攻撃魔法
藪の中に燃える様な赤い光点が二つ、こちらを窺っているのが見えた。
次の瞬間、ぬっと顔を覗かせたのは、豚鼻に黄色い牙、毛むくじゃらの胴体。猪だ。
大きい。牙は俺の腹の高さ。体長は1.8mほど、体重は100キロを超えていそうだ。
こいつが突進して来たら躱せるだろうか。
あの牙に突かれたら腹が裂けるだろう。それは致命傷になる。
幸い今は、猪と俺の間に焚火がある。
猪は焚火を回避した突進線を確保しようと、じりじりと左回りに移動している。
俺は回り込みながら、防壁となっている焚火の位置を失わないよう心掛ける。
しかしこのままではいずれ均衡は破綻するだろう。
「地竜、ピンチだ。出番だよ」
{さっそくとは情けない。…だが良い判断だ}
地竜はちらと猪を見てそういうと、ぱんと乾いた音を立てた。
どおっと猪が倒れる。
うひょー!眉間に大きな穴が開いているぞ。
地竜は、あ、消えたか。まさに一発屋。
カイトの肉の残りを食べながら、ビッグボアをどう処理しようか考える。
{誰が一発屋だ。お主が非力なせいではないか}
あ、地竜が自発的に出て来た。
「ありがとう、助かったよ。この猪、どうしようか?」
{ビッグボアだ。ランクC土属性。経験値21、クリティカルで25。価値が高いのは魔石と牙だな}
「魔石って?」
{ランクC以上の魔物は、体内の中心部に魔力の結晶を持っている。色々と役に立つぞ}
解体してみると確かに心臓の後ろ辺りに、茶色のビー玉のようなものがあった。
牙もミスリルソードを使うと、大根でも切るように簡単に切り取ることができた。
肉もどうにかしたい。全部を剥ぎ取ることは到底できないが、美味そうなところだけ確保しておこう。
「それにしても、カイトとビッグボアを仕留めたあの技は凄いな!」
{石弾だ。お主もそれぐらい使えるようになれ}
「いや、それがさ、出来ないんだよなー」
{ふむ、魔力が小さすぎるか。では石礫ならば良かろう。よいか感触を感じ取れよ}
ぱすっ。地竜が何かを飛ばした。
木の幹に爪の先くらいの小石がめり込んでいる。
{これが石礫だ。お主にもできるはずだ。もう一度撃つ。我の霊力の使い方を感じて、お主の魔力を同じように使うのだ}
ぱすっ。
あーなるほど、何か少し分かったような気がする。
魔力の集中と放出の基本は生活魔法の時と同じだ。
ただちょっとこう、絞り込むっていうか。
足下の小石を拾って掌に載せて、魔力を使って飛ばしてみる。石を投げるイメージ。
ピュッと飛んでこつんと木にあたる。
「いよっしゃー!出来た出来た!!」
{身近にあるものを使うのは悪くないが、訓練時には無から礫を生み出すこと。投げる感じではなく弾く感じで撃ち出すこと。飛翔中も力を掛け続けて加速させると共に、軌道を制御して的に正確に当てること。しばらく練習よ続けてみよ。我は戻るぞ、危険に備えなくてはならんからな}
「分かった。でも地竜がいてくれれば危険は無いんじゃないか」
{そうでもない。例えばCランクが数匹いれば対応は難しいぞ。心せよ}
「そっか。一発撃ったら、霊力回復までの1分間を俺一人で凌がなきゃだもんな」
{そういうことだ}
*****
周囲の気配への注意は怠らないことにして、とりあえず、魔法の練習だ。
「礫を無から生み出す。出来るのかな?出来るんだろうな」
基本は飲料水や食パンを出すのに通じるところがある。ちょっと感じは違うけれど。
地竜が石弾を飛ばした時の初動を思い出す。
なんていうか、石がそこにあるのが当然というか、在れと命じるというか。
「礫、出ろ」「礫、出ろ!」「出てちょうだい」「このっ、出やがれ!」
………出ない。うーん。
掌に拾った小石を載せる。次に小石を落として、何もない掌の上にさっきの小石がある状態を再現するようにしてみる。お、これはなんだか手ごたえがあるぞ。
ぽっ。出た。ふふふ。なるほど。具体的な小石のイメージ、そしてそれが存在するイメージ、これだ!
もう一度、ぽっ。
ははは、やったぞ。
じゃあ今度は、想像上のまん丸な球状の小石を呼び出してみよう。
ぽっ。よっしゃあ!掴んだぞ!!
色々なイメージの小石を出現させているうちに魔力が尽きたので、しばし回復待ち。
次は弾いて飛ばす練習だ。
まずは指パッチンのイメージ。だめだ、投げるよりも威力が無い。
じゃあパチンコのイメージ。ぐーっとゴムを引いて、しゅっ、コチン。
うーん、少しましになったけれど、発射まで時間がかかるし威力もイマイチだなあ。
よーし、鉄砲風に、一端を閉じた筒の中で小爆発を起こしてその反動で小石を飛ばすイメージ。
ぽむ、コン。あ、いい感じ。
もう少し強く、ぱす、コーン。あと一歩。
ぱすっ、カン!
やった。幹にめり込んだ。
今度は飛翔中の加速だ。あ、魔力尽きてる。回復待ちましょう。
こんな感じで時間を忘れて石礫の改良に没頭した。
礫の形状は弾丸型にして、撃ち出しの筒にはライフル溝をつけて弾丸が回転しながらジャイロフォースで、できるだけ真っ直ぐ飛ぶようにする。
飛翔中の加速は押すイメージではなく、ミサイルのように弾丸自身が噴射エネルギーで加速するイメージ。
これで相当の威力が発揮できるようになった。
威力マックスにすると直径30センチくらいの幹は貫通する。
ビッグボアの毛皮も通り抜けて肉に達する。
こりゃあイケル!!
威力マックスだと1発しか打てないけどな。
狙いはイマイチ。
そこそこの距離の葉っぱに当てようとするも、なかなか難しい。
何発か打つと、修正しながら徐々に着弾点が的に近付く。
的に近いと、飛翔中に多少の方向変更は可能だ。飛んでいる礫に上下左右に礫の向きが変わるようにイメージする。
礫の飛翔速度が速いほど修正は困難になる。
威力と精度は二律背反の関係にあるのだ。
そして、礫を小さくして速度も落とすと、魔力消費が少なくてたくさん打てる。
また、打ちっぱなしだと魔力消費が少なく、飛翔方向をコントロールして精度を上げると魔力を消費する。
なかなか…、うん、魔力が少ないと辛い。
「うーん、まだまだだなあ」
{いやいや悪くないぞ。さすが異世界人だな。ステイタスを確認してみろ}
え、どれどれ。
『ML7-9/9F(30)』
おお!マジカルレベルが3つも上がってる。
{素養も見てみるがよい}
左画面だな。
『魔術』からの『練魔素/生活魔法/土魔法F』。あっ、土魔法が付いた!
その中味は『石礫E』。
「このEとかFってのはなに?」
{ランクだ。Eは普通程度。Fはやや劣る程度だな}
「生活魔法にはランクがついてないけど」
{ランク分けされない素養やスキルもある}
「素養っていうのは?」
{お主のステイタスの左画面に出ているな。天与の素質とでもいうか。素養があればスキルが付きやすく伸びやすい。お主の場合は例えば魔術の素養があり、そこから汎用スキルとしての土魔法スキルが生まれ、そこから更に具体スキルとしての石礫が生まれたということだ}
「右画面の剣術Dは?」
{そっちが本来のスキルだ。素養が無くてもたゆまぬ努力と経験の積み重ねでスキルが付く。まあお主の場合は、超取得と超成長があるから、努力と経験といっても反則っぽいがな。普通の人間の素養発のスキルよりもひょっとすると安易かも知れん}
「なるほど~~、何となく納得した」
{スキルはな、磨けば伸びるし放置しておくと退化する、やがては消滅するから気を付けろよ}
「うわ、消えちゃうんだ」
{まあ昔取った杵柄ということで、消えても復活しやすいし、元のレベル近くまでは早めに回復するがな}
「俺の素養って恵まれてる方?」
{凄くいいと思うぞ。素養は無いかあっても1つが普通だ。2つ持つ者は多くない。それにな、商売とか健康とか子だくさんとかそういう素養が一般的だ。戦闘系の魔法はそれ自体貴重だし、魔法系の素養を持つ者は100人に1人程度しかおらん。それも土魔法とか火魔法という一般素養だ。魔術のような汎用素養は稀だ。精霊術系の素養を持つ者に至っては、1万人に1人程度だな}
「超取得、超成長、超回復の素養はレア?」
{ああ、聞いたこともないな。お主、それだけ恵まれた素養があるのだから、全方向進化を目指してみてはどうかな?}
「全方向進化というと?」
{ふむ、通常は一つのスキルを伸ばすのが良いとされておる。あちこち手を出しても中途半端になるだけで時間と努力の無駄だからな。しかしお主は多方向にスキルを伸ばすことに対処できそうではないか}
「そうかな?」
{ああ、その方が面白いし、序盤有利となるから今のお主向きだ}
「確かに面白いね。魔法の練習してるとワクワクしたよ。でも序盤有利だとどうして俺向き?」
{お主は今、力に目覚めたばかりだが、非常に不安定な状況にある。力を伸ばす前に死んだら、それで終わりだ。今の状況で生き延びるには、全方向で伸ばすのが手っ取り早い。基本は物理、魔法を小出しに効果的な補助として使い、いざという時は我の力を使う、そういう風にな}
「なるほど~~。凄く納得した」
{差し当たってはMLとSLを上げることだ。励めよ}
「了解だ!さくさく進歩するから遣り甲斐あるし!」
{ふふふ、自己鑑定というスキルで確認できるというのは良いものだな}
クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法F
石礫E
精霊術
練霊素/精霊の声/竜気
超取得/超成長/超回復/探知
スペック
FL19-28D(237)
フィジカルレベル19
戦闘力28
ランクD
次のレベルまでの必要経験値237
ML7-9/9F(28)
マジカルレベル7
魔力量9
ランクF
次のレベルまでの必要魔術経験値28
SL10-12/12E(15)』
スピリチュアルレベル10
霊力量12
ランクE
次のレベルまでの必要精霊術経験値15
スキル
剣術D/槍術G/投石術F
装備
ミスリルソード150、ミスリルチュニック100、革のブーツ2
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D良い