えっ!?失敗召喚ってそれはないでしょう!
新作を始めました。
しばらくは、1~3日に一度の頻度で更新します。
よろしくお願いします!
「はぁ…。」
少年いや、もう青年と言うべきか、桐生将斗18歳は、下宿の部屋でひとり溜息をついた。
将斗はこの春、大学生活を送るために単身上京した。
彼は幼くして両親を事故で亡くし、祖父母に育てられている。
祖父母の家は田舎の小さな合気道場。門人数は少なく、もちろん裕福ではない。
祖父母は彼に道場を継いでもらうことを希望しているが、彼は乗り気ではない。
「合気は嫌いじゃないけど、そんなに好きでもない」
祖父母が喜ぶからやっているだけとのこと。
「とりあえず田舎を脱出しよう!」
将斗は先の見通しの立たないまま、東京郊外の安い下宿を探し、アルバイトで生活費と学費を稼いで大学に通うつもりである。
祖父母に負担を掛けずに自活する!と大見栄を切っていた。
しかし、世の中甘くない。
郊外のワンルームなのに家賃が高い、生活費は思ったより掛かる、学費も高い。
アルバイト1か所では足りず、2か所掛け持ちをしなくてはならない。
大学は合気道での推薦入学なので、合気の部活が義務である。
予想される今後の生活は、相当に窮屈だ。
そこまでしても、将来に明るい光が灯っているわけではない。
むしろ気が重くなる将来が待ち構えている。
「はぁ。なんだかなぁ」
………。
「とりあえず寝るか。朝になったら気分も明るくなるかも」
………。
「束縛の無い自由な異世界で、食べる物にもお金にも困ることなく、自由気儘に生きたいなぁ」
将斗は何とも情けない精神状態のまま眠りに落ちて行った。
「その思い叶えましょう」
なんだ?もう夢を見てるのか、はは。
*****
…ん、んん?近くで人の声がする。何語だ?日本語じゃないぞ。英語でもない。
ばっと目を開けた。
間近に男が二人いる!不審者か!!
見知らぬ男が理解不能の言語で俺に話しかけて来る。
何て言ってるんだろう?
ピコーン!
その時脳内で妙なチャイムが鳴った。
「えっ!?」
「…ざめですか。クリュウ・マスタ殿。ようこそいらっしゃいました」
あれ?いきなり何を言ってるか分かるようになったぞ。
間違いない、これは夢だ。
周囲を見回す。見知らぬ部屋だ。天井が高い。そこそこ広い。
中世ヨーロッパの貴族のような様子の男が二人、一人は中背で細身、もう一人は長身でがっしりしている。二人のうしろには軽装備の兵士風の男が4人立っていた。
ぐるりと首を回して背後を確認すると、そちらにも兵士が4人いた。
俺は見知らぬ寝台に横になっていた。下宿で寝ていたはずなのに。
短パンとTシャツはそのままだ。
「私は召喚士のミルラ・ロッテンバイヤーと申します。古の理に則り、クリュウ・マスタ殿を召喚させて頂きました」
「は?召喚って、何言ってるんですか。それに俺はクリュウ何とかじゃなくて、桐生将斗ですが」
ははは、夢なのにマジレスしちまった。
「ミルラ、鑑定機を」
がっしりした方が重々しくしゃべる。どうやらこちらが上役だな。
「はっ。クリュウ殿、このハンドルを握って下さい。ええそうです。もう片方の手はこちらに」
箱から伸びた2本のハンドルを握らされる。
箱の中心には水晶玉が埋め込まれており、そこから光が伸びて側面の壁に像を結ぶ。
『クリュウ・マスタ 自由人』
上の方に2行だけ文字があり、あとは空欄、何もない。
「……ミルラ、これはどういうことかな」
「お名前はクリュウ・マスタ殿で間違いないですね。いやしかし、自由人とは、はて?」
「FLもMLもSLもなし、戦闘力も魔力もなし、ただの生粋の自由人ではないのか!」
「いや、ははは、まあ、あのですね、幸い無害なようですね」
「先程は勇者ではなく、ユウ・シャという反逆者だったな。惰弱であったから即座に斬り殺せたが!」
「ははは、あいつはユウシャのくせに弱かったですな」
「今度はごく潰しの自由人!貴様、こ奴諸共叩っ斬ってくれるわ!!」
*****
「領主様落ち着いて下さい。ここで斬っても部屋が汚れますし、後始末が大変なだけです」
荒れる上役風の男を兵士達がなだめ、結局俺は街の外にぽい捨てされることになった。
そういうわけで、俺は兵士二人に左右から挟まれて廊下を歩いている。
「夢なのに、無能扱いとかごく潰しとか、あーやだやだ」
「わははは、貴様にとっては、この世は夢か」
「自由人は気楽でいいな」
「自由人って能無し扱いなのか?」
ついでだから聞いてみた。
「まあな、何も役に立つところがないからな。能無し、ごく潰し、ゴミ、ダニなどという評価が一般的だな。でも俺はそんなに嫌いじゃないぞ」
散々だ。最後に持ち上げようとしても無駄だって。
「どんな奴の召喚を望んでいたのかな?」
「勇者とかドラゴンマスターとか、とにかく即戦力だ。戦争に役立つ戦闘力の高い奴」
「戦闘力って?」
「文字通り戦う力さ。民間人でも男なら5から10はあるもんだ。兵士なら10から100はある。勇者クラスなら1000程度は欲しいな。お前さんはゼロみたいだがな。はっはっは」
中世ヨーロッパあるいはローマ時代風の石造りの街並みを歩いて街外れまで行き、塀の外で解放された。
「ほらよ。ここからは自由だ。お前さんの本領発揮だろ」
「死ぬなよ。特に街の近くではな。魔物と盗賊には気を付けろ」
「このままずーっとこの方向へ3日も歩けば隣街に着く」
「それと、領主様はお前のことなんか覚えちゃいないだろうから、その変な服さえ何とかなればこの街に入っても平気だろうな。ただし、その目立つ服装のままで戻ると今度こそ殺されるぞ」
うーん、兵士達は、悪い奴じゃないんだけどな。
*****
これさ、夢だと思うんだけど、やけにリアルなんだよな。
異世界召喚かぁ。
本来ならチート能力を備えて、三顧の礼で迎えられて、大活躍する運びのはずだ。
それがポカミスで、無能の自由人になっちまうとは。
あーあ、寝入りばなの心理状態がアレだったからなぁ。
まあせっかくだから、この妙な夢に付き合って、できるだけ楽しんでやろう。
召喚の魔法があって、中世の剣や槍があって、魔物や盗賊がいるか…。
弱そうなスライムとかいないかな?
道を外れると草原だ。草原を歩きながら地面を見て、魔物を探す。
いた!青いゼリー状の物体。こいつがスライムに違いない。
木の棒を拾って叩いてみるが、意外にもボヨンと跳ね返された。
触ってみたら、ジュッと手の皮膚が少し溶けた。
スライム強えぇ、侮れん!
格闘すること15分。
大き目の石を中心部に落として、やっと仕留めた。
ピコーン!
再びチャイムが脳内で鳴り、さっきみた画面が目の前に現れ、一瞬で消えた。
何か文字と数字が見えた気がしたんだが、しっかり確認はできなかった。
あの画面の数字は俺自身のステイタスに違いない。
「何とかもう一度見れないかな?」
ピコーン!
鳴った!出た!
半透明のモニター画面だ。
『クリュウ・マスタ 自由人』
あれ?数字が無いぞ?そんなはずはない。どっかに…モニター画面をよく見ると上下左右に小さな矢印があり、そのいくつかが点滅していた。
まず画面左側の←に意識の焦点を合わせると、別画面が展開した。
そこには『言語対応/鑑定』とある。
更に言語対応の文字に焦点を合わせると『東方共通語』、鑑定に焦点を合わせると『自己鑑定』と出る。
元の画面に戻して、今度は上の↑から展開させると、『FL1-5(+1)G(100)』と出た。
あ、これだ。さっきちらっと見えた奴。何だこの謎の文字数字列?
→に展開すると真っ白で何も無し、↓に展開すると『木の棒1』。
む、試しに木の棒を手放すと文字は消え、さっきの大き目の石を手に持つと『石2』。
この状態で↑展開画面を見ると『FL1-5(+2)G(100)』。
ふふふ、これは、↓画面は装備とその効果の数値だ。
↑画面の5は戦闘力で、+2は石装備により素の戦闘力5に2が追加されて、5+2=7になったことを表しているのに違いない。
石を持ったままスライムを探し、やっつける。
すると↑展開画面は『FL1-5(+2)G(99)』に変化した。
ははは、スライムの経験値が1で、あと99で次のレベルということか。
そうするとレベルは1で、戦闘力は素のままで5、石装備で7、あと99の経験値でレベル2かな。
FLというのとGは謎だ。
もう少しスライムを退治したいけれど、石が重くて、これ持ってウロウロするのは結構辛い。
おっと!錆びたボロいナイフを見つけたぞ。
↓画面は『錆びたナイフ2』と表示された。
石と同じ2かぁ。まあ軽い分だけいいかな。
しかし、ナイフは小さすぎてスライムに突き刺すのは大変だった。
中心部のこつんとした部分、たぶん核だと思うんだけどここを破壊するとスライムを倒せる。
周りのドロドロを刺しても無意味なんだよな。
そして皮膚がそのドロドロに触れるとちょっとピリピリする。見るとやっぱり少し溶けてる。
石は重いし、ナイフは小さすぎるし…。
そうだ!さっきの木の棒をナイフで削って尖らせてみよう。
ザクザクザク、これでよし。
↓画面の評価は如何に?『粗末な手槍3』。やった!攻撃力が3にアップ。
まさとはすこしましなぶきをてにいれた!って感じ。
いやここでの俺はマスタだったか。
この粗末な手槍3はとても使い勝手が良かった。
軽く、リーチがあり、先が鋭くて核をピンポイントで刺突できる。
そして嬉しいことに、良い感じでスカッと倒すと、経験値が2入る。
クリティカルヒットは評価が高いんだ!
「あれ、こいつは色違いか?」
今度のスライムは赤い。
見つめていると、赤いスライムの周囲が少し揺らめいた。
ん?胸のあたりがぞわぞわする。
「おわわわっ」
いきなりTシャツの胸の部分が燃え上がったのであわてて消した。
炎は小さく、手ではたくとすぐに消すことができた。
注意深く赤スライムを観察すると、その周囲に薄い灰色の煙のようなものが揺らめく、そうすると次にぞわぞわが来る。
急いで飛び下がると、さっきまで俺の体があった位置に「ぼっ」と小さな炎が立つ。
「そうか、これは避けれるのか」
ならそれほど怖くはない。
素早く近寄って、ガッガッと核を突いて倒す。焦りもあってクリティカルヒットにはならなかった。
それでも経験値は2。
「こいつは上位種のスライムだから経験値は2なんだな」
探してみると別の赤いスライムが見つかる。
今度は一か所にとどまらずに素早く移動しながら攻めて、クリティカルで仕留める。
経験値の上昇は3だった。
気持ちを落ち着けて集中して周囲を観察する。
その気になって見てみると、薄い灰色の煙のようなものはそこここにたゆたっている。
触るとまさに煙のような反応だ。
「しっし、あっちいけ」ススーッ。
あれ?
「こっちこい」スススーッ。
この煙みたいなの、意のままに動かせるのかな。
ちょっと楽しくなって煙で遊んでいたら、首の後ろがゾワゾワした。
と思ったら、ピコーン!と鳴った。画面が開いた。
ステイタス画面の左の点滅する←から展開すると、そこには『言語対応/鑑定/魔術』。
んん!魔術!!新しいのが増えた。
魔術の文字に意識を合わせてみると、『練魔素』と出た。
そして、上画面は『FL1-5(+3)G(94) ML1-5/5G(100)』。新しい一行が出現した!
魔術を獲得してMLが出たってことは、こっちは魔術のレベルだな。
あ、分かった!FLはフィジカルレベル、MLはマジカルレベルだ!
面白くなって来た。
スライム退治にも熱が入る。
探して簡素な槍で青い奴をクリティカルヒット!そしてもう一匹の赤い奴もクリティカル。
ピコーン!
今度は何かな。ステイタス画面の右の→が点滅している。今まで真っ白だったところだぞ。
→画面を展開すると『槍術G』。わははは、槍術だって。
Gは恐らくGランクってところかな。
←も点滅しているな、そっちは?『言語対応/鑑定/魔術/超取得』何かな超取得って。
『容易に素養やスキルを取得する』なるほど、だから槍術Gが来たのか。
それならさ、成長がもっと早くならないかな?
ピコーン!
来た。左画面だ。見ると、『言語対応/鑑定/魔術/超取得/超成長』。
超成長とは?『レベルアップやスキルのランクアップが非常に容易になる』。
これはもしや…上画面を見ると、『FL1-5(+3)G(9) ML1-5/5G(10)』
うん、必要経験値が10分の1になったみたいだ。
もう一匹青いスライムを見付け、真上から中心をサックリ一撃、クリティカルヒット!
上画面は『FL1-5(+3)G(7) ML1-5/5G(10)』。
よっしゃあぁ!
これならレベルアップは速いぜ!!
ん?その時俺の視界を横切る黒い影。
なにか飛んでる。これも魔物か?
気が付くと、スライムを追い回して草原の奥まで来ていた。
もうすぐそこに、森の入り口が迫っている。




