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合気炸裂!

「表へ出ろ」傷男がドスを利かせた声で告げる。

異論はない。

「子供達のこと見ててくれよ」ソーシンに頼む。

「それはいいけど、マサトは大丈夫なのか?」

「うーん、どうだろ。大丈夫だとは思うけど、ダメな時はその時さ」

降参という手があるからね。お互いに。


表の道幅は4メートルくらいか。馬車がすれ違えるくらいの幅はあるのでそれなりに結構広い。

暴れ牛亭は四つ角に位置しているが、その交差点の真ん中に俺が立ち、周囲ぐるりを傭兵どもが囲む。

15人以上いるな、時間が経つにつれてだんだん増えて来てるぞ。

「さあて始めるか。それとも始める前に降参するか?」傷の大男が言う。

「とりあえず、始めましょう」

いきなりの降参はちょっとね。対集団戦は少しばかり自信が付いたところだし、まずはやってみたい!


前から2人、左右から各1人が、いきなり殴りかかって来た。

同時に背後から2人が俺の胴体と脚を押さえつけようと掴み掛かる。

後ろ蹴りで脚に近付いてきた奴の顔面を蹴り付け、前方のパンチ数発を躱しかつ捌き、直後に胴体を後ろから羽交い締めにしようとした奴の手首を掴んで捻り上げ、頭を下に抜いて、そいつを前方に振り回してから投げ飛ばした。

その振り回した足と体が、前方の奴らを薙ぎ倒す。


おおおぉぉ、何ということだ!合気人生10数年で、かつて感じたことのない明晰な感覚!

とてつもなくやりやすい。相手の動きがまるわかり。自分の動きも思い通り。

愉快、爽快、痛快さ爆発だ!

竜知覚と合気は、物凄く相性がいい!!


エコーロケーションと熱感知で敵の体全体の状況を完全に把握できる。

よって、敵の重心の位置や不安定度が瞬時に的確に理解できる。

加えて、生体電気の走りと電位変化を感知して、次に動かそうとしている筋繊維がどこか、その動きの大きさがどの程度かが判り、次動作がかなり精密に予測できる。


体温の感知と生体電気感知は骨だけのスケルトン相手では理解しようのないことだった。

そして子供達相手の余裕過ぎる戦闘では、さほど意識していなかった。

これらの情報がこれほど価値のあるものだったとは!


もともと合気は、かなり繊細な技の体系である。

例えば手首の関節をめるには、相手の上腕の位置と角度に対して的確な当て方で自分の腕を当てて掴み、最適な方向に最適な角度で力を加えなければならない。すこしでもずれると極まらない。

無防備に伸ばされた腕ならともかく、早いパンチに合わせて的確に関節を極めるのは至難である。

そして合気の投げは、相手の重心の変化を感じ取り、その乱れを助長しつつ、身体構造に適った誘導によって成し遂げられる。

力技では無く、感知技とでもいうべきものなのである。


視覚+エコーロケーション+熱感知+生体電感知の能力があれば、これが驚くばかりに容易になる。

しかも、竜知覚の反応速度により、相手の動きはまるでスローモーションのように感じられるので、避ける、捌く、当てる、つかむ、捻る、崩す、回す、飛ばす、投げる、これらが思うがままである。


手や足が何本出てこようと全く問題無い。

僅かな時間差でいかようにも処理可能だし、同時ならフットワークで回避したり、手足で捌いて邪魔な手足を弾き、必要な手足のみを掴み、極め、捻り、投げる。

相手の体を浮かし、回し、投げる。その位置と方向も考慮して、相手の体自体が他の敵への武器になり遮蔽物になるように仕向ける。


傭兵達はある程度は喧嘩慣れしているのかも知れないが、合気道の門人達と比べれば素人同然である。

というか格闘技については実際素人なのだろう。

フェイントも返し技もなければ、受けも防御も引きも足捌きも体捌きも、まるでなってない。

打撃や掴みなど、型にはまっており、まるで型稽古をやっているかのような錯覚に陥る。


いやはや、やはり先人の知恵と工夫は侮れない。

くだらないと馬鹿にしていた型稽古がこれほど役に立つとは!

今受けている攻撃は、ほとんど全てが型そのもの、あるいは若干の変形に過ぎない。

そして型を逸脱する攻撃も、ちょっと応用を利かせることで、対処できる。

全く驚くばかりだ!


「将斗はな、ちょっと踏み込みが足りん。気持ち数センチ押し込め。技がもっとキレるようになる」

「相手が引こうとする動きを利用するもの悪くない。が、初動の方向をそのまま活かす方が上策じゃ」

じいちゃんの様々な小言をなぜか次々に思い出す。そうかアレはこういうことを言っていたのか。

今更ながら理解し、すんなり腑に落ちる。そしてぴしりぴしりと面白いように身に刻み込まれて行く。


何だこの充実の実戦訓練は、いや、実戦そのものか。

とにかく楽しい。凄く楽しいぞ!!

子供達や見物人も喜んでくれている。

ふふふ、声援が心地良い。

*****


<ソーシン視点>

我が目を疑った。信じられない光景が眼前に展開する。これは何かの冗談なのか?

マサトが軽く手を振ったり体を動かしたりするたびに、屈強な傭兵達が宙に舞う。

マサトが通るところ、次々に敵が宙を飛んでは別の敵にぶつかり、数人が無様に地に倒れ伏す。

まるで竜巻の通過だ。

傭兵達とマサトが示し合わせているかのように見えるが、そんなはずがない。

それは自分が一番良く分っている。

分ってはいるのだが、納得が追いつかない。


ロランも目を丸くしている。

子供たちは、最初は驚いていたけれど深く考えることなく、今は素直に喜んでいる。

「うわぁい、お兄ちゃん凄い凄い」

「イッケー」「あはははは、いいぞー!」

愉快なイベントを楽しんでいる感じだな。


確かに一方的で、全く不安が無いように見えるんだけれど、それにしても何なんだアレは?

魔法?重力とか風とかの?

でも呪文も何もないし、空気の妙な動きもない。

となると、体術か。


マサトは凄く強い奴だとは思っていたが、これほどとはな!

これならこのまま勝てるんじゃないだろうか?

放り投げるだけで、傭兵達はすぐに立ち上がってくるけど、徐々にダメージが溜まってるようだ。

このまま行ってくれ。


うあ、傭兵が武器を持ち出した!

決闘だから武器を使っても文句は言えないけど、なんか違うような気もする。

これは戦いの趨勢が変わりそうだ。

マサトも剣を抜くんだろうか。

そしたら殺し合いか…。

マズイ、でもどうすれば?

*****

<傭兵視点>

「おい、こいつ普通じゃねぇぞ!」

「ああ、変な技を使いやがる」

「魔法か?」

「それにしちゃあ魔力が切れねぇな…」


「ただ飛ばされるだけだ。立ち上がりゃまた戦える」

「でもな、取り付くシマがない」

「このままじゃあ拉致が開かねぇ」

「こんだけ人数がいて、どうも出来ねえとは!?」


「おい、お前ら、武器エモノを持ってきてやったぜ」

「おお!ありがてぇ!!」

「ふはは、こいつがありゃあ」

「あんちくしょうめ、覚悟しやがれ。これで年貢の納め時だ」

*****


<謎の武人視点>

暴れ牛亭は、気が荒くヤサグレた傭兵がたむろする酒場だけに、店横の四辻は喧嘩と決闘のメッカだ。

今まさに決闘が始まり、付近の町衆が押し寄せた。二重三重では効かないほどの見物人の人垣。

この街では決闘は、これ以上ないほどの極上の娯楽なのだから仕方ない。

この人混みじゃあ、あのお方がここを通過するのは難しいな。

道順を変更するよう進言しよう。


うん?ちらりと見えたが、いつもと様子が違うようだ。

一対一のタイマン勝負でもなければ、同人数の集団戦でもない。

対峙しているのは、一人の若者とその他大勢の荒くれ者。

これは、一方的な嬲りモノになる。

…かと思いきや、なんと若者の方が圧倒している!


おいおい何なのだこれは!

全方位からの押し包むような攻撃を、全て躱し、捌き、次々と藁人形のように投げ捨てる。

舞踏のようにリズミカルで精緻な美しい動き。

うーむ、これは何かの見世物か?約束練習なのか?


いや、荒くれ達は本気のようだ。

すると、若者の格闘技能が玄妙の域に達しているということか。

背後からの攻撃にも、まるで見えているかのような完璧な対応。

軽々と制圧して宙に浮かせ、向かって来る新手にひょいと投げつけて、数人を同時に倒す。

この小気味よいまでの強さ!

思わず笑いが出るほどの、余裕のあしらい様。

見物人も大喜びだ。


お!?荒くれ達が武器を手にした。

あの表情、やる気だな。殺気が感じられる。

いかんな、止めなければ。しかし、危険過ぎる。

私一人が出て行ってもどうにもならない。刻まれてしまう。

そうだ、あのお方をお呼びしよう。

急がなくては!

*****


<将斗視点>

おや?武装した奴が出て来た。ふん、そういうことか。

桐流じゃあ武器を想定した型稽古もみっちりやってきた。

どうってことないだろう、たぶん。

ミスリルソードを抜くまでもない、このまま合気で相手をしてやるぞ。

ただし、フードを被りメッシュを留めて、手袋を嵌める。

念のために完全防備だ。


火{素手でもイケるイケる。ヌシさまの組手技、凄い冴えだもん}

地{あの傷男には注意した方がいい。あとは5人くらいだな、そこそこ遣う奴は}

そうなのだ。顔面に傷の大男はチームアンデッドの一員くらいにはやりそうだ。

そしてソーシンと同程度の腕前の奴があと5人。その他は有象無象だ…と思う。


そのまずまずの奴の一人が、両手剣で斬り掛かってくる。大きく振りかぶっての真向斬り下し。

軌道を見切って懐に入り込み、手首と剣の柄を握って前方下方向にひねり回し、体が浮いたところで剣と腕を逆に返して関節を極める。

武器を装備したからには、もはや遠慮はしない。

秘伝の裏合気でこってりと相手をしてやろう。

両腕の肘関節が壊れた感触が伝わってくる。


ここで剣を奪ってもいいんだけど奪わない。

剣を垂直に立ててその上に体を落としてもいいんだけどそれもしない。

首関節を捻ってもいいんだけど、それもしない。

眼窩に指を引っ掛け、指を押し入れながら投げて、眼球をえぐり出すなんてことはもちろんしない。

…なんだよ俺、結構遠慮してるじゃん(笑)。


確かに、武器を持つと、相手の脅威度は格段に跳ね上がる。

注意すべきはその武器の軌道。複数敵の武器に対しても、むろん十分に警戒する。

ただし、武器を持つ手の形、腕の動き、体勢はむしろパターンに嵌っていて、素手の時より読みやすい。

とにかく、今俺を取り囲んでいる程度の奴らなら、怖くはない。

ミスリル防具もあるしね。

よおし、竜知覚のおかげで各段に凄みを増した合気技を堪能するし、お前たちにも堪能してもらうぞ!


うなりを上げて接近する武器のヒットポイントを躱して懐に入り込み、武器の動きを制して、その武器ごと持ち手の手首・肘・肩の関節を極める。

武器を手放せば、それをてこのように利用して、敵の体を操る。

主導権を奪った武器と敵の体で、後続の敵の攻撃を牽制しつつ、機を見て投げ飛ばす。


横倒しの剣の刃筋の上に落ちて斬傷を負ったり、空中を舞いながらむやみに剣を振り回して仲間を傷付けることまでは止められない。

さすがにそこまでは面倒見切れない。

まあその辺は、出たとこ勝負だな。

運の悪い奴は諦めてくれ。


突き出された槍を掴み、引いて重心を崩し、回し投げてその槍を踏み付け、持ち手の指を潰す。

円盾を掴んで引き込んだところに、側面から切り込んだ奴がいて、その一撃が盾持ちの背中を切り裂いてしまう。

剣を持った奴の懐に飛び込んで顔面に肘を入れ足を払って仰向けに倒すと、振り上げた剣が後続の敵に突き刺さる。


武器を持った敵の体を翻弄すると、その武器が所持者自身や周りの者を傷付ける。

俺はその武器の危険領域、危険方向を見極めつつ、体を捌いて、身の安全を図ると共に、敵の武器で別の敵の攻撃を防御する。

その武器が偶然攻撃効果を持ってしまうが、それはわざとしているわけでは無い。

うん、意図的では無い。反射的にそうなっちゃうだけだ。

俺は関節を壊して戦闘力を奪おうとはしてるけど、敢えて流血させようとはしてないんだよ。


敵の攻撃に合わせて、夢中になってしばし動き回った後、ふと気が付くと、辺りは既に血の臭いが充満し、地面にはそこここに血溜まりができて、負傷者がその上に倒れている。何とも凄惨な有様だ。

裏合気を使い始めてまだ数分なんだけれど、相手を壊し始めると展開が早いな。


血だまりの中で呻いている奴は良いとして、ピクリとも動かないのが数人いて少々気がかりだ。

未だに立っているのは…半数を下回ったかな。

「そろそろ…降参したらどうですか?」

「う、うるせぇ!」


忠告に逆切れして、敏捷な動きの小柄な奴が、手槍を下段に構えて突進し、穂先を斬り上げて来る。

俺の手による防御を警戒する攻めだな、それなりの工夫はあるんだ。でも甘い甘い。

パシッとブーツの側面で手槍を弾いて軌道を逸らし、素早く踏み込むと、柄を掴んで敵の頭上から背中方向にぐりんと回す。

空いた手を敵の肘の外側に当てて肘が逃げないようにして、逆方向に極まった肘と手槍の上に敵の体が落ちるように仕向ける。


ぶちぶちっ、靭帯が切れる。ガポッ、肘が抜けたのが判る。

手を離れた手槍の石突きが地面を引っ搔いてめり込み、そのため立ち上がった穂先が被さって来る大腿をズブリと貫いて、その後ボキッと柄がへし折れた。

済まん、刺さったのはわざとじゃない。


地べたに這いつくばったまま唸っている。

肘が外れたので受け身が取れず、頭を地面に打ち付けたかな。…立ち上がれないようだ。

また一人戦闘不能になった。

残るはあと6人か。あの傷男も健在だ。

皆、青ざめた顔をして無言で立ち竦んでいるが、まだやる気なのかな?


もう勝負は付いたと思うし、怪我させて戦闘不能にするのは、俺としても辛いものがある。

降参してもらいたいが、下手に声を掛けると、また自棄になって突っ込んで来そうだし。

さてどうしたものかな?


「やめい!双方もうよかろう。そこまでにしておけ。」

凛とした声が響いた。

*****

スキル

 格闘術A←UP!


(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀

      B=トップクラス  A=達人級






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