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夢じゃない、これが現実?

黒いモノが飛翔していた。

蝙蝠のような蝶のような。蝙蝠よりは遅く、蝶よりは速く空を舞っている。

そいつは悪意を持って俺に襲い掛かってくる。小さな牙が見える。


手槍を振り回して応戦するがなかなか当たらない。

黒いモノは森の周囲の草原の低空にそこそこいる。

苦戦するうちだんだん数が増えて来た。

一匹になんとか手槍がヒットして始末できたが、このままでは分が悪くなるばかりだ。


森の中に逃げ込むと、意外なことに奴らは追ってこなかった。

なわばりみたいなものがあるのだろう。

さて森の中には何がいるか。


息をひそめると、足下からカサコソと枯れ葉のすれる音がする。

うわっ!でかい虫!!

虫嫌いが見たら卒倒しそうな奴がいた。

形は蟻だが、足先まで入れると掌くらいある。あのタランチュラを彷彿とさせる。

口元には鋭い顎。


手槍でつつくと、嚙みついて来た。

槍を持ちあげても、振り回しても離れない。

木の幹に打ち付けてもだめだ。外殻が硬い。

岩の平たい面に蟻の頭をのっけるようにして、別の石で頭を叩いて潰した。

嫌な汁が腕に飛んだ。ジューゥと皮膚が解ける感触があるので急いで落ち葉でごしごし拭く。


はぁ。ステイタス画面で確認すると、黒い飛ぶ奴もこのでかい蟻も経験値は1だった。

この程度の奴らが最弱なんだなー。何かちょっと怖くなったぞ。


ヤシガニのようなカニもいた。あの蟻よりも一回り大きい。はさみが恐ろし気だ。

指をはさまれたらただでは済まなそうだ。最悪切断かな。

こいつも岩の上で頭を潰す作戦で対処した。石だと近過ぎて指が危険なので、太い棒をガンガン垂直に振り下ろして頭を砕いた。こいつも経験値は1。


地面をちょろちょろ走り回る鼠がいた。鼠と言っても小さめの猫くらいの大きさがある。

俊敏なのでてこずったが、動かずに辛抱強く待って、近づいたところを手槍で刺して仕留めた。

こいつも経験値は1。


そうこうするうちに、レベルアップしてFL2になった。

『↑FL2-6G(12) ML1-1/5G(10)』素の戦闘力が1だけ上がって6か。まだまだだな。

民間人の男で5から10はあるって言っていたから、俺は民間レベルでも弱い方だ。

何かがっかり。次のレベルまであと12かー。


喉が渇いたぞ。何か飲みたい。

ピコーン!

今度は何でしょう。

『←言語対応/鑑定/魔術/超取得/超成長/生活魔法』生活魔法を獲得したようだ。

その中味は『飲料水』ほう。


「飲料水頼みます」

するとぞわぞわっとした後、眼前に見慣れたマグカップが出現した。

俺愛用のステンレス製の保温マグだ。

家電を購入した時のおまけでPnasonyのロゴ入りだ。間違いない。


手に取ったマグには水が入っていた。無色透明で無臭、まぎれもなく水だ。ご丁寧にも適度に冷たい。

ちょっと飲んで無味で安全そうな水そのものであることを確認し、一気に飲み干す。

「美味ぇー!何て美味い水だ!!」

ちょっと感動した。


渇きが収まったら、空腹が気になって来た。

「食べ物プリーズ!」

魔素っていうんだっけ、煙がぞわぞわっとゆらめき、食パンが出現する。

「ははは、いつもの食パンじゃん!」

俺愛用のホームベーカリーで作る食パンだ。底の回転羽の亀裂部分まで忠実に再現されている。

俺はこの食パンがどこの店で売っている食パンよりも好きなのだ。


「くぅー!美味い!!」

空腹のせいか、これまでに感じたことがないほど強烈に美味かった。

食パン1斤、普段なら2~3食分なのに、あっという間に完食してしまった。

ステイタス画面を確認すると、生活魔法の中身が『飲料水/パン』になっていた。


「じゃあデザートを」

………シーン。

「コーヒーを」

………シーン。

望めば何でもというわけじゃないんだな。


人心地ついたので狩りを再開した。

青いスライム、赤いスライム、でかい蟻、でかい鼠、ヤシガニが獲物だ。

草原を飛翔する黒い奴は動きが速いし、あっという間に集結しそうなので手を出さない。

そんなこんなで森の入り口からもう少し奥まで踏み込んでいた。


はぁ疲れた。再び休憩。

そうだ、攻撃魔法があれば、あの黒い奴を打ち落とせるぞ。

「ファイアー、フレイム、ファイアーボール、ストーンバレット、ウォータービーム」

………シーン。

だめか、攻撃魔法は出ないようだ。


水でも飲むか。

うーん、美味い。何て美味い水なんだ。さすが魔法の水だ。

レベル状況を確認すると『↑FL2-6(+3)G(2) ML1-0/5G(10)』。

この0/5は魔力が枯渇したことを意味してそうだな。


狩りを再開し、蟻とカニを一匹ずつ倒したところで、再度レベルチェック。

『↑FL3-6(+3)G(14) ML1-0/5G(10)』

「ありゃ?レベル3になったのに戦闘力が変化してない。次レベルへの必要経験値は上がってる。そして、30分は経ったのに魔力が回復してないぞ」

これは困った。なんだか良く分からない。何かまずったか?


「魔力よ、早く回復しておくれ」

ピコーン!

『言語対応/鑑定/魔術/超取得/超成長/超回復』

来た!超回復とは?『体力や魔力がかなり素早く回復する』。

ふむふむ、かなり早いとはどれくらいかな?


ステイタス画面をじーっと見ていると、お、1/5になった。あ今度は2/5、順調に回復している。

結局ものの1分程度で5/5になった。

「満タンまで1分か。さすが超回復。うむ、満足じゃ」

ここで再度攻撃魔法獲得にチャレンジしてみたが、結局ダメ。

「うーん、よく分からん」


さて、どうしようかなと思ったその時、不穏な気配を感じた。

何かいる!

息を止め、身構えて周囲を見渡す。

いた。草むらに蹲っている。もう1つ。あ、もうひとつだ。


俺が見つめていることを悟り、そいつらは立ち上がった。

緑の肌、尖った耳、大きく避けた口、ギョロ目、身長100~130センチ程度。

うん、ゴブリンだな。イメージから言って間違いない。

2匹は手に刃渡り30~40センチくらいの錆びた刃物を持っている。大きな包丁という感じだ。

もう1匹は丸盾を持っている。片手は素手。武器は無く、盾だけのようだ。こいつは粗末な胴丸も付けている。


ゴブリンは魔物としては弱い方なのだろう。

しかし俺にとっては、初めて出会う100センチ超えの魔物。武器防具持ち。しかも3匹。

こいつらは俺を頭のてっぺんから足先まで視線を上下させながら眺めている。

初めて見る俺を値踏みしているようだ。獲物なのか逃げるべき敵なのか。


スライムや蟻なんかとのこれまでの戦闘経験から言って、俺に勝ち目は無いと直感する。

ゴブリンの表情がにやりと崩れたかに見えたその瞬間、俺はくるりと振り向いて、脱兎のごとく逃げ出した。

ゴブリンたちが草原側にいたので、森の奥に逃げ込むことになる。


ゴブリン達は「グギャー」とか「ゴギャゴギャー」と喚いて追って来たが、幸い俺の方が圧倒的に早い。

しばらく走った後、大きな岩の陰で立ち止まって呼吸を整える。

いやー怖かった。でかい包丁を振り上げ、殺意を発して追い掛けて来る小鬼たち。

夢に見てうなされそう。いや、これが夢なんだって。

でも本当に?なんかすんごいリアルなんだけど。


全力疾走したのであちこち傷付いている。裸足なので、特に足の裏がひどい。

刺さっていた棘を抜いた。じんわりと血が滲み、鉄錆くさい血の臭いが漂う。

意識すると傷がうずく。棘の傷にさわると飛び上がるほど痛い。

これって、夢じゃないんじゃない!?疑念が持ち上がる。

ま、とにかく、夢だろうがそうでなかろうが、全力を尽くそうと決心する。

こんなこと、めったに経験できないに違いないからな。


カサカサ、ポキリ。葉擦れと小枝の折れる音がする。

そっと振り向くと、岩の影からヌッとゴブリンが顔を出した。

お互いにギョッとして硬直する。

我に返った俺が手槍を突き出す。

包丁でそれを薙ぐゴブリン。

あっ、手斧がスパッと斜めに切断された。長さが半分程度になってしまった。


ゴブリンが一歩踏み出す。

俺は身を翻して逃走しようと試みるが、バランスを失って倒れ掛かる。

手近な枝を掴み、体勢を立て直してゴブリンから距離をとろうとするが、そこへゴブリンの包丁が横薙ぎに襲い掛かる。


ガッ!やられたか!?

いや、包丁の刃は俺が身を隠した比較的細めの木の幹に食い込んでいる。抜けないようだ。チャンス!

俺は片手でゴブリンの頭頂部を鷲掴みにし、顔面の中心部に膝蹴りを叩き込んだ。

そして動きが止まったゴブリンの後頭部下の頸部に鋭く尖った切り口の手槍の片割れを突き刺す。

さっき斜めに切られたのが幸いして、その新武器はゴブリンの首を貫通して、ゴブリンの体を地面に刺し止めた。


勝った!あとの2匹は?ここにはいないようだ。良かった。

幹に食い込んでいたゴブリンの包丁を力を込めてズボッと抜いて奪い、足音を立てないように、その場から遠ざかる。

ゴブリンは経験値が4だった。あんな命懸けの思いをして経験値4とは。

ゴブリンの包丁は、錆びた粗悪な短剣ショートソードで、攻撃力4とのこと。

これは収穫だった。


短剣は直径15センチ程の細い木の幹の3分の1程度の深さまで食い込んでいた。

ゴブリンの斬撃はそれだけの攻撃力を秘めているのだ。

あそこにあの細い木の幹がなかったらやられていた。

そしてもしもその細い木の幹すら切断する攻撃力があったら、やはりやられていただろう。

ゴブリンの攻撃力も侮れないし、ゴブリン以上の魔物とは決して相対するべきではない。


しかし、人型の魔物ゴブリンに対する戦いで出たのは合気の技じゃなかった。

相手が小さ過ぎて勝手が違ったから?

即座に相手の戦闘力を奪わなければならないので、投げて終わる普段の格闘技は出番がなかった?

いやいや、咄嗟の攻防の呼吸は合気に通じるものがあった?

どうなのだろうか、いずれ考察を深めてみたいところだ。


さて、とにかく、このあとどうすべきか。

この周辺に、少なくともゴブリンがあと2匹いる。辺りは徐々に暗くなっていく。

そろそろ夜のとばりが降りようとしているのだ。

勝手の分からない夜の森にひとり。

まずい!まずい!まずい!ゴブリン以上の敵もごろごろ居そうじゃないか。

無暗に動き回るのは危険だ。じっとしているのも危険だが…。

どうする?敵の状況を探知できればまだ良いのだけれど。


ピコーン!

来た。新たに獲得したのは『探知』。『敵の気配を察知する』だそうだ。

よし、これはこの状況で役に立つ。

早速探知してみよう。うん、確かになにやら感じるぞ。

その結果は、、、周囲は敵だらけ。強敵だらけ。

ゴブリンも多数いる。それ以上と思わるものも、いるいる!


絶対絶命か?どうにか凌ぎようがあるのか?

とりあえず落ち着いて考えよう。気を静めるんだ。

そしてふと気付くと、辺りにふわふわと光の粒子が舞っている。

蛍?いや、もっとずっと小さい。


むしろダイヤモンドダストに近いほどの細かい粒子だが、意思をもった虫のようにふわふわ舞っているのだ。あっちにもこっちにも。

これはなんだろう?不思議と嫌な感じはしない。


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