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風竜参上

風呂で、体も頭も服にも生活魔法の浄化を掛けて清める。

そして、失神中の幼女がちょっと匂ってたので、地面に横たえたままで浄化を数回掛けて清潔にした。

(服を脱がせてお風呂に入れてあげたい気もしたが、さすがにそれは遠慮した)

うん、おかっぱの髪もサラサラになって、ますます可愛らしくなったぞ。

上等な服を着ているし、いいところの子かも知れないなぁ。

*****


今回俺が新たに得た能力、それは4体めの竜を呼ぶ力だ。

何か胸騒ぎのようなものを感じて自己確認をやり直すと、ピコーンという例の音と共に『参竜』が『肆竜』に書き換わった。肆は4という意味の字だ。

火{来た}水{うん}地{あやつか…}


肆竜顕現と念じてみると、ぽんっと初めから最適サイズで明るい青系の色調の竜が現れた。

風{はぁ、やっと呼ばれた。自分、風竜っす。よろしく、親分!}

竜ともあろう者が、このように三下あんちゃん風に喋るはずがないと思うのだが、言語対応による謎翻訳の為せる技である。おそらくこのような訳が似合う気易い性格なのだろう。

火{よっ}風{あっ、火竜さん。ちーっす}

水{(コクン)}風{水竜ちゃんもいた}

地{その節は}風{へへ、地竜どんがいて助かったぜ}


属性の相性で竜達には微妙な力関係があるようだ。

聞いてみると、1人の精霊使いには1体の精霊しか結びつかないのが普通で、精霊竜達も顕現するときは通常敵対関係になるとのこと。そのため、過去千年以上にわたり何度も対戦するうちに、苦手属性・得意属性で、なんとなく上下関係的な意識が生じるのだとか。

でも、今回、俺のところでは皆味方で互いに戦うことはないのだから、苦手も得意も関係無いと分かってはいるんだけど、やっぱり最初は違和感をひきずるとのこと。


「まあ、徐々に慣れるでしょう」

水{うん、徐々に慣れる}

風{そっすか?}

火{わーい、最下位脱出できて良かったよぉ}

ははは、地>水>火だから、最下位気分だったんだ。これからは4すくみになって丸くおさまるね。


「で、風竜はどんな魔法を使える?」

風{切り裂く風刃、衝撃で吹き飛ばす風衝、範囲攻撃の嵐刃と暴風。今はこれくらいっす}

「技能系の魔法はどうなんだ?」

風{暴風は、強弱自在に風を操る攻撃・技能兼用の魔法っす}


俺の素養にも風魔法が追加されており、細目は風爪、突風、空調となっている。

「空調ってもしかして」

風{はて?それは聞いたことないっすね}

発動してみたらすぐに分かった。俺の周囲の空気環境を最適にしてくれる効果を持つ魔法だ。


はぁ~、風呂上りには応えられん。心地良い冷気のそよ風に吹かれて思わず声が漏れる。

地水火{{{はぁ~}}}ふふふ、やっぱり。

風{ど、どうしたんすか?}

ま、風竜もそのうちにね。


風爪は、風刃の固定版で、手足や剣の先端にセットすると射程が延長される。斬撃効果なので手足に刃が生えているような感じで強烈だ。


突風は、暴風の劣化版のようだ。補助魔法として凄く有用だ。

相手のバランスを崩すのには持って来い。自分の態勢を変えるのにも使える。

外部から適度な風を自分の体に当てることも、自分の内部から噴射して推進力にすることも出来る。

あれ、これはもしかして?


足裏からジェット噴射のように強めに風を出すと、なんと体が浮いた!

風圧を弱めるとゆっくりと着地。

再度上昇して、左右の手のひらから噴射すると方向変換も思いのまま。

わはははは、これは楽しいぞー!


最高速度は時速50~60キロ程度。風竜の暴風を使って後押ししてもらうと、軽く100キロ以上に加速する。

併せて空調を使うと、上空の低温はもちろん飛翔に伴う風圧も回避できる。

「空調は周囲の風の流れも適度にコントロールしてくれるんだなあ。軽めの空気結界というわけだ」

ただし、自前の突風の範囲ならカバーしてくれるが、暴風を使うとさすがに全風圧は抑えきれないが。


ひとしきり飛び回って遊びながら練習を積み、まあこれなら行けるだろうという水準まで習熟したところで、そろそろ次の行動に移るとするか。

シガキの街を襲撃しようとしている魔物軍団の始末だ。

植物素材で紐と布を出して、幼女を背中に固定する。おんぶ紐ってこんな感じだったかなあ?

良く分からないので適当に。うん、でもしっかり安定した。

それじゃあ飛ぶぞ~、テイクオフ!

*****


<ルーシー(幼女)視点>

あれ、ここはどこ?あたしの部屋で寝てたと思ったけど、また寝ぼけちゃったかな。

知らないおじちゃんがふたりいるよ。

「ミルラ、こたび召喚したのはシガキの街のルーシー姫ではないか!お前はまた何てことを」

「陛下、この子は紛れもない精霊使いですよ。しかもラミアクイーンの」

「ほぉ、ラミアクイーンとな?姫よ、呼び出せるか」


「えっとね、危ないから大人になるまでダメって言われてるの」

「姫様はもう随分としっかりしておられるから大丈夫ですよ。ラミアクイーン顕現せよとおっしゃてみて下さい。姫様にしかできない素晴らしいことが起こりますよ」

えへへーそうかな。ずっと我慢してたけど、ほんとはやってみたくて仕方なかったんだー。


「ラミアクイーンけんげんせよ!これでいい?」

ボムッ。あ、何か出た。うわぁ、蛇の人だ!これがラミアクイーン?

目が合っちゃった。あたしをじっと見つめてる。怖い。

あれ?目を逸らせない。体が動かない。どうしよぉぉ。


「こ、これは邪霊!?」

「なにぃ?邪霊だと!ならば斬る。邪霊よ退散せい」

大きい方のおじちゃんが剣を抜いて斬りつけたけど、空中で止まってる。けっかいかな?

あ、ラミアクイーンから赤い風船みたいなのが二つ出て来た。

ひとつはすぐそばの大きいおじちゃんに吸い込まれたよ。


もうひとつはふよふよと小さい方のおじちゃんに向って行ったけど、おじちゃんは逃げちゃった。

風船はふよふよと戻って来て、あたしのところへ。てのひらに乗っかるかな。

あ、手から吸い込まれた。

「妾のことが分かるかぇ?」

蛇の人、ううん、お母様が私に尋ねた。

「もちろんよ、お母様」


「ふふふ、良い子じゃ。お前は眠っていなさい。妾が動けば、眠りながら歩いてついてくるのじゃ」

そんなことが出来るのかな?でもお母様がそうおっしゃるならきっと出来る。

「はい、お母様。おおせの通りに」


「お前、その剣は吸魔の剣じゃな」

「はっ。女王様の仰る通りでございます」

「良いものを持っておるな。妾が使ってしんぜよう」

「はっ。ありがたき幸せ。どうぞお収め下さい」


お母様が剣を手にする。かっこいい。お母様は何も持ってもさまになる。

「妾は移動する。輿と人手を用意せよ」

「はっ。ただいますぐに」


その後、輿に乗って、長い間揺られた。坂道をずっと上っていたみたい。

「ふふふ、吸魔の剣があれば妾の力を存分に発揮できるわ」

お母さま凄い。

「ヌバルはもう妾の支配下も同然。この山で勢力を増やし、次にシガキを手に入れたら、ヌバル・シガキの人族軍とこれから作る魔物軍で、タグも容易に落とせる。こうしてどんどん強大になって、やがては世界を手に入れようぞ」

素敵!さすがお母様。


「姫よ、暫くはもう歩くこともない。お前はもっと深く眠れ」

はい、お母様の仰る通りに。

………

熱い。あ、誰かに抱っこされて運ばれた。

お母様は?いえ、あれはお母様なんかじゃない。蛇の人、ラミアクイーンだ。

私のお母様とお父様はシガキの街に。

そうだ!シガキの街が危ないんだ!

ああ、体が重い、気が遠くなりそう。でもこのお兄ちゃんに伝えなきゃ。

「シガキの街が…」

*****


<防衛隊長視点>

ルーシー姫が寝所から忽然と姿を消してしまったあの日から、シガキにはろくなことがない。

「ルーシーそこにいたのね、じっとしてて」

情緒不安定になったお妃様は、虚空に手を差し伸べつつ階段から転落してお亡くなりに。

「ルーシーに続いて妃よ、お前まで」

王様はご心痛で寝込んでしまわれるし。


精霊交信でシガキの指針を示して下さる王妃様を失い、鑑定能力を持つ人格者の王様は事実上退かれた。

このお二人のお力で、シガキはこれからどんどん発展するところだったのに。

今は臨時に王弟で宰相のドグラ様が王権を執っている。

この方は鑑定能力は王様と同等なのだが、人格的になぁ…。


ここ数日来、油葉山に魔物が集積しているという不穏な噂が流れていたが、今朝はその油葉山で大規模な山火事ときた。

「そりゃあ、油葉の木があるから良く燃えるよなぁ」

まったくもってそのとおり。なんと勿体ないことか。油葉からとれる油はシガキの特産品なのに。

幸い間もなく自然鎮火したが、遠目に見ても山は真っ黒こげ。

貴重な油葉の木が全滅していなければよいが。


油葉山の調査隊が組まれて出発したところ、間もなく慌てふためいて戻って来た。

「ま、ま、ま、魔物だぁ!魔物の大群だぁ!!」

また大袈裟な。魔物など、郊外でならともかく、外壁の内部から我らが迎撃すれば何の問題もあるまい。

と思っていたのだが、物見塔から眺めた景色はとんでもないものだった。


一見すると、黒い波が押し寄せてくるかのように見えた。

しかしそれは、地を埋め尽くすような膨大な数の魔物の群れ。

整然とまとまって行進しているその様子は、群れというよりむしろ軍隊だ。

先頭には、大型の4足歩行獣、大角犀ビッグホーンライノ。ここまででかい奴は初めて見る。

他にも蜥蜴人リザードマン、オーガ、オーク、草原狼、森林牙猿、内陸大鰐、ゴブリン、空にはハーピー、火雁、巨鷹。

その数全部で数千!


なぜこれだけの数のしかも異種の魔物達が、統率の取れた軍隊のような行動を取っているんだ?

まあ理由はどうでもいい。とにかく脅威が迫っている。

ドグラ宰相に報告せねば。

「…なのでございます」

「たわけたことを申すな!と言いたいところだが、その顔では嘘ではなさそうだな」

「はい。最高度の緊急事態です」


「ふむ…。儂は地下室に非難する。貴様は全兵力を持って迎え撃て。壁の外で決着を付けるのだぞ」

「承知しました。全力を尽くします。しかし抑えきれなかった場合はどう致しましょう」

「馬鹿者!絶対に抑えるのだ」

「王と民衆はどのように?」

「今から伝えてもどうにもならん。混乱して街の機能がマヒする。そのまま放置だ」

「しかし…」

「ええい、非常時だろうが。早く行動せんか!」

「はっ」


おいおい、自分は安全な地下室に避難して、もしも街が落ちたら、抜け道から抜け出すつもりだな、この御仁はそういうお人だ…。

しかし、妙な采配を振るわれるよりは、地下室に籠ってもらう方がまだましか。

「全兵力を外壁周辺に配置せよ。主力は壁の上方に待機。まず上空の魔物と壁を登る魔物を撃退せよ。ハーピーの催眠攻撃に注意しろ。防眠薬を予め服用せよ。覚醒薬を準備し、催眠に落ちた同僚に素早く飲ませること。猿の外壁登りは速いから用心せよ。予備班はありったけの矢と石を用意しろ」


まず空から来た。

「弓隊、撃てー!」

矢が驟雨のように空を走る。

ハーピーを始めとする飛行魔物が弓を警戒して矢の射程外にいったん引き返す。

「魔法部隊、今のうちに街上空に結界を展開せよ。弓隊は次射の用意」


ずうぅぅーん!壁が激しく揺れた。

大角犀の突進だ。見ると石壁がかなり破損している。これは2~3回やられると持たない。

しかもこいつを門扉に突進されたら一発で破られるぞ。

大角犀は4頭か。上から矢を飛ばし槍を投げているが、やすやすと跳ね返されている。


「攻撃魔法を使える者は大角犀を撃て!」「はっ」

…ダメだ。外皮が分厚くて防御力が強すぎる。

火球や水球や石礫では全く通じない。体表で虚しく弾けて消えるのみ。

火槍や風刃は少しは通用するが、それでもかすり傷程度にしかならない。

ずうぅぅーん!次の突進がさっきと同じ部分に来た。更に崩壊が進んでしまったな。

もう1発あそこに来たら穴が開くだろう。


これはもう時間の問題だ。

壁を破られれば魔物達がなだれ込んで来る。

撤退すべきか?いや、もう間に合わない。

迎撃しても、いずれ支えきれなくなるだろう、…玉砕か。

「こうなったら覚悟を決めて、1匹でも多く魔物を倒す!」

「「おおおー!!」」

兵達よ、ありがとう。そして済まん…。


「隊長、大角犀が!」

ああ、分かっている、壁の決壊点に突進して来るのだろう?

「大角犀が倒れました!」

何!?確かに1頭の首無し胴体が倒れている。何があった?

うわ!ぱんという乾いた音とともに犀の頭部が爆ぜる。花開くような一瞬の赤い霧が収まると、もう1頭の首無し大角犀が横倒しになっていた。

ぱん、ぱん。続けてもう2発。あっというまに脅威だった大角犀4頭が屠られた。


「魔物軍団後方に動きがあります!」

見ると、大小の魔物が砂埃と共に宙を舞っている。

「な、竜巻か!?」

上空の魔物達が一斉に反転して後方に向けて飛び去って行く。

地上の魔物達も後方に向き直ってこちらの背を向けているではないか。

一体何が起こっているのだ?







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