闇竜の実力と新生冒険者ギルド
まず闇手。これは5本指を備えた闇魔法の手。殴る・掴む・ちぎる・握り潰す、そのほか繊細な動きも可能な万能系。
闇糸は、縛る、支える、そして張力を保てば対象を切断できる。糸自体は超頑丈で滅多なことでは切れない。敵の首に巻いて引っ張ると、首ちょんぱとのこと。多数本同時展開可能。長さ無制限。
闇針は、飛ばして、刺す、貫通させる。静かに使うと小さい穴を、表面をけば立たせて高速回転させると大穴を穿つ。多数本同時展開可能。
これらは、各技の同時展開も可能とのこと。ただし霊力が保てばという前提で…。
そして傀儡。これがえぐい。闇の力で屠った敵の死体を操って味方に出来る。まあゾンビですな。闇の力以外の方法で死んでも、闇針に闇糸をつけて打ち込めば傀儡化が可能らしい。
傀儡化は、死体の形が残っているのが条件。
例えば頭部爆散なら首無傀儡となり、首を綺麗に切断していれば首無傀儡と生首傀儡に出来るとのこと。
なお、傀儡の活動は当該戦闘のみに限定され、戦闘が終了すると消滅する。
自分(この場合は俺のスピリチュアルレベル)よりランクの高い敵は傀儡化不能。
なので今はランクB以下の魔物しか傀儡化出来ない。
氷魔法の氷砕は、自分よりランクの低い敵10体までを、凍らせて直後に砕いて細片にする(傀儡化不能)。
氷焉は、敵1体を芯まで完全に凍らせて塵にする(傀儡化不能)。
「なぜ塵になる?」
闇{さての?}
マット「核子の振動及び反発力がゼロになり、空間が潰れて核子だけでまとまるからだと思うよ」
ALL(俺含む){?}
と、とにかく、実に強力だ。闇竜だけでひとり軍隊と言えそうだな。
闇{攻撃特化じゃから、盾も結界も出せぬ。悪しからずじゃ}
「守り特化の聖竜の逆パターンか」
闇{まあ、悪さをする前に殲滅すればよいのじゃ。おーほっほっほ}
聖{主や皆さんが立ち回る分は残さないとだめですわよ}
俺その他{……}
ま、まあ、次は俺の新魔法を見てみよう。
闇魔法は使えなかったが、氷魔法が手に入った。
氷縛。敵を凍らせて動きを奪う。弱い敵ならこれだけで屠れる。
氷杭。敵の体に氷の杭を打ち込む。現段階の俺としては最大威力の攻撃魔法になるはずだ。
そして技能系魔法の付呪。これがーなんと、なんとー。
道具に魔法の力を付与する魔道具化の能力だった!
魔剣や魔盾、魔弓に魔ブーツ。夢が広がる。
付呪には魔石が必要で、発現する効果は俺のイメージ力次第らしい。
魔石の属性で発現効果が限定されることはないが、属性が適合しているとエネルギー効率が上がる。
武器や防具以外にも、日用品や薬品なんかにも付呪できるようなので、後で色々と実験してみたい。
*****
せっかくなので、ランクAの洞窟にもう一度潜ってみることにした。
影蜥蜴が現れた。闇竜が闇針を飛ばして頭に大穴を開けて仕留めた。
影蜥蜴が2匹現れた。闇竜が闇針を飛ばして2匹の頭に大穴を開けて仕留めた。
「おぅ、早いな!」
闇{これではつまらんの。攻撃パターンを変えてみるのじゃ}
聖{さっきも言いましたけど、主や皆さんが立ち回る分を残すのです}
闇{ぐ、分かったのじゃ}
更に先へ進む。
影蜥蜴が3匹現れた。
風槍を飛ばそうと蜥蜴が口を開けたところを、俺の新技の氷杭が貫く。蜥蜴は即絶命。
「これ、飛ばずに貫いた形で出現するんだ!」
闇{敵が硬いと半刺さり状態になるから、その時は杭の頭を叩いて打ち込むのじゃ}
水{ひー}火{怖いよぉ}風{変態的ッスね}
もう一匹の蜥蜴は天井に張り付いた状態で頭を上下してペコペコし始めて魔散術を出そうとしたところを、闇糸で前足ごと頭部を巻いて拘束。発動の動きが止まって魔散術は不発。
前足の支えを失って、後ろ足だけでぶらーんと垂れ下がった際に、糸を引いて前足と胴体を切断する。
後ろ足と胴体の半分を天井に残したまま、バラバラになった前足と頭部が落下する。
カラーン。蜥蜴は空中で瘴気に散じて、地面に堕ちた時には魔石だけになっていた。
最後の一匹は、石弾、落滴、風刃の同時着弾、とどめに爆。
地水風火竜のタコ殴りで、倒すまで一瞬でした。
「いやー、楽だわー」
こんな調子で、いよいよ例の広間へ到達した。
うん、前衛に影蜥蜴人が3体、後衛に影蜥蜴が3匹の布陣で待ち構えているよ。
聖竜が影蜥蜴の前面に聖結界を展開して、敵の前衛と後衛を分断する。
「地火風水竜には蜥蜴対策を頼む」{{{{おー(コクン)}}}}
地{ペコペコが始まったら集中攻撃して魔散術を抑え込むぞ}
ひとまず蜥蜴の援護の心配が無くなったところで、敵前衛の蜥蜴人に集中だ。
弓を持つ影蜥蜴人の1体を、2本の闇手が襲う。片手がぱー、もう一方がぐー。
おう、闇手でかい!太い!
2本がバチーンと力強く打ち合わされ、次に両手が離れた時には、そこにはもう魔石と弓があるのみだった。おお、蜥蜴人が持っていた武器は残るんだ。
盾を持つ蜥蜴人に対しては、両足首に闇糸が巻き付き、転倒させたあと、引き絞って足首を切断。
足が再生するまでのしばらくの間、こいつは行動不能だろう。
もう1体、槍をもつ蜥蜴人は俺が相手をする。ともに槍同士。
数合打ち合った感触では、技量は俺が上、身体能力は蜥蜴人がかなり勝り、獲物の槍の性能では圧倒的にグンニグルに軍配が上がる。
ということで槍使いとして相対しても勝てるはずと踏んだ。
まともに打ち合って反発して弾ける槍と槍。だが返しは俺の方が早い。敵の返しが不十分なまま再度打ち合って敵槍をかなり押し込んだところで、狙いを変えて足下を斬り払う。
踏み出した足を浅く斬られてダメージを負い、かつバランスを崩した敵が苦し紛れに放った突きを、巻き込むように弾き飛ばして、槍を反転させて石突で鳩尾に突き!
体をくの字に折って苦悶する蜥蜴人のがら空きになった顔面に、再反転させて衝撃をたっぷりと纏わせたグンニグルの穂先からの渾身の突きを叩き込む!
吹き飛ぶ蜥蜴人。生命反応消失。よし、残りの闇蜥蜴人はあと1体だ。
見ると、切断されていた足を再生し、すっくと立ち上がった蜥蜴人、だが両腕が無かった。
あ、闇竜ったら、あの後で腕も切断してたのね…。
しかしその両腕もみるみる再生し始めてており、今度はどうやら双剣スタイルと思われる。
完全復活まで大人しく待ってられるか!
仁王立ちする蜥蜴人の首、胸、腹に氷杭の3連発を発動する。
現れた氷杭は、3本とも先っぽがわずかに埋没した状態に留まっていた。抵抗を受けたようだ。
「これが半刺さりか。流石にハナから貫通は無理だった」
闇{そういうときはー、ぶっ、叩、く!}
闇手の拳が、どん!どん!だーん!!と3本の杭頭を殴りつける。
首と腹の氷杭は貫通し、胸の杭は根元まで埋没した。
直後に蜥蜴人の体は滅して瘴気に還り、魔石と盾と2本の剣が残った。
肆竜が相手をしていた後衛の影蜥蜴の方も、片付いたようだ。
よって広間の集団戦は終了だ。
「影蜥蜴人の再生能力は強力だから、即死させないとだめなんだな」
魔石と武器を回収しながら確認する。
風{影蜥蜴のリポップは、影蜥蜴人と連動してるッス。影蜥蜴人が1体死ぬと、蜥蜴1匹はリポップしなくなるッスよ}
そういう仕組みか。
影蜥蜴人と影蜥蜴がセットで複数出て来ると、手強いな。
というかこの広間の敵は段違いに強い。
もう少し段階を踏んでもらいたいところだ。
冒険者が初見で入ったら軽く全滅するよ。
ちなみに、蜥蜴人が持っていた武器は、炭素鋼というか炭素系セラミックというか、軽くて硬くて切れ味がいい。粘りにやや不安があるがなかなかの武器だ。良い値段が付きそうだ。
その後、傀儡の力を試すためにランクBの洞窟に入った。
ここで出るのは影狼と影蛸。少数だと面白くないのでサクサク倒しながらどんどん奥へ行く。
ちょっとした広間に影狼が10匹に影蛸が5匹。よし手頃だ。
闇{まずは闇針で、狼と蛸を1匹ずつ倒してと。さてお前たち、妾の配下となるのじゃ、よいな!}
体に数本の針が刺さって死んでいた狼と蛸の体が蒼黒く光りはじめ、むくっと起き上がる。
「はいそこの水竜と火竜、蒼黒く光らない!」火水{{(むくっ)}}
うん?精神的に負けても傀儡になる?
闇{いや、あれは単なる気の迷いじゃ}
とにかく、魔法生物でも瘴気化する前で死体が残っている間は傀儡化出来るようだ。
霊力の消費は1体あたり15の標準仕様でお手頃だ。
これが傀儡かー。傀儡は、色合いは薄気味悪く、生々しい傷跡も気持ち悪い。何よりも目が逝ってる!
動きは生前より明らかに遅い。
あ、傀儡が魔法で他の影狼を攻撃した。闇球と闇矢?
生前は基本4属性魔法を放っていたのに、同等レベルの攻撃魔法で属性が闇魔法に変化している。
ということは、魔法戦では生前より強いということか。
傀儡が狼2匹と蛸1匹を新たに倒した。
闇{妾の配下となるのじゃ}
おー傀儡が増えた。
影狼が傀儡に接近戦を挑む。俊敏さの違いで傀儡不利か、首筋を噛まれて早くも窮地に陥った。
しかし後足の爪を相手の脇腹に打ち込み、共倒れを狙う傀儡。傀儡だけに不屈の闘志!(どお?)
ALL{……}マット「無理しなくていいと思うよ」
激戦の末、狼2匹がともに倒れる。相打ちの共倒れか…。
闇{妾の配下となるのじゃ}
おー、今倒れたばかりの狼2匹がどちらも傀儡となった。傀儡狼は傀儡のリサイクルだ!
闇{死体が使える状態なら、何度でも再登場できるのじゃ}
「ということは、一見引き分けでも実は大勝利!?」
そうこうするうちに程なく、狼も蛸も全部が傀儡かあるいは死体になってしまった。
闇{戦闘終了じゃな。妾の大勝利じゃ。おーほっほっほ}
存在条件が満了して傀儡は消滅し、あたり一面に闇の魔石だけが残った。
「むー、凄い。経験値もきっちり入ってる。…気持ち悪いのと闇魔石だらけになるのがアレだけど」
それにしても、闇竜が加わったおかげで俺達の戦闘力は大幅に上昇したな。
闇{おーほっほっほ♪。若輩殿よ、もっと褒めてもよいのじゃぞ}
「ただねぇ、この性格がどうにかなるといいんだけど」
聖{すぐに慣れますよ}「どっちが?」聖{闇竜が}
(俺と肆竜){え!?} 少し遅れて聖竜が{え、え!?}
…疑問だ。聖竜さん見通し甘過ぎるんでは?
*****
俺の冒険者カードは自動的にAにランクアップしていた。
例の登録機とカードを冒険者ギルドのシステムとして導入したので、各種記録の更新が自動化して超便利になった。
何でも魔物の魔石状態の変化?とやらで、戦闘や討伐の状況を感知して記録して編集するらしい。
登録機とカードの性能と使い方の指導は、もちろんマットが行ったが、ギルド職員は目を丸くして驚いていた。
見た目ただの小さな白兎が、さも得意そうに、かつ偉そうに振舞うから無理もないけど。
ほんとはシステムの性能の方に驚いて欲しかったんだけどね、そこが霞んじゃったという…。
装置の扱いはごく簡単で、実際はキーボードのタイピングに慣れてもらうだけで、超先進のカード管理システムが導入出来た。自動更新はさすがに日本でも未実現の技術だけど、ここは魔法世界だからねー。
なお登録機の作動及び高機能冒険者カードの生産には、かなりの魔石を消費する設計だったが、マットの魔改造によって、周囲の魔素を取り込む自動魔素活用機構が追加され、燃費の心配がなくなった。
なんでも1の魔素を消費して2の魔素を取り込むので、壊れない限り永久に動くらしい。
「魔素工学の最高峰、このマット様にはその程度のことは朝飯前。むーふっふっふ♪もっと誉めてくれていいですよ」
マットよ、そういう変な言い回しは覚えなくていいんだぞ。
闇{げふん、げふん}
冒険者ギルドの建物も出来上がった。外観は石造り。内装は木が主体の丁寧な仕上がり。
カウンターには20歳前後の綺麗どころの受付嬢。奥には強面のギルドマスターと有能そうな職員達。
このあたりの仕様もばっちり。
そうそう、もちろん1階には酒場兼待機所完備だ。
ただ1点、想定と大いに異なったのは…。
見渡すと、上等の装備を揃えた領家の子女風の若者や子供達が多い。そう、ここの冒険者達は品が良い。
まあ、旧貴族や騎士、衛士、神官、役人の冒険者登録を推奨してるしね。
子供が多いし。引率や巡回もあるし。
傭兵は少数派で、ガラが悪いと浮いちゃうから、周囲に合わせようと必死なのである。
「冒険者たる者、紳士たれ!」「冒険者マナー講座開講。参加費無料」「初心者セット低額貸付中」
などの各種の張り紙が張られている。
髭ぼうぼうのむさ苦しい傭兵風の男が、受付嬢に初心者セットを進められている。
「服及び装備一式をお渡しします。お風呂と床屋サービス込みです。料金は良心的なこの価格!依頼をこなしながらの分割返済となりますからご安心ですよ」
「お、おう。それで頼む」
まあこっちの想定外は良い方向に外れているからいいかな。
ケフでは、『冒険者』っていうと、信頼とか安心とかっていうブランドイメージなんだよね。
日本でいうと、警察官とかお医者さんとか役所の人とか、そういう感じかな。
ランクが上がるほど、ブランドイメージに磨きが掛かって来る。
まあプライドを持って取り組んでもらえるんだからそれでよしだな。
ちなみに俺は現在唯一のランクA冒険者となっている。
役職を押し付けられそうになったけど、それは何とか逃げた。
グランドマスターとか、会長とか顧問とか…、怪し過ぎるよね。
ただ、ギルド創設に大功ありとして『名誉冒険者』にされちゃったけどな。
それでも、いち冒険者であることに揺ぎ無し。
変な責任やらお役目やらは負わないぞ。はっはっは。
冒険者達の活動環境も上々だ。
ギルドでは訓練も充実しているし、寄せられる依頼も増えた。討伐対象の魔物には事欠かない。
まじめに活動している冒険者は順調にランクアップしていってる。
ランクB冒険者やランクAパーティーもぽつぽつ出だした。
基準に達した冒険者達は、頃合いを見て、ランクBの洞窟やランクAの洞窟にも連れて行こう。
あの周辺の環境が落ち着いてくれば、温泉と鉱山の開発やら、廃墟の街の復興やらに手を付けられる。
楽しみだなぁ。冒険者達、頑張れ!