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正規兵

「こ、これは無条件挑戦標!」

ここでもやっぱり驚かれた。受付の兵士が金属片を見て俺を見てと視線を何度も往復させている。

「それで貴殿の所属は?」

「所属?領主さまから騎士団に勧誘されたけど、まだ検討中なので無所属ですかね?」

「ふーむ、部外者か。まあポイント戦は問題ないな。ランカーとの対戦では仮順位が付くことになる」

なるほど、部外者が順位を獲得しても仕方ないもんな。


「うっほ!無条件特例者が相手か。これはポイント的には美味しい」

だそうだ。対戦相手の親切な兵士が喜んでいるのでよしとしよう。

特例者とのことで優先されており、順番を飛ばして次の対戦ということらしい。

対戦場で現在進行している勝負を観戦する。両手剣対片手剣&盾の対戦だ。


共に無順位者だが、戦闘技術的にはなかなかのものだ。

というか、つい最近始めたばかりのにわか剣士の俺よりも技術は確実に上だ。

基本動作がきっちりできており、加えて連続技の流れのスムーズさや組み立ての妙を見ると、これが正統な訓練を受けた者の剣術なのだと感心してしまう。


前の勝負が終わった。技術的には片手剣&盾がやや優勢かと思ったが、身体能力で上回る両手剣がごり押しで攻め勝った。

やはり強さは、技術だけではなく、身体能力及び知力・精神力の総合力だ。まさに心技体だな。

俺に勝機があるとすれば、竜知覚(抑)による人外の感知能力と反応の速さだろうか。


さて、俺達の順番だ。俺の頬に赤い塗料が塗られる。俺が紅組ということだ。

対戦相手の親切な兵士は、リドーという名の片手剣&盾スタイルの剣士だ。

本人の言によれば、無順位組の中では、上の下程度のそれなりのところにいるとのこと。

俺はもちろんミスリルソードと鉄短剣の双剣スタイルで行く。


魔収納から双剣を取り出すと、ほーっと周囲が軽くざわめいた。

「さすが特例者は違う!」とか言ってる。てへへ、妙に関心されて照れるぜ。

苦労の末にやっとこさ入手した魔収納。ブランド価値があることが分かって、ちょっと嬉しい。

まあ4000Gもしたもんな。


「お前さん、防具はどうする?」

「ああ、俺はこれでいいんです。この服が防具になってます」

「そうか。まあ俺としちゃあ狙いが楽でいいがな」

防具のない部位は、防具で守られた部位に比べてダメージ評価が大きいらしい。

現代剣道とは違って実戦的だ。


不斬布を巻いて準備OK。軽く剣を打ち合わせて距離をとり、一礼する。

「はじめ!」審判の合図が掛かる。ここは俺の世界の武道と同じだな。

リドーはまず盾を前に突き出しながら片手剣を軽く振る。

これは誘いの動きで、あわよくば俺のミスリルソードを打ち当てさせて隙を作ろうとの意図だ。


俺は右に回り込みながら左手の短剣で突きを入れる。

リドーの片手剣を受け、かつそのまま突きを決める動きだ。

リドーが盾を上げて防御しようとする意図が見えたので、ミスリルソードを一閃させて、脇腹から斜めに斬り上げ…、ようとしたが脇腹にあたってミスリルソードが跳ね返される。


ん!?ああ、不斬布があるから、刃が通らないのか。

この辺は実戦とは違うので要注意だ。

剣を当てた感触は、衝撃もカットされているので木刀とも違う。

強いて言えば、中空プラスチックのおもちゃの刀でペシッと叩いた感じに近い。


しかし、ミスリルソードの当たった脇腹から反対側の肩口までオレンジの筋が濃く浮かび上がる。

斬撃ダメージの評価がなされたようだ。分かりやすい。

「それまで」審判の声。赤旗3本。致命傷判断で、俺の勝ちとのこと。

「おおー!」「リドーが一撃とは」「さすが特例者だ」

観戦の兵士達がわいわい騒ぐ。


リドーが呟く。

「くっそ。俺の持ち味が全く出せなんだ。ま、それだけ実力差があるってことか。でもよ、俺としちゃあノータイムでポイントが稼げてありがたかったぜ」


ポイント制の仕組みは良く分からないが、どうやら俺との対戦は美味しいらしくて、我も我もと対戦希望者が目白押しで、押すな押すなの大人気になっている。

で、俺に順番を飛ばされた兵士優先で、俺との対戦が連続で組まれることになった。

2戦目、両手剣の相手。真向唐竹割に打ち掛かってくるところを短剣でいなして、同時にミスリルソードを頭頂部に振り下ろす。ポコン!この感触、違和感ありまくりだな。頭からオレンジ線が縦に伸びる。

「勝負あり」赤旗3本。


3戦目もやはり一撃で勝負が付いた。

ここまでで気が付いたことがある。

意思の無いスケルトン戦士や本能のままに戦う魔物と違って、訓練を積んだ正規兵士は明確な意図を持って攻めて来る。

更に乱戦と違って、1対1なので、その意図を汲むのが著しく容易だ。

そうなると、相手の出方に合わせて、裏を取ったり先回りしたりするのは、合気で鍛えた俺の真骨頂だ。


つまり、こういったタイマン勝負の形式だと、俺の実力以上の結果が出るということ。

うん、実力以上だから調子に乗ってはいけない。

これは実戦ではない。刃が通らないというフィクションもあり、次の動きへのつなぎなど実際との違いに重々注意しなければ。

などと考えながら、次々に新手を消化し、あっという間に13連勝していた。

ほとんど一撃で決まる秒殺だった。

リドー以上の実力者もいたが、意図が読めるのと、反応速度で勝るのとで、まるで勝負にならない。


「随分と連戦したな。どうだ、少し休むか?」

審判から声が掛かる。

疲れは無いんだけど、この勝負をこれ以上続けてもあまり意味が無い気がした。

「ええ、休みます。というか対戦はいったん終了ということにして下さい」

ええ~~という不満の声。

あの、皆さん、俺はポイント献上マシンじゃないですから。ここらで勘弁して下さい。


火{ヌシさん、強いね~}

水{(コクコク)}

地{相手が弱い。お主はもう少し上で戦った方が良い}

{いやー、竜知覚(抑)のお陰なんだけどね}

などと、念話を交わしていると、声を掛けてくれた人がいる。


「貴殿は、暴れ牛亭で多勢を相手に単身で決闘して勝利した方ではないか?」

「あ、ええ、そんなこともありました」

「やはり!この場で再び会えるとは嬉しい限り。貴殿は剣も嗜むのだな」

「はい。どっちかというと体術の方が得意なんですけどね。ははは」


「対戦場の魔法陣と不斬布は、体術や魔法の威力は減じない。なので意図的に体術や魔法で攻撃するのはご法度だが、補助や防御、そして強化に回すのは差し支えない。実際、体術という程でもないが、鍔迫り合いでの柄打ち、足蹴りや投げは、まあ普通に使われているからな」

「あ、そうなんですか。それと魔法を使う人もいるんですか?」

「上位ランカーには強化魔法や補助魔法の遣い手は多い。純粋の魔法使いは別の専用の場所で訓練しているがね」

む、強化魔法、どういうのだろう?

そして魔法使いの訓練、そっちも気になるな。


「私はエラン。100位のランカーだ。私と対戦しないか?ランク戦入門には持って来いだと思うのだが。私に勝てば無所属の貴殿でも、100位の『仮』ランカーになるぞ」

「いいんですか。是非お願いします」

「ただし!くれぐれもあの体術で俺の体を壊さないでくれよ」


隣の対戦場に行って申請する。

エランは双剣、俺と同じスタイルだが、2本とも小太刀。俺の短剣よりもリーチが短い。

オレンジの不斬布を巻く前の小太刀の刀身は黒。

この人は身のこなしからしても、偵察とか暗殺とかそういう任務の人に違いない。

案の定、防具無しの軽装だ。きっと速度重視だな。


一礼して試合開始。

エランは距離をとってゆっくりと反時計まわりに足を使って回っている。

おや?エランの意図が読みにくい。

なんというか、意識が何重にもぶれて感じられる。

例えて言うなら、こうくればが10通り、ああするが10通り、10×10=100通りの手順を半ば無意識に考えているとでもいう感じ。

ふうむ、出来る奴はこうなのか。


射程のより長い俺が有利なポジションを取ろうと、一歩踏み出して間合いを詰めようとした。

とたんに、エランがダッシュで距離を詰める。

速いっ!もうエランの間合いに入っている。

足も速いが手も速い。意表を突く角度からの素早い斬撃が連続で来る。

竜知覚をフル活用して守り、かつ攻める。一瞬のうちに数合斬り結んだ。

おっと、そのまま懐に入られた。

まずい。まずいが、逆に更に一歩踏み込む。

すると、エランがシュバッと飛びすさる。


その刹那、互いの剣が交錯し、俺のミスリルソードがエランの左上腕を軽く掠め、エランの小太刀が俺の左腿に僅かに触れた。腿に微かな痺れ。

今のがミスリルスーツの防御を突破するはずはないから、この痺れは対戦場の魔法効果なのだろう。

エランの左上腕にも細いオレンジ線が入っている。きっとあそこも痺れているはず。

それにしてもエランの今の脱出するような動きはなんだろう?いかんっ!と慌てた風だった。

あ、そうか、俺の合気を過度に警戒しているのか。


しかし困ったな。あのフットワークと両小太刀の回転力。

懐に入られた場合、動きを止めることが出来れば俺が有利だが、斬り続けられると逆に不利だ。

浅く斬られるのは覚悟して、代わりに関節をいただくという手は、ここでは使えないし。

バランスを崩すために接触すると、やぶ蛇で逆に一撃入れられそうだ。

やたらに動きが速いのと、いったん動き始めるとその後は状況に従って反射的に体が動くタイプなのが、俺としてはやり辛い相手だ。


火{爆でやっつけちゃおうよ}

水{毒霧、出す?}

いやいやいやいや、そういうのはここではご法度だってば!

全く物騒な子たちだよ。これはあくまで訓練だから。あの人は味方なの!

地{石盾でも使うか。透明な奴}

それだ!









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