変化の胎動と連鎖反応
冒険者ギルド試験運用2日目の朝。魔法衛士団副長ルモンドは困り果てていた。
仮のギルド本部になっている門番詰所に子供達が溢れている。さながら小学校の遠足状態である。
『草原の風』の面々が昨日の大活躍の話を周囲に喋りまくり、特に半日もかからずに6Gを稼いだ話が尾ヒレまでついて物凄い勢いで広がったのだ。風に煽られた草原の野火のように。
ルモンドはとりあえず、6歳未満を帰し、7歳以上の希望者には親を同伴させて冒険者活動の危険性を十分に説明した。その結果押しかけたうちの半分は登録を見合わせたが、なんと残りの半分は納得して登録したのである。
そう、この世界の命の値段は安い。特に子供は。
しかし、これらの子供冒険者達は、後に驚くべき結果をもたらしたのである。
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この世界ではレベルアップによりステイタスが増加するという不思議現象がある。
鑑定技能自体が稀でかつ1日の鑑定数には限界があり、しかもその鑑定技能の内容が不十分なものであるため、レベルアップによる成長という現象があることは知られていても、その詳細は明らかではない。
やがては国の上層部が詳細を知ることになり、徐々に一般常識となっていくのだが、それはまだまだ先の話である。
さて、その未来知識である成長詳細であるが、まずは『職業適性』から説明を始めなければならない。
兵士とか農民とか自由人などと鑑定画面に表示されるアレである。実際の職業と必ずしも一致するものではないが、その者がどの職業に適しているのかを示してくれる表示だ。
子供の場合は単に『子供』と表示され、10歳から15歳までの間にいずれかの職業表示が自動的に選択される。無自覚のまま、ある日突然に表示が変わっているのだ。
ここで肝心なのは、各段階のレベルアップに必要な経験値量、及び、レベルアップに伴うステイタス値の増加は、個人の素質により異なっているのだが、職業適性により一定の傾向があるということだ。
例えば兵士は比較的成長しやすく、スキルも含めて物理戦闘向きに育っていき、魔力は増加しにくく魔法を得てもほとんどは身体強化魔法に留まる。そしてレベル20辺りから成長速度が緩やかになり、30からはなかなか成長しなくなる。
農民や職人は、初期は成長しやすく特に筋力が伸びるが、レベル5で成長は遅くなりレベル10でほぼ頭打ちになってしまう。
因みに自由人は、はなから成長が極端に遅く、スキルも付きにくい。しかし、成長に目立った制限がないのが特徴である。まあ将斗の場合は超成長と超取得があるので別格なのだが。
さて話を戻すと、職業適性が決定するまえの『子供』状態の時、成長の型としては自由人タイプで各ステイタス値が満遍なく伸びる。そして自由人とは異なりその成長は早く、通常の自由人と比べるとその2~5倍の速度で成長率する。
兵士を超える成長速度で、かつ、農民の筋力の伸び並みに全てのステイタス値が伸びる。
そう、『子供』は伸びるのである!
なお、15歳未満で適性が決定した場合にも、15歳になるまではその適性標準の倍ぐらいの速度で伸びる。
更に更に、魔法の発現であるが、従来は遺伝によるのみと考えられていたが、実は後天的な環境の影響もある程度受けるものであり、パーティーに魔法使いがいたり魔物が当たり前に魔法を使う環境に長期間晒される結果、魔法使い適性の発現確率が大幅にアップした。
旧貴族の血筋はもちろん、平民の血筋からも。
そして兵士適性の者も、身体強化方面の魔法を獲得する率が上昇したのである。
徐々に子供の成長が早いことや魔法に関する好影響が知られてくると、冒険者登録は5歳から許可されることになり、特に志のある親は、自発的私的に5歳未満の我が子にガイドを付けて、冒険者の真似事をさせたりするようになった。
その結果、これらの『子供』達が大人になる頃には物凄いことになって行くのである。
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さて、冒険者ギルド試行期の話に戻るが、子供冒険者には最低1人は冒険者ランクD以上の大人が付くことになった。『引率』と呼ばれる制度である。
微妙に嫌がられて、騎士冒険者や魔法衛士冒険者の義務の一環となって行くが、一部子供好きの冒険者には喜ばれ、引専というカテゴリーの冒険者も育って行った。保父さん保母さんのようなものである。
そして子供組が結構な数になったことに応じて、救助と治癒のためのパトロールチームが結成されることになる。精鋭からなるパーティーで、『巡回』と呼ばれ、やはり騎士冒険者や魔法衛士冒険者の義務の一環となるが、引率と異なり、巡回に選抜されることは名誉と受け止められ、基本給としての日給のほか働きに応じての歩合給も出る人気の当番制となるのである。
巡回は子供パーティーが受け持つ安全地帯のほか、事故が多発する危険地帯も受け持つようになり、その結果、冒険者活動の事故率が大幅に減少することとなった。
なお、巡回のお世話になった者は一定の料金を支払う義務が課され、手持ちのない際にはツケとなった。
巡回による安全性の向上と受益者負担制は、冒険に駆り立てる動機付けとなると共に、基礎技術習得の大切さと、身の程をわきまえた冒険をしないと危険なだけでなく稼ぎの効率も下がることを広く知らしめることとなり、健全な冒険者活動に大いに貢献することとなるのである。
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『草原の風』の話であるが、最初の1か月は将斗が午前中引率した。
みんな順調に伸びて1か月後には全員冒険者ランクがEになっていた。
特にエマの成長は著しい。魔法の威力も魔力量もかなり向上した。
将斗の魔法行使を見てきた影響で、無詠唱で魔法を使うようになり、火球の射出速度はボウガンの矢と同様の素早いものになった。やはり魔法はイメージである。
エマの攻撃は既にランクDの魔物を安定的に倒す威力があるが、護衛に守られていないと不安なので真に単独討伐しているとは言えない状態である。
なので、草原の風は将斗抜きで、パーティーランクはDなのだった。それでも立派なものである。
エマはしばらくの間『炎の魔女っ娘』というあだ名がついたが、成人後はまた別の名で呼ばれ、敵を震え上がらせることになる。
他の3人も、順調に成長して行き、1か月めにして早くも、微弱ながら身体強化魔法の力を獲得するようになる。
2か月めからは草原の風には将斗とは別の引率者が付き、3か月後には引率不要になり、半年後にはなんと草原の風自体が巡回パーティーとなり、隊員4人は個人で他の子供組の引率者を務めるまでになる。
そしてやがては、クリスは優れたリーダーとして、カブは圧倒的戦闘力を持つ切り込み隊長として、ディードはバランスの取れた高い能力に加え魔剣製作者として、名声を博して行くことになるのであるが、それはまだまだ先の話。
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この時期、ケフの街にもたらされた変化はどうだったのか。
子供組の活躍が呼び水となり、旧貴族か平民かを問わず、ケフの大人達も冒険者登録に押し寄せた。
ケフ外部からも評判を聞きつけて、傭兵はもちろん食い詰めた平民や貴族の次男坊以下が殺到する。
金のある者は街中の宿屋や空家を購入したり空き地に家を建てたりもしたが、多くのものは外壁の外に寝泊まりするようになった。
冒険者筆頭とも言える将斗が外で寝泊まりしていることもあって、安心でもあるし恥ずかしくも無かったのである。
やがて日々の冒険でお金がたまってくると、ちょっとした小屋を畑に向かない土地に立てるようになり、さらに小金が貯まると小屋は売ってこざっぱりした家を建てて済むようになる。小屋は別の冒険者が購入して住み着く。
木材が不足し、木材購入が増えると共に、木こりが他の街からやってくるようになり、森林の魔物討伐や木こりの護衛任務なども増えた。
大工や木工職人、その弟子が流入し、更に家が増える。
食料が不足して値段が上がり、食料流通に加えて食品小売店や調理済み食品を出す食べ物屋が壁の外に出来始める。
農地が広がり、農民がどんどん流入して新たに畑地を作り、作物を育てる。
武具や防具が不足して値段が上がり、他の街からの購入に加えて、鍛冶屋や武器防具屋、その弟子達が他の街から流入する。
家の他、工房や商店を新たに建てることになり、木材、大工…、食品や日用品が不足し…、以下同様。
凄い勢いで街が発展し始めた。経済が回り始めた。
1か月後には、外壁から1キロ離れた周囲ぐるりと簡易な柵で囲われ、荒れ地や森林だった土地が、畑、家、商店、工房が立ち並ぶ新たな街になった。外壁内は旧街区、外壁の外の柵内は新街区と呼ばれた。
人口はあっという間に5000人増えて、1万5000人になった。
3か月後、初夏の頃には、最初の畑からの収穫があった。
祖母の趣味の畑仕事を手伝っていた将斗が持っていた現代知識である化学肥料、窒素・リン酸・カリウムを錬金で作り出し、投入したおかげで、極め付きの豊作であった。
この世界の普通の錬金術師でも肥料の三要素を作ることは可能であり、この世界の有機農法や連作制限と兼ね合わせて試行錯誤しながら取り入れられ、農業の発展に資することになる。
化学肥料はケフの特産品となり、外貨の獲得に貢献した。
なお、戦闘経験の無い者に有用なボウガンであるが、火竜が鍛冶で作り出す物は非常に高性能であり、その類似品はケフ兵士として信用できる者のみが使用する制限品となった。
ケフの鍛冶師達が、火竜のボウガンを参考に開発した威力が落ちる汎用品は、冒険者にも売却され、これもまたケフの特産品となるのであった。
半年も経つと、ケフ新街区の外もほぼ安全地帯となり、第1次柵から2キロ離れた周囲ぐるりを第2次柵が囲うこととなり、第2次新街区が形成されて行く。
人口は既に3万人を超えており、急激な人口増加に合わせて、治安維持のための新ルールや警察機構が整備されて来るようになる。
それでも人口は他の街に比べるとまだ少ないので、広い土地にゆったりと人々が暮らしており、生活環境は悪くなく、まだまだ流入民を受け入れる余地は十分にある。
街が外へ外へと広がるにつれて設備面ではまだ追い付いていないところが多いが、それも徐々に整備されて行くことだろう。
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もうひとつ見落としてはならない重要な変化は、訓練所の運用である。
これまでケフではタグのようなオープンな訓練施設は無かった。
各家の屋敷内部で密かに武術や魔法の訓練をするのがせいぜいであり、自らの未熟を公に晒すのは恥と考えられていたのである。
しかし、冒険者活動が始まると、見栄や外聞は2の次、3の次で、何よりも実力が大事であることが痛感された。長年の平和ボケが一気に解消されたのである。
冒険者活動で自らの実力は白日の下に晒されるし、冒険者ランクがはっきり示されるので誤魔化しも効かない。
自らの未熟は隠すことがままならなくなり、隠そうとしているとライバルにみるみるうちに置いて行かれてしまう。
将斗が草原の風に施していた冒険前の訓練は、他のパーティでも当たり前のものとなり、やがて正式な訓練場が開設された。土地はたっぷりあるのだ。
パーティー単位の訓練の他、練度に合わせた訓練、武器や魔法の種類に合わせたきめ細かい訓練も実施されるようになった。
草原の風の訓練で将斗自身も槍を取ったりボウガンを撃ったりしたので、槍術がスキルアップし、弓術のスキルを獲得したのはちょっと嬉しい想定外のおまけだった。
そして冒険者のみならず、ケフの軍隊にも大きな影響をもたらすある変化があった。
俺「タグでは不斬布を巻いて実戦的な訓練をやってましたよ。オーツでは採用前に実戦をさせています」
宰相「ふむ。ケフでは、かつて闘技大会というのが行われておりましてな、当時使われていたあの設備が使えるとよいのだが」
ルモンド「7星結界ですな。あれは相当魔法力を食いますので、当時の魔法ギルドの要請で廃止になったいわくつきの物ですよ。今はお蔵入りして埃をかぶっています」
詳しく聞いてみると、7星結界という装置に魔力を注ぐと、強力な結界が形成されて、外部に力が漏れないと同時に、結界内部で大怪我をしても、結界外に運びだすと即座に復元される効果を持つとのこと。
なんと四肢欠損はもちろん死亡にも対応しており、記録によれば大爆発で灰になった場合でも一掴みの灰を持ち出すと再生したとのこと。
これにより、闘技者も闘技観戦者も安全に闘技を楽しむことが出来たのだという。
問題点は、膨大な魔力を食うというその燃費性能と、外部遮断性能及び再生性能の確認である。
きちんと作動するのであれば、これほど便利な道具は無く、ケフの発展のための重要なキーアイテムになることは間違いない。
ユリア達とも相談の結果、王様に働きかけて、7星結界を引っ張り出し活用することの許可を求めることとなった。
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冒険者ギルド試験運用開始7日目夜の状況
クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語/古代神聖文字
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法B
石礫B/土槍D/石盾
火魔法B
火球B/炎盾
水魔法C
水流刃C/水盾
風魔法B
風爪C/突風B/風盾/空調
植物利用
成長促進/植物素材
聖魔法
聖治癒←NEW!
光魔法
光矢E←NEW!
金属加工
変形/修復
製薬
精霊術
練霊素/精霊の声/伍竜気
超取得/超成長/超回復/知覚同調/竜知覚(抑)
スペック
FL48-441B(32,877)
フィジカルレベル48
戦闘力441
ランクB
次のレベルまであと経験値32,877
ML49-485/485B(59,351)←UP!
マジカルレベル49←UP!
魔力量485←UP!
ランクB
次のレベルまであと魔術経験値59,351
SL50-640/534(+106)B(35,228)
スピリチュアルレベル50
霊力量534
ランクB
次のレベルまであと精霊術経験値35,228
スキル
剣術A/槍術C←UP!/投石術D/格闘術A/盾術B/弓術D←NEW!
装備
ミスリルソード150/ミスリルスーツ180/ミスリルフード100/
ミスリル手袋50/ ミスリルブーツ50/ミスリルリング(+20%)
吸魔の剣50
主なアイテム
魔収納/ミスリルナイフ/テント/寝袋/
魔石 火A、闇A・B4、水A・B10、地B10、風A
回復薬上・極10/傷薬下・極10/毒消し下・極10/防眠薬下/万能薬下/
魔力充填薬極10/魔力回復促進薬極10/霊力充填薬極10/
霊力回復促進薬極10/エリクサー極
所持金 635G
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀
B=傑出 A=達人級