6 兎ハンティング
神殿を出た平太はとってきた薬草を売るために斡旋所に入る。
入口から少し離れたところに男三人女二人がいて、なにやら話している。女たちの表情は不機嫌で仲が良さそうとはお世辞にもいえない。
聞こえてくる内容からは男たちが女たちを誘って狩りにいこうとしているのだとわかる。
それを気にせず薬草を売ろうと受付に向かう平太に声が投げかけられた。
「あなたたちと行くくらいならこっちと行くわ!」
長い白髪の女が平太を指差す。
「おいおい、見知らぬ他人ってことなら俺たちとそいつはなにも変わらないだろ。人数的に多い方が安心だろうが。いいところの出だから俺たちみたいな見た目ちんぴらは嫌だってのか?」
「その女性を誘うとは思えないだらしない、きちんと体ふいてるのですかと思える嫌な臭いがする、お金のない人でももっときちんとしているであろう見た目で遠慮したのはもちろんですが」
黒の長髪の毛先を空色のリボンで結んだもう一人の女の毒舌に、男たちは若干涙目になる。リボンの女の見た目清楚なので、そんな言葉が発せられたことに周囲の人間はドン引きだ。
「そこまで言わなくていいだろう! ちゃんと風呂入ってるし洗濯だってしてるよ、ばーかばーか!」
「では性格が腐ってるから臭っているのでしょうか? まあそれはいいとして、誘い方が強引過ぎるのですよ」
「そ、そいつは誘ってすらないだろ。俺たちとたいして変わらないかもしれないぜ? お前はどう誘うんだ?」
めんどくさいことになった。そう思っていることがありありとわかる表情で平太は口を開く。
「いや勝手に話を進められても困るんですけど。俺は薬草を売りに来ただけですし」
困るという部分に遠巻きに話を聞いていた者たちは「そりゃそうだ」と頷く。
「可憐な女子が困っていますのよ? 助けるのが良い男の心意気ではなくて」
「今の俺は自分のことで手一杯なので。そんな余裕はちょっと……あっそうだ、アドバイスくらいならできる」
平太の返答に興味深そうに皆の視線が集まる。
「少し聞こえた話だと誘い方がなってないってことなので、こんなのはどうでしょう?」
リボンの女に近づきじっと顔を見てから一礼する。
「おおっなんと目を引く夜空に瞬く星のような瞳を持つマドモアゼルっ。その類まれな美貌に引き寄せられた非才なるこの身ではありますが、よろしければ共にいていただけないでしょうか? 許しを得られるのならお手を」
そう言って片膝を床について女へと手を差し出す。
静寂の中、女がどう応えるのかと視線が集まる。少し固まっていた女だが、すぐに口を開く。
「その誘い方はどうかと思います」
きっぱり正直に言い切った。
だろうなと皆が声を合わせて頷く。もう一人の女もそうだし、誘っていた男たちもだ。毒舌が放たれないだけましではないかとも思えた。
「良い所の出とか聞こえたから優雅に誘っていたのにあんまりだ!」
全員からのダメだしにちくしょーっと言い放ち、くるりと反転した平太は走って斡旋所を出て行く。
巻き込まれただけなのに気の毒なとギャラリーが思う中、手を差し出された女が「逃げられた?」と呟いた。それに他の者も「あ」と呟いて入口を見る。
関わらないようにわざとあの演技をやったのだと皆考え、おかしな奴という評価から食わせ者というふうに変わる。
手助けになるような人間がいなくなった二人の女も男たちから逃げるように斡旋所から出て行き、それを追って男たちも出て行った。
その二十分後にそこらを散歩してきた平太が斡旋所に戻ってきた。入口か覗き込むように中を見渡し、あの五人がいないことを確認すると中に入る。
「薬草買い取ってください」
「あ、さっきの。上手く逃げましたねー。狙ってやったんです?」
「狙ってやったわけじゃないんですけどね」
平太は演技はしていたものの、優雅という感じを出したかっただけで、関わらないために狙ってやったわけではない。逃げたのは恥ずかしさ半分悔しさ半分だったからだ。食わせ者という評価は的外れもいいところだった。
「あ、そうなんですか。わざとあんな演技やったんだと思ってましたよ。他の人も同じことを思ったんじゃないですかね」
「俺のイメージする優雅さはあれだったんですよ。まあ、あれのことは忘れてください。それよりも薬草の確認を」
こんなところで黒歴史が生み出されたことに平太はうんざりとしている。
「はい。こちらへ」
三束にまとめた薬草を職員に渡す。職員は手早く十本ずつあることを確認し、状態も特に変なところがないと確認した。
「九十ジェラです。確認してください」
出された大銅貨九枚を受け取り、ポケットに入れる。
この後はどうしようかと依頼でなにかちょうど良いものがあるかと壁に貼られた紙を眺める。
「いいものないなー。皆、時間余ったらどうしてんだろう」
平太は早めに切り上げたため時間が余っているが、狩りに慣れると狩れる上限にすぐ達することはある。そういった場合は素振りをしたり、武具の手入れをしたり、町中で募集されている手伝いをやってお金を稼いでいる。
募集している仕事は、町中の掃除や下水掃除が定期的に募集されていて、ほかは商隊の荷下ろしや警備兵が訓練で遠出するときにかわりの警備を募集していたりする。
それらは今募集していないので、かけだしの平太ができるようなものはなかった。
「また外にでるかな。今度は北に行かないように気をつけておこう」
日が沈むまでまだ時間があるためシューラビ狩りに挑戦しようと町を出る。
ラフドックの縄張りに入らないよう、南寄りに移動し、シューラビを探し始める。三十分を過ぎて、シューラビとは遭遇したが狩ることはできていない。
「んー難しい」
「なにがだ?」
腕を組み考え込んでいるところに声をかけられ肩に手を置かれた。驚いて勢いよくそちらを見ると、斡旋所で女たちを強引に誘っていた男たちの一人がいた。
「びっくりしたー」
「すまんすまん。見知った顔がいたんで声をかけたんだ。聞きたいこともあったしな。それでなにを悩んでたんだ?」
「シューラビを狩りたいんだけど上手くいかなくてねぇ。どうしたものかと」
その返答に男は意外そうな顔となる。
「装備が整ってるからシューラビ狩りなんて終えてると思ったんだが」
何度目の勘違いかと思いながら返答する。いつかこれに見合う実力を持ちたいものだった。
「これはもらいものだから。ハンターとして動き始めたのは今日から」
「ああ、そうなのか。質問に答えてくれたら、アドバイスするぜ」
女たちと話していたときのような強引さがないことに、平太は意外に思う。
「とりあえず答えられることなら答えるよ。それにしても親切というか無理矢理誘うようには見えないんだけど」
「ちょっとした事情があってなー。聞きたいことってのは、あの女二人をここらで見たか、もしくはどこに行ったか知ってるか。この二つだ」
「見てないし、知らない。斡旋所から出たあと一度も会ってないから」
あっさりとした返答の平太を男はじーっと見て、興味のなさそうな様子から嘘をついてはなさそうだと判断する。
「そうか。まあ、知ってたらラッキーって感じで聞いたからいいが」
「わざわざ町の外に探しにくるくらいにあの人たち気に入ったのか?」
「いや気に入ったってわけじゃない。仕事であいつらを確保する必要があったんだ。いいところのお嬢さんって斡旋所でも言ったろ? その家のライバル的なところからの依頼でな」
「それってばらしていいことじゃないような?」
誘拐だろうと男から一歩離れる。
「いいことじゃないんだろうが、お前さんが黙ってくれてればいいことだし、俺も真面目に仕事する気はないんだよ。道を踏み外してこんなことするようになったが、今の待遇がいいわけでもないし」
溜息を吐きつつ、これまでのことを思い出す。真面目にハンターをしていた頃が懐かしかった。
「普通にハンターしてたら道踏み外すことなんてなさそうだけど」
「酒に酔って調子にのって強い魔物に挑んでなー。そのせいで大怪我して治療費やら壊れた武具の買い直しやらで借金背負ってあれよあれよとこんなことに。先輩としての忠告だ。一攫千金なんで考えず地道にいけ、その方が結果的にはいいから。調子に乗ると痛い目見るぞ」
すごく実感のこもった重みのある言葉に平太はこくこくと頷く。
「痛い目は午前中にみたよ。シューラビを追って、いつのまにかラフドッグの縄張りに入ったんだ」
「よく無事だったな?」
駆け出しがはぐれならともかく縄張りにいるラフドッグを相手するのは厳しいと男もよく知っており、狩りが下手なだけでラフドッグから逃げおおせる程度の強さはあるのかと首を傾げる。
「エラメルトに行こうとしてた強い人に助けられた」
「運が良かったな。って話がずれてきてるな、アドバイスするか。シューラビの狩り方だったな」
平太が一人なのか確認すると、一人での狩りの仕方を教えることになる。
世話になるのだから名前くらいは知っておこうと自己紹介し、ケラーノという名前だとわかる。
ケラーノは周囲を見渡してなにかを見つけたようで平太を連れて移動を始める。
「仲間がいる場合は、一人がシューラビを追って、他の奴らが逃げる先に待ちかまえるって方法がとれる。網を持ってれば捕まえやすいな。一人の場合はまず巣穴を探すんだ」
ほらそこにあると、草に隠れた穴を指差す。
「全然わからなかったよ」
「慣れたらわかるようになるさ。知能はそこまで高くない魔物だ、巣穴も凝った隠し方をしてない。草の生え方が不自然だったらそこに巣穴があると思っていい」
他にも草の倒れ方で移動した方向がわかったり、巣穴近くの移動跡で今も使われている巣穴なのかわかったりするが、人が歩いた跡も混ざるので見分けが難しく、そちらを言うことはなかった。
「んで巣穴を見つけたら、くず肉やくず野菜や持ってきてる昼食を巣穴のすぐそばにおく。もう一ヶ所巣穴から少し離れたところにも置く。置いたら俺たちは餌とは反対方向でじっと静かに待つ。巣穴にシューラビがいたら、長くて五分も待てば出てくるから餌に夢中になってるところを叩く」
「なんか簡単。午前中追い回してたのはなんだったのかってくらいに」
「さっきも言ったろ、頭のいい魔物じゃないってな。あと注意する点だが、餌をあまり巣から離れておくと逃げる隙を与えるから置く距離には注意しろってことだな」
「一人でやる場合も網を持ってた方がいいような」
仲間と狩る場合の話を思い出し聞いてみる。
「それもいいが荷物になって動きを阻害することもある。慣れたら蹴りだけでも終わる狩りだし、わざわざ網を買うのもな」
「なるほどー。そういやケラーノはどこまで狩りに行けてたんだ?」
「安定して狩れたのはローガ川だな。順調に行きすぎてオオル礫砂漠に突っ込んで怪我した」
「川の次は湖で、砂漠はその次だっけ。一つ飛ばしたのか」
そりゃ怪我しても仕方ないと無謀さに呆れる。
「やり直そうとは思わない? もしかしてまだ借金がある?」
「借金はなんとか返した。今の状況から抜け出すのになんというかきっかけがなぁ。今回のような犯罪に手を染めることがなかったんだ。悪事一歩手前ってことばかりで、生活もできたしずるずると」
このままじゃいけないとは思っていても、やる気がないというか気が乗らない。無理矢理にでも状況が動くことを待っているという消極的な状態だ。あとは仲間二人が現状に疑問をだいておらず、放っておくには心配ということもある。
「お前は俺のようにはなるな。やっぱりまともな暮らしが一番だからな」
「うっす。気をつけます」
「ああ、じゃあ俺は行くわ」
ひらひらと片手を振って去っていくケラーノにアドバイスの礼を言い、平太は巣穴探しを始める。餌を持ってきていないので、捕まえることはできなかったがいくつかの巣穴を見つけることはできた。
日が傾き始めたので巣穴探しを止めて町に戻る。
今日一日で色々とあったとミレアに話し、怪我の心配をされながら時間が流れていった。
そして翌日。平原に来ていた平太は薬草採取を手早く終えて、狩りを始めようとしていた。
「教えてもらった通りにするのもいいけど、せっかく能力があるんだから実験もかねて使ってみよう」
昨日やったのは物質を出現させること。今日やろうとしているのは知識経験記憶という形にはならないものの再現だ。幸い、見て聞いてケラーノに触れるという全部の条件をクリアしている。できるんだろうと信じて、早速能力を使い始める。
「再現するのはケラーノの狩りの経験」
魔導核に力が流れる感覚があり、能力が発動したことを確認する。
世界が変わったのか、そう思えるくらいに能力を使う前と違って見えた。
「うわぁ」
思わず感嘆の声がこぼれる。風景は先ほどと同じなのだ。しかし目を通して入ってくる情報がけた違いだった。知識までは再現していないので草の種類はわからないが、どれが薬草でどれが毒草なのかは一目でわかり、草の折れ片で人が通った跡なのか魔物の跡なのかわかり、草の生え方で巣穴のおおよその場所もわかった。
「これが駆け出しと一人前の差なんだろうなぁ。忘れないようにしとかないと」
見て取れる情報を覚えていき、自然と周囲に向けられる警戒と探索の仕方も学ぶ。この一回の能力使用で全部を身に着けることはできないが、まったくのゼロから進んでいくよりも得られるものは大きかった。
「そこの巣穴でいいかな」
おそらく中にシューラビがいるだろう穴の前と少し離れた位置に餌を置く。昨日言われた置く距離も当たり前のように決めることができた。
待つこと三分弱。やや小ぶりのシューラビが巣穴から出てきて、穴の目の前にある餌を食べ、離れた位置にある餌に気づく。経験のおかげでシューラビがどう動くか予測が容易くなっている。
巣穴から離れた瞬間に行けると感じた平太はいっきに近寄ってシューラビをおもいっきり踏みつけた。ゴキンっと骨の砕ける感触が靴を通して伝わってきて、シューラビの動きが止まる。
「これでよしっ」
初めての狩りの成功にぐっとガッツポーズをして喜びの思いを表す。
生き物を殺すことには思うところはなかった。それはケラーノの経験で疑似的な慣れが生じていたからでもあるし、何度も失敗しての成功が忌避感を上回り嬉しかったからでもある。
今後生物を殺すことで忌避感を感じるとしたら、人と戦うときだろう。そういった機会があって実行できるかはわからないが。
今はただ狩りの成功を喜ぶ平太にとっては先のことなど意味はなく、シューラビを持って町に戻った平太は肉買い取り所にやってきた。
「これを買い取ってもらいたいんですが」
「シューラビだな。皮をはぐのは自分でしなくていいのか? 手間賃として少し買い取り額が下がるぞ?」
「かまいません」
ケラーノの経験ではぐことはできたのだが、刃物を持っていないのだ。木剣では不可能で手間賃がかかってもそのまま売るしかない。
「だったら三十ジェラだ」
「皮をはぐのって綺麗にやらないと買い取り額さがったりします?」
大銅貨三枚を受け取りながら聞く。
「よほど下手じゃなければ四十ジェラで買い取るぞ? それに下手でも三十から下がることはない」
「そうですか、じゃあ次挑戦してみるのもいいかもしれないですね」
「ああ、こっちも手間が省けて助かる」
シューラビを売った後は薬草も売り、百二十ジェラの収入ができた。時間はまだ昼前で昼食を食べるのにも早く、町をぶらつくついでにナイフを買っておこうと歩き始める。ナイフはそこそこ品質のいいもので百ジェラ弱だ。昨日の収入も含めて予算は十分ある。
ナイフを買ったあとも、ぶらぶらと歩いているうちに能力を使って五十分ほど時間が流れ、効果時間が切れる。
「一時間はもたないんだな。今後このことを忘れないようにしないと」
うんうんと頷いた平太はいまだ慣れていない町中をのんびりと見学しつつ歩き時間を潰す。
その途中で、同じくこの町に慣れるため休憩時間を使って歩き回っているオーソンとカテラに会い、挨拶をかわしたりしていた。美少女のカテラは神殿の内外でナンパが多くて辟易しているらしく、そういったナンパ避けにオーソンと行動を共にしているということだった。わりと楽しそうなのでデートなのかと思った平太だが、言葉にすると雰囲気を壊すかもしれないと黙ったまま見送る。
家に帰り、夕食になるとバイルドも一緒に食べることになった。食事は常に一緒に食べているわけではない。研究に集中して食べる時間がずれるのだ。食事を抜くことはミレアが許さず、あまり遅いとバイルドの部屋に持っていくのだ。
「ほう、能力で経験を再現しての狩りはそういったものになるのか。興味深いのう」
物体の再現はまだ理解の範疇だ。能力で炎や氷を生み出すことと同じだとわかる。しかし経験の再現は理解が及ばす好奇心を刺激される。見聞きしたものの再現といっても、平太の話では皮の剥ぎ方までは見ておらず、それでもスムーズに行うことができると確信が持てていた。これはどういうことなのかと疑問を抱く。
その疑問をはらすのはバイルドには不可能だ。なぜなら創世神話よりも前の出来事が関わってくる。今語られている知識は創世神話以後のことで、それ以前のことなど始源の神くらいしか知らない。その始源の神もなにがあったか確信まではないのだ。ヒントをかき集めて、そうではないかと精度の高い予想をしているくらいだった。
人の中にもそうとは知らずに研究を行っていた者がいる。始原の神がヒントと考えたものに興味を持って収集していたのだ。その人物の遺したものを見て、なんらかのインスピレーションを得ることができれば再現の謎に近づくことができるだろう。
「こっちに興味持たずに帰還陣の研究しろよ」
「わかっとるわい。相変わらずつんけんしとるのう」
「無理ないんじゃないでしょうか? こちらにきてそれほど時間たっていませんし、ご主人は研究に集中してあまり顔を合わせませんから仲良くなるきっかけなどありませんし」
「仲良く?」
無理無理と平太は手を振る。バイルドを見直すのはおそらく帰還陣が完成し帰ることができるようなったときだろうと思う。
「この態度じゃ、しばらくは無理なんじゃないかのう」
「ご主人側からも歩み寄る姿勢が見えませんからねぇ」
嫌っているだけで、争いにまで発展していないのでミレアから働きかけるつもりはない。それに平太の態度が軟化する兆しも見えているのだ。ここに来た当初は一緒に食事なんてとんでもないという態度だったが、今は不機嫌ながらもこうして一緒のテーブルについている。
まあ、それは世話になっているミレアに迷惑をかけないようにと考えているからで、平太がバイルドに歩み寄っているわけではない。
「嫌われようがかまわんというのが心情じゃからのう。今のところ不都合もないしな」
「もう少し気にしてくれると改善されそうなんですけどね。あ、ご飯おかわりします?」
平太の茶碗が空になったのを見て、ミレアは手を差し出す。その様子を見ながら、バイルドは最近和食系統の食事が増えてきたなと思う。嫌いなわけではないが、平太が来る前までは十五日に一度でれば多い方だったのだ。美味いからいいかと疑問を流し、ふろふき大根にフォークを伸ばした。
そして夜が明けて今日も平太は狩りに出る。最初は自力で複数の巣穴のありかに見当をつけてみて、能力を使い答え合わせをする。三日ほどで六割ほどの正解率になり、初日と比べると大きく進歩している。
狩りの方はいまだ能力頼りで、こちらは自力でどうなるかわからない。そろそろ完全に自力でやってみようと考えていた。皮の剥ぎ取りも経験しているが、こちらも自力ではやっていない。
さらに三日ほど時間が流れ、拙いながらも完全に自力でシューラビ狩りを達成する。
両腕を上げて両膝を地につけ無言でガッツポーズをする平太は、自身の体が若干膨らむ感覚を得る。
狩りの行程をこなしたことで珍しい体験をしたとみなされたか、これまでより小さいながらも成長したのだ。これまでの三回の成長で、武具に感じてた重さは感じないようになる。試しにタンスを持ってみるとそれどほど苦労することなく持ち上げることができた。
「これならもう少し上の武具でも大丈夫かな?」
多くのハンターと違い、生活費にお金を使わないため貯まる速度がかなり違う。ミレアに少しくらいは家に入れようかと話したが、余裕があるので大丈夫だと受け取らなかったのだ。
「アキヤマさん? 今日は狩りに行かないのですか」
「うん。武具を買おうかと思って。そのついでに今日は休日にしようと思ってる。そんなに疲れてはないんだけどね」
シューラビの狩り自体が疲れるようなものではないし、成長で体力も上がっているため疲れはほとんどないのだ。
「体調管理は大事ですから、大事になる前に休むのはいいことだと思いますよ。いってらっしゃいませ」
「いってきます」
ミレアの案内とここ数日の散歩でどこになにがあるかは把握しており、駆け出し向きの武具を多く置いている店にやってくる。
店内はある程度区分けされているが、雑多に置かれていて値段や種類は平太にはわからなかった。
「さてはてなにを買おうか」
「お客さん、迷ってるならアドバイスするよ」
カウンターにいる店員が声をかけてくる。
「頼めます?」
「じゃあ、今使ってるものとどこで狩りをしてるかと予算を教えてくれる?」
平太はもらいものの装備を言っていき、店員はふむふむと頷く。
「草原でやってるなら今のままで問題ないね。ラフドッグを相手するなら金属製の武器にした方がいいかもしれない。木剣でも倒せないことはないけどね」
そうなのかと平太は首を傾げる。一度戦って押されていたのでそう思ったのだが、成長している今ならば前回よりもダメージを与えることは可能なのだ。自信がないのならベールの技術を再現すればいい。きちんと訓練しているだけあってラフドッグなどには木剣でも負けないだけの技術がある。
「防具を買うなら金属製のアームガードか盾かねぇ。ローガ川の魔物たちに対して役立つはずさ。予算的にいうと剣を買うと盾は買えないよ、盾を買っても同じ」
「革製だと川の魔物たちには対抗できないんですか?」
「んー攻撃を見切って避けられるなら必要ないね。まあ、これはどこの狩場でもいえることだけどね。低価格の革製だとホーンドッグの角での突撃には穴を開けられるし、川猿のひっかきにも破られる可能性があるんだ」
なるほどーと頷く平太に付け加えるように店員は口を開く。
「ここでなにも買わずにもっといいものを買うって手もあるね。青銅製の剣と盾がそれぞれ千ジェラだし、あと四百ほど貯めれば買えるよ」
それもいいなと考え、貯めてから青銅の剣を買うことにした。
「じゃあ、先に持つだけ持ってみるか? 扱いやすいサイズがなければ注文することになるし」
お願いしますと平太が頭を下げて、店員は剣のある方向を指差す。同色の似たような剣がいくつも入った木箱がある。それに近寄った平太は今使っている木剣と似たサイズのものを探し軽く振ってみる。何本か振ってみてしっくりくるものがあったので、店員に渡す。
「あと五日もあれば貯まるんで取り置きしてもらっていいですか?」
「それはいいけど、五日で貯まるか?」
「生活費とか宿賃とか免除されてるんで」
「ほかのハンターが聞いたら心底羨ましがるな。こっちとしては確実に買ってくれるならいいんだが。名前を教えてくれ」
店員は名前を聞き、予約と示す紐を剣に結び、カウンター奥の木箱に入れた。
感想と誤字指摘ありがとうございます
書き溜めしてくるので、しばらく更新なしです