夜襲
「地竜よ、接近する山賊達の様子を見て来てくれないか?」
{うむ。我には容易いこと}
地竜が松明と黒い影の列の場所まで移動し、そして戻って来た。
{数人の下っ端が、5体の皮帽子をかぶった藁人形と松明のセットを、何セットもせっせと運んでおる}
「なっ、それはまずい」
地竜の姿も、俺と地竜のやりとりも周りの山の民には感知できていないようで、誰も驚かない。
改めて声に出してしっかりと伝える。
「みんな!あれは罠だ。陽動だ。正面にいるのは藁人形だ。本隊は別方向から来る!」
「えっ!」
「でもどこから?」
「他の3方向は天然の要害ですが」
「無理やりでも来れるとしたらどこだ?」
「南の急斜面?」
「そこだっ!」
正面には少数の守りを残して、南へ駆けつけた。
やはりここだった。松明の灯りこそないが、斜面の藪が揺れている。
耳を澄ませば、ガサゴソ、ガチャガチャ。大勢の山賊が進んでくる気配は隠せない。
{樹木の柵を設置して接近を防ぐ}
地竜が植物操作で樹木の枝を伸ばし編み込んで、通過不能の柵を急斜面の端から端まで設置した。
しかし山賊の姿は藪の中ではっきりとは掴めない。草をどうにかしたい。
地竜。消えたか…。
俺の植物成長促進で何とかなるか?とりあえずやってみよう。
藪の草は益々伸びて、花を付け実が成り、そして枯れた。葉は縮れ、倒れる茎もある。
うん、山賊の姿が確認できるようになったぞ!
「山賊の主力はあそこだ!」
「みなの者、斉射!!」
リーダーの号令で山の民が一斉に弓を引き、矢を速射する。
編み込んだ樹木の柵で進行を阻まれた山賊どもは、バタバタと射抜かれて倒れて行く。
よし、ここは任せても大丈夫だ。
「うわあぁー」「おりゃあ!」ガキン!キーン。
背後で戦闘が始まった。
既に潜入していた山賊が弓隊の背後を突いて急襲したのだ。
「東集落の者は外敵への弓攻撃を続けろ。他の者は反転して、鉈で内部の山賊を討て!」
リーダーの指示が飛ぶ。
乱戦になった。
急襲した山賊は10人程度でこちらの方が数的には優位なのだが、敵味方入り乱れているので弓が使えない。
俺の石礫も封印状態だ。
長剣主体の山賊が圧倒的に優勢で、山の民は鉈で防御するのが精一杯。
強い敵が二人いる。頭一つ抜けた大柄な奴と、軽鎧ながらフル装備の奴だ。
俺は味方を傷付けないように大振りを避けて、小さな突きを主体に山賊をなぎ倒していく。
味方の鉈を何発か喰らったが、ミスリルの装備は鉈攻撃などものともしない。
山賊を4人倒したところで地竜が復活。
{お主を守る。危険な攻撃を2発まで防いでやる。それ以上は面倒見切れんぞ}
でかい奴と対峙しているので余裕が無く、返事の代わりに笑みで答えた。
にやりと俺が笑ったのを嘲笑と受け取ったでかぶつが、大剣を横薙ぎに振り回す。
ごぉ!と通り過ぎた大剣だが、軌道の先にいた山の民の胴体に命中。苦痛のうめきを上げて蹲る。
周囲の味方が慌てて距離を空ける。
その間俺は、大振りの隙を見逃さずに、鋭く小さく敵の顔面を突くが、顔を振って躱される。
引きながら剣を下げて肩と上腕を浅く斬る。
そして大剣を切り替えそうとするその踏ん張った右足の下から土槍!足裏から甲までを貫く。
「うがぁ」
反射的に右足を上げてバランスを崩し、切り返した大剣が泳いでいるその懐に飛び込んで、ミスリルソードを心臓に突きたてて根元まで押し込み、飛び込んだ勢いのままズバッと剣を振り抜いて胴体を引き裂く。
ズズズッと力なく崩れ落ちる巨体。よし、仕留めた!
と、息つく間もなく、あの装備の良い奴が切り込んでくる。
鋭い刺突、素早く繋ぐ払い、更に刺突、ここまでをなんとか躱す。
こいつ、隙が無い。というか、剣の腕は俺よりかなり上と見た。
左右に素早く回り込み、俺と体を入れ替えるので、山の民は援護することが出来ない。
これは斬り合っていても分が悪い。
ミスリル防具と地竜を信じて、防御を顔面部だけに絞りつつ、意識を一瞬魔法に振り向ける。
敵の足元に短い土槍。ブーツを突き貫くことは叶わないが、奴のバランスは崩れる。
好機!踏み込む。敵は体勢を立て直して迎撃しようとするその軸足に再度土槍。
土槍が足を払うこととなり、敵の足は宙に浮いて仰向けに転倒しようとする。
のけぞったその首元へ、ミスリルソードを突き入れる。
革の装具を突き破り、あたかも西瓜を突き刺すような軽い感触で貫通した。
その間、敵はバランスを崩しつつも、その剣は俺の心臓の辺りを突いて来た。
しかし倒れながらの力の入らない一撃であり、更には体を捻って力を受け流したこともあり、その切っ先はミスリルチュニックの表面を滑っただけで体を外れ、虚しく空に突き出された。
二人目の強敵も倒した。
周囲を見回すと、もはや生きている敵はいない。
枯草の中の外敵も片付いたようだ。
む、しかし!
{里中に火の手が上がっているな。先に行くぞ}
「リーダー、アレを!」
「西集落の者はこの場の警戒を続ける。残りは里中に戻り、鎮火にあたれ」
「「おう!!」」
みな素早く行動に移った。
里は狭い。すぐに出火場所に着いた。
数件の建物が燃えている。
山賊は?生きているのはいない。二人は土槍に立ったまま貫かれ、残りの3人は倒れている。
探知してみるが、正面の細道に数人の気配があるだけで、里の中には山賊の気配はない。
山の民は女子供も老人も総出で鎮火にあたっている。建物を壊したり水や土を掛けたりして奮闘している。
俺は正面に回り、見張り台に上がって、藁人形を動かしながら細道の中ほどにいる山賊一味に向けて石礫を飛ばした。地竜も狙いすました石弾を飛ばす。
正面に陣取る山の民の射手も斉射を始めた。
月明かりと松明の灯りがあれば、気配を頼りに狙いを付けるのは難しくない。
程なく、正面の門外の山賊の動きは止まり、気配も消えた。
ここはもう大丈夫だ。
もうしばらく掛かったが、火の方もほぼ始末がついた。
延焼の危険のある建物は全て取り壊され、瓦礫に土が掛けられている。
まだ火は消えていないが、今燃えているところが燃え尽きればそれでお終いだろう。
順番に見張りを立てながら、短い時間ではあったが熟睡した。
寝入る直前の一瞬、エレメントの光の中でミスリル装備に身を包んだ見知らぬ若者が微笑みかける幻を見た…気がした。
翌朝、陽が昇ってから被害状況を確認する。
里の建物は半分近くが燃えたり壊されたりして瓦礫となった。
「なあに、只の小屋です。また建てればいいだけです」
「幸か不幸か食料の備蓄は元から無かったですし」
「衣服や鍋釜は持ち出しましたし」
犠牲者3名。重傷者2名。軽傷者多数。
「これだけで済んだのは奇跡のようなものです」
「聖者様のお陰です」
確認した山賊の死骸72名。刀剣などの戦利品多数。
装備の良い奴が山賊の親玉、でかぶつは副長で、この2人を倒したのは大成果とのこと。
「聖者様のお陰です」
「我々もなかなか頑張りました」
「山賊の勢力を大きく削ぎ落すことができました」
「もうしばらくは襲撃されることはないでしょう」
「川の支配権も取り戻せます」
「川向うまで縄張りを広げられます」
「麦はたわわに実って収穫を待つばかり」
「南の森の主は消えて、狩場が広がりましたし」
犠牲はあったが、とにかく万々歳と言って良い状況とのこと。
みんなにこにこ笑顔で、顔が輝いている。
無くなった人も名誉の戦死で、遺族はみんなで面倒をみるそうだ。
山の民全員総出で見送られて、隠れ里を後にした。
街への行き方もしっかり教えてもらった。
北の山の頂上付近はハーピーの縄張りなので近付かないようにと警告も受けた。
「ハーピーってやばいのか?」
{ああ。風属性だし、催眠攻撃をするし、何より巣を作っていて数が多い}
「地竜がいて、ミスリル完全装備でも?」
{我は良くて5匹、下手すると2匹を倒していったん引くこととなろう。お主は…、そうだな良くて3匹、下手すると1匹も倒せずに昏睡するだろう}
ごくり。
「昏睡するとどうなる?」
{5体を掴まれ、別方向に引っ張られて引きちぎられるか、高空から地面に叩きつけられるか。いずれにしも、愉快なことにはならん}
あちゃー。厳しいねー。
「そういえば、地竜は俺以外には見えないんだね」
{姿を見せることも出来ないではない。だが不可視の方が都合が良いだろう。手の内を読まれないからな}
「そしてこの会話も他の人には聞こえないのはなぜだろう」
{お主、これは念話だ。お主も声に出す必要は無いのだぞ。思念のまま異世界言語の音声になっておるが、周りの者が変に思うぞ}
{そうか、念話は思念で通じるし、声に出してる時は、そのまま日本語になっていたのか}
{そうそう、そういう感じでいいのだ。お主と我は霊的に繋がっているのだから、頭の中で我と意を通じるようにすれば足りるのだ}
{なるほどこうか。ははは、今までは呪文か何かを唱えてると思われてたかな}
クリュウ・マスタ 自由人
素養
言語対応
東方共通言語
鑑定
自己鑑定
魔術
練魔素
生活魔法
飲料水/パン/浄化/着火
土魔法E
石礫D/土槍F←UP!
植物利用
成長促進/植物素材
精霊術
練霊素/精霊の声/竜気
超取得/超成長/超回復/探知
スペック
FL23-41C(412)←UP!
フィジカルレベル23←UP!
戦闘力41←UP!
ランクC←UP!
次のレベルまでの必要経験値412
ML17-23/23D(164)←UP!
マジカルレベル17←UP!
魔力量23←UP!
ランクD←UP!
次のレベルまでの必要魔術経験値164
SL19-34/28(+6)D(223)←UP!
スピリチュアルレベル19←UP!
霊力量28←UP!
ランクD
次のレベルまでの必要精霊術経験値223
スキル
剣術C←UP!/槍術G/投石術F
装備
ミスリル(m)ソード150/mチュニック100/m兜80/
m小手50/ m鎧下70、mブーツ50、mリング(+20%)
(注)ランクG=初心者 F=劣る E=普通 D=良い C=優秀