天竜でござる
戦場はいい。魔力の残滓が大気中に満ち満ちている。憎悪・恐怖・絶望に味付けされた至高の魔力。
とりわけ死に行く者がいまわの際に、断末魔として呪詛の叫びと共に放出する特濃の魔力は応えられん。
取るに足らない者で溢れるこの下らぬ世界だが、戦場だけは評価出来る。
人間どもにはせいぜい潰し合いをして、美味い魔力を供給してもらわなくてはな。
ところで我が配下のレッサー達からの連絡が途絶した。
ふうむ、残留思念を解析するに、全て同一の唯一人の人間にしてやられたとな?在り得んことだ。
やれやれ、ゆっくりと断末魔の美味に浸っていたかったのだが、様子を確認しに行くとするか。
ふはは、人間どもめ、こざかしくも我輩を攻撃しようとしておるが、痒くすらないわ。
ちっ、希望と気合が混じった魔力は、熟成が足りず雑味が多いのでイマイチだ。
ほほう。街壁の上に妙な結界がある。あれが希望の種明かしなのか?まずはあれを壊すとしよう。
壁を登らねばならんのが面倒だが、仕方あるまい。
む!?なかなかやりおるわい。頭上から強めの魔法攻撃が仕掛けられている。
特にこの酸は困る。角内部の象牙質に嫌な感じにしみる。
おっと異物が急接近する。ガキーン!角に衝撃が奔る。
うむ、角内部の魔力回路に若干の悪影響が出た。
ここが不調だと、身体強化と再生に支障を来たす。
瞬間修復は可能だが、そうするとせっかくの味覚感知の繊細さが失われかねん。
やれやれどうしたものかな。
先程の異物が更に我輩の背後からちょっかいを掛けて来よる。
こうるさく忌々しい奴め。
む?しかしこの気配は…、ごく微かではあるが、気になる気配を感じる。
覚えがある気もするが、さて何だったかな?
我輩の知る遠い昔の何かにつながるモノのような気がするのだが。
「ふむ?貴様は何奴だ。尋常のモノではないな」
「お前だけには言われたくないぞ。俺はただの人間だ!」
ふはははは。なかなか面白いことを言う。
どうやらこ奴は、戦闘を愉しめる対手にして、断末魔を存分に味わう価値がある者のようだ。
そのためにも、いったん引き上げて万全の体勢で再度臨むとするか。
我輩は大いなる愉しみのためには、細心の注意と最大の敬意を払うのだ。
馬車に例の召喚士もどきを乗っけて来ていて良かったぞ。
「おい、召喚士。我輩がひと眠りしている間に、新たにレッサー10体を呼び寄せて置け。よいな。」
「ひゃっ、ひゃい!」
魔力回路を完全修復するためにひと眠りしよう。なに、小一時間もあれば十分だ。
そしてその後は…、ふふふ、久方ぶりに血が騒ぐわい。
*****
ソーシンがロランの無残な亡骸の前に跪いている。無言のその背中が辛すぎる。
「済まん。ロランを守れなかった。むしろロランに守ってもらった」
「マサトが謝る必要はない。大勢の兵が戦死したが、みんなタグを守るために誇りをもって逝った。ロランは一撃を入れてレッサーデーモンに隙を作ったんだってな、こいつはそんな手柄を立てられて本望だろうさ。だがまだ戦いは終わってない。ロランの死を犬死にしないためにも負けられない」
「ああそうだな」何とかしたい、しなければならない。しかしどうすればよいのか…。
「マサト殿~!ちょっと見て下され~」
街壁上で裏4結界の修復作業をしている人が俺を呼んでいる。
「マサト、行ってくれ。お前は大事な体だ」
「うん行く。次に会うのは勝った後だ」
結界の修復と再展開に手を貸し、その後は竜達とグレーターデーモン対策をシミュレーションする。
「レッサーデーモン相手で有効だったのはまず角を攻略し、その後に心臓か魔石を破壊する方法だ」
聖{レッサーとグレーターは同系統の悪魔です。やはりその方針で臨むのが良いと思いますわ}
闇{賛成じゃ}
マット「今思い返すと、グレーターの角を攻撃してた時に、若干奴の魔力場に乱れが生じてたよ」
地{奴の角の形状はレッサーとは違って太くかつ渦を巻いている。攻略の難度は高いな}
レッサーの角を破壊した方法を反芻してみる。大きく括って3通りの方法があった。
まず、合気で体を回して動揺を誘い、回転の勢いも活かしてミスリルソードで一閃した。
手首肘肩の関節を極めつつ、足払いと同時に体を一回転させる技は、このところ多用している。
『風車』とでも名付けて置こう。
風車では、回転の位置を工夫することにより、肩から地面に打ち付ける、頭部を地面に打ち付ける、頭部を逆方向から蹴る、つま先からの風爪を利用して首を切断するなどの各種バリエーションが使える。
レッサーの角はかなり頑丈だったが、ミスリルソードの一閃で2本まとめて切断出来た。
しかし、グレーターとは体格が違い過ぎるので、合気の技は難しい。関節を極めることが出来ない。
次に、羽交い締めにして上空まで持ち上げて急降下したり、街壁上から落下中に闇手で固定して角を斬り飛ばした。空中で闇手で固定して急降下させた際に生まれる心理的な隙が、角の強化魔法を希薄化させた可能性がある。意外に高所恐怖症?
しかも地面に衝突する際の衝撃を上手く利用して、同時に心臓を破壊することも出来た。
この落下を利用して仕留める技を『飯綱落とし』と命名しよう。確か忍術で似た技があったと思う。
さて、グレーターに飯綱落としは仕掛けられるのか?
羽交い締めにするのは、体格差から論外だが、壁上から落下させて闇手で固定するのは可能だろう。
グレーターが壁上に昇る、あるいは暴風や爆発の際に空中に投げ出されることがあれば、飯綱落としのチャンスがあると見て良いだろう。
「うん、ひとつ突破口が見えたぞ」
風{ただし落下する状況を作れるかどうかが問題ッスね}
3つ目は、攻撃魔法を角に集中的に連射し、ダメージを蓄積する方法だ。
「既にやって見たけど、グレーター相手ではダメだったけどね」
火{でも魔力場に乱れが生じたんでしょ}
水{角集中攻撃はこっちのペースで好きにやれる}
まあ、これは手堅い手段としてありだな。どこまで効果的かはさておいて。
マット「あとね、使用する武器なんだけど、あいつが元気なうちは、グンニグルやミスリルソードよりも吸魔剣がいいと思う」
地{あの出鱈目な装甲の硬さは、絶対に魔力による強化がなされている}
確かにレッサーは角を破壊すると俄然柔らかくなった。魔力による強化があるのは間違いない。
火{硬いうちは、物理攻撃は無駄っぽいよね}
「魔力強化があるうちは吸魔剣。強化が剥がれたらグンニグル。間合いによってはミスリルソード」
水{それがいい…かも}
「色々考えてるうちに、何だか行けそうな気がして来たぞ!」
マット「そ、そうだね。非常に困難だけど可能性はあるね。{言えない。今の議論を踏まえた現状分析の結果、勝率せいぜい1%。平地での戦いなら更に低下。レッサーが参戦するとほぼゼロだなんて}」
「マット…。今の心の叫びが、念話で聞こえてるんだが」
「え?あ、念話回線つないだままだった!」
はぁ、マットの奴。賢いんだけど、妙に抜けてるんだよなぁ。
気分が塞いで胸が苦しくなってきたぞ。うん?この胸騒ぎはひょっとしてアレじゃないか?
表示画面で確認してみると、『漆竜気』とある(注 漆は七を表す大字)。
さっそく選択して顕現させてみる。
カラッと清々しくそれでいて呑気で親しみを感じさせる気が満ちた。
{おお、これが顕現でござるか。殿、そして皆の衆、良しなに。拙者は天竜でござる}
ござるって、お侍さん?
地火風水{{{{天竜?}}}}
闇{遠い昔の噂として聞いたことがあるような無いような}
聖{確か…孤高の求道者の方ですわよね}
マ「神話にちょい役で登場してたよ」
なんと、ここに来て存在感の薄い竜の精霊!?
人柄(竜柄?)は良さげなんだが。
それに確かに竜の気配ではあるんだけど、形が竜型ではなく人型?
光の粒子が人型に結集しているような塩梅で、目を凝らしても眩しくて細部が良く見えない。
他の竜達が半透明ながらも鱗の繋ぎ目まではっきり識別できるのと、かなり異なっている。
何と言うか、存在の有り様が違っていると言うか…。
天{ははは。拙者、なんせ顕現は初めてでござる。それにあんまり長い間漂っていたせいか造形がちとまとまらんが、なーに、細事でござるよ。お気に召さるな}
まあ、本人(本竜?)がそう言うならいいんだろう。ってそれでいいのか?
「それで天竜、お前には何が出来る」
天「拙者の本分は斬ること。斬るために跳ぶことも。跳んで斬る、それが天竜でござる」
確認画面には『空間魔法 霊刀/裂空/転移 雷魔法 雷牙』とある。
霊刀は、霊力を凝集させて刀として精妙に操り、対象を斬る。
裂空は空間断層現象を惹起し、それによって防御無効の斬撃を繰り出す。
転移は瞬間移動。
雷牙は雷属性の切断魔法とのこと。
天{裂空は世界の理に反するゆえ、せいぜい2発までの禁じ手でござる。転移は見える範囲あるいはマーカーを置いた場所に向けて跳ぶのでござるな}
俺自身の魔法としては、雷魔法の電撃、空間魔法の縮空、そして技能系魔法の亜空間収納を獲得した。
電撃は俺自身としては初の、嬉しい範囲攻撃魔法。縮空は見える範囲での瞬間移動。そして亜空間収納は容量無制限の収納庫だ。
強力な新魔法を取得したらしい。だが残念ながら詳細の検証は後回しにせざるを得ない。
新たな仲間天竜は、若干の不安もあるが、きっと心強い味方のはずだ。なんせ言動が侍だ。
新しい魔法を十分に検証し、天竜侍との連携も訓練を重ねてじっくり錬成して、それから戦いに臨みたかったが、そうもいかない。
戦場に奴らが姿を現した。グレーターデーモンに加えて、なんと新たな10体のレッサーデーモンがいる。
グレーターデーモンを中心にして円陣を組み、奴らは威風堂々と戦場を歩み寄って来る。
グレーターデーモンと並ぶと、あの偉丈夫のレッサーデーモンが、細身の小さい子供に見えるよ。
見た目だけでなくて、魔力的にもね…。
いかんいかん。始まる前から気圧されてどうする!?
こっちだって俺と漆竜気。新戦力が加わったし、新しい魔法も手に入れた。
体調も万全、気力も充実。
よーし!丹田に気合を込め、両頬にぴしゃりと活を入れる。
うむ、戦闘再開だ!!
*****
クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語/古代神聖言語
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法B
石礫B/土槍B/石盾
火魔法B
火球B/炎盾
水魔法B
水流刃B/水盾
風魔法A
風爪B/突風A/風盾/空調
光魔法B
光矢A
氷魔法C
氷縛C/氷杭B
空間魔法G
縮空G←NEW!
雷魔法G
電撃G←NEW!
植物利用
成長促進/植物素材
聖魔法
聖治癒
金属加工
変形/修復
製薬
付呪
亜空間収納←NEW!
精霊術
練霊素/精霊の声/漆竜気←NEW!
超取得/超成長/超回復/知覚同調/竜知覚(抑)
スペック
FL69-3263B(1,862,077)←UP!
フィジカルレベル69←UP!
戦闘力3263←UP!
ランクB
次のレベルまであと経験値1,862,077
ML69-3263/3263B(2,321,730)←UP!
マジカルレベル69←UP!
魔力量3263←UP!
ランクB
次のレベルまであと魔術経験値2,321,730
SL70-4308/3590(+718)B(2,806,397)←UP!
スピリチュアルレベル70←UP!
霊力量3590(霊力の指輪で2割底上げして4308)←UP!
ランクB
次のレベルまであと精霊術経験値2,806,397
スキル
剣術A/槍術A/投石術B/格闘術A/盾術A/弓術B
装備
神槍グンニグル1500
ミスリルソード150/ミスリルスーツ180/ミスリルフード100/
ミスリル手袋50/ ミスリルブーツ50/ミスリルリング(+20%)
吸魔の剣50
主なアイテム
飛行スーツ/魔話機/耐性の指輪/
自動調理器/遅延収納/転移石10/
魔兎執事マット/珊瑚の指輪/封印玉/
魔収納/ミスリルナイフ/テント/
寝袋/調理セット/霊力の指輪/
魔石 火A100・B100、闇A1000・B100、水A100・B100、
地A100・B100、風A1000・B100/無属性A1000
回復薬極10/傷薬極10/毒消し極10/
万能薬究10/万能耐性薬究10エリクサー究10/ネクタル10
魔力充填薬極10/魔力回復促進薬極10/霊力充填薬極10/
霊力回復促進薬極10/
所持金 9,524,000G(千以下略)
ポイント 88,000P(千以下略)
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀
B=傑出 A=達人級