閑話 冒険者の日常
ポイントとGの関係について、1P=10Gとする記載と100Gとする記載がありましたが、10Gで統一することにします。以前の記載は訂正しました。
僕はディード、10歳です。フリーウィンドに所属する冒険者だよ。
僕らのパーティー、フリーウィンドは凄いんだ!なんたって、あの『禁忌の英雄』のマサト兄ちゃんがぼくらの師匠なんだから!本当だってば。
当時は『草原の風』っていう名前だったんだけど、これはマサト兄ちゃんを入れた5人パーティーの名前だから永久保存することにして、僕ら4人のパーティー名は新しくフリーウィンドと命名したんだよ。
今日の僕のお仕事は、初心者の引率。
育成するのは5歳の双子で、男の子の土魔法使いと、女の子の風魔法使い。そして護衛の大人が2人。
大き目の手甲のような小盾を両手に装備した格闘家の女性と、大盾(緊急用の小型盾も忍ばせてます)を装備した男性騎士で、この人達はお坊ちゃまとお嬢ちゃまの安全確保に命を懸けてます。
最初の時は、僕が引率者と知って護衛の人達は凄く不満そうだったんだけど、5歳児達が「この優しそうなお兄ちゃんがいい」と気に入ってくれて、無事就任することになりました。
でもその後は、指名依頼の引率になって、今日がこのメンバーの3回目の引率です。
この引率、とっても楽チンで割が良くって、僕も気に入ってます。
普通は半日から丸一日引率して報酬2Gなんだけど、双子は魔法が一発ずつしか撃てない(魔法充填薬は成長に良くないからあまり飲ませたくないんだって)からすぐに終わるし、護衛が腕利きで安心だし、指名依頼なので報酬は3Gなんだ(笑)。
お父さんからも、引率は家業のためになるからどんどんこなせっていわれてるし。
うちは武器屋なんだけど、僕の武器を見繕っているうちに子供用武器の調達が得意になって、今では子供用武器ならうちの店が一番っていう評判なんだ。
なので、引率をこなして子供用装備の需要が増えれば、うちの武器屋も繁盛するんだって。
さて、双子の引率の第一の任務は、適切な獲物をあてがうこと。
双子が同じように成長させるというリクエストにもこたえられるその獲物は、ずばりロッククラブとビッグトード。土属性のロッククラブは風魔法で、水属性のビッグトードは土魔法で仕留めるのに向いてる。
今の双子の魔法の威力で仕留められる魔物の中で最も経験値が高くて狙い易いのがこいつらなんだ。
さあ今日も川原にやって来ました。
邪魔な蟻や青スライムは、ささっとやっつけちゃいます。
危険なレッドスライムやポイズントードは、盾を構えながら慎重に排除します。
用心しなければいけない飛行系魔物も近くにはいないと。
「さ、ロッククラブに風球をぶつけてみようか。横から当てにくかったら、上から落とす感じで」
「え?あれ、只の岩じゃないの?」
片手剣の先っぽでこつんとたたくと、グワッと起き上がってはさみを上げて戦闘体勢をとるロッククラブ。
「ほらね、カニでしょ」
「ほんとだー」
距離を取ってしばし待つこと1分。カニはふたたび岩になる。
「さ、そーっと近付いてみようか。僕が地面に引いた線のところから撃ってみて」
「えっと、どの岩だっけ?」
あららダメだよ、すっかり擬態にだまされちゃって。
「岩の下の方をみると、ちょっと足っぽいのが判るでしょ」
「あ、判ったー!」
「うん、それ。良く出来ました」
「じゃあやるよ。ウインドボール!えいっ」
べちゃっ!
見事命中です。甲羅が硬くても風球の衝撃でランクFのロッククラブを見事に仕留めた!
「わーい、やったやったー」
「お嬢様流石です」護衛の騎士が鎧をカチャカチャ言わせながらにこやかに拍手。
さあ次は、お坊ちゃまの番です。
「あそこにビッグトードがいるのわかるよね?」
「うん。ちょっと怖い…」
「大丈夫。後ろから近付けばこっちには来ないから。蛙が向きを変えるようなら後退するよ」
「そっか、蛙は後ろ向きには跳べないんだね」
地面に引いた線まで近づいて、「石礫!」
うん、大きさと言い角ばり具合と言い、速度といい、良い石礫でした。
しかし残念ながら命中直前にビッグトードがカエル跳びで離脱したために不発。
「うわーん!」お坊ちゃま大泣き!
「お気を確かに。ううぬ、憎っくき蛙めが。目にもの見せてくれよう」
「あ、あの、落ち着いて下さい。今のはたまたまですよ」
うん、最悪のタイミングで空中の虫を捕まえようとしてカエルが跳んだんだよね。
「魔力的にもう一発は難しいので、これで仕留めましょう」
お坊ちゃまにスリングショットを渡す。大型のパチンコだ。
簡易な仕組みながらも威力補正のついた魔道具で、ランクFのビッグトードを仕留めうる武器だ。
少し練習して自信をつけてから、さっきのビッグトードに向けて発射!
「素晴らしい。見事に雪辱を果たせました!」
護衛さん、ちょっと大袈裟です…。
お坊ちゃまはニコニコです。
「今日も楽しかったね」「「うん!」」
双子が喜ぶと、護衛も大満足。ついでにスリングショットもお買い上げ。
ちょっとお高いけどこの人達なら大丈夫。といわけで、うちの武器屋も大満足。
こうして今日の引率も無事終わり、幼い冒険者の双子はゆっくりゆっくり成長して行くのです。
*****
あたしはエマ。7歳のランクC冒険者で火魔法使いよ。
「子供だからって舐めてたら火傷するぜよ!」
ふふふ、名ゼリフ決まった。あのマサト兄ちゃんから伝授された極めゼリフなんだからね!
フリーウィンドはランクBの冒険者パーティーで、そのメンバーは槍のクリス、両手剣のカブ、片手剣と盾のディード、そして火魔法とボウガンの私で全員ランクCなの。
フリーウィンドはランクBパーティとしては最年少だし、私は最年少のランクC冒険者なんだ。えへん。
クリス、カブ、ディードの3人掛かりならランクBの魔物も狩れるし、私と誰かもう1人がコンビになればやっぱりランクBの魔物は狩れる。でも1人でランクBはまだ無理なのよね。
もっと頑張って、全員がランクB冒険者になって、早くフリーウィンドでランクAの魔物を狩れるようになりたいなぁ。
ランクBの魔物1体を狩ると1ポイント(1P)が貰えるの。4人で1体狩れば1人頭0.25Pね。
でもって、5P貯まれば、自動装てんボウガンと交換できる。
これ、戦闘中に3発まで自動で装てん出来る魔道具で、私にぴったりの武器。
50Pあれば無限自動装てんボウガン。これは矢さえセットしておけば何発でも装てんしてくれる優れもの。
高嶺の花だけど、これもいつかきっと手に入れるんだ。
自動装てんボウガンが手に入れば、あたしはランクB冒険者になれそうな気がするの。
そうしたらフリーウィンドでランクBの魔物をもっとたくさん狩れて、ポイントが貯まって、みんなも良い装備を手に入れて、そしたらフリーウィンドがもっと強くなって。
そのうちランクAの魔物にも挑戦したい。
ランクAの魔物なら1体狩れば10Pだよ!お金に変えたら100Gだよ!!
もうね、冒険者になる前は1Gのお金ですら夢のまた夢で、金貨なんか見たことも無かったのに。
ああ、夢が広がるなぁ。
「エマ、何ぼーっとしてるんだ。次は俺達の番だぞ」
「あ、うん、わかってるよ、クリス」
いけない、いけない。
今日は久々に七星結界を使った模擬戦をやるんだった。
いままでの対戦成績は5勝8敗3引き分け。
対人戦ってちょっと苦手なのよね。人間相手だとちょっと気が引けて調子出ないんだもん。
それにうちは4人パーティだけど、よそ様は大体5~6人編成だもんね。ハナから不利。
でも今日の対戦相手は3人。『ケフの夜明け』?聞いたことの無いパーティね。これはイケるかも。
よーし勝つぞー。目元を仮面で隠した変な人達だけどさ。
「この3人、きっと上位の近衛と魔法衛士だよ。油断しないで行くぞ」
「前衛左の細身のレイピア使い遣い、こいつはおいらがやる!」
「うん、俺とディードで右の両手剣遣いに当たろう。あいつが一番強そうだ」
「あたしは後ろの魔法使いっぽい女の人を牽制する。チャンスがあったら援護するからね」
さあ試合開始だ。
あたしが撃てるのは、今の魔力的に火球6発まで。
魔力充填薬を飲めばあと5発撃てるけど、高いから模擬戦で使うなんてとんでもない。
あ、後衛の魔法使いが水球3発を頭上で回してる。詠唱も結構早い。3発で全力かなあ?
えーい、ここは勝負だ!あたしの無詠唱高速連発で、火球を3発連射。併せてボウガンも発射!
「ララ!火球と矢が行ったぞ」向こうのリーダーらしき両手剣遣いが警告する。
向こうの水魔法使いはララさんって言うのか。
火球3発が水球3発で迎撃された。ボウガンの矢はナイフで弾かれてる。
そして、新たに3発の水球が頭上を回る。予め出して回してるから撃つのが早いんだ。
うーん、まずいなぁ。ララさん、まだ余裕がありそう。ちょっと見込み違いだったかも。
それならカブを攻め込んでるレイピア遣いに、火球を2発撃っちゃえ。
そしてその隙にボウガンに矢を装てんっと。よいしょ、よいしょ。
うわっぷ、何かが顔に当たった。なにこれ?ディードのお尻?
「エマ、よそ見しちゃだめだ。水球が飛んで来てたよ」
そっか、ディードが盾で防いでくれたんだ。でもって吹き飛ばされちゃったと。
「…ありがと」
え、そしたらクリスは1人で戦ってる?うわ、やられそう。援護しなきゃ。
最後の火球、行っけー。
レイピア遣いに撃った2発の火球は華麗に捌かれちゃったみたい。ちっ。
クリスの懐に入って槍を片手で掴み、剣の切っ先を喉元に突き付けていた剣士が、剣の位置は変えずに肘をクイッと上げてパシッと火球を弾いた。肘がちょっと焼けたけど、それだけ。そんなー。
クリスは槍を放して両手を上げ、降参ということで場外へ。
ララさんが水球を2発撃った。1発は善戦しているカブへ向けて、もう一発はこっちへ。
カブが水球を避けて顔を振った隙に、レイピアがカブの手首を捉えて、カブは両手剣を手放す。
ディードが崩れた態勢のまま盾で水球を受け流そうとして失敗。バーン!と盾ごと腕が変な方向へ曲がっちゃった。
一足飛びに間合いを詰めた剣士の両手剣の剣先がディードの胸に突き付けられた。
視線を動かすと、両手剣を踏んづけられて、レイピアを鼻先に向けられているカブの姿が。
「ヒール!」あ、ララさん、味方の肘の火傷を治す余裕があるんだ。魔力量でも全然及ばないよ。
「えと…、降参です」
『そこまで、勝負あり!』審判の声が上がった。
あーあ、また負けちゃった。
「しょうがないよ、この人達、強かったもの」
「ええ、貴方達も立派だったわよ。これならすぐにもっと強くなるわね」
あれ?細身のレイピア遣いは女の人?それともオカマの人?
「チクショー!早くホシを五分に戻してぇ」
カブが喚くけど、一歩一歩強くなるしかないよ。
今回は負けちゃったけど、死に戻りもなかったし、怪我もディードの肘脱臼とカブの手首の打撲だけ。
七星結界から出ると、スーッと完治するのが見てて面白い。
今日の相手の3人は優しいというか、品の良い人達だったよ。
手加減までされて余裕で勝たれたのは、ちょっとムカつくけどね!
「いいんだよ。強い相手とやると、負けても結構成長するみたいだしさ」
そうなの?そうだといいんだけど。
あとで聞いたらララさんて、水球と治癒でちょっと有名な水魔法遣いだった。
うん、今日の模擬戦でみんなそれぞれ課題が見えた。
クリス達は今日の戦闘を脳内再生しながら、ここでこう動いてたらとかって感想戦やってる(笑)。
あたし?あたしは、ボウガンの装てんが課題だよ。あー自動装てんボウガン欲しー!
「その前に、手元を見ずに装てん出来るようになれよ」
うん…、だよねー。
閑話は時々挟まるかもです。
次回は本筋に戻ります。