ヌバルプラス悪魔戦開戦
ヌバルが動いた!
「斥候からの報告によれば、タグ方向に5000、シガキ方向にも5000。移動を開始しました」
「半数ずつの2正面作戦だと!?」
「少数で壁に守られた街を攻めるくせに、兵力を分散するとは?」
地{ランクAが5体もおれば、それだけで街を攻めるには過剰な戦力とも言えるぞ}
とにかく、どちらを攻められても良いように準備していたので慌てることはない。
「で、悪魔どもの動向は?」
「レッサーデーモンは5体ずつで分散しています。グレーターデーモンはタグ方面軍の馬車内と思われます」
火{グレーターデーモンは様子見かなあ?}
風{レッサーだけで落とせるようなら、姿を見せないかもッスね}
「そんなモンなのか?」
マット「奴らだけで国を落とせる戦力だもの。街の一つや二つに真打が出るまでも無い、と思ってるさ。でもギャフンと言わせちゃうぞ」
「そうだな。新兵器もあるしな」
難点は結界兵器を2か所で同時展開することになるので、想定の倍の分量の魔石が必要になることだ。
あと3日あるので、それまで可能な限り確保して置かないと。
水{飽きてるよ…}
聖{非常時ですわよ。頑張りましょ}
闇{妾はしつこく弱いモノいじめするのは嫌いではないぞ。おーほっほっほ}
ということで、今しばらく洞窟ごもりだ。
ちなみに、影蜥蜴人が落とす炭素鋼の武器は威力が高くて軽いということで、兵士達には好評である。
*****
シガキの街壁から約1キロの地点に到達したヌバル軍は、投石機の組み立てを始めた。
弓と魔法の射程外の距離である。よく分かっている。
同時に騎兵が突撃を開始し、後に歩兵が続く。何の工夫もない馬鹿正直な真正面作戦だ。
さすが脳筋と言われるだけのことはある。
レッサーデーモン達は後方で待機している。
ヌバル兵など使い潰しで構わないので、まず人間同士を戦わせようと思っているのだろう。
「バリスタ発射用意。組立て中の投石機を狙え。完成前に仕留めるぞ。撃てー!」
俺は、守備兵達と共に、街壁上の裏4結界内にいる。もちろん聖竜の聖結界も重ねて展開中だ。
今しばらくは、たとえ攻撃されても危険が皆無なので、王とルーシー姫も結界内で視察している。
「お兄ちゃん、…いえ、マサト様。あの…どうもありがとうございました。」
恥ずかしそうにお礼を言う幼女。シャンとしている姿を見るのは初めてだ。
「あれ?ずっと気を失ってたけど、俺のこと覚えてるの?」
「は…い。大きな背中…と、あの時感じた気配は忘れない。とても嬉しかったの」
ルーシー姫は精霊使いだ。気配には人一倍敏感なのかも知れない。
あのラミアクイーンは失われてしまったけど、新たな精霊と縁は結べたのかな?
しかし残念ながら、のんびりと話し込むような状況ではない。
バリスタから撃ち出した砲弾は敵投石機を飛び越えて着弾した。
石を砲弾型に削り、バリスタにも砲弾にも風魔法を付呪して魔道具化しているのでよく飛ぶ。
「よーし、飛距離は十分だ。落ち着いて照準を合わせれば当たるぞ。続けて撃てー」
砲弾が命中して、投石機が四散した。喝采が上がる。
「よーし、次は右隣に照準を合わせろ!」敵投石機はまだあと2台ある。
「閣下、姫様も、そろそろ後方へ御移り下さい」
全然話す暇が無かったけれど、落ち着いたらじっくり話を聞いてみたい。
「王様、ルーシー姫、また後ほど」
「マサト殿、ご武運を!」「ゴブウンを」
「弓隊、敵騎馬に斉射ー!」「魔法隊、攻撃準備!」
敵騎馬は、シガキが弓隊と魔法隊を押し出すことを想定しての抑えが本来の役目だ。
しかし、バリスタが投石機まで届くので、逆に弓隊と魔法隊は街壁上から敵騎馬を狙い撃つ。
「投石機2台めに命中!破壊に成功しましたー」
おぉぉぉぉーー!!
壁上の守備兵達が拳を突き上げて歓声を上げる。ビリビリと士気が高まる。
組立て前の投石機の部品を載せた敵の荷車が急いで後方に下げられているのが見える。
よし、これで投石機の心配は当面無くなった。
「バリスタ、狙いを敵魔法部隊に変更せよー」
いいぞ!ここまでは、一方的な蹂躙だ。これはこのまま行けるかな?
「うわぁぁー、悪魔が来るぞー!」
茶色の人影らしきものが5つ、高速で接近して来る。騎兵よりも早い。
見る見るうちに、騎兵を抜き去り、壁下に到着した。
「弓隊、魔法隊、壁下の悪魔を撃てー」
いや、既に壁下にはいない。
垂直方向に凄い速さで移動している!
手足の爪を石組みの隙間に掛けて、強引に上方向に跳躍する。それを数回繰り返すと、高さ10mの垂直の壁はあっと言う間に制覇されてしまった。
正面の壁上の3か所に結界陣があり、狭い中にそれぞれ魔法使いが20人ほどスタンバイしている。
しかし詰めればまだ入り込むことは可能だ。
「近くの結界にいったん避難しろー!」
結界内が人でぎゅうぎゅう詰めになる。バリスタも射手が避難してしまった。
俺は中央の結界内にいた。
目の前に1体のレッサーデーモンが立ちはだかる。
筋骨隆々の2m超の赤銅色の肉体。頭部は山羊を少し人間寄りに変形させたような感じだ。
鼻と口は前に突き出し、瞳は横長、頭には2本の角。角の先端までなら2m半はありそうだ。
体表には剛毛が生え、肘から先は蟹の甲羅のような甲殻に覆われている。
そいつが丸太のような腕を振り上げて、聖結界を殴り付ける。
聖{10発くらいは耐えられますわよ}
結界外でレッサーデーモンの打撃を受けた者は、吹き飛ばされて壁の下に落下している。
これでは助からない。いやそもそも打撃を受けた時点で頭部や胸部がざくろのように弾けていた。
結界を攻撃している3体はひとまず置いて、狭間で暴れ回っている2体をまずどうにかしなければ。
闇{こうしてくれるわ!}闇手で張り飛ばした。
不意を突かれて2体のレッサーは壁の外にはたき落される。
しかし地面に落下してもほとんどダメージは無く、直ぐに起き上がると、再度壁を跳ね登ろうとする。
水{落滴!}
上手い!レッサーが垂直ジャンプで空中にある瞬間に頭上から落滴を命中させて地上に叩き落した。
これを続ければ、しばらく時間稼ぎが出来そうだ。
結界内の最前列から弓兵が、その後ろから魔法兵が攻撃をするが、レッサーにダメージは入らない。
ゴンゴンゴン!至近距離から結界を殴り付ける偉丈夫。凄い迫力だ。ちびりそうだ。
グシャリ。
結界を殴り付けるレッサーの拳が潰れて骨が飛び出した。
しかし気にする様子は無く、もう片方の拳で殴り続ける。その間に負傷した拳は、見る見る回復して行く。再生速度が尋常じゃなく早い!
闇{足を闇糸で縛った。更に氷縛で氷漬けにするのじゃ}
「氷縛!よし、足もとを固定出来たぞ」
回避不能の状態に追い込んだレッサーに、穂先に衝撃を纏わせたグンニグルの、渾身の一撃を突込む!。
レッサーは、最も硬い甲殻で覆われた前腕をクロスさせて防御した。
同時に地竜の石弾と風竜の風刃も上体にヒットしている。
流石にレッサーは吹き飛んだ。いや足がそのまま残っている。両足首から引きちぎられたのだ。
足だけを壁上に残して、背中から地上に落下したレッサーだが、何事も無かったかのように上体を起こす。すぐに足の再生が始まったようだ。数分で立ち上がりそうだ。
水{油霧に}火{爆!}
地上の足無しレッサーが爆風で空中に舞い上がる。
やったか?いやまだだ。ダメージは受けたようだが、まだ生きている。しぶとい。
闇{氷焉!}
ピキーンと高く澄んだ音がして、宙を舞うレッサーの体が白く輝いたと思った次の瞬間、塵となって雲散霧消した。生命反応も消えた。
「やった!しぶとかった。残りあと4体」
ヌバルの騎兵と歩兵、魔法使いの馬車が城壁の近くまで来ており、シガキへの攻撃を始めた。
驟雨のような矢と、色とりどりの攻撃魔法がとんで来るが、聖結界面に波紋を広げるのみだ。
いいぞ、結界が全部弾いてくれている。
しかし、歩兵が壁に取り付き始めた。梯子を運んでいる者もいる。
「結界内から攻撃するぞ。外にいる者は結界に入れ。入りきれない者はいったん壁から降りろ」
「悪魔はマサト殿に任せて、我らはヌバル兵に専念するのだ!」
うん、俺は、結界を破られないように気を付けながら、いまいましいレッサーを各個撃破しよう。
右の結界に素早く移動して、結界攻撃中のレッサーに対峙する。
闇{足を闇糸でしばって}「足下を氷縛!」
地{石弾バルカン連射!}風{風刃を多方向から突き上げるッス}
やはりレッサーは胸の前で、両腕をクロスする。心臓と魔石を保護してるわけだ。
「それじゃあどてっ腹にお見舞いしてやる!」
衝撃を纏わせたグンニグルの捻り突きをクロスした腕を避けて、腹部に突き入れると、見事貫通して大穴が開いた。
神槍を手元に戻して、側頭部を横薙ぎに払うと、首を竦めたレッサーの頭上をグンニグルが通過し、2本の角を撥ね飛ばした。
「ちっ、角か」
ぐぉぉああぁぁー!!
うん?効いてるのかな?
肩から上腕に掛けて闇針を打ち込んで抵抗を弱め、闇手で前腕を開いて、急所らしき心臓部に、グンニグル捻り突き!
よし、死んだ。今度の奴は割合にあっさりしてたぞ。
「角を斬り飛ばしたのが良かったのかな?」
マット「角を斬ると弱体化して再生しなくなるのかも。そして心臓か魔石を破壊すると死ぬみたいだよ」
ならば今度は、『まず角から作戦』で行って見よう!
悪魔を討たんと欲すればまず角から。
結界を攻めていたもう1体のレッサーを壁からはたき落とし、落下しつつある空中で闇手4本を使い、奴の手足を延ばして固定する。
突風で加速しながら降下して追い付き、まず角をグンニグルの穂先で斬り飛ばし、次に地面に落ちたその瞬間に、落下の加速度と全体重を乗せて、背中から心臓部を捻り突き!
胸部を貫通して地面をも深く抉った。これなら心臓と魔石も破壊しているはずだ。
生命反応が消える。
よし、やったぞ。だいぶコツを掴んだ。壁の高さを利用するとなかなか効率的だ。残りは2体か。
あ!残り2体のレッサーが壁を乗り越えて、街中に入り込んだ!
街中であいつら行く手を阻むものは何も無い。早くも兵が蹴散らされている。
このままでは大勢の住民がやられる。ルーシー姫も危ない。
「追うぞ」
聖{結界外の戦闘は気を付けて}




