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戦のその後と水中螺旋階段

ケフとオーツ間の戦闘は、それなりの規模であったが、こうして開戦から僅か数時間で終了した。

ケフ側には軽微な人的物的な損害のみで、死者はゼロ。

一方オーツ側には甚大な被害が発生しており、特に船舶は民間船の徴発まで行っていたものが全滅してため、オーツの生命線である湖上運輸業が操業不能となった。


ケフはオーツから莫大な補償金を獲得しただけでなく、聖結界の壁で隔てられて無事だった保有船舶で独自の湖上運送業を興すとともに、船舶の一部をオーツに貸し出して長期的に賃料収入を得ることができるようになった。

オーツの経済力と威信は地に堕ち、独占権を利用した高額な運賃契約や不当関税は廃止された。

湖岸諸国はこの変化を歓迎し、ケフとの友好関係を強め、ケフを事実上の盟主とする緩やかな連合体が形成されて行くことになる。

*****


王「こたびの戦、功一等はもちろんマサト殿じゃ。報償を取らすぞ。なんぞ望みはあるか?」

俺「うーん、今のところ特に欲しいものは無いですねー」

王「相談役の位階を上げて、給与や相談料を高額にしようかの?」

俺「いや、それは絶対やめて下さい」{これ以上縛られてはかなわないもんな}

王「ではGかの。つまらんが、邪魔にはならんだろう」

こうして報奨金10万Gをいただくことになった。10億円相当か。凄いな。でも俺ってお金が不要な体質…。


お金を持っててもしょうがないので、土地を買ってみた。

まずはBランクの魔法生物が出現する第2の瘴気の洞窟及びその周辺の鉱床と温泉源のある一帯の土地。

最寄りの街であるメカオに所有権があることになっていたが、所詮は手付かずの未開の土地。

二つ返事で、僅か1万Gで獲得できた。

ついでにその先の第3の洞窟と廃墟の街周辺も1万Gで購入。あわせて2万G。


「我が街の領土の土地所有者は、我が街に税金を納める義務があります。土地所有税が初年度2000G、以降は年間200Gです。所有地から利益が上がった際には益税。開発地指定中はわずか1割相当額です。ただし、所有者には開発責任がありますから、鋭意開発に努めて下さいね。」

売却したメカオの街の責任者はホクホク顔だ。今までほったらかしにしてたくせに…。

どこから手を付けていいのか見当もつかないが、趣味としてぼちぼちやって行こうと思う。

幸いお金はまだたっぷりあるので、税金の支払いは苦にならない。

*****


「さあさあ、新作『禁忌再び』の上演が始まるよー」

呼び込みの声がうるさい。

ケフや周辺諸国で、『禁忌モノ』と言われる一連の演劇が人気だ。

シガキの街や中央湖で大暴れしたり、シガキやケフや果ては人魚の姫達との悲恋話になっていたりする。

娯楽の少ないこの世界で庶民に大受けなのだ。このブーム、いつまで続くのだろう。


『禁忌のバサード』って、聞いたことはあったけど、まさか俺の話と一体化して、俺がバサード化してしまうとは!いくらなんでも安直過ぎるでしょ!

伍竜{{{{{ふふふふふ}}}}}

なんだよもー、お前たちまで。

あー頭痛い。


演劇は劇場に入らなければ済むが、『禁忌モノ』の吟遊詩人の唄が聞こえてくると嫌でも耳に入ってしまう。いやもう、酷いモノで、一度は聞いてしまったが、以後は耳を塞いで逃げ出すことにしている。

キース「まあまあ、今だけだって。そのうち収まるから」

ララ「別にいいじゃない?面白いのに。何で嫌がるかなー」


いやぁ、だってさ、あることないこと…。

とりあえずは親しい仲間達中心に、『バサード』は創作されたヒーローでマサトとは別物とのネガティブキャンペーンをやってもらってるはずなんだけど、肝心のメンバーがこんな感じだから…。

はぁ、頭痛い。

*****


その後も、訓練と模擬戦と洞窟討伐は毎日のように続けている。

でも今日はそれらを休んで、非日常のちょとした小旅行に出掛けてみた。

タグ北東の山頂付近のハーピーの巣を抜けて、毒蛇の通路も飛び越えて、猿の巨像の扉も空けて、例の水中螺旋階段のある深い泉までやってきた。

突風で飛翔できると、ここに来るのがこんなにも楽チンだとは。

前回来たときは地火水の参竜だけだったけど、何度も死にそうになったっけ。

そして、ここであの珊瑚の指輪の出番である。


サイズの合う中指に嵌めて、さあいざ水中へ!

顔が水中に没したが、ふうむ普通に呼吸が出来る。水を鼻から出し入れしているわけじゃない。

空気中で呼吸をしているのと何ら変わらない。

水が瞬時に空気に変じている?

あるいはどこか別の空中にリンクしていて、そこの空気を呼吸している感じかな?

まあ仕組みは謎だが、とにかく水中で呼吸が出来るのでそれでよし!


水中螺旋階段を降りて行く。

中心部は縦穴と言うかチューブ状になっているが境界には透明な壁があって透過出来ず、階段部分をぐるぐる回りながら降りて行かざるを得ない。

だいぶ降りて来た。頭上の水面が遠く小さくなってきた。

中心部の壁部分がほんのり明るく階段を照らす。


うん?前の壁に直径10㎝程の丸い穴が開いている。

あ、何か出て来た。魚か?何か青い半透明なものが出現して一瞬で中央の透明な壁に突入し、そこを突っ切って反対側に抜けて、消えた。

しばらく見ていると、今度は逆側から出て来て、中央部分を超え、穴の中に消えて行く。

今度のは赤かった。色違いの魚だ。


風{形は魚だけど、魔法弾ッス}

「え、あれ攻撃魔法なの?」

試しに植物素材で板を出して穴の前に差し出すと、魚はほとんど抵抗なく板に穴を穿ち貫通した。

「わっ、結構威力があるぞ!」

聖{地火風水の4属性があるみたいですね}

水{魚、泳いでる}

火{少し軌道が変わるね}

地{発射間隔は一定だな}


4属性魔法弾は形状が魚型で、身をくねらせて僅かに軌道を変化させるので、回避の際には注意が必要だ。

といっても、2秒に1発程度であり、頭の高さの穴なので屈めば余裕で回避可能だ。

「あ、穴が消えた」

通り過ぎると穴は閉じた。そして前方には今度は二つの穴と出入りする4属性魚弾。

「段々増えて行くのかな?」


そうだった。しばらく進むと前方2~3mの範囲に穴が数十個になり、魚弾幕が厚くなって来ている。

「まだ大丈夫だ。でもこれ、どこまでエスカレートするんだろう?」

石盾を出してみたが、なんと一発で砕けた。

試した結果、相性の良い属性の盾だと1発だけは耐える。

フラットな属性盾だと砕けるがかなり魔法弾魚の威力を減殺する。

相性の悪い属性だと威力の減殺もそこそこにとどまったまま通過されてしまう。

なお聖結界は固定タイプだし、大規模に展開すると薄くなってしまって今回の魔法弾魚向きではない。


念の為、4属性の盾を左右に、各2枚ずつ、合計8枚展開して先に進む。

ミスリル防具フル装備で進むが、盾を通過した足の速い風弾魚に一発被弾してしまった。

中央の壁を抜けて捩れて来るのを避け切れず、脇腹を掠めた。

ミスリルスーツは破れなかったものの息が止まるほどの衝撃。これは直撃を受けるとやばい。


いよいよ魔法弾魚の攻撃が激しくなる。もはや壁面の半分は穴だ。弾幕という感じになって来た。

聖{穴に聖結界で蓋をしてみます}

これは英断だった。ひと穴あたり射出を2発、つまり4秒間防ぐことが出来る。

進行速度に合わせて、聖結界の蓋を先へ先へと展開しながら、魚弾を一時的に沈黙させつつ螺旋階段を降り進めて行った。


「ふー、やっと魚弾地帯を抜けたようだ」

壁の穴は消えていた。足下に透明な床が出来ており、どうやらここが底のようだ。

横壁に僅かに切れ目があるのを見付け、そこに手を当てると、すぅーと横滑りして入り口が開いた。

そこから先は水平な通路。滑らかな金属の壁と、歩くに連れてそれに合わせて面で発光する天井。

S字カーブの先が行き止まりになっており、細かい幾何学模様で美しく装飾されたドアがあった。

ドアノブらしい取っ手を握り内側のレバーを押すと、ドアが開いた。


そこはこざっぱりとした部屋だった。広さは30畳ほど。

部屋の右側に大きな窓がある。窓から外の景色を眺めてみると…。

「な、なんだこれ。どうしてここにこんなものが!」

窓の外には広大な都市が広がっていた。

奇妙な形の高層ビル群、立体的な道路。そして上には空と雲。

東京の湾岸地区とか、上海かどこかの景色に近い。

いやそれよりももっと未来的な感じか。進んだ文明の香りがする。


部屋の反対側の壁にはエレベーターのドアがあった。

それによるとここは52階。

下のボタンに触れると、エレベーターのドアが開く。

乗り込んで1階を指定するパネルにタッチ。

なんの音もしないが、光点の指標は下降していることを示し、重力の変化で確かに下降していると判る。

そして1階に到着した。




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