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水神島サバイバル

「しかし、見事に返り血塗れになったな」

キースはドロドロ。キースを10とすると、ユーリ7、俺2、ララ1ぐらい。

俺は剣を抜く際は気を付けてるんだけど、剣を入れる時にも若干飛び散るから。

「飲み水は貴重だから使えないしねー」

「そのうち乾いて、ほとんどは剥がれ落ちるから大丈夫」

「ちょっと痛いかも知れないけど、水球をそっと当てようか」

いや、それはちょっと…。仕方ない。


「はいはい、浄化するからみんな並んでー」

「え、あれ?これは凄い!」

キース4回、ユーリ3回、俺とララは1回で、すっかり綺麗になった。

「生活魔法か。俺はまた、あの世へ送られるのかと思ったぜ」

浄化であの世とは、あんたは悪霊ですか?


「で、飲み水は確保できてるのか?」

「水球を岩壁に当ててその飛沫を容器に溜める。水は湖由来らしくて生臭いけど、煮沸すれば飲めるよ」

仕方ない。そんな面倒なことして不味い水を飲むのはいやだ。

「実はさ、生活魔法の飲料水っていうのがあって」

例のステンレス製コップに入った水を手渡す。ちなみにコップが複数出ることを始めて知った。


「美味い!冷たい!」

「うわぁ、極上の水だ。甘露ってこういうこと?」

「こんな上等の水、初めて飲むよ」

好評で、嬉しい(笑)。確かにこの水、美味しいと自分でも思うもんな。


食料も確保しなきゃということで、倒したオークのうち、良さげなのを解体する。

30キロもあれば4人で7日の肉としては大丈夫だろう。

「問題はこれをどうやって運ぶかだな」

見ると誰も背嚢を持っていない。きっと荷物持ちはあの大剣の大男だったんだな。

「俺が持つよ。魔収納があるから」

容量的にまだまだ余裕だしね。


殺戮現場は血の臭いが充満していて、他の魔物を呼び寄せそうなので、早々と離れる。

森を歩きながら、3人が知識と経験を活かして食べられる葉っぱや木の実を、俺は薪を集める。

充分に距離をとってから、食事の支度。

3人に手ごろな岩や石を集めてもらい、その間に俺は錬金で鉄を出してもらって金属加工で鍋と串を作る。


石を積んで竈を作り、薪をおいて着火。鍋に葉っぱ・木の実・肉を入れて煮る。串刺しの肉を焼く。

味付けは錬金で出した塩を振った。

7日分は十分にあると説明して、パンを出した。生活魔法というのは内緒。1人半斤、1日2食の計算だ。

食器は、飲料水用のステンレスのコップを代用する。


「凄い。何からなにまで」

3人から驚きと尊敬と不審の入り混じった眼差しで見られる。

「俺、野外で魔物を倒しながら生活するのに、慣れてるっていうか適応してるから」

なんせこの世界では建物内で寝たことが一度しかない。野外生活の方が好きだし落ち着く。

食事は毎食あまり変化がないと思うけど、7日間程度なら不満は出ないだろう。


さてと、そろそろ寝床を確保しよう。

「木の上が比較的安全だと思うんだ。でかい蛇とオーガがいるのを見た」

「サーペントかな?、嫌な奴がいる」

「オークの群れも木の上なら大丈夫だね」


手ごろな大木を見付けて、先に登り、4人が寝られる場所を植物操作で確保する。

枝の分岐を利用して枝と蔓を組み、小枝と葉っぱでそれなりに仕上げる。

上から蔓を降ろして登ってもらったら蔓は引き上げる。

「はー、猿になった気分だけど、悪くない寝床だね」


「俺は敵が来ると目が覚めるから不寝番は無くてもいいよ」

そう言ったのだが、3人は順番に見張りをすることにしたようだ。

「じゃあ俺も」

「いや、サブには寝ながら警戒してもらえれば充分だよ」

どうやら俺に世話になったお返しに気を使ってるらしい。

まあその気持ちは受け取っておこう。


夜間、樹下を徘徊する魔物は多かったが、木の上は索敵範囲外らしくて見向きもされなかった。

「ギャァァァー」「グワァァー」遠くから人間の断末魔のような悲鳴が何度も聞こえた。

試練の挑戦者だろうか、それとも猿か何かの吼え声?

早朝の黎明の中で、竜達に探ってもらったところ、挑戦者は39人になっていた。

早くも13人が脱落したということだ。あの声はやっぱり…。

魔物に食われた?それとも人間が襲撃?何にしろ、物騒なことだ。

意外なことに、泉近くの10人グループが1つだけになっていた。

10人が全滅か?それとも分裂して移動した?


すっかり朝が来た。明るくなった。

朝の用事を色々と済ませ、洗面代わりに浄化の洗礼。

「スッキリするね、これは便利だ!」好評です。

準備が出来たら移動開始。一応島全体を見て回ろうということだ。異論はない。


事件が起きたのはお昼前。

この島にはところどころに砂地があるが、その上を歩いていた時、急に砂の中から大きな頭が現れた。

あっけにとられているうちに、ユーリがばくりと飲み込まれる。

「ユーリぃー!!」「きゃあぁー」

頭は見る見るうちに高くそびえ、5メートル程の高さになった。


ばくばくと口が動き、さかさまに咥えられて足をばたつかせていたユーリの体が丸飲みされる。

超巨大な蛇だ。鎌首だけで5メートル。全長は20メートルもあるのだろうか。

「くっ、ギガントサーペントか!」

ギガントっつってもでか過ぎでしょう。

ドラム缶のような胴体の一部が更に大きく膨らんでおり、そこにユーリがいる。

重力の助けを得て嚥下しようというのか、鎌首を持ち上げたままゆらゆら揺らしている。


「させるかっ!」

ギガントサーペントは、俺達を攻撃するよりもユーリを嚥下することに夢中で隙だらけ。

ミスリルソードに風爪を付けて射程を伸ばし、膨らみの下をズバッと水平に払って、胴を両断する。

尻尾側と頭側に2分された胴体が、激しくくねる。

スポン!とユーリの体が排出された。まるで産み落とされたかのごとし。


キースが頭部に剣を振るうが、鱗が硬くて表面を滑るのみ。ララの水球もあまり効いていない。

それでも牽制しつつ、呆然自失のユーリをキースが確保した。ナイス!

その間に後ろに回った俺は、突風で高く跳躍し、頭上からミスリルソードを垂直に根元まで突き刺す。

激しく頭を左右に振って来たので、俺は剣を握ったまま遠心力でズズズと移動したがそれに伴い切れ目が広がって、振り飛ばされた時には頭部を縦裂きにしていた。

大口を開けてなおも暴れるギガントサーペントの頭は、縦横に4分割となっている。

汚らしい花のようだ。とてもこの世のものとは思えない。


やがて、不意に目の光が失われてうつろになったと思うとドッと地に伏した。

「ふー、やっとくたばってくれたか。しぶとかった」

「ユーリ、しっかりして!」

「おい!何とか言え!」

「ヒュゥゥ」呆然としていたユーリが急に大きく息を吸い込んだ。

カッと目を見開いている。

「ふぅ、大丈夫そうだな」キースが溜息を吐く。


ユーリは全身ヌルヌルで、細かい噛み傷を沢山負っていたが、大きな怪我は無かった。

幸いギガントサーペントに毒は無いそうだ。

俺が浄化を掛け、ララが治癒魔法を使って、やっとユーリも人心地付いたようだ。

「ありがとう、みんなのお陰で助かったよ。あー、生臭かった…」

「「「あはははは」」」

ほっとしたこともあり無性に可笑しかった。


砂地を避けて、早めの昼飯を食べた。

見られている。藪の中に人間がいるようだ。

食べ終わったころ、5人の傭兵グループが接触してきた。

油断のならない面構えの見るからに傭兵らしい奴らだ。

「おっと、俺達は敵対するつもりはないぜ。俺達と組まないかと提案しに来たんだ。どうだ?」

ユーリが即座にきっぱりと答える。

「断る!」


5人が去ってから尋ねる。

「随分と迷いがなかったな」

「あいつらには悪意があった。言っただろう、僕には人を見る目があると」

うん、確かにゲスイ雰囲気の奴らだった。

「寝込みを襲われかねんな。用心しなければ」

「ねっとりした目で見られてぞっとしたよ」


その後、ボアや狼、オークやゴブリンの群れに遭遇したが、軽く一蹴して大過なく進んだ。

そろそろ中央部の泉だ。安易には近付かない。近くの丘から、泉を眺めた。

キ「流石に泉の周りには挑戦者が多数いるな。水を飲みに来る獣も多い」

ユ「水の心配の無い僕たちは、そんな激戦区に参入する必要はないね」

ラ「嫌な感じがするからここから早く離れようよ」

泉、気になるけど、避けるのが無難なようだ。


島の反対側の突端まで到達し、海岸線を左回りに移動する。

沼地には毒虫が多く、丘の斜面に多数の横穴があったのは何かの魔物の棲み処だろう。

そして時々挑戦者数人の気配を感じたが、交戦は避けてやり過ごした。

ユーリ達はわざわざ戦う気は無い様だ。変に好戦的なのよりはよほどマシだ。

夕方近くになって、昨日作った竈のところまで戻って来た。


キ「慎重に歩みを進めたから短い距離だけど時間が掛かったな」

俺「野菜や薬草もたくさん採取できて良かった」

ラ「だいぶ島の様子が分かったね」

ユ「挑戦者達は、今日行かなかった右半分に多くいるみたいだ」


今日の夕飯はユーリとララが作ってくれた。

汁ものにイモが入っているのでお腹に溜まる。久々にパン以外の炭水化物を摂った。

味は、えーっと、まあまあかな。調味料が塩しかないからね。その割には結構イケたかも。

俺「2日めも無事に終わったなー」

ユ「えっ!まあ無事と言えば無事だね」

「「あはははは」」


寝床の大木まで移動する。

遠くから見張られているような気がするということで全員一致。

今夜はなんだか襲撃を受けそうな胸騒ぎがするので、睡眠時間を長めにとって、常に二人が起きていることにした。

はぁ、迷惑な奴らだよ。来るなら早く来なさい!






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