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60 共闘

 像が壊れ、姿を見せたのは黒い長髪の女だ。ねじれた黒角が頭部の左右から生えていた。年齢は二十才半ばくらいか。紅い目にも表情にも感情はなく、疑問の声を発する角族を見ても無表情なままだ。

 封印されていたときに着ていたのか、服はくるぶしまである白ローブで、靴はない。

 角族は「誰だ、どこだ」と言いながら地面に倒れる。そのまま動かくなるまで、疑問の声を発していた。


「どういうこった?」

「さあ」


 状況を見ていたシャドーフの疑問に、平太も首を傾げるしかない。ここにいたのは封印されていた魔王ではないのかと、エラメーラが言っていたことが間違っていたのかと疑問しかない。わかっているのは女の角族が現れたという見たままのことだけだ。


「お前はなんなんだ?」


 誰もわからないならば、本人に問うてみようとシャドーフが聞く。ついでに戦いたいと殺気も叩きつける。

 それに反応し、女の角族は表情は変えないままシャドーフへと殴りかかってきた。それは戦いの意思があるというよりも、反射といった感じだった。


「なにも語らず、ただ戦うか。シンプルでいい!」


 女の角族の拳に、シャドーフは拳を叩きつけながら言う。


「お前が殺気なんてぶつけたからだろ! もっと穏やかにいけたかもしれないのに」

「俺はここに戦いに来たんだ。穏やかさなんぞ求めてねえよ! 戦って勝つことが目的だ!」


 女の角族と殴り合いを続けながら答える。

 殴り合いはシャドーフの劣勢で続いている。女の角族の拳に押し負けているのだ。


「そんなこと言って押し負けてんじゃねえか!」

「ああ、魔王っていうだけはあるな。力も速さも一級品だ」

「それほんとに魔王なのかよ!」

「さあな! 魔王じゃなけりゃそれでもいいさ。強ければなっ」


 そう答えるシャドーフに焦りはなく、余裕すら感じさせる。それに平太も気づき、加勢を控え、様子見に徹する。

 すぐにシャドーフは攻撃を避け始め、一方的に攻撃を行い始める。


「期待外れだ。強さは一級品だが、それを振り回すだけ。頑丈で倒しにくいってだけだっ」


 言い終わると同時に、女の角族を蹴り飛ばす。地面を転がった女の角族に、シャドーフは追撃として掌に出現させた黒炎を投げる。

 黒炎は女の角族に命中し、服を焼き、肌も焼く。


「あああああああああっ」


 悲鳴なのか、甲高い声が上がり、そのすぐあとに焼いていた黒炎がはじけ飛んだ。

 女の角族は浮かぶように起き上がり、あちこちと火傷した裸体を隠すことなく、無表情で声を上げ続ける。


「どう見ても追い詰められているようには見えないんだけど」


 平太はむしろここから本番ではないかと、剣と盾を構えた。

 シャドーフもあっさりと終わらなかったことに期待の視線を向ける。

 女の角族の周りに、白い靄のようなものが集まり出す。その靄はすぐそこに倒れている男の角族や地中で生きる魔物の姿をとる。ミミズ、モグラ、蟻などなどだ。そして男の角族は形を崩して、女の角族にまとわりつきローブのようになり、ほかのものはそのまま空中を漂う。


「封印されていた魔王は死者を扱う能力を持っていたと聞く。この角族はそれの縁者なのか?」


 平太は目の前の光景にそう漏らす。

 死んでいた角族の魂を操ったことから、地中で生をまっとうした魔物たちの魂も操っているのだろうと、今起きている現象を推測する。


「さてな。わかることは戦いは続くってこった」


 シャドーフはそう言い、再び突っ込んでいく。

 ほぼ同時に女の角族も周囲を漂う魔物の魂を二人に飛ばしてくる。

 狙いのつけられていないそれを、シャドーフは拳にまとった黒炎で焼き、平太は避ける。

 平太も浄化の能力を再現して対処できるが、何度も使えないため今のところ避けるしかない。


「うざってえ!」


 自分に向けられた魂を燃やし尽くしたシャドーフが、女の角族へと黒炎を飛ばす。

 すると女の角族は自身の目の前に魂を集めて壁として、黒炎を防いだ。

 それを見てシャドーフは笑う。


「ほー、考えて戦うようになってきたじゃないか。それでこそだ!」

「嬉しがるなよ! 倒すのが大変になったってことだろっ」

「大変だからこそ、勝利して得るものが大きいんじゃねえか」

「俺はさっさと倒してしまいたいんだけどな!」


 言いながら平太は冷凍砲を再現する。炎が駄目ならばと試しに使ったのだが、凍りつき砕けた魂の壁の向こうには傷一つついていない女の角族がいる。

 反撃として魂が飛んでくる。平太はそれを避けて、近くを通る魂の軌道へと剣を振う。


「やっぱり効果なしか」


 剣をすり抜けていった魂を見て、物理的な対処は無理だと再確認する。そしてシャドーフへと声をかける。


「どうやって勝つか道筋は浮かんでるのか?」

「最大威力の攻撃を叩き込めばいけるだろ」


 シンプルな返答に平太は溜息を吐く。叩き込むまでの道筋やどういった類の攻撃なのか、そこらへんを答えてもらいたかったのだ。


「具体的にはどんな攻撃なんだよ」

「拳に大量の黒炎を集中だな」

「魂でできた壁や服が邪魔しそうだけど、それについての対処は?」

「すべて燃やし尽くせばいい」

「本体に攻撃が届く前に威力が減るだろ、それ。俺がやるべきは壁や服をどうにかすることだな」


 平太の攻撃で女の角族に届きそうなのは魔王の火炎砲だが、地下で使って酸素を燃やし尽くしたり、封印の間が崩れたりすると困るため積極的に使おうとは思わない。ならば有効打を持つというシャドーフのサポートに回った方が確実だろうと思えたのだ。


「どうにかってどうやんだよ」

「今思いついているのは接近して壁や服を浄化することだな。そうすれば威力そのままの攻撃が叩き込めるだろ。素直に近づけさせてくれるとは思わんが」

「俺が気をひくからさっさと近づいちまえ。少しは考えるようになったとはいえ、まだまだ甘いしな」

「じゃあ、さっさとやってくれ」


 平太とシャドーフは方針を決めると互いに離れる。平太は下り、シャドーフは前に出る。

 両手に黒炎をまとわせてシャドーフは、女の角族に殴りかかる。

 それの痛さを覚えている女の角族はシャドーフの接近を阻むために、そちらへと魂を使った攻撃割合を増やす。

 動きやすくなった平太が少しずつ近づくと、それに気づき平太への攻撃を増やす。かわりにシャドーフへの攻撃が減る。シャドーフがさらに歩を進めると、再びそちらへの攻撃が増える。

 それを繰り返し、あと五歩でシャドーフの拳が届くといった距離で、女の角族空の攻撃がやむ。

 二人はチャンスだと考え、距離をつめようと進む。

 

「ああああっ!」


 もう少しでシャドーフの拳が届くというところで、女の角族は全方位へと白い波動を飛ばした。これまでの攻撃は対処されると、新たな攻撃を考え実行したのだろう。


「うお!?」「んな!?」


 二人はそれに弾き飛ばされ、地面を転がった。すぐに顔を上げて、追撃で飛んできた魂を転がり避ける。

 起き上がった二人は、攻撃を避けながらダメージの確認をする。

 思いっきり平手打ちされた程度の衝撃で、ひりひりとした痛みがあり、それもすぐに引いた。動くことに支障はなく平太はシャドーフを見る。


「こっちはそこまでダメージはなかった」

 

 そっちはと平太が視線を向けてシャドーフに聞くと、問題ないと返ってきた。


「時間をかけるほどに戦い方にバリエーションがでてきてる。あまり時間をかけないほうがいいな」

「俺としては戦いがいがあって喜ばしいことだ」

「お前ならそう言うだろうと思ったよ」


 このバトルジャンキーめと呟き、平太は女の角族に視線を戻す。

 これ以上厄介になる前に多少のダメージ覚悟で突っ込み、防御を剥ぐと決めて、それをシャドーフに伝える。

 平太がさて動こうと考えたとき、再び攻撃がやむ。


「また、あれか?」

「違う攻撃も考慮しとけ」


 シャドーフから助言めいたことが送られ、平太はしっかりと防御を固めることにする。

 平太がアロンドの反射で包む防御を再現したのと同時に、シャドーフも体全体を黒炎で包む。

 二人が防御を固めるのと同じタイミングで、女の角族は左手に魂を集中し、左から右へと薙ぐ。左手の動きにそって、圧縮された魂が十センチ弱の太さの線で勢いよく放出されていった。

 シャドーフは高く跳ねて避けて、平太はしゃがむ。 平太の背中を放出された魂がかすり散っていったが、かわりに防御をごっそりと削っていった。


「かすっただけで防御がなくなるって」


 この防御は魔王の火炎砲にもしばし耐えたのだ。あれ以上のダメージを与えてくる攻撃にひやりとさせられた。

 シャドーフにしっかり伝えておくべきことだと、声をかける。


「当たったらやべえぞ」

「そんなに威力あったか?」

「俺が使っていた防御は魔王の高威力攻撃に十数秒耐えた。それがかすっただけで防御がなくなった。あの攻撃は魔王のものと同等かそれ以上と考えた方がいい」


 シャドーフは平太に魔王との戦闘経験有りというところに少し訝しげな表情を浮かべたかが、追求する場面ではないと威力について信じることにした。


「……今は扱いなれていないから溜めが必要と仮定すると、時間が経てば溜め無しか、もしくは複数の方向への攻撃が可能になると考えた方がいいな」

「それやられると手に負えなくなるんだが」

「早期決着が望ましいか」


 シャドーフも女の角族が行きつく強さを想像し、さすがに戦いを楽しむ余裕がなくなってきた。だがそれを乗り越えたとき、さらなる強さを得られるという思いは消えていない。強さを求めるというのが今のシャドーフの根源なのだから、そういった考えは消えないのだろう。


「これだけ戦っておいて、早期決着もないけどなっ」


 魂を飛ばすという通常攻撃を避けながら平太が言う。


「さっきの方針で行くぞ。俺も渾身の一撃をすぐに放てるように準備しておく」

「使えるかどうかわからないが、これを通して炎を生みだせ」


 投げられたカレルの宝珠を受け取ったシャドーフが、それがなにか問うこともなく、その場に留まり右手の拳に黒炎を集中していく。

 平太は自分用にカレルの宝珠を再現してから、それを使用してアロンドの反射を使用する。シャドーフに攻撃が当たらないように盾として射線上を走る。

 飛ばした魂を避けるまでもなく弾く平太に、女の角族は魂の圧縮放出を行う。

 それに対し平太は、もう一枚の反射盾を目の前に再現して止まらず突っ込む。

 魂の圧縮放出は一枚目の反射盾をあっさりと突き破り、平太の身を包む防御も貫く。だが二枚の防御が威力を多少減らしてくれたのか、右胸を強かに打ち付けはしたものの肉を貫くようなことはなかった。


「っ!」


 歯を食いしばって痛みに耐えて、女の角族へと手伸ばす平太。

 そのまま女の角族の攻撃を受け続ければ、胸を貫かれたかもしれないが、そうなる前に平太は届いた。


「浄化!」


 再現された浄化は効果を発揮し、女の角族の服や周囲の魂も消し去る。

 平太は地面に転がり、シャドーフに道を譲る。


「おおおおおおっ!」


 雄叫びを上げたシャドーフが右腕を振りかぶり突っ込む。シャドーフの右腕は炎に包まれておらず、拳から肘辺りまで黒く染め上げられていた。

 無防備になっていた女の角族は初めて表情を変えた。これまでずっと無表情だったが、今は迫るシャドーフを睨みつけている。シャドーフの攻撃が自身の命を奪うものと理解できたのだろうか。自身の拳に己の魂を集中させて、迫る拳に叩きつける。

 両者の拳がぶつかりあったと同時に平太も動いていた。続く痛みに顔を顰めて、持っていた剣を女の角族へと投げた。ダメージを期待したのではない、少しでも集中力が途切れればと思っての行動だ。

 平太の剣は女角族の角に命中し、頭部をわずかに揺らす。それがきっかけなのか、もとより威力が違ったか。シャドーフの拳が、女の角族の拳を砕き、そのまま胸も貫いて、体全体を燃え上がらせた。


「ああああああああああああああああああああっっっ」


 炎に焼かれながら女の角族はこれまでで一番大きな声を上げる。

 シャドーフが拳を抜いて下がると、女の角族はその場に倒れる。徐々に声は小さくなっていき、やがて途絶えた。

 その場に残るのは焼け焦げたわずかな肉と骨のみだ。

 それを見届けて平太は、その場に座り込む。傷む胸に治癒の能力を使う。


「終わったぁ」

「終わってみれば、なかなかの戦いだったな。成長もできたし、能力の先も見えた」


 そう言うシャドーフの右腕は元の色に戻っていて、だらりと下げられ、ぴくりとも動いていない。力を集中しすぎて麻痺状態なのだ。


「そればっかだな、お前は。俺も成長はしてるけど、それよりも終わったことの安堵の方が大きいわ」

「強くなることが生きる目的だからな。それにしてもあれは結局なんだったんだ」


 シャドーフは言いながら骨に視線をやる。平太も骨を見て、首を振る。


「さっぱりだ。破壊力という点で魔王級、それ以外はそこらの角族並みか、ちょい上。そんなことしかわからん」


 一応骨を回収して、エラメーラに見せるつもりの平太は風呂敷を再現して、それで骨を包む。

 

「さて帰るか。グラースたち勝ってるといいんだけど」

「苦戦はしても負けはせんだろうさ」

「ネメリアだっけ? 仲間のこと信頼してんだな」

「あれに負けない程度には鍛えてある」


 歩き出した平太の隣を歩きつつシャドーフは答える。

 二人が穴からでると、ネメリアとグラースは戦いの疲れをとりながら、平太とシャドーフを待っていた。

 近寄ってきたグラースの頭を撫でて、平太はシャドーフを見る。


「じゃあな。あまり暴れんなよ」

「知るか。俺は俺のやりたいようにやるだけだ」


 そう言ってシャドーフは座っているネメリアを軽く蹴り、歩き出す。

 立ち上がったネメリアは平太たちに一度手を振って、シャドーフの後を追う。

 平太は木々の向こうに消えた二人からグラースへ視線を戻し、王都への転移を行う。孤児院に戻り、リヒャルトに封印の場所であったことを報告して、一泊の許可をもらう。あの戦いの疲れのままエラメルトの魔物討伐戦に参加したくはなかったのだ。

 翌朝、疲れはほぼとれてリヒャルトに礼を言い、皆で孤児院を出る。その足でファイナンダ家に向かい、そこでパーシェに一緒に帰るか尋ねると頷きが返ってきたので、パーシェの準備が整うのを待つ。

 その間パーシェの両親がミナを構う。パーシェから話を聞き、平太の子供は自分たちの孫のようなものと考えたのだ。両親の中ではパーシェと平太の結婚は確定済みということなのだろう。

 平太としてもパーシェとの結婚は前向きなのだが、今はパーシェの両親の考えがわからず、子供好きなのだろうかと思っている状態だ。

 準備を整えたパーシェが戻ってくる。その後ろには効果の高い薬を入れた袋を持った兵もいる。戦いが続いているにしろ、終わっているにしろ、薬はあった方が喜ばれるだろうと集めていたものを転移でついでに運ぶつもりなのだ。


「また来てね、ミナちゃん」

「またな」


 パーシェの両親に頭を撫でられミナは笑顔で頷く。

 平太も転移を使う前に、二人に挨拶する。


「お世話になりました。状況が落ち着いたらまた訪問させていただきます」

「ええ、楽しみにしているわね」

「向こうはまだ荒れているかもしれないから、気を付けるのだぞ」

「気遣いありがとうございます」


 礼を言い、平太は転移を使う。

 転移先はエラメルトの外ではなく、エラメーラの私室だ。戦場になっているかもしれないところにミナを連れて行けないし、戦いの邪魔になるかもしれない。だから転移先はこちらしか選べない。


「あ、おかえり」


 私室にいたエラメーラが出現した平太たちに声をかける。


「はい、ただいま帰りました。封印の件についてもなんとかなりました」

「そうみたいね。封印がなくなったのがわかったわ。ミナも無事でよかった」


 エラメーラがミナに笑みを向けると、ロナに抱かれているミナも笑顔を返す。 

 その様子から誘拐されたことによる精神的なショックは少ないとエラメーラは見て取る。

 ロナたちが部屋から出ていき、平太は封印の場所であったことを話す。


「封印が解けたのはわかってたし、角族の仕業だろうと予想もついていたわ。でも角族と共闘して倒してくるのは予想外よ」


 驚きと呆れの視線を向けられて平太は苦笑する。平太自身もシャドーフとの再会と共闘は予想もしていなかったのだ。


「俺もあいつと共闘することになるとは思ってなかったです。しかも角人とか言われてたし」

「角族から外れて、人に寄った存在。そんなものがでてきたのね。無暗に暴れるような存在でなくてよかったわ」


 暴れないといっても目的のために手段を選ばないところはある。しかしほかの角族も似たようなものだから、それらよりもましということなのだろう。

 そんなシャドーフに関した厄介事がすでに出ているのをエラメーラが知るのは数日後のことだ。


「封印から出てきた女の角族はなんだったんでしょうか? あそこに封じられたのは魔王ではなかったんですか?」


 敵を騙すには味方から、という考え方もある。エラメーラがあそこを囮にしていて、別のところに本命があるのだろうかと平太は思う。


「あそこには男の魔王を封じた、それは間違いない。だから推測になるけどいい?」


 平太が頷き、エラメーラは話を続ける。


「考えられることは二つ。弱体化し、封印に使っていた私の力の影響を受けてみかけや能力が変化した。弱体化したことで力を取り戻すため、封印に使われていた私の力を取り込み、それによってみためや能力が変化した。この二つ。どちらも似たようなものだけど、違いはある。前者は角族のままで、後者は角族から別のものに変化していたのではということ」


 平太は、角族が別のものに変化することなどあるのだろうかと疑問を発しようとして、シャドーフという前例を思い出す。


「私としては後者じゃないかと思ってる。なんというか戦っていたときの話を聞くと、生まれたばかりの存在のように思えたの」

「生まれたばかり……」


 エラメーラの言葉に平太は戦ったときのことを思い出す。

 あの角族が最初に上げた声が産声で、明確な感情や目的なく本能のまま動き、様々なことを学んでいった。


「ああ、納得できるものがありますね。だとしたら友好的にいけば戦わずにすんだのでしょうか」

「どうかしらね。誕生過程は違うけれど、堕神と似たような存在だから暴れた可能性もあるし」


 神に歪んだ力が入り込んだものが堕神で、今回は魔王に神の力が入った。順序が違うものの、持つ力は同じだろう。

 両者の違いはあの角族の時間経過を観察しなければわからなかったはずだ。


「なにかわかるかと、残った骨を持ってきてたんでした。神殿で引き取りますか? 必要ないのなら浄化して砕いて川にでも流そうと思いますが」

「うーん……一応預かっておくわ。調べてみたらなにかわかるかもしれないし」


 ではこちらをと平太は包んでいる骨をエラメーラ近くの床に置く。


「それで今回の報酬だけど」

「報酬はリヒャルト様への手紙ということでいいと思います。あれはすごく助かりましたから」

「助かったというなら、こちらもなのだけど。封印を解かれた魔王が時間を経ていたら、とても厄介なことになっていたでしょうし」

「時間を得て、戦い方とかを学んでいたらそうなっていたでしょうねぇ」


 生まれたばかりだから勝てた。そう指摘されたら平太は素直に頷くだろう。戦いが打撲だけですんだのは運が良かったのだ。あの角族は持っていた身体能力や能力は特上品だったが、経験という点で未熟だった。そこに経験が合わさったあの角族とは戦いたいとは思わない。


「納得できたようね。というわけで報酬なのだけど……なにがいいかしらね」


 お金という以外にこれといって思いつかないエラメーラは平太に尋ねる。

 平太は少し考えて、これならば神殿に負担がかからないだろうというものを思いついた。魔物との戦いの影響もあって、あまり金銭的負担をかけたくないのだ。


「でしたらこちらから要望をよろしいでしょうか」

「ええ」

「転移先を増やしたいので、転移の使い手にあちこち連れて行ってもらいたいのです」


 リヒャルトにラフホースの肉を渡す約束もあり、ガイナー湖への転移ができれば便利なのだ。ほかの場所へも転移できればとても便利だと考えた。

 平太が必要と思ったもので、神殿から与えることができるものだ。


「気を使わせたかしら。いいわ、神殿所属の転移の使い手に頼んでおくわね」

「よろしくお願いします」

「さて、封印に関しての話はこれくらいで、ほかに聞きたいことある?」

「襲ってきたという魔物はどうなりました?」

「戦った者たちに被害はでたものの撃退できた。この件であなたに関連したことは、ミレアが戦いに加わっていたということかしら」

「ミレアさんが? 怪我とか大丈夫だったのかな」

「無茶はしなかったみたいで、かすり傷を負った程度よ」


 よかったと平太は胸をなでおろす。

 ミレアは日頃から実力が衰えないようにしていて、今回の件も鍛錬の一部として参加していた。自分の本分は平太が帰ってくる家を守ることだと考えているので、戦闘での無理をしなかったのだ。


「町に被害はでましたか?」

「小物の魔物が入り込んだけど、待機していた兵によって倒されているわ。町中での死者はゼロ」

「町中ではといことは外では死者がいたんですね」

「そこはもう仕方ない。命をかけた戦いだもの、死者はどうしてもでる」

「そうですね」


 過去の魔王戦でも死者はでたのだ。戦いの規模が大きくなるほど被害が大きくなるのは平太も理解している。


「だとするとオーソンさんは治療で忙しいですかね」

「そうね、順調に回復しているカテラのそばにいたいでしょうけど、戦場での治療も大事だと向こうに行っているわ」

「カテラさんは回復したんですね」

「ええ、今は見習い兵に混ざって衰えた体力などを元に戻しているところよ」


 そういった訓練ができるだけでもとても楽しそうで、オーソンは本当に良かったと喜んでいる。

 聞きたいことは粗方聞けて、平太はエラメーラに別れを告げて神殿を出る

 家が見えてきたことで、連続した用事がようやく終わってのんびりできると思う。

 しかし数日後に魔王に関連した用事が発生する。そのことを知らず、平太は狩りなどの予定を立てながら家に入っていった。

感想ありがとうございます

ストックつきたので書きためてきます

次はおそらく一ヶ月以内にあげられると思います

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[気になる点] >「町中ではといことは外では死者がいたんですね」 といことは → ということは
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