転移した。そして筋肉質な裸の背中に双剣を突き立てる。
振り落とそうと跳ね回るケンタウルスだが、その勢いのまま双剣は自動的に上半身を切り刻み、機を見て横薙ぎに一閃して首を刎ねて、はい戦闘終了。
{次はこっち}
雄牛の頭に巨人の体の怪物、ミノタウルスだ。
巨大な戦斧をブンブンと振り回しては周囲に死を振りまいている。
斬るというよりは叩き潰している感じ。鎧も兜も何の意味ももたない。
潰されて飛ばされて、地面に転がった時には既にボロボロの無残な骸になっている。
待ってろよ、巨斧を振り切ったタイミングで背後に転移。
よっと、双剣で手首と足首を斬り飛ばす。
これで片手片足。無力化したはず…あれ?
片足首を失って体が傾いているけど、相変わらずブンブンを斧を振り回してるぞ。
片手であの重量物を自在に振り回すとは恐るべき怪力!
しかしさすがにスイング速度は低下している。躱して懐に入り込み、残った手首を斬り飛ばす。
手首をつけたまま巨斧があらぬ方向へ飛んで行く。
しかしミノタウルスの戦意は衰えない。膝を着き、頭を下げて角で俺の体を突き上げようとする。
「その動き、見え見えなんだよ」
体を開いて角を躱し、ミスリルソードを振り下ろすと、カウンターで太い首を楽々切断出来た。
「お見事!」周囲の味方から賛辞が飛ぶ。
軽く手を上げて応えておいて、直ぐに次の現場へ。{こんどはあっちですー}
マットよ、人使いが荒いぞ。
ケンタウルスと馬系魔物、ミノタウルスと牛系魔物、サイクロプス、トロル、オーガ。
比較的少数の強力な魔物を倒し、ゴブリン・コボルト・オークの将校級を排除すると、戦局はクフ守備兵側に傾き、じりじりと魔物軍を押し込んで行った。
そして本日の開戦から7~8時間後、とうとう魔物軍は撤退を始め、その後1時間程度で戦場に魔物の姿は見えなくなった。
「勝ったぞー!」『おおおおおーーーーっ!!!』
勝利の雄叫びが響き渡る。
「ふーっ、きつかったーー」
最後の1時間は余裕があったけど、それまでは働きっぱなしだったもんなぁ。
戦闘終了後は本部で作戦会議だ。
ジャクリン隊長ほか騎士や魔法使いの重鎮と、傭兵部隊のトップ数名、そして俺も呼ばれた。
「マサト殿、見事なお働きでした!」「獅子奮迅!」「まさに飛び回っておられた」
ジャクリン隊長や魔法使い、そして傭兵トップには絶賛された。
「うろちょろしておったな。何度我輩の火槍の攻撃を妨害したことか」
ちっ、ドルフの豚野郎め。
まあ俺は常に急所に跳んでたから、被ったこともあったかも知れんが、この言い様はない。
機会があればこいつはぶっ飛ばす。
まあそれはともかくとしてだ。
「戦場に死体が見当たらなかったんですが?」
「それです。双方の戦死体は、数秒で消え失せてました」
「迷宮の力ですね。アンデッドの素材になるのでしょう」
魔法使い部隊の代表が推測を述べる。
「ああ、昨日のサイクロプスとトロルのように」
うむ、これは決まりだな。
『……』
室内は重苦しい沈黙。
今日は相当な数の魔物を屠った。クフ側にもかなりの兵損が発生している。
「となると、今夜の夜戦は」
「恐らくは昼間以上の敵数。こちらはかなり消耗している」
何か、考えるまでもなくまずいよね。
「スタンピードの通例として発生から7日程度は魔物の数は増加しますな」
「少なくとも、最初の3日間において増加しなかった前例は無いかと」
「今回のスタンピードは間違いなく大スタンピード級でしょう」
「魔物の数でも質でも最大級と言っていい。しかもかなり組織的行動を取っている」
「とにかく、まずは今夜がヤマ場。昼以上の勢力でこられたら支え切れん」
『……』
「撤退か…」
「止むを得んな。我輩は部隊を先導して撤退路を切り開くとしよう」
この発言はドルフ。こいつ真っ先に逃げようとしてるな。
ここから協議の内容は、兵と民の撤退の算段とその詰めとなる。
が、あえてその流れを無視して意見を述べる。
「えっと、撤退の方針はそれとして、俺は迷宮内に入って調査してみたいんですが?」
中で何が起こっているのか確かめたいもんね。
「は?」「それは無茶です」「迷宮の圧力が収まりつつあるのならともかく」「自殺行為です」
「我輩は、自己責任の行動として許してもよいと思うが」
あ、ドルフからのまさかの援護。ていうかこいつ、悪意があるんじゃね?
「ならば私も行こう」
ジャクリン隊長、気持ちはありがたいけど迷惑かもー。
「それがしも同行しよう。行ける限りでの強行調査だ」
あら、援護部隊の魔法使いさんも?
「そうですね、無茶はせずに見れるところだけ見て来ましょう」
「撤退するにしても成果としての情報は欲しいな」
妙な雲行きになった。
ジャクリン隊長以下騎士団5名。援護部隊から魔法使い2名、魔法騎士2名。そして俺。
10名の少数精鋭の調査チームが編成されることになってしまった。
「ふん、無駄死にするなよ。撤退戦にも戦力は必要だ。傭兵を先行させて、危険と見れば戻るが良い」
「ドルフ、指揮権は私にある。調査隊の件には口出し無用」
ドルフの野郎め。まあ言ってることはごもっとも。俺としても先行するのには賛成なんだがな。
しかしこいつと意見が合うとなぜか腹が立つという…。
*****
クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語/古代神聖言語
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法B
石礫B/土槍B/石盾
火魔法B
火球B/炎盾
水魔法B
水流刃B/水盾
風魔法A
風爪B/突風A/風盾/空調
光魔法B
光矢A
氷魔法C
氷縛C/氷杭B
空間魔法
縮空C←UP!
雷魔法
電撃E←UP!
植物利用
成長促進/植物素材
聖魔法
聖治癒
金属加工
変形/修復
製薬
付呪
亜空間収納
精霊術
練霊素/精霊の声/漆竜気
超取得/超成長/超回復/知覚同調/竜知覚(抑)
スペック
FL72-4344B(2,017,651)←UP!
フィジカルレベル72←UP!
戦闘力4344←UP!
ランクB
次のレベルまであと経験値2,017,651
ML72-4344/4344B(1,795,228)←UP!
マジカルレベル72←UP!
魔力量4344←UP!
ランクB
次のレベルまであと魔術経験値1,795,228
SL73-5734/4778(+956)B(4,387,119)←UP!
スピリチュアルレベル73←UP!
霊力量4778←UP!
ランクB
次のレベルまであと精霊術経験値4,387,119
スキル
剣術A/槍術A/投石術B/格闘術A/盾術A/弓術B
装備
神槍グンニグル1500
ミスリルソード150/ミスリルスーツ180/ミスリルフード100/
ミスリル手袋50/ ミスリルブーツ50/ミスリルリング(+20%)
吸魔の剣50
主なアイテム
飛行スーツ/魔話機/耐性の指輪/
自動調理器/遅延収納/転移石10/
魔兎執事マット/珊瑚の指輪/封印玉/
魔収納/ミスリルナイフ/ツリーハウスセット/調理セット/霊力の指輪/
魔石 火A100・B100、闇A1000・B100、水A100・B100、
地A100・B100、風A1000・B100/無属性A1000
回復薬極10/傷薬極10/毒消し極10/
万能薬究10/万能耐性薬究10エリクサー究10/ネクタル10
魔力充填薬極10/魔力回復促進薬極10/霊力充填薬極10/
霊力回復促進薬極10/
所持金 10,107,000G(千以下略)
ポイント 90,000P(千以下略)
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀
B=傑出 A=達人級