9 ハンター的日常
血に匂いが漂いだし、
血の匂いが漂いだし、
ロナの一件が終わり、四日が流れる。
ロナは協力してくれた平太とエラメーラに改めて礼を言い、この町に滞在することに決めた。アサシンをやめたいとは思っていたが、やめた後のことは考えておらず、ここで今後の生き方を探していこうと思ったのだ。
とりあえずは平太たちの家から出て宿暮らしをしようと思っていたが、ミレアが滞在してもいいと許可を出し一緒に住むことになった。家主であるはずのバイルドではなく家政婦のミレアが許可を出したことに疑問をおぼえないでもない平太とロナだが、家主は気にしていなかった。ロナがいることで研究が滞るわけではないのだから。
「おはよう」
身支度を整えた平太がミレアに声をかける。
「おはようございます。今日は味噌汁とご飯ですよ」
「やった! パンは嫌いじゃないけど、ご飯の方が食べなれてるんだよ。しっかり食べたって感じもするし」
平太はいつもの狩りの日常に戻り、貯めたお金で青銅の剣を購入していた。今日はこの剣の使い心地を確かめるため、はぐれのラフドッグに挑むつもりだ。
ロナは今家におらず、昨日からローガ川へと狩りに出ていた。生活必需品を買うためやある程度の貯蓄をするための一時的な職としてハンターをやるのだ。血なまぐさい生活を続けたくはなかったが、手っ取り早くお金を稼げることとアサシン稼業よりも人の役に立つことということで自分を納得させていた。貯蓄ができたらこれまでのような壊す系ではなく生産系の仕事で自分にできることを探そうと思っている。
朝食を食べた平太は家を出て、西の門に向かう。畑を歩いて通い慣れ始めた草原に入って、シューラビや薬草を探しつつ、北に向かう。
少し進むと、同じように狩りを行うため獲物を探す集団とすれ違い、挨拶をしてその場から離れる。さらに進むと、今度は平太と同じように一人でいる黒髪の男と出会った。平太と同年代で、鉄製の刃の槍を持っている。
「おはよーございまーす」
先ほどと同じように挨拶して離れようとした平太に男が話しかける。
「おはよう。そっちも一人なのか?」
「そうだよ。ソロでやってる。そっちも?」
男は首を横に振る。
「仲間が二人いるんだ。でも二人とも別の依頼で町を出ててな。二人の能力向きな仕事で、俺は邪魔になるから留守番なんだ」
「へー」
そういった理由でも別行動することがあるんだなと平太は納得し頷く。
「それでよければなんだけどさ、今日一緒に組まないか? 狙いはラフドッグだ」
「組むねぇ」
「不満や不安があるなら断ってくれていいぞ。絶対組んでくれなきゃ嫌だってわけじゃないしな」
ソロでいる平太を見かけて提案してみただけなのだ。お金もある程度余裕があるので、急ぎで狩りをする必要もない。
「不満とかはないよ。ただ俺、ラフドッグの相手はまだ余裕ないんだよ。一体だけならなんとかなるけど、複数だと負ける」
「その装備でか? それを買えるだけの実力があるなら大丈夫だと思うんだが」
「剣以外はもらいものでね。剣もお金が貯まりやすいから早く買えただけなんだ」
「そっか。じゃあ二匹でいるラフドッグ相手ならどうだ? それ以上は避ける」
男も連携が取れない相手と複数の魔物との戦闘は避けたい。そう考えて提案し、平太はそれなら大丈夫そうだと了承した。
「決まりだな。今日だけだがよろしく頼む。俺はパーツベート。パーツと呼んでくれ」
「俺は平太。よろしく」
握手を交わし、互いにできることを話しつつラフドッグを探し始める。
「俺は見てのとおり、槍を使う。能力は重量増加。攻撃が当たる瞬間に槍の重さを増してダメージを増やすんだ」
以前平太を助けたカテラと同じ能力だ。ただしカテラの能力は一段階進化していて、重くするだけではなく軽くもできるようになっている。
「俺は片手剣と盾。買ったばかりの剣を試してみようと思ってた。能力はものまね。技術とか能力を真似できるんだ」
エラメーラの言いつけを守って再現とは言わずに、尋ねられたとき用に考えていた再現に似た能力を自身の能力として紹介する。
「ほー、便利そうだな」
「成長が足りなくて、まだ一回しか使えないけどな。治癒能力を見たことあるから、切り傷くらいならなんとか治せる」
「治癒できるのはありがたいな。いざってときに無茶できる」
「そんな状況がないのが一番だけどなー」
たしかにとパーツは頷く。
「お、あそこにいないか?」
パーツが穂先で示した先、百五十メートル以上離れたところにラフドッグらしき影が見える。
「いるっぽいけど、何匹かはわからないな。パーツはわかる?」
「五匹はいないと思うぞ。もう少しだけ近づいて確認してみようぜ」
平太は了承し、風向きに注意して歩く。
「三匹かー。どうする? 数が減るまで待ってみる?」
平太の提案にパーツは悩む様子を見せる。二匹までならば、相手できるのだ。平太が一匹確実に押さえてくれるのならば、このまま戦ってもいい。しかし二匹、平太の方に行く可能性もあって悩ましい。
「少しだけ様子見て、数が減ったら戦おうか」
ここは安全策をとり、提案する。十五分ほど二人は周囲の警戒をしつつ、ラフドッグを観察する。
「動かないな」
パーツは呟く。
休憩中なのかラフドッグたちはその場から動く様子を見せない。もしかすると観察している二人に気づいていて、あちらも警戒しているのかもしれない。
「ほか探す?」
「そうするか」
平太の提案に頷き、無理はしない方向で決め、その場から移動する。
その十分後に五匹のラフドッグを見つけたが、近づかないことで意見一致して観察することもなく離れる。
さらに十五分ほど歩き、二人は二匹でいるラフドッグを発見した。
「周囲にはいないな?」
パーツの確認に、平太は頷きを返す。
右と左のどちらを狙うか決めて、二人はいっきに駆け寄る。
「グルゥっ」
ラフドッグもすぐに二人に気付いて、唸り声を上げてすぐにでも飛びかかれる体勢をとる。
平太は盾を前に出し、剣を握りしめる。平太とラフドッグの距離が五メートルもなくなると、ラフドッグが平太めがけて走り出す。それを見た平太は足を止めて、防御の姿勢で待つ。
ラフドッグはそのまま真っ直ぐ駆けてくる。
(とびかかってはこないか? だったら)
接触するタイミングに合わせて、平太は片膝を地面について、盾を低い位置に持っていく。そこに足を噛もうとしていたラフドッグがぶつかる。
しっかりと体勢を整えていた平太は、衝突によろけることなく耐えた。対してラフドッグは悲鳴を上げて少し下がる。
「くらえっ」
立ち上がった平太はラフドッグの頭部目がけて剣を振り下ろす。ガっと鈍い感触が剣を通じて感じられ、ラフドッグが大きな悲鳴を上げてよろける。
「追撃だ!」
頭部から血を流しているラフドッグに再度剣を振り下ろし、硬いなにかを砕いた感触を得た。
ラフドッグは横倒れになり、起き上ることなく痙攣し、そのまま動かなくなった。血の匂いが漂いだし、平太は鼻を押さえる。
「ふう」
戦闘が終わったと判断した平太は大きく溜息を吐いて緊張を解く。
(青銅の剣強い。それにしても殺したのに動揺がほとんどないなぁ。慣れ始めてる? 遊びとかじゃなく、生活がかかってるからってのも理由なのかな。でも日本で普通に暮らすなら必要のない感覚だよなぁ)
日本に帰ったとき普通の生活に戻れるのか、マタギとかこんな感じなのかなどと思いつつ、ラフドッグの尾を掴んでパーツのところに移動する。
パーツはさっさと戦闘を終わらせていた。駆け寄ってきたラフドッグに真正面から槍を突き刺したようで、ラフドッグの喉当たりから血が流れている。
「おつかれー」
「お待たせ。なんとか怪我なく勝てたよ」
「みたいだな。まだ戦い慣れてない様子が見て取れた。ハンターになってどれくらいだ?」
「半月たったんだったか。そのくらい」
「あーそれならラフドッグ相手に安定はしないよな。というか勝てるだけでも十分な気がする。普通その頃はシューラビとかハンターバードを相手にしてるだろうしな。装備が整っているからラフドッグと戦うのが早くなったんだろう」
パーツの意見に平太としても異論はない。
パーツの推測に加え、指導を受けたり、他人の技術を再現して学習したことも、ラフドッグと戦う時期が早まった理由だ。ほかの駆け出しハンターより手厚いフォローがあっただけで、平太に戦いの才があったわけではない。
「そっちはハンターになってどれくらいだ?」
二人はラフドッグの血抜きを行い、血が流れ出るまでの間の話題として平太が聞く。血抜きに不慣れな平太は、パーツに教えてもらい処置した。
その質問にパーツは少し思い出す仕草を見せてから答える。
「そろそろ一年だな」
「じゃあ、次の狩場の川には行ったことあるってところかな」
「何度も行ったぞ。この槍もその稼ぎで買ったものだ。相手の数をきちんと選べば安定した戦いができるようになってきた」
「その次はガイナー湖って聞いたけど、そっちにはまだ?」
「そろそろ一度くらいは行ってみたいなって話してるぞ。怪我してもいいように十分な治療費が貯まったら行ってみるつもりだ。行ったらラフホースを仕留めたいな」
「また食ったことないんだよな、馬」
「美味いぞー。狩ったら全部は売らずに、少し残して食べるつもりだ」
楽しみだとパーツはわくわくした様子で語る。
話しているうちに、ある程度血が流れ、そこから移動する。
「もう一戦くらいいけるか?」
「体力的には大丈夫。でも狩りの制限にひっかかる」
平太はまだラフドッグ一匹しか肉買い所に持ち込めないのだ。
「あ、そっか」
「そっちは制限どれくらい? 三匹以上ならもう一戦して、その一匹をそっちに渡せばいい」
「三匹までだから、その提案は実行可能なんだが、基本的にそういった数合わせはやっちゃいけないんだ」
そういった数合わせは、昔は禁止されていなかったが、強いハンターが弱いハンターを脅迫して貢がせるといった事件が何度も起こり、禁止されるようになったのだ。今そのようなことをやると、肉買い取り所や狩場の使用を禁止されるといった罰を課される。
「そっか。じゃあ一匹だけのやつ少し探すって感じで、見つからなかったら撤収でどうよ」
その提案に、そうするかとパーツは頷く。
それぞれが狩ったラフドッグを持ち移動を始める。一時間ほど歩き回り、遠目に群は見つけたが、はぐれは見つからず撤収になる。
肉の買い取り所にラフドッグを渡し、五十ジェラをもらった二人は一緒に昼食を食べる。パーツおすすめのハンバーガー屋に入り、大きなハンバーガーにかぶりつく。平太が食べなれたチェーン店の味とは違ったが、美味いと思えるものだった。
「夕方か夜ならビールも一緒に頼んだんだけどなー。さすがに休みでもないのに真昼間から飲めないぜ」
少し残念そうにパーツが言う。
「俺はまだ酒飲める歳じゃないから、その気持ちはわからないよ」
「俺と同じくらいだろう? 飲めると思うが」
「俺の故郷だと二十まで飲んじゃ駄目ってなってる。こっちはもっと早いのか?」
「こっちは十六からだな。俺は十六から飲んでるぜ」
「美味いか?」
ちょっとした好奇心から尋ねる平太。すごく美味いという返事が返ってきたら、少し飲んでみようかなと心揺れている。ここは日本じゃないし、法律は無視してもいいだろうと心の中で言い訳している。
「人それぞれじゃないかと思うぞ。仲間の一人は酒に強いけど、美味いとは思えないって言って飲まなくなったからな」
「俺はどう思うかな。帰ったら酒があるか聞いてみよう」
「最初からがぶ飲みするなよ。さすがに慣れないうちから、そんな飲み方すれば倒れる」
「わかってる」
アルコール中毒といった話やケラーノの失敗談を聞いた平太は、無茶な飲み方をする気はない。酔っ払って醜態を晒したいわけじゃないのだ。最初は舐める程度ですませる予定だ。
明日遠出する予定もあるので、二日酔いになるわけにもいかない。
ハンバーガーを食べ終えた二人はこの後の予定もないので、ジュースを注文しそのまま店に居座り話し出す。
「ここらで有名な人とかハンターとかっている? 俺はこっちにきてそんなに時間たってないから、そこら辺わからないんだ。ほかのハンターとも接していないし」
「有名な奴ねぇ……やっぱ人が多いし、それなりに変人はいるな。青の色人の爺さん、なにか怪しい研究をしてるって噂だ」
(それ居候先のジジイだわ)
心当たりのありすぎる人物に納得した平太。
「ほかには相手の所持金を見極めて、ギリギリを搾り取る美人ホステス。俺もしっかりギリギリまで取られたわ」
搾り取られても、いい感じに楽しくさせてくれたから行ったことに後悔はない。収入を得るたびに行くほどでもないが。さすがに毎回持ち金全部使うのはきついのだ。
「どうやって見極めてんの?」
「会話じゃないか? もしくは透視の能力で財布の中身を覗き見た可能性も」
「能力の無駄遣いだな!」
「まあ、そうだとはかぎらないから。ほかに有名なやつは女にしか見えない男、しかも三十手前なのに十代前半に見える」
「男の娘ってやつかー。地元じゃそういった人を見たことないな」
「見たいなら屋台で料理作ってるからすぐにでも見れるぞ。料理も美味いしな。俺もたまにそこで買う。ハンターの中にはそいつのファンもいて、高めの肉とか値段を押さえて売っているらしい」
「ファンは、その人が男だって知ってるんだろうか。知らないなら笑える悲劇も起こりそうな」
過去、男だと知らずに告白した者はいるが、最近は認知度が上がっているので男から告白されることはなくなっている。しかし見た目も性格もいいので、男とわかっても人気が落ちることはなかった。
「何年か前はそんなことがあったらしいな。有名な一般人はそれくらいで、ハンターだと氷怜戦団が一番の稼ぎ頭だな。二十人ちょっとの集団で、リーダーが氷の異能使い。強さもここらじゃ一番だ。王都にはもっと強い人もいるけどな」
「その人たちは狩りはどこでやってんの?」
「この町から東南東に徒歩三日のところに山と森があるんだ」
バラフェルト山とバラフェルト森林という名前だ。駆け出しが行くことは禁止されていて、エラメーラの神殿の兵も最低でも五年鍛練したうえで、警備隊長であるリンガイに認められなければ足を踏み入れることはできない。
この国でも上から十番目以内に入る危険地帯なのだ。この町からではなく、王都からもハンターが稼ぎに来る場所だ。
「氷冷戦団のトップはそこら辺りで狩りをするらしい。一番弱い魔物でも二千ジェラで売れるって聞いたことあるな」
「ラフドッグの四十倍かー。狩れる数も多いだろうし、すごい稼いでそうだな」
「俺もいつかあいつらが稼いでいるくらいには稼ぎたいもんだ。まあ、無理だろうから何分の一くらいの額を目標にするか。ほかに有名どころだと、クレメセル隊。これは女だけで構成されたハンター集団だ。荒っぽい男と一緒に仕事するのは嫌だって考えた女や戦力にならないって組むことを断られた女が集まっているんだ。だからといって弱いわけじゃない。リーダーがしっかりと仲間のことを把握し、力量にあった指示を出して無理せず戦うから戦果はきちんとだしている」
二つの集団の特徴としては、氷冷戦団は護衛といった人に関わる仕事もする。クレメセル隊は狩りのみ。
クレメセル隊が護衛などをやらないのは、セクハラや女だからと見下す依頼人がいるためで、そういった者との揉め事を避けるためだ。
クレメセル隊はハンター集団としての面のほかに、女性保護の役割もあり、夫の暴力に耐えかねて逃げ込んでくる者や夫に先立たれ生活に困った者を受け入れるといった活動もしている。こういった集団は名前は違うが、ほかの町にもある。
こういう事情もあるため、隊が結成されてゆうに百年以上と歴史ある集団だ。
隊の考え方として女を守る、当然これがあるわけだが、女をなによりも優先するとはならない。男に悪人善人がいるように、女もまた同じと理解しているのだ。だから女が逃げ込んできても、とりあえず保護はするが、おっかけてきた男を意味もなく排除はしない。詐欺がばれた女が逃げ込んできた事例は過去何度もあったのだ。
役割がハンターだけではないクレメセル隊と違い、氷冷戦団は純粋なハンター集団だ。結成してから十六年とそこまで歴史はない。初期メンバーにどんどん仲間が加わっていって、大きくなっていった。
「クレメセル隊みたいにハンターだけじゃなく、ほかの役割をもった集団ってあんの?」
「わかりやすいのは回遊戦商団か? 各国を回っている隊商で、商売のついでに狩りもやってる。本拠地を持たない集団で、二ヶ月くらい大きめな町に留まって商売や狩りをして、また移動するって感じらしい」
回遊戦商団もそれなりに歴史ある集団で、百年ほど大陸のあちこちに足を運んでいる。
初代団長が探し物があるためあちこちに足を運び、そのついでに商売もやっていたのだ。商才があったようで稼ぎは大きく、その商才にほれ込んだ者や単純に護衛としての仕事を求めた者が集まってきて、大きな集団になっていった。それでも探し物は見つからず、あちこちに足を運び、初代が死んだ後も腰を落ち着けず動き回ることを続けてきたのだ。
初代の探し物をいまだ求め続けているという噂もある。
「俺が知ってるのはこれくらいか。ハンター集団自体はほかにもあるけど、実力差があるだけでどれも似たり寄ったりだ」
「いやー知らない情報ばかりで助かる」
「これくらい肉買い取り所に三ヶ月も通えばわかる程度の情報だけどな。ああ、ちなみに今言ったようなハンターの集まりが全員で狩りをするのは禁じられてる」
「んー……たとえば氷冷戦団は二十人と少しいるけど、それら全員で湖に行って狩ることはできない?」
平太は自分なりに理解したことを言い、パーツは頷いた。
「そんな感じだな。詳しく言うと、全員で湖に行くのはいい。でも狩りに出せるのは五人まで。これは魔物を狩りすぎて、そこから魔物が逃げてよその土地に入って狩場が荒れるのを防ぎたいからって聞いたことがある」
そういった事態を防ぐため、たまに肉の買い取り所の依頼を受けた人間や王国兵が狩場を見回り、違反者がいないか探している。規則を破ったとこを見つかると、それがクレメセル隊のような歴史ある集団でも容赦なく罰則を与えられるのだ。
「それだとよそから強力な魔物がやってきたとき、対処に困らない? 皆で力を合わせないと倒せないことってあると思うけど」
「そんなときは国や神殿や肉買い取り所から依頼が出るらしい。皆の力が必要です、協力してくださいってな。まあ、俺が物心ついてからそんな依頼は聞いたことないが」
神殿に残されている記録では、そういった依頼が出たのは四十年前のことだ。
番のグリフォンがエラメルトとローガ川の間に陣取り、人や魔物を片っ端から餌として食べたということがあったのだ。
グリフォンはバラフェルト山の魔物よりも強く、当時一番強かったハンターたち五人では倒せず、皆の力を合わせる必要があった。
倒されたグリフォンの肉は討伐戦参加者に振る舞われ、羽や皮といった素材は国が買い取ってその金額と報奨金がハンターたちに分け与えられた。
それらの素材で作られた鎧は、王族の儀式用の鎧として大事にしまわれている。
「今後、そんな依頼が出たらどうするよ。俺は実力足りないし不参加だな」
平太の問いにパーツは少し考えて参加すると返す。
「金を稼ぐには絶好の機会。もちろん主力になるとか思い上がったことはいわないけどな。ま、そんなことはそうそう起きないだろうさ」
「そうだな」
二人の会話は雑談に移っていき、どこに美人がいるとかどういった女性が好みだといったことを話して楽しみ、またいつかと別れる。
ひさびさのバカ話に機嫌よく帰った平太は、酒についてミレアに尋ねる。来客用に二本あるようで、試しに小皿に入れてもらい飲んでみた。度数が高めの酒だったようで、舌と喉を刺激する感触に顔をしかめて、飲まなくてもいいなと感想をもつ。
このとき出された酒の度数が低く飲みやすかったら、平太は飲兵衛の道を歩み出していたかもしれない。
誤字指摘ありがとうございます
以前と比べると書くペースが落ちてるなー