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精霊術

この光の粒子、小さな小さな羽虫のようにふわふわ舞っている。

もしかすると…

「こっちへおいで」おー、集まる集まる。

「あっちに動いて」うん、移動した。


光の粒子がいるのはこの辺りだけなのかな?

注意を凝らして周囲を眺めてみると、あっ、遥か彼方までずーっと、ちかちかふわふわしている。

空を見上げると、遥か上空までずーっと、まるで降りしきる雪片のようだ。

地面の上にも、木の葉や草の上にも、地中にもいる気配がある。

「うわぁー、なんだこれ」


急に出て来たのか、それとも今まで気が付かなかっただけなのか。

あれ、そう言えばあの煙、魔素だっけ、あれはどうしたのかな。

と考えた瞬間、光の粒子は消えて、揺蕩う煙のような魔素が現れた。

「おおっ!」


これはどういうことか。

「光!」

光の粒子がちかちかふわふわ。

「魔素!」

煙のような魔素がゆったりと揺蕩う。


「ふーむ、これはどうやら視界にフィルターを掛け換えるような感じだな」

魔素を見ようと思えば魔素が、光の粒子を見ようとすればそれが見える。

つまり見ようと思わなければ見えないけれど、常にそこここにこれらはあるということか。


光の粒子を集めてみた。

「集まれー、そしてぐるぐる渦巻いてー」

あはははは、凄い凄い、LEDの電飾を集めたみたいに明るくなってきた。

周囲の敵にも見えるかな?

探知を意識して周囲を探ってみると、おやおや、敵はむしろここを避けているような動きだぞ。


ようし、もっと集めてやれ。

おーおー凄い凄い、光の竜巻だ、わはははは、面白ぇ~。

{クスクス}


ピコーン!

来た。ステイタス画面左は?

←『精霊術』ほうほう。

その中味は?『練霊素/精霊の声』あ、既に二つある。

となると、この光の粒子は霊素ということだな。

精霊の声って、何だろう。


{クスクス クスクス クスクス クスクス}

あ、これか。

「精霊さん、いますか?」

…しーん。あれ?くすくす笑いが止んだ。


「もしもしー」

{モシ?モシモシ?モシモシモシ?}{ナアニ、モシッテ?}{シラナイ。ア、モシカシテ}{ナニナニ}{イヤ、ココニハイッテル。モシ、カシテ}{ドウイウコト?}{ワカンナイケド}

なんだこれ?わいわいがやがやと妙なことを。

「ええと、呼びかけたんです。精霊さんですね」

…しーん。あれ?


{イルノ?セイレイ、イルノ?}{サア、ワカンナイ}

うーん、精霊じゃないのかな?

「あなた達は誰ですか?」

{ワタシタチ?}{シルフ}{ウンディーネ}{グノーミ}{チガウヨ、ワタシタチダカラ、エレメントダヨ}{ソウ、エレメント}{ワタシタチ、エレメント!}


どうやら話はまとまったようだ。

「エレメントさんですね」

{チガウヨ、サンハイラナイ}{エレメント、エレメント!}{ワタシタチ、エレメント!キャー!!}

興奮して、速度を上げてぐるぐる渦巻いている。


「あのー、安全な場所があったら教えて欲しいんですが」

{アンゼン、ナアニ、アンゼンッテ?}{オシエタイケド、ワカンナイ}

うーん、これは。語彙が少ないって言うか。言葉遣いに気を付けて話す必要があるな。


「魔物に襲われない場所が近くにある?」

{アルヨ}{コッチ、コッチ}

エレメントが導いてくれる。

矢印になったり、ゴブリンを形作った後に×印を見せたり。

全くお茶目なんだから。


{ココ}{ココ、ココ}{ハイッテー}

エレメントが導いてくれたのは大きな木の幹に空いたうろだった。

枯れ葉がうず高く堆積している。

一歩足を踏み入れるとずぶりと沈み、そのままスポンと下方に吸い込まれた。

中は小さな部屋のような空間になっている。

エレメントが集まっているので明るい。


上部は枯れ葉が一種の天井を形成している。天井と言ってもごく低く、立ち上がると顔がずぼっと外に出る程度だ。

天井は低いけれど、中は比較的快適な空間だ。カラッと乾燥していて空気の流通も確保出来ている。

「ああ、ここはいいね。ありがとう」

{ホメラレタ!}{コノヒト、ヨロコンデル}{ヤッター、アタシモウレシイ}

ちょっと、ややこしいところはあるけれど、エレメント達は気のいい奴らだ。


エレメントの灯りが薄れると、森の中は真っ暗で、もうすっかり夜だった。

急に眠気が来た。今日は随分動いたからな。全力疾走したのなんか久しぶりだし。

今日戦った魔物はどんなのがいたかな、まず青いスライム、赤いスライム、でかい蟻に……。

*****

いつの間にか眠っていた。熟睡した。

「あー、良く寝たなぁ」

目が覚めると、枯れ葉の天井から朝の光が漏れ入って、いい感じに明るい。

チュンチュンと小鳥が鳴き、森林の爽やかな空気と乾いた枯れ葉の良い香りがする。

「ここは、本当に快適空間だなぁ」


がばっ!

頬をつねる、痛い。ぱんっと頬を張る、凄く痛い。

「夢じゃない!夢の中で眠って、熟睡の満足感で目が覚めて、それでまだ夢の中なんてわけない!」

自己鑑定のステイタス画面を出してみる。


『クリュウ・マスタ 自由人』

←『言語対応/鑑定/魔術/超取得/超成長/超回復/探知/精霊術』

↑『FL3-6G(10) ML1-5/5G(9) SL4-7/7F(17)』

→『槍術G』

↓『錆びた粗悪な短剣4』


精霊術を獲得したのでSLが出現した。これはスピリチュアルレベルだなたぶん。

え、レベル4!そしてランクはFだ。

既にSLが一番高いとは…。

エレメントと色々話をしたせいだろうか。

*****

パンと水で質素な朝食を摂った。

とりあえず、水分とカロリー摂取の心配がないのはありがたい。

その上、このパンと水はどうしてこんなに美味いのか。


渇きと食欲が満たされると、体の汚れが気になった。

かすり傷や切り傷を負ったり、湿地を駆け抜けて泥だらけになったりしたので、渇いた血と泥でかなり悲惨な状態だ。

ピコーン!『浄化クリーン

ほうほう、生活魔法のレパートリーが増えた。

浄化を掛けると、体の汚れは嘘のように消え去った。残念ながら傷は治らなかったが。


汚れは消えたけれど、なんというか、水浴びでもしてさっぱりしたいな。

エレメントを集めて、川の場所を聞いてみる。

{コッチ、コッチ}

導かれるままに森の奥に分け入ると、さらさらと流れる清浄な川があった。

上流には滝がありそうだ、それらしき音がしている。


流れに沿って遡っていくと、落差5メートルくらいのこじんまりした滝だった。

滝つぼ周辺はそこそこの深さがあり、水浴場として申し分ない。

Tシャツと短パンをざぶざぶ水洗いする。

浄化クリーンの生活魔法のおかげでほとんど綺麗になっていたが、まあ気分の問題で。


服を河原の石の上に広げて乾かしながら、水深のあるところを泳いだり潜ったりして遊ぶ。

{ネーネー、ココミテー}

滝壺の辺りの一番深いところだ。何かな。何かあるけど、泡で良く見えないな。

潜って確かめてみると。


ぶわっ、げほげほ。死体だ。白骨化していた。

「何ちゅーものみせてくれるん?」

{オタカラダヨ、イイモノダヨ}

え?もう一度見てみる。なるほど、剣と服か。


白骨死体さん、お許しください、資源の有効利用をさせていただきます。

勇気を出して、滝壺の底に潜り、死体から服と剣を剝ぎ取って浮上する。

服はハーフコートみたいな感じで、帯剣ベルトとセットになっている。

清浄な水に洗われていたので綺麗だ。不思議なことに全く錆びていない。


剣は刃渡り1m程度。青味掛かった銀色の金属製。

表面に細かい細工が施されている。長いのに軽い。

『ミスリルソード150』

なっ、150!!これがゲームでよく聞くあのミスリルか!

『FL3-6(+150)G(10)』

確かに戦闘力が+150だ。ていうか、素が6で武器加算が150って、どうなのよ。


服は見たことも無い素材で出来ている。金属由来の繊維のような感じだ。

布と考えると重いが、金属と考えれば軽い。

白色なんだけど、光の反射の加減では青っぽく見える。

着てみると裾丈は膝の辺りだ。長いのか短いのか分からないが、袖丈はちょうどだからこんなものか。

『ミスリルチュニック100』

おおっ、これもミスリル、そして100!


『FL3-6(+150)(+100)G(10)』

ふむ、これは攻撃力が+150、防御力が+100ということか。

いきなり凄く強くなったようだぞ。


河原でミスリルソードを振り回してみる。

軽い!振り抜きやすい!切り返しやすい!

試しに木の枝を斬ってみる。

おおー!スパスパ切れるぞ。

じゃあもう少し太い奴を、スパッ。うひゃー。


では斬り下げてから反転させて切り上げてみよう。

ふんっ「スパッ」、くるり、しゅっ「ガギン」。

あれれ?幹に弾かれた。

これは、刃が立ってなかったから?


改めて、剣尖を下げた状態から刃を立てることを意識して斬り上げる。

「スパッ」

今度は行けた。

良い武器でも使い方を選ぶということか。


痛てっ!先程斬り捨てた小枝が足裏に刺さった。

切り口が鋭利なだけに、痛いではないか。

待てよ、その枝をチュニックに刺してみようとすると、刺さらない。

勢いをつけて枝を振り当てても痛くも痒くもない。

そして、チュニックから出ている脛部分に枝を振り当てると、

「痛ぇ!」


ふうむ、防具はそれが覆っている部分だけに効果を及ぼすか。まあ当然と言えば当然だ。

つまり武器も防具も、それさえあれば足りるというものではなく、使い方次第というわけだ。


すっかり乾いたTシャツと短パンを身につけ、その上にチュニック、左腰にミスリルソード、右腰に錆びた短剣、ポケットに錆びたナイフ、足は裸足。

なんともちぐはぐで、まるで分不相応なミスリル製品を拾って身につけた浮浪者のようだ。

う…、なんか自爆したかも知れん。

*****


その後、俺は土地勘を養うために、色々な目印を覚えたり自分で印を創作したりしながら歩き回り、滝と木の洞の寝床、草原、街道、街の位置関係を覚えた。

道々出会う魔物はミスリルソードで打ち倒す。

もちろん強そうな魔物の気配は、予め探知しながら慎重に避けた。


驚いたことに、森の中には死体が割とたくさん放置されていた。

人はあまり森の中に入らないのかも知れない。

それで、古くてくたびれた武器や防具は割合に手に入れやすい。

ゴブリンどもも、こうして入手しているに違いない。


死体から剥ぎ取るなんて、以前の俺なら考えられないことだが、ここでの俺はそんなぜいたくを言える境遇ではないのだ。

そういうわけで、比較的ましな革ブーツをゲットした。

浄化の生活魔法を掛ければ、汚れも臭いも取れて、まあまあ使用可能な状態にはなる。


これで一応、装備はそろった。裸足が解消されたのはありがたい。

ミスリル製品はまあ、出来過ぎなんだけどさ。

さて、狩りでレベルを上げて、合わせて剣の技能を習得したいところだ。


草原の低空をひらひら飛ぶあの黒い奴、仮称蝙蝠蝶は、ミスリルソード習熟のための恰好の練習台になった。

ミスリルソードは長さもあって軽いので、比較的俊敏な蝙蝠蝶にも当てられる。

戦っていると蝙蝠蝶はどんどん集まって来るので都合がいい。

ひとしきり斬り伏せると、敵わないと悟って散り散りに逃げ去るが、しばらくするとまた集まってくるというところが面白い。


もう数百匹倒しただろうか、さすがに周辺の蝙蝠蝶を狩り尽くしてしまったようだ。

剣術のスキルも獲得した。

次は森と川を探索しよう。再び森に入り川まで歩く。

河原で、大型のカニを見つけた。


あのヤシガニの大型版という感じで、見た目は岩そっくりで猫ほどの大きさだ。

仮称岩ガニとしておこう。

はさみはヤシガニよりも更に大きく挟まれたら大変だが、リーチのある鋭いミスリルソードがあれば、動きの鈍い岩ガニごときは恰好の獲物だ。

練習にもならない。

岩ガニは経験値2だった。


カニ脚をみてしみじみ思う。

練習にはならないけど、食べ物にはなるんじゃないか?

焼いたり茹でたりして食べてみたいなぁ。

ピコーン!生活魔法来た!『着火』

ほうほう、その中味は?

『煮炊き・暖・灯のため、燃料に火を付ける』。

ふむ、燃料は別途に必要とな。


枯れ木を集めて着火で火を付けた。

岩ガニの脚やハサミを火のそばに立てて焼く。

甲羅はそのまま土鍋のような感じなので、石組を工夫して火にかけてみた。

美味い!!いやぁー美味いなー。

岩ガニはでかいから大味かと思いきや、淡泊で上品な甘さのカニ肉と濃厚なカニ味噌。

堪らん。


ガツガツ食べていると、臭いにつられたのか、近づいてくる気配がある。2匹だ。

素早く焚火を消して、ミスリルソードを手にして立ち上がる。

ガサゴソと藪をかき分けて現れたのは緑のゲス顔、ゴブリンだ。昨日の残りの2匹だ。

一匹は短剣を持ち、もう一匹は丸盾と胴丸。

ミスリルソードのお陰で、昨日のように恐怖を感じることはない。


短剣持ちに7割、盾持ちに3割の注意を払って対峙する。

短剣持ちが「グギャー」と喚きながら短剣を滅茶苦茶に振り回して近付いて来る。

なんだこいつ、この程度の奴だったのか。

俺の剣の間合いの中で、短剣が届かないのに振り回すって、あほだな。

短剣を振り切って隙だらけになったところに踏み込んで、肩口から斜めに斬り下す。

ミスリルソードの切れ味は抜群で、ほとんど抵抗なく振り切れて、短剣持ちゴブリンの体は両断された。


敵の脇腹を通り抜けたミスリルソードを、正眼の位置に戻しながら、盾持ちゴブリンに正対するように向き直ると、奴は真っ直ぐに焚火跡を、いや岩ガニの甲羅鍋を目指していた。

愚かしい奴!

その無防備な背中から、心臓とおぼしきあたりを貫く。

がくりと跪き、そのまま顔面から地面に倒れてぴくりとも動かない。


なんとも呆気なかった。

俺、凄い!

というよりも、ミスリルソード凄い。


ゴブリンの持っていた盾と胴丸は小さすぎて使えなかった。子供用?コビト用?

ただ、丸盾は岩ガニ土鍋のサイズに丁度よかったので、浄化して鍋蓋として使うことにする。


蓋付土鍋と予備の短剣という収穫物を木の洞の寝床に保管する。

そしてなおも周辺の探索を続けると、ゴブリンが踏み分けたと思われる獣道を見付け、そこをたどってあの3匹のゴブリンの巣らしき小枝と葉っぱで作られた粗末な小屋を発見する。

そこにあったのはガラクタばかりだったが、ポーチと背嚢、そして数枚の小銭をゲットした。

色からして銅貨と銀貨?まあさほどの価値はなさそうだ。


暗くなる前に、木の洞の寝床に到着する。

今日一日でだいぶ財産が増えたなぁ。

ミスリルソード、ミスリルチュニック、革のブーツ、短剣2、ポーチと小銭、背嚢、蓋付土鍋。


エレメントを集めて洞内を明るく照らし、『精霊の声』を使って、エレメント達とお話しする。

「おじいさんは大きな桃を、ミスリルソードで真っ二つにしました。すると…」

{ゴクリ}{ド、ドウナッタノ}{ツヅキハヤクー}


「桃の片割れには、赤ちゃんがぴたっと身を寄せていて、『あっぶなー』と文句を言いました」

{キャハハハハ}{ウワーンアブナカッター}{アカチャン、モモタベテタノー?ムシナノー?}

俺の『お話し』はいちいち大受けで、エレメント達は大騒ぎ大はしゃぎ。

こうして夜は更けていくのだった。

*****

クリュウ・マスタこと桐生将斗の現在のスペック


身分 自由人


素養

 言語対応

   東方共通言語

 鑑定

   自己鑑定

 魔術

   練魔素

   生活魔法

     飲料水/パン/浄化/着火

 精霊術

   練霊素/精霊の声

 超取得/超成長/超回復/探知


スペック

 FL14-17D(128)

 フィジカルレベル14 

 戦闘力17

 ランクD

 次のレベルまでの必要経験値128


 ML2-6/6G(11)

 マジカルレベル2

 魔力量6 最大6

 ランクG

 次のレベルまでの必要魔術経験値11


 SL6-8/8F(25)』

 スピリチュアルレベル6

 霊力量8 最大8

 ランクF

 次のレベルまでの必要精霊術経験値25


スキル

 剣術ランクE/槍術ランクF


装備

 ミスリルソード攻撃力+150/ミスリルチュニック防御力+100/革のブーツ防御力+2


(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D良い








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