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列強の内情

「ここはネグアの国。人族と獣人族が仲良く暮らしている国さね」

「獣人族は主に猫獣人と犬獣人だな。少数獣人族もいることはいるが、ほんとに少数だ」

「ネグアは列強の中で2番目に大きい国なんですよぉ」

こんな感じで誰でも知ってる常識を聞かせてもらえたのだ。

列強の人々は誰でも知ってるけど、小都市国家連合では誰も知らない。そういう情報が大事、大事!


ネグアの主な都市は6つ。西側の辺境にタリーとイデ、中央に首都ネグ、北東に隣国カーゴとの国境の街トルガ、真東に迷宮の街クフ、南東にはフスミ国と接するシーズーの街がある。

ネグアは、北東の隣国カーゴ、南東の隣国フスミと長期交戦中で、万年戦争とかマンネリ戦争と呼ばれているとか。

カーゴとフスミは同盟国のはずなのだが仲は悪く、共同作戦を取ることは無くてむしろ足を引っ張りあっている。

東側中央部の街クフにはいくつもの迷宮があるが、それらは全て龍脈地帯の影響によるもの。

北と南は海である。


列強は図式的に言うと、東西に細長い楕円形に並んでおり、西端がネグア、中ほどを4分割してカーゴ、フスミ、トクヨ、シゲン、東にダツ、更にその東にドワンゴ。

最強国はトクヨで、カーゴとフスミはその配下にある同盟国であるが、3国間の信頼関係は薄く、特にカーゴとフスミは仲が悪い。

トクヨに次ぐ強国がここネグア。そして、カーゴの東に位置するシゲンもネグアとほぼ同等。

カーゴ、フスミ、ダツの国力はやや劣る。最東端のドワンゴは最弱国だが、列強で唯一直接の戦禍から免れており、独特の存在感を持つ。


龍脈地帯は中央部を背骨のように連なっていて、列強各国に魔物被害を及ぼしている。

列強各国は魔物との抗争に加えて、ドワンゴを除いてほとんど常に隣国との戦争状態にあり、まさに戦国時代である。

その中にあって、傭兵は戦況を左右する貴重な流動戦力であり、各国とも傭兵に関しては細かい事を言わずに迎え入れて利用する体制をとっている。

「まあ歓迎するって言っても、しょせんは使い捨てなんですけどねぇ」


「各国は傭兵を雇うために産業を盛んにしてお金を集める、俺達傭兵は明日をも知れぬ身だからパッパと景気よく使っちまう」

「つまりは俺達が経済を回してるってことよ」

「お金で動く傭兵は、国から見たら確実性のある戦力なのかな?」

「ははは、そうかもな」


そのお金だけれど、通貨はギリッド。小都市国家連合のゴールド通貨は通用しない。

「金貨を溶かして金塊にすれば相場で売れますけど、面倒くさいですよねぇ」

むしろ魔石なら簡単に換金できるので、各国を渡り歩く時は魔石が便利とのこと。

なお、物価はだいたい1ギリッド=1ゴールドといったところだ。

(注 なのでギリッドの表記もGで統一してしまいます)


おや?馬車が停止した。周囲は草原というか、荒れ地というか、とにかく街ではない。

「いやーまいった。これですもん」犬獣人の御者が指さすところをみると、街道に大穴が開いている。

「こりゃあヘビーモールの罠穴だわさ」

直径2m程の穴の底までは7~8m。底には土槍が突き立ち、横穴が続いているようだ。

「あの横穴にモグラ野郎が潜んでいて、獲物が掛かるのを待ち構えてるって寸法だ」


「どうします?やっつけますか?」

「そうしたいのは山々だけど、梯子がなきゃあねえ。ヘビーモール自体は大したことない奴なんだけど」

「このまま放っておくと、街道が穴だらけにされちまう」御者が困り果てたように呟く。

ならやるだけだ。

「よっと」穴に飛び込む。突風を操作して底に降り立つことなく、そのまま横穴に入り込む。


「おいおい!」「無茶しやがる」「土槍に刺さって…ませんねぇ」

穴の外でなにやら騒いでいるけれど無視。

横穴の先に気配あり。見ると大型犬ぐらいの土の塊のような魔物がいた。こいつがヘビーモールか。

俺に気付いたヘビーモールは大慌てで踵を返して奥に逃げ込もうとした。

そのお尻から槍で一突きして仕留め、そのまま突風で穴の外に出る。


「おわぁ!お早いお帰りで」

「風魔法でジャンプ?」

「しっかり仕留めてやがる」

「こいつがヘビーモールですね?」

「おおよ。ランクCの土魔石が取れる。爪と毛皮は良い値がつくぜ。肉は…食えないこともないし、安いけど一応は売れる」

「ここで解体するなら手伝いますよぉ」


「街に着いたら丸ごと渡します。わけ前分だけお金で貰えれば充分ですよ」

「一人で倒したのに分け前も無いと思うんだわさ」

「解体と売却の手間賃くらいはもらっとこうか」

ちょっと眉をしかめた表情だけど、尻尾は振れているから悪い気はしてないみたいだ。

ヘビーモールの死体を遅延収納に放り込むと、いきなり目の前から消えたので御者が驚いている。

尻尾の毛が立ってぼわっと膨らんでいるぞ。

他の3人は、そうだろそうだろびっくりするだろ、となぜか得意そう。

サビィとガモンの尻尾は余裕のゆらゆら揺れである。

いいね、獣人の尻尾、いい。


ヘビーモールは倒したけれど、穴はそのままだ。

街道の修理は専門部隊に任せるとして、ひとまず穴を迂回するために、車輪を持ち上げて街道の縁石を乗り越えさせなければならない。

『イッセーノのにゃ!「ばう!」「せっ!」』

なるほど、掛け声はこんな感じになるわけだ。みんな当然という様子なので、特に突っ込みはしない。


そうやってわいわい騒いでいたところを、別の魔物に襲撃された。

宙に浮かぶ大きな青白く燃える人魂。炎の中に不気味な目鼻がある。というか、燃える生首?

見た目は凄く恐ろしい。しかしなぜかあまり強敵という感じはしない。

「昼間からアンデッド?」

「いや、この匂いはイビルフォックスだわさ」

「だとしたら、本体はそこだろ!」

ガモンが咄嗟に草むらに向ってナイフを投げた。


「ギャン!」

燃える生首の虚像がスッと消えたと思うと、見えたのは足を引きずって逃げようとする黒毛の狐。

そこへサントスがすかさず矢を射って、3射目で仕留めた。

「あんたもやるときゃやるもんだ」

「へへ、たまにはこういうこともありますよぉ」


「こいつからはランクCの光魔石が取れる。光魔石と毛皮はえらく良い値がつくぜ。肉は…食えないこともないし、安いけど一応は売れる」

ガモンはどうやら肉にはうるさいようだ。ということで、イビルフォックスも収納しておく。

この国の傭兵生活、悪くないね!気楽で愉快だ。

俺にはこういうのも向いてる気がするぞ。

「まあ、いつもこんなに上手く行ってるわけじゃないわさ」


とにもかくにも、タリーの街に到着し、詰所でオークの群れとヘビーモール、イビルフォックスの討伐報告をし、オークの魔石を売却する。全部で85G、俺の取り分は30Gと言われたので、そのまま受け入れる。

ヘビーモールとイビルフォックスは合わせて60G、俺の取り分は15G。合計で45ギリッド(45G)。

ギリッド貨幣を手に入れたことが嬉しい。

なお、オークの肉はそこそこ美味くそこそこの値で売れるらしいが、今回は量が多過ぎたのでそのまま砦の食料として残し、馬車の中で飲み食いした食べ物と酒がオーク肉との交換で只になったらしい。

まあこの街の獣人にとってはこんな感じのどんぶり勘定が当たり前のようであり、俺に全く異論は無いし、むしろ好ましいと思える。


「さあ金も手に入ったし、飲み直しと行こうかね」

「え、また飲むんですかぁ?自分は解体して売却しますんで、それが済んだら後で合流しますよぉ」

「傭兵仕事ならどこの詰所でも酒場でも張り出してあるが、酒場の口コミが一番信頼できるぜ」

「それなら一杯だけ付き合おうかな」

街はそこそこ賑やかで、獣人が人に混じって当たり前のように行き来している。

獣人の売り子も多い。

街並みは、土造りや藁ぶき屋根の建物も散見されて、ケフやもちろんタグよりも素朴な雰囲気だ。

うん、悪くない!




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