ケフ周辺と北西の大森林
翌朝、俺達は意気揚々と日帰り討伐の旅に出発した。
まずは、ケフの街の周囲をぐるりと一周する。
スライムを始め、虫系、動物系の弱い魔物ばかりだ。
注意しなければならないのは、赤スライムのように微弱ながら魔法を使う魔物、ポイズントードなど弱毒をもつ魔物、そしてバットフライのように集団を形成する魔物だ。
でも、魔物が増えたという話だったけどそんなでもない、タグ辺りと変わらんなー、と思っていたら、
「凄いな。まるで辺境並みだ」
「ここまで荒んでいたなんて…」
あ、そういうことね。人間の影響力が減少して中心地域特有の都市効果が消えちゃったんだな。
「ところでこの辺りの土地は誰の所有なのかな」
「外壁周辺は全部国有地。街から離れたところは、元畑っぽいところは国有地で、そうでないところは持ち主のいない土地ね。以前は領地持ち貴族の土地だったところもあったけど全部取り上げちゃったから」
「ただで取り上げたのか?」
「まさか。もちろん相場で購入したのよ。国費でね」
「相場価格でも貴族には不評だったんだ」
「領地持ち貴族は領地経営が生きる手段だから。領地を取り上げられて今はケフでぶらぶらしてるか、他の街で領地を購入して爵位をもらって新興貴族になったりしてるのよ」
「ふーん。じゃあぶらぶら元貴族は、少なくとも旧領地のことには詳しいんだな。出没魔物も含めて」
「それはそうでしょうね」
「その知識経験を埋もれさせるのは勿体ない」
「そうね、何か考えてみたいわね」
ぐるりと一周した後は、街道に沿って北西方向に進んで行った。
街から離れると、武装ゴブリン・コボルトなどの多少手強い魔物も増え、盗賊も出没するようになった。
襲ってきた盗賊のうち5人を俺とキースで瞬時に斬り伏せ、逃げる奴らにララが短弓で追い打ちを掛けて1人を仕留めていた。
「ケフ近郊で盗賊が出るとはな…」
「このまま隠れ家を暴いてやっつけちゃう?」
「まあ今日は調査が主目的だからね。盗賊討伐はまた今度ってことにしよ」
街道に沿ってランザの街を抜け、メカオの街に着いた。
さすがに中心地域だけあって隣街までの距離は近い。
しかし、どの街もうらぶれているというか寂れているというか。人々の表情も暗い。
「ケフがダメになって来てるからから、周囲の街もどうしてもね」
「今賑わってるのは、水上交通の便の良い湖周辺の街々、特に水上交通権を独占して上前を撥ねているオーツなの。オーツは調子こいて要求がずうずうしくなって、嫌な感じなの」
ランザやメカオは失業者や傭兵が溢れている感じだ。
「うーん、食い詰め者が多いのはある意味悪くない!」
「え?」
「冒険者候補や流入農民候補が大勢いるわけだ。見ようによっては宝の山とも言える」
「そうだね!受け皿さえしっかり作ればどんどん入って来るかも!」
その受け皿は冒険者ギルドと新たに確保する農地。そして流入経路の確保。
まずはケフ周辺の土地から魔物を追い出し、動脈となる街道沿線を安全にする。
だんだんと取り組むべき課題がはっきりして来た!
メカオの街からケフに向う商隊がいたので、ユリア・キース・ララの3人は護衛に加わわって、ひとまずケフに戻ることになった。
俺はもう少し先まで探索の足を伸ばす。
「マサト、一人で大丈夫?」
「全然大丈夫。俺はみんなと合流するまでずっと一人で旅をしてたんだから。チャチャッと調査して直ぐに戻るよ」
「まあ、心配いらないさ。マサトは普通じゃないから」
キース…若干堕とされたような気がしないでもないが、まあ信頼と受け取っておこう。
*****
みんなと分かれたのは、ちょっと気になることがあって、それを確かめたかったからだ。
{なんか北西に進めば進むほど、魔素が濃くなるんだよね}
火{それは言えてる。瘴気の割合も増してるし}水{(コクン)}
{瘴気って?}
風{魔素の原型っすね。瘴気が大気成分と混ざり合って濾過熟成して魔素になるっす}
地{瘴気が濃いと魔物が生まれやすい。濃ければ濃いほど強力な魔物が出る}
なるほど。
メカオの街を抜けた後、街道を逸れて森に入り、突風を使って上空まで飛翔する。
飛べば速い。歩くのとは雲泥の差。
魔素の分布状況を感じ取りながら水平飛行で北西方向に進む。
一際濃い部分があったので降りてみると、そこには洞窟があり、魔素がドライアイスの煙のように漏れ出ていた。
中を探検してみたかったが、それは次の機会の楽しみにとっておいて、更に北西に飛ぶ。
洞窟上空から遠ざかると、魔素濃度はいったん下がったが直ぐに上昇し始め、以前より濃くなった。
そして二つ目の洞窟。漏れ出す魔素はさっきの洞窟よりも明らかに濃い。
もはや噴き出しているいう表現が似つかわしい。
更に北西へ。さっきと同様、いったん下がった魔素濃度は前以上に濃くなる。
そして3つ目の洞窟。
その手前には街らしきものがあるが何か様子がおかしい。
降りてみると、そこは街の廃墟だった。
建物や道路は崩れ、広範囲に焼けた跡がある。一部は石材が溶けてガラス状になっている。
街中の植物の生い茂りようからすると、街が滅びてからそんなに経ってない。
崩壊から1年程度というところだろうか。
誰もいないゴーストタウン。不気味だ。ヒューヒューと風の音が聞こえるのみ。
飛び上がって少し上空から丹念に見てみる。お!?誰かいるぞ。
と思ったら屍だった。ボロボロの服を着た白骨。良く見るとあっちにもこっちにも骨がある。
焼けた骨、バラバラな骨、崩れた建物の下敷きの骨、頭や手足が砕けている骨。
うーんこの街に何が起こったんだろう。
高度を上げて高空から北西方向を見渡してみる。
第3の洞窟の先は広大な森林地帯だ。魔素が非常に濃い。ちょっとその中を飛ぶのを躊躇したくなる。
この先に第4、第5の洞窟があったりするのだろうか?
おや?あれは何だろう。彼方の空にゴマ粒のような点が見える。
じーっと見てるとだんだん大きくなって来るような?
火{ヌシさん、あれ敵だよ!結構強い!}
風{空戦になるっす。もっと高度を取って速度も上げるっす}
地{北東方向、斜め上に針路をとるのだ}
水{薬飲んでて}
肆竜の指示に従って全速で進む。風竜の暴風も加わって風圧が凄い。
霊力と魔力の回復促進薬極上を飲み下して備える。
点は3つだ。やがて点から横長の線になる。時々羽ばたいているのが判る。
鳥か?いや違う。
風{飛竜っす}
火{下等な竜種、亜竜の一種だよ。あいつら生意気に属性魔法を使うからね}
「どれくらい強い?」
地{成竜ならランクAだな}
なに!?ラミアクイーンと同等のランクA、しかも3体同時だとっ!
飛竜の影が大きくなる。どんどん大きくなる。ってでかいぞ!
3体同時に長い嘴を開く、口の中に強いエネルギー反応!
各飛竜から火球、水球、風刃が吐き出された。火属性、水属性、風属性が各1体のようだ。
おっと、速度が加算されて弾速が速い!そして各弾が俺の体がすっぽり収まるほど大きい。
まず風刃、次に火球、少し遅れて水球の順に飛んでくる。
そして、第2波、第3波。
しかし全然当たる気がしない。
俺も高速飛行中であり、しかも直角方向、当てるのは非常に難しいはずだ。
竜達の助言で運動エネルギーと位置エネルギーを獲得しておいて良かった。
機動性が確保できて回避が容易になる。
敵攻撃は、その弾道解析により、発射直後に衝突軌道にあるか無いかが判別できる。
たまたま衝突軌道の攻撃がある場合には、少し針路を変えるだけで難なく回避可能だ。
全然当たる気はしないが、ただ、一発一発の威力は凄い。当たるとただでは済まない。
回避した敵弾を見ると肝が冷える。
飛竜達と交錯する。奴らは行き過ぎた後、急減速して方向転換し、俺を追尾する体勢を取る。
風{よっしゃ、かかったっす!}
いったん落ちた奴らの速度が徐々に上がる。飛行能力自体は飛竜の方が上だ。
奴らは俺の下後方についた。高低差は既に逆転して俺の方が高い位置にいる。
肆竜は背後へ向けての攻撃も自在だから、この体勢だとこっちの攻撃も当たりやすい。
風属性の飛竜に向けて火竜が爆を発動した。
初撃で成功!黒煙とともに、見事に頭部を爆散。
しばし首無しで慣性飛行を続けた飛竜がふいーっと失速し、錐もみ状態で落下して行く。
火{えへへ、あいつ全然無警戒だったから}
まずは1体を撃墜。
水属性の飛竜には、地竜が拳大の石弾を発射。5連発。
惜しい、僅かに逸れた。更に続けて5連発。
よし!頭部に命中。さすが精密射撃の名手。
先程同様に錐もみ落下。なんだか戦闘機の空中戦みたいだな。
これで2体撃墜。残るは火属性の1体のみ。
水{うーん…}
ところが水竜の落滴がなかなか当たらない。もう20発ぐらい外している。
垂直方向からの攻撃手段なので空中戦には向いてないんだ。
飛竜から火球が次々に発射される。
速度差はほぼ無いが、膨大な空気抵抗で火球の速度は静止状態よりは遅く、躱しやすい。
火{大丈夫。ヌシさんは的として小さいし、あの程度の精度じゃ当たらないよ}
だといいけど、あまりこの状態を長引かせたくはない。
「頑張れ水竜!範囲攻撃がいいかもだぞ」
水{(コクン)}
飛竜の進行方向に毒霧が連続的に発生した。毒霧に突っ込み、瞬時に抜ける。
あ、でも飛竜の飛行が乱れた。頭を振って苦しがってる。少し動きも鈍くなってきたぞ。
そこに水竜の範囲落滴攻撃。すなわち散弾状の落滴が襲う。
飛竜の下半身と片方の翼がズタズタになった。
飛竜は何とか体勢を保ちながらも螺旋を描いて降下して行く。
あ、苦し紛れに変な方向にでかい火球を吐いた。
あさっての方向に飛んで花火のように破裂する。
飛竜は木々をなぎ倒しながら森の中に不時着。すでに血塗れで瀕死の状態だ。
ふふふ、地上で静止していればこっちのもの。
水竜が狙いすました落滴で頸の付け根部分に大穴を穿ち頸椎を破壊。生命反応消失。
きっちり仕留めた。
「ふー、勝てた」減速して回り込みながら下降する。
飛竜のところに降り立って、改めてその威容を眺める。
翼の全長が15mはある。嘴の先から足先までは5mくらい。首と嘴が長い。
胴体だけでもキリンよりでかいかな。
顔は蜥蜴というか鰐というか、そこに1m近い嘴がついている。
足は猛禽類の足のように鉤爪が鋭い。翼の真ん中あたりにも鉤爪がある。
恐竜映画で見る翼竜によく似ている。
魔石を取り出して確保しなければ。
ミスリルソードを使って心臓近辺から深紅の魔石を取り出す。
『火属性ランクA』
「やった、ランクAの魔石ゲットだ」
やっぱりこいつはランクAか。
こんな奴に地上にいるときに襲われたら脅威だよなぁ。
「キアァァァァーー」
なんだ!?
瞬間黒い影が通り過ぎた。そして凄い風圧。飛ばされないようにしゃがみ込む。
しまった新手の飛竜か。さっきの火球の花火で呼び寄せたんだ。
さっそく地上静止状態で敵を迎撃するはめになるとは!
しかも余計にでかいじゃないか。今倒した奴よりもひと回り大きいぞ。
風{やばいっす。飛竜の親玉っす。しかも火属性}
地{水竜、何とかできるか?}
水{できる!}
あ、水竜が膨張した!みるみるうちに飛竜の親玉の倍くらいの大きさになる。
竜気維持のための霊力の消費が半端ない。
そしていつもは透明なのに、思い切り気配を露わにした。むしろ見せつけて威嚇した。
立ち上がり、短い前足を広げ、口をカッと開けて、吼えた。
「グリュウゥゥァァァーーー!!!」
凄い迫力。思わず俺も縮み上がる。
反転してこちらに向き直り、火球を吐こうと嘴を広げていた飛竜だったが、目を白黒させて無理矢理バクンと嘴を閉じた。嘴の合わせ目から炎と煙が噴き出す。
飛竜は急上昇し、遥か高空に達した後、そのまま北西方向に逃げ去った。
圧倒的な格の違いというものを感じ取ったようだ。
中途半端に知的な奴で助かった。
水{ふん、本気出せばあんな奴}
風{本気の威嚇、見事っす}
地{威嚇だけなんだけどな}
水{う……}
火{とにかく切り抜けたよぉ。相手がアホで良かったー}
「さっきの親玉、ランクSぐらい行ってない?」
水{そうかも}
地{可能性はある。少なくともAの上位は間違いない}
火{街を滅ぼしたの、たぶんあいつ。それで余計に成長したんだよ}
風{あいつはやばいっすね}
とにかく、助かったので良し。
倒した飛竜の魔石を回収して、いったんケフに戻ろう。
んん、なんかむずむずするぞ!?
これって何度も経験した、あれだよね。
やっぱり、自己確認画面を見ると『伍竜気』になってる。
地火水風の4属性で終わりじゃないのか。
次は一体何が来る?
*****
クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語/古代神聖文字
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法B
石礫B/土槍D/石盾
火魔法B
火球B/炎盾
水魔法C
水流刃C/水盾
風魔法B
風爪C/突風B/風盾/空調
植物利用
成長促進/植物素材
金属加工
変形/修復
製薬
精霊術
練霊素/精霊の声/伍竜気←NEW!
超取得/超成長/超回復/知覚同調/竜知覚(抑)
スペック
FL48-441B(44,665)←UP!
フィジカルレベル48←UP!
戦闘力441←UP!
ランクB
次のレベルまであと経験値44,665
ML48-441/441B(3,008)
マジカルレベル48
魔力量441
ランクB
次のレベルまであと魔術経験値3,008
SL50-640/534(+106)B(41,837)←UP!
スピリチュアルレベル50←UP!
霊力量534←UP!
ランクB
次のレベルまであと精霊術経験値41,837
スキル
剣術A/槍術G/投石術D/格闘術A/盾術B
装備
ミスリルソード150/ミスリルスーツ180/ミスリルフード100/
ミスリル手袋50/ ミスリルブーツ50/ミスリルリング(+20%)
吸魔の剣50
主なアイテム
魔収納/ミスリルナイフ/テント/寝袋/
魔石 火A、闇A・B4、水A・B10、地B10、風A
回復薬上・極10/傷薬下・極10/毒消し下・極10/防眠薬下/万能薬下/
魔力充填薬極9/魔力回復促進薬極8/霊力充填薬極10/
霊力回復促進薬極8/エリクサー極
所持金 333G
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀
B=傑出 A=達人級