王の謁見と七星結界
冒険者ギルド試験運用開始から7日目に、王様との会見が実現した。
場所は王宮の第2会議室。
改革派からはユリア、ヒルマン、両副長、そして俺。
対するは、王ビバディ=ケフ、宰相、魔法衛士団団長メサロア、近衛騎士団団長ブルグ。
宰相は改革派メンバーでもある。
王は小柄で細身、のほほんとした性格ながら要注意?とのこと。
メサロアはフードを目深にかぶる謎人物、ブルグはがっしりした長身で厳格そうな感じ。
「冒険者ギルドの試みは成功しているようだな。大儀じゃ。そのまま改革につき励め」
王が淡々と述べる。これはお褒めの言葉だな。
「それで七星結界を用いたいとな。何ゆえだ?」
ユ「冒険者の実戦訓練のためです。優れた魔道具を眠らせておくのはどうかと。使ってこそです」
王「あれはなぜ眠らせておいたのじゃったかのう?」
宰「稼働に魔力を食い過ぎて、運用に過度の負担があったからです」
王「ならば、魔法衛士の手を煩わせずに運用できるならば許す。メサロア、それでよいか?」
メ「御意」
あ、魔法衛士団団長は女性だ。
王「ときに、相談役よ、マサトだったな。貴族階級の廃止についてどう思う?忌憚なき意見を述べよ」
ユリアとヒルマンの表情が引き締まる。
来たな、要注意の側面が。地雷を踏まないようにしないとだ。
「人は本来平等。生まれで全てが決定されるとする貴族制度の廃止は当然です」「ほう」
「ただ…」「ただ?」
王様は嬉しそうに食いついて来た。この方向でいいみたいだ。
ユリアとヒルマンの表情は引き攣っている。でもね、どんどん行っちゃおうよ。
俺「旧貴族をぶらぶら遊ばせて置くのはどうかと思います。その能力の差を正しく評価した上で公平に職務を割り振るのがよろしいかと」
ヒ「この際、旧貴族か平民かを問わず、適材適所で有能な者をどんどん採用すると良いと思います」
ユ「能力と実績を評価して、適正かつ厳格に昇格降格や賞罰を実施するべきよ」
宰「官僚機構を整備して適材を適所に配置するのは良策です。今のケフにはなすべき仕事が山積です」
王「なるほど正論だな。ユリア、ヒルマン、お前たちが中心になって進めてみよ」
こんな感じで謁見が終わり、廊下を歩きながらユリア達と話す。
ユ「ふー、どうなるかと思ったよ。よくあんなこと言えたね」
俺「部外者で気楽だからね。王様の七星結界に対する判断を見て、判断材料をきちんと示せば正しく判断してくれると思ったんだ。だったら、王様が見据える未来の正しさに反しない限りで、現状を正しく変革してもらおうと思って」
ヒ「なるほど、そういう操縦方法があったね!」
王の未来を見越した正しい判断、ヒルマンの能力を見抜く目、ユリアの有害な悪意を見抜く目、それらを有効活用すれば、この国の発展は間違いないと思うぞ。
*****
地下倉庫の奥まったところにそれはあった。見た目はただの埃を被った古ぼけた板の束。
俺「こんなのが神級魔道具なのかい?」
魔法衛士団副長のルモンドが答える。
「ふふふ、まあこれを作動させたら驚きますよ」
訓練場になっている空き地に半径10mの円を描き、周囲を半径で切った正六角形の頂点に魔法陣が描かれた板を配して行く。緑の魔法陣と青い魔法陣を交互に並べ、染料で緑を対角に繋げた三角形と青を繋げた三角形を描く。
周囲は白い染料の線で結んで正六角形を描く。そして中心には黒い魔法陣が掛かれた板を接設置。
「さあ、各魔方陣に魔力を注いで下さい。魔法陣が輝いて回り出したら魔力は十分です」
緑の板に魔力を注ぐ。聖魔法を注ぐと手応えがあった。1枚に付き魔力100。青の板も同じく聖100。
中心の黒魔法陣は、聖魔法は無反応で、基本4属性だと軽い手応え、無属性の生の魔力だとそれよりも若干マシ。無属性の魔力を360注ぐと、黒魔法陣も光って回り出した。
「「「おおおーー!!」」」
ギャラリーから歓声が上がる。
7つの魔法陣が回り始めると、緑と青の三角形が強く輝き、周囲の正六角形に沿ってドーム型に半透明の壁が出現し、その内部の床には黒い魔法陣が同心円上に広がりながら互い違いの方向にグルグル回る。
そして全体がピカッと光った瞬間に、緑と青の重なった三角形のライン以外は全て透明になった。よーく注視すると光の加減で壁や魔法陣が存在していることが辛うじて分かる。
俺「これで準備が出来たみたいだな」
俺ひとりで1~2分掛ければ準備出来るので問題ないぞ?
ル「…マサト殿には常識が通用しませんな」
あれ?なぜか皆納得した様子なので、突っ込むのはやめる。
その後、生きたゴブリンを使って色々と実験してみた。
六角形の結界内部で足を切断した後に外に運び出すと、その瞬間に足が復元する。
首を切断して殺しても運び出すと生き返る。爆散させても肉片を持ち出すと何事も無かったかのようにも度通り。
人間だとどうなるのか?
死刑囚で実験が行われた。
「いあやだぁぁー」泣き叫ぶ囚人を結界内で斬首。生首を結界外に出すと内部の胴体は消え、5体満足の状態で死亡したはずの囚人は再生した。
鑑定で再生前後の状態を比較したが実害なし。記憶障害もなし。痛みは普通にあるようだ。
その後試行錯誤を繰り返した結果、判明した事実は次の通り。
・死亡も含めて全ての肉体的損傷は回復する。
・武器防具、服などの損傷も回復する。
・結界内での戦闘で経験値を獲得できる。勝てば普通に。負けても少しは。
・結界内で使用した魔力、体力、薬品類は復元しない。
・結界内から外部へ向けての物理攻撃、魔法攻撃は通らない。外から内へも同じ。
・外に出る意思があれば結界の壁を超えることが出来る。無ければ跳ね返される。
・結界の効果維持は1時間。消滅前には魔法陣が点滅する。
取り敢えず、俺がいれば運用出来る。
俺がいないと動かせないというのは問題だが。
ただしその後、七星結界を使った訓練の希望者が殺到した結果、俺不在時にも魔法使いが輪番で担当を決めて一日一回は作動させることになり、やがて魔法使いの魔力が増大したり魔法使いの数自体が増加したりしたために俺不在時の作動回数も徐々に増えて行くこととなるのであった。
*****
栄えある七星結界内訓練の初戦は、作動者特権としてまず俺、対戦者は冒険者ランクCの傭兵。
「がははは、ランクBを倒して俺様の実力を示してやる!」
大剣を力任せに振り回して来たが、隙を見て長槍で心臓を一突き、勝負あり。
手加減しなくても良いので究極の実践訓練だ。
今ので経験値200を獲得した。人間相手だと同等の魔物以上の経験値を獲得できる気がする。
次は小隊長クラスの騎士、両手剣。ちなみにキースも小隊長クラスだ。
俺はミスリルソードと吸魔の剣の二刀流で行く。
相手は正統派で、なかなかの剣筋だ。動きにもキレがある。
しばし相手の技量を楽しんだ後に、ミスリルソードで振り下ろしの剣を受け止めて、同時に吸魔の剣で片腕を手首から斬り落とす。
残りの腕で剣を支え、体ごとぶつけて来たその突きを、体を捌いて躱し、ミスリルソードで剣を根元から切断し、斬り上げた吸魔で、もう一本の腕を肘から切断する。
「参った。降参だ」
小隊長が結界外に出ると、両腕は再生し、剣も元通りとなった。
俺が獲得した経験値は500。降参でも倒したことになるようだ。これはいいぞ。
次は魔法衛士隊の小隊長。火魔法使いとのことだ。
試合開始直後、相手は両手を組んで詠唱に入った。
俺はそのまま突進し、水流刃を組んだ両手に飛ばす。
「ぐわぁーっ」指が数本飛び、詠唱が中断する。ローブは魔法耐性が高いようで破れない。
相手の首根っこを掴み、口元へ手刀を突き付ける。
「さっきの水流刃を出しますよ」「ま、参った」
今度は経験値2000。美味しすぎる!
しかし魔法使いの対戦は何か考えないといけないな。
詠唱中に攻撃が決まれば楽勝だ。このままだと兵士相手では不利過ぎる。
当時の魔法ギルドから文句が出るのも無理もない。セッティングは大変で戦闘がモロ不利ではねー。
この後、開始数秒前の詠唱許可や前衛兵士の配置可などの特別ルールが検討されて行くことになる。
さて、一休みして数戦を見学した後、申し出があって、単身で集団を相手にすることとなる。
敵は騎士団から3名、魔法衛士団から3名の急造チーム。
敵の情報は無く、ぶっつけ本番。
騎士は全員フェイスガード付きのフル装備で、魔法衛士は全員灰色のローブ姿でフードを目深に被って顔が見えない。実に不気味な集団である。
さてどうするか。
火{燃やす?}水{毒霧出す?}
久々に効くそのセリフ。
{うーん、対集団戦では竜の援護もありだよなー。取り敢えず、防御に絞ってみんなの力を貸してくれ}
{よーしやっちゃうぞ}{了解だ}{(コクン)}{分かったっす}{防御なら任せてね}
そして試合が開始された。