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竜だ!

翌朝、このねぐらを引き払うために荷物をまとめた。

「エレメントに挨拶しておこう。おーい」

{ナアニ、アッ}{イッチャウンダ}{オワカレダネ}{ゲンキデネ}

「ああ、ここを出るよ。でもエレメントはどこにでもいるんだろう?」

{ウン、ドコニデモイル}{イツモミマモッテル}{タノシカッタヨ}

「???」


エレメントのいつもの子供っぽいノリでの、旅立ちと別れの芝居なんだろうか。よくわからん。

荷物は少ない。蓋付土鍋とナイフを背嚢に入れてと、これだけか。

ねぐらにも体にも浄化の魔法を掛けて、さっぱりしてから、さあ出発だ。


隣街までは街道を歩いて3日だったな。

街道は山賊に狙われそうだから、丈高い草の草原や浅い森の中を街道沿いに進んで行こう。

探知で大雑把な気配は探れるから、強い敵のいるところは迂回して慎重に行くぞ。


行きがけの駄賃で、出会った弱い魔物は倒しつつ進む。もちろん逃げた魔物は深追いしない。

「数日で俺も随分強くなったなぁ。民間人レベルを超えて、兵士としてもまあまあのセンじゃないか?超取得と超成長は伊達じゃないよなぁ。それに、探知で強い奴は回避できるし、食料は困らないし。なんだかんだで自活できる能力が備わってる。ありがたやありがたや」

しかし、ちょろちょろと出て来る魔物を倒し続けているうちに、方向があやふやになった。


「隣街へはこっちでよかったかな?エレメントに聞いてみるか。おーいエレメント」

…しーん。

「エレたーん、おかしいな?精霊の声発動してるよー」

ピコーン!カッ!!

うわっ、なんだこの光は!?


{む、我を呼んだのはこやつか?}

あれ?エレたんらしくない。尊大な、上から目線の物言い。

ふわふわの光の粒子も見えないし、えっと上からの視線を感じるから…、見上げると、なんかいる!

{お主は}

とだけ言って、それはふっと消えた。


「なんだったんだ?そう言えば、チャイムも鳴ってたな」

ステイタスを確認すると、点滅しているのは精霊術。中身をみると『精霊の声/竜気』となってる。

竜気、これが新たに獲得したものだ。

「てことはあれは竜だったんだ。なんか透け透けだったから良く分からなかったけど。それにしてもなぜ直ぐに消えた?」


スペックのSLのところを確認すると『SL10-0/12E(51)』となっている。

「スピリチュアルレベルが10に上がった。それと霊気がゼロになってる」

霊気の回復を待ちながら考える。

「SLが上がって竜気を獲得した。それで精霊の声の発動に竜が反応した。竜が出て霊気がゼロになった。

うーん、バグの発生?」

などと考えを巡らせているうちに、霊気が回復して満タンになった。さすが超回復。


「えーと、竜さん、出て来て下さい」

カッ!一瞬の眩い煌めき。来た来た。あれ、いない?

{ここだ}

あっ、上じゃなくて隣にいた。

「あ、どうも。うん?さっきより小さいですね」

さっきは馬鹿でかかったように思ったんだが、今隣にいる竜は俺と同じくらいの大きさだ。


{お主のレベルが低いのでな。出力を抑えた。これならしばらく持つ}

「うわ。いきなりレベル低いって。とにかく貴方が出ると俺の霊力が消費されるんですね」

{お主は何も知らんのだな。相当の変わり種か。それとだ、敬語は使わんでよいぞ}

「でもですね、貴方が凄く偉そうな感じですから」

{確かに我は偉大な存在ではあるが、この喋り方はクセだから気にするな。まあとにかく、敬語はウザいからやめろ}


「分かった。俺は確かに何も知らないし、変わり種なんだろうと思うよ」

俺は竜に、数日前に召喚されてこの世界に来たばかりであることを伝えた。ステイタス画面も見せた。

{なるほどそういう事情か、それで得心した。珍妙なことになっておるのも道理}

「えーと、どの辺りが珍妙なのかな?」

{そもそもだ、精霊の声という素養は非常に珍しい。精霊の気配を感じたり報せを一言聞くのがせいぜいで、精霊と普通に会話するなど、この我でも聞いたことがない}


「え、そうなの?エレメントとずっとお話ししてたけどね」

{はっはっは。エレメントと話しておったと。それでか。お主はエレメントに非常に好かれておるな}

「そっかぁ。でもさ、エレメント出て来なくなったんだよね」

{そりゃあ、我のような高位の精霊がおれば、エレメントは近づくこともできん。しかしなエレメントが好意を持っておるので、我はお主のもとではとても活動し易いのだ}


そう言うと、竜は再びふっと消えた。時間切れか?『SL10-0/12E(50)』うん、霊力が底をついた。

竜の存在時間は3分くらいかな。ウルト〇マンみたいな奴だなぁ。

でも高位の精霊と自分で言うだけあって物識りだ。また呼んで色々と教えてもらおう。


「竜さん、さっきぐらいの時間で消えちゃうんだね」

{我のことは地竜と呼ぶがよい。そうだな。出力をもっと落とせば長くはなるが、話が出来る程度となるとあれぐらいだ}

「今は隣街に行くところだから、歩きながら話そう。隣街の方向はこっちでいいのかな?」

{大勢の人の気配は二つある。近いのがこっち、遠いのがあっちだ}

「了解。じゃあ遠いあっちの方へ行くよ」


隣街への進行を再開する。

「さっきの話の続きなんだけど、俺の珍妙なところって他には?」

えにしを結ぶ精霊がいきなり竜というのはあり得んほどおかしい。第一お主は竜気の使い手にしてはレベルが低過ぎるのだ。我はお主の霊力を経由して活動するからのぉ。霊力が少ないので直ぐに消えてしまうと言うわけだ}

「SL10だと低すぎるのかぁ。どれくらいあればいいの?」

{まあ最低でもSL80は欲しいな。それだと霊力が1万くらいだ}


「うわぁ、遠い、遥かに遠いぞ」

{ははは、まあ普通に考えればそうだが、おぬしは超成長などという反則技を持っておるからな。割と早めに到達できるだろうよ}

「だといいんだけど。あ、そういえば、SLはどうやれば上がるのかな?」

{霊力を1度使い果たすと経験値1を得る。それと霊力を使って魔物を倒すと効率的に経験値を獲得する}


「そうだったんだ。でもさ、どうやれば霊力を使って魔物を倒せるんだろう」

{簡単だ。我に倒せと告げれば良い}

「なんと!じゃあさっそく、手ごろな獲物を探そう」

{上空にカイトがいる。あれをやろう}

見上げると、小さな鳥影が見えた。でも随分と遠い。


{問題ない。石弾ストーンバレットで行くぞ。それ!}

パンと乾いた音がした。

鳥影がパッと弾けて、スーッと落ちる。落下地点をしっかりと確認した。

地竜は既に消えている。

『SL10-0/12E(42)』か、今の霊力は12だもんな。あんなの一発撃ったら、そりゃ消えるよなー。


落下地点にたどり着いた。

鶏よりも小さくオウムよりも大きな鳥の死骸があった。これがカイトか。

うわ首から上が弾け飛ばされてる。ということはあの距離で狙って頭に当てた!?

{むろんだ、造作もない。カイトはランクDの風属性の魔物。獲得できる経験値は7だ}

「頭直撃で、クリティカルヒットだった?」

{いや、我の攻撃は土属性ゆえ、風属性のカイト相手ではクリティカルにはならん}


「どういうこと?」

{ふむ…今のところは基本4属性が判れば足りるな。火、水、土、風という4つの属性がある。

火は水に弱く、風に強い、土と火は弱くも強くもなくフラットな関係だ。水は火に強く土に弱い。土は水に強く風に弱い。風は土に強く火に弱い。火<水<土<風<火という関係だ}

「それで、あの鳥のカイトは風属性で、地竜は土属性と。あれ、でも苦手の風属性のカイトを石弾で一発だったね」

{相性が悪くとも、圧倒的な力の差があれば問題ない}


せっかくの鳥肉なので、その場でカイトを捌いて、焚火で焼くことにした。

もちろん周囲への警戒は怠らない。

焼けてきた。良い匂いがする。

「そろそろいいみたいだ。地竜も食べる?」

{いや、我は飲み食いはせん。お主の霊力が我の活力源だ。お主が食って精をつけるがよい}

「さいですか。んじゃ遠慮なく。ハフハフ。おー美味い。この世界の食べ物はどうしてこうも美味いか」


{においに釣られて獲物が寄ってくるぞ。我はいったん引く。危うくなったら呼べ}

地竜が消える。

あー、確かに何か来る。今までの俺なら避けていたクラスの魔物だ。

でも今は地竜がいるから心強いな。

俺は接近する魔物を気にすることなく、焼カイトをはふはふ食べ続けた。

ガサガサガサ。向こうの藪が揺れた。来るぞ。




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