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57 王都急行

「誘拐はつい二時間ほど前のこと」

「誰がさらったんですか!?」


 さすがに冷静ではいられず、エラメーラに詰め寄る平太。寄られた分だけ距離を開けつつエラメーラは答える。


「あの手口からすると、素人が突発的に行ったものではないわ。おそらくあの子の出自に関連しているのかもしれない」

「殺し屋組織でしたっけ」

「ロナから聞いていたのね。この町のどこかに監禁するのかと追ってみたけれど、転移で去っていった。身代金の要求もないし、ミナが目的でさらったとしか思えない」

「このことはロナたちには?」

「知らせてあるわ。ロナも急いで出ようとしたけど、ミレアに止められたわ」


 今の実力が鈍ったロナでは取り戻せないだろうと判断し、ミレアは平太が帰還してから動くように言ったのだ。しかし待ちきれないということでロナは出発しようとしたが、ミレアに気絶させられた。


「あなたはミナを助けに行くのかしら」

「行きます。さすがに見捨てることはできませんから」

「おそらくミナがいるのは王都。転移で生じた力の残滓があちらへと続いていたわ。国に協力を得られないか、リヒャルトから打診してもらえるよう手紙を書くから少し待っててほしい」

「ありがたい申し出ですけど、どうして協力をしてくれるんですか?」

「ミナがこの町の子供ということもあるし、理由も話さずに部屋から追い出した詫びもあるわ」


 もう一つ口にはださないが、エラメーラは嫌な予感がしていた。ミナになにか悪いことが起こるというわけではなく、それとはまた無関係なことで平太の力を必要することがあるかもしれない。そのときに協力を得やすくするための下心もあった。

 平太は隠されたことには気づかず納得した様子を見せる。

 エラメーラは消えて、平太は医務室に向かう。そして受付嬢に話しかける。


「こんにちは。オーソンはここにいますか?」

「ええ、いますよ。彼になにかご用でしょうか」

「秋山平太が約束のものを持ってきたと伝えてもらいたいのですが」


 わかりましたと受付嬢は頷いて、席を立ちオーソンの下へと向かった。

 三分ほどで、急ぎ足でオーソンがやってくる。その表情は明るい。


「アキヤマ君!」

「こんにちは、オーソンさん。約束のビーインサトです、どうぞ」


 持っていた包みをオーソンに渡す。オーソンは割れ物を扱うように丁寧に受け取り、そっと抱きしめた。


「これが。ありがとうっ。ようやくカテラを元気にしてあげられるよ」


 目の端に涙が滲み、声もわずかに震えていた。


「いえいえ。これで恩返しがようやくできました」


 人助けはしておくものだと思いながらオーソンはもう一度頭を下げる。


「カテラもお礼を言いたいだろうし、会っていってほしい」

「そうしたくはあるんですが、急ぎの用事ができまして。このあとエラメーラ様に会って、すぐに王都へと行かなくちゃいけないんですよ」

「帰ってきたばかりじゃないのかい?」

「そうなんですけど、悠長にもしていられなくて」

「わかった。用事が終わったらまた会いに来てほしいな。それと無茶して怪我なんかしないように。一見平気そうだけど、見えないところに疲れは溜まるものだから」


 平太は笑い頷き、オーソンに別れを告げて、エラメーラの部屋に向かう。

 そこでは手紙を書き終えて、平太を待つエラメーラがいた。平太が入ってくるとインクの乾きを確認し、手紙を便箋に入れる。


「これをリヒャルトに渡せば大丈夫よ」

「ありがとうございます」


 礼に頷くエラメーラの頬がかすかに赤らんでいる。それに意識がミナのことに向いている平太は気づかなかった。


「ゆっくりとしていきたかったですけど、家に帰ることにします」

「ええ、気をつけてね」


 神殿から出て、平太は足早に家へと戻る。

 家の中に入り、まず平太が思ったことはいつもより静かということだ。この空気だけで、ロナたちの心情が暗いものだと想像がつく。

 リビング入ると、ミレアが立ち上がり、ロナとバイルドは項垂れたままだ。グラースもこの空気にあてられたか静かだった。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 そう言ってくれたミレアの声音もやや沈んでいるように思える。


「エラメーラ様からミナのことは聞いたよ」

「私たちもあの方からミナのことを聞きまして、公園に遊びに行ったはずなので確かめてみたら来なかったと子供たちから聞けました」

「エラメーラ様が言うには殺し屋組織が王都へと連れ去ったのだと」

「らしいですね。身代金の要求などまったくありませんから、そちらの可能性の方が高いと思います。ヘイタさん、探しに行きますか?」

「行くよ。王都の小神への手紙ももらえた。王の助力かリヒャルト様の助力が願えると思う」


 落ち込んだままのロナが平太に近寄り、口を開く。


「私も行く。組織の場所を知ってるし」

「死んだって誤魔化しているのに正体をばらすことになるけどいいの? 今後の生活がこれまでどおりになるかわからないよ?」

「うぅっ……いいわ。それでミナを無事取り戻すことができるなら!」


 少しだけ悩んだロナは、ミナさえ無事ならばと自身の平穏を捨てる覚悟を決めた。

 ミレアはそうなった場合のフォローを提案する。


「ここで平穏に暮らせないのならばシューサで暮らせるよう手配しますよ」

「その場合は俺からもフォルウント家に頼むかな。いや頼まずとも俺の稼ぎでどうにかなるか」

「二人ともありがとう。準備してくる」

「準備ってなにするんだ」


 自室へと行こうとしたロナの腕を平太が掴んで止める。


「以前使っていた装備を出してくるんだけど」

「以前より肉づきがよくなってるから着れないだろ。それに勘も動きも鈍ってて足でまといになるだけだと思うよ」


 以前は自分よりも強かったロナに、こんなことを言うとは思っていなかった。

 平太の言うことに何一つ反論できず、ロナは言葉に詰まる。

 体を鍛えることはすでにやっておらず、そのせいで体重は少々増えている。勘ももちろん鈍っていた。しかし現在怖がっているだろうミナのことを思うと、自分の手で助け出してもう大丈夫だと安堵させたいのだ。

 その思いを口に出す前に、ミレアが先に口を開く。


「ロナさん、情報を提供するだけに留めましょう。私に負けるほどに実力が落ちているんです。現役のアサシンと戦うことになったら確実に殺されます。ミナが悲しみますよ」

「……わかった」


 悩んだがミナを泣かせる気はなく、直接助けることは諦めた。ロナ自身も現役アサシンとの戦闘になったら負けるのは簡単に想像できたのだ。

 ロナはこのままで行くということで、平太がさっそく王都へ転移しようとしたとき、玄関がノックされる。

 平太は能力の発動を止めて、ミレアが玄関へと向かうのを見る。そして話し声でパーシェがやってきたとわかった。


「こんにちは。預けていただいた素材の買取金を渡しに来たのですが、なにやら問題があった様子ですね」


 パーシェはその場の雰囲気だけでただならぬことが起きたと察する。

 ロナはパーシェに誘拐の件を話す。パーシェもたまにここに来たとき、ミナを可愛がってくれたのだ。心配させるとはわかっているが、知らせておきたかった。

 案の定、パーシェの表情は心配そうなものへと変わる。これからどう動くのか聞いて、パーシェは自身も一緒に王都へ行くと言い出す。


「危ないからやめておいた方が」

「ああ、勘違いさせてしまいましたね。一緒に行動するわけではないのです。実家を通じて、ヘイタ様の話が王に届くように動こうと思ったのです。リヒャルト様に会って頼むなら必要ないことかもしれませんが、念のためですね」


 妹であるシェルリアの夫ロディスに話して、そこから王に話が届くようにしようと思った。


「そういうことだったか。それなら一緒に行っても大丈夫だな。そばに寄って。じゃあミレアさん行ってくる。不気味なくらいに静かなバイルドのことも頼んだ」

「お任せください」


 平太が動くならば大丈夫だと信頼し、不安のなくなったミレアは家で皆の帰りを待つ。

 ロナとパーシェとグラースがきちんとそばにいることを確認して平太は転移する。


 王都の外に転移した一行はまずファイナンダ家へと向かう。

 連絡のない帰還にファイナンダ家の面々は驚いていたが、平太が一緒ということでいよいよ結婚報告かと考える。だがロナという見慣れぬ女性が深刻な表情なため、恋愛の拗れた話なのかと思いなおした。

 そんな考えなど知らず、パーシェは家に帰ってきた理由を話す。


「そうだったのか。わかった、ヘイタ君には以前の借りがあったし動くことに問題はない。リヒャルト様からの言葉で十分だろうけどな」


 そう言う父親にパーシェはありがとうと返す。


「早速城へ向かおう。パーシェ、ついてきてくれるか」

「私も? 解決するまでここで待つつもりだったのだけど」

「シェルリアともしばらく会っていないだろう? 顔を出せば嬉しがると思うのだよ」

「わかった。使用人たちに手伝ってもらって身支度を整えるわ。そういうことだから、神殿にはヘイタ様たちでお願いしますね」

「うん」


 ファイナンダ家から出た平太たちは夕暮れの雑踏中、リヒャルトの神殿を目指す。

 神殿の受付は今日の業務を終了していたが、そこはエラメーラ様からの手紙を渡して急ぎの用件だというと、すぐにリヒャルトに届けてくれた。

 戻ってきた神官に連れられて、平太たちは孤児院の応接室に案内される。そろそろ夕食時ということで孤児院の中には料理の匂いが漂い、孤児院の子供がはしゃぐ声も聞こえていた。

 応接室ではリヒャルトが待っていて、読み終わった手紙をテーブルに置いていた。


「お久しぶりです、リヒャルト様」

「うむ。久しぶりだ。故郷に帰ったと聞いたが、こっちに戻ってきたのだな」

「はい、始源の神の仕業でいろいろとありまして」


 手紙にはなかった情報にリヒャルトは目を丸くする。


「そこらへんを聞いてみたいが、今はミナというお嬢ちゃんのことが優先だな」

「今度助力のお礼に、ラフホースでも狩って持ってきますので、そのときにでも」


 もっといい肉を狩ってこれるが、孤児院の人数だとラフホースを狩った方が量的にちょうどよいのだ。質としても十分に喜ばれるものだ。


「子供たちも喜ぶじゃろうて。確認だが、用件は王都にあるという殺し屋組織の捜査と壊滅になるのかの?」

「ミナを取り戻すことだけ考えていたので、壊滅とまでは考えていませんでしたね。国の協力を得られるならそちらに任せようかと」

「協力を得られなかった場合はどうするつもりじゃ?」

「能力を駆使して一人で潜入して、ミナを取り戻せたら暴れつつ脱出ですかね。追ってこれないようにいろいろと壊すつもりです。そういったことに適した魔王の攻撃が再現できるので

「ちょっと待ってくれ。魔王と戦ったということも驚きだが、魔王の攻撃とはどういったものだ」


 小規模であるはずがないとリヒャルトは焦った様子で聞く。

 それに炎の鞭で広範囲を薙ぎ払うものだと平太は答える。さすがに全力火炎砲は威力過多だろうと考え、使う気はない。鞭も十分に過剰なのだが、今の平太の戦闘基準は魔王討伐戦や魔王の居城へと向かう旅路のものなので、炎の鞭が手頃だと考えていた。


「魔王がそれを使ったときどうなった?」

「直接見たときは、いくつもの廃墟がさらに崩れたくらいですかね。その攻撃をもってたくさんの都市を滅ぼしたんだそうですよ」

「そのようなもの使うでない! 王都がめちゃくちゃになるじゃろう」

「さすがに王都を滅ぼすつもりはないんですが」

「その気がなくとも、なにかの間違いで制御失敗されたら大変なことになるのが目に見えておるわい」


 その光景を想像でもしたのか、リヒャルトは頭が痛そうに眉間を押さえる。王に協力を約束させなければ、万が一もありえる。人知れずリヒャルトは気合いをいれた。

 そんなリヒャルトの心情をなんとなく察したロナは、心の中で声援を送る。


「こうなると国を確実に動かしたいが、なにかいい考えはないものか」


 そう言うリヒャルトに平太が首を傾げる。


「リヒャルト様が言えば動くんじゃないですか?」

「その可能性は高いが、たかが子供一人のためと難色を示す武官や文官はおるじゃろう。そういった者も同意した方がスムーズに事が運べる」


 反発する意見で、ミナ奪還が遅れると待ちきれない平太が単独行動を始める可能性がある。それにリヒャルトとしても子供を早く親元へと帰してあげたいのだ。

 平太とロナとリヒャルトは皆を説得できる方法を考える。

 殺し屋組織を潰すか国外に追い出すことには反論はでないだろう。こっそりとその組織を使っている貴族はいるだろうが、表立って庇うことはできない。

 

「利点を示すことができれば動きやすいのではありませんか?」


 ロナの案にリヒャルトは頷く。


「……再現使いが配下となる。そういったことを確約すればいけるかもしれないが」

「……」


 リヒャルトの言葉に、平太は難しい顔になる。心情的には王族や貴族とがっつり関わっていくというのは遠慮願いたかった。心底尊敬できる王や貴族がいるならば、配下になるのに否はない。しかしどういった存在か知らない相手の下について、いろいろと無茶ぶりされるかもしれないと思うと頷きがたいものがある。

 そうしないとミナを助けられないのならば、仕方ないことかとも思うのだ。

 ロナとしてはそれを勧めることは難しい。もちろんミナは助けたいが、再現使いのできることが大きすぎて暴走する者がでてこないともいえない。平和な国に火種を生じさせることは避けたい。


「まあ、難しいだろうな。シューサからの心象が悪くなるじゃろ」


 勧めてみたリヒャルトも配下になる可能性はそう高くはないと考える。

 言ったように、フォルウント家のあるシューサとの取引に今後問題が生じるかもしない。ガブラフカからすれば先祖をいいように使う国だ。マイナスの印象を持つだろうことは想像に難くない。王の人柄に惚れこんで平太が進んで家臣になろうとしていたら、仕方ないと思うかもしれないが、今回はそうではない。


「シューサのこともあるし、俺個人の思いもあるけど、俺をおかしな扱いすると始源の神がどう思うかという問題もあるんですよね」

「エラメーラからの手紙にも始源の神が関わっていたと書かれていたが、詳細は知らぬのだ。どういった関係なのかね?」


 平太は故郷に帰って、またこちらに召喚されたこと。その後の流れを簡単に話す。


「その過去で一応親神代わりでしたよ。このブレスレットをその証としてもらいました」


 腕を上げてブレスレットを見せると、始源の神の気配がわずかに漏れ出す。それに気づき平太はブレスレットを押さえて、気配を封じる。

 リヒャルトは驚きを隠さずブレスレットを見る。


「……たしかに始源の神のものだ。こうなると配下にしてあれこれと便利に使っていれば、始源の神の不興を買うかもしれぬな」

「あ、そうだ。いやでも」

 

 なに思いついた平太に、リヒャルトは先を促す。


「この世界を救う手伝いをする予定なんで、その報酬を先払いということはどうかと思ったけど、それを言うとたくさんの人から報酬もらわないと先払いした人にとって不公平だなって」

「そんな予定があるのか」

「そろそろだという堕神の件です」


 何度目かの驚きを見せるリヒャルト。


「知っておったのか」

「始源の神から直接聞きましたから」

「それはあまり人間に聞かせたいことではないから、報酬とするのは勘弁願いたいのう」


 だろうなと平太も思ったので、思いついても詳細を口に出さなかったのだ。

 かわりにと平太は続ける。


「一度だけ再現使いの力を使って、この国のためになにかを生みだすとかなら大丈夫かもしれませんから、それを交渉材料にできませんか」


 それくらいならば平太も嫌がることはない。


「いけるだろう。では早速王城へ行くとするか」


 そろそろ王も通常業務を終える頃で、これからは自由に過ごせる時間だ。寛ぎの時間を潰すことは悪いとは思うが、できるだけ急ぎでこの件は進めた方がいいだろうとリヒャルトは考えた。

 リヒャルトは孤児院の人間に出かけてくることを告げて、孤児院を出る。神官が同行しようかと申し出たが、必要ないと断る。

 一行は城へと徒歩で向かい、城周辺を警邏中の兵に王への先触れを頼む。普通に王都で暮らしている人間がリヒャルトの頼みを断れることはできず、すぐに兵は城の中へと走る。

 兵から話を聞いて対応を頼まれた使用人が、王たちの準備が整うまで時間がかかるだろうとリヒャルトたちを待合室に案内する。グラースもいるのだが、城に入れてもなにも言われない。リヒャルトが同行しているからだろう。

 出されたお茶とお茶請けを飲み食いして二十分ほど待つと、案内役の使用人がやってくる。その使用人についていき、謁見の間ではなく、王の執務室へと通された。

 執務室には王のほかに、宰相や近衛騎士たちがいた。平太が見覚えのあるロディスの姿もあった。

 王は平太の顔を見て反応したが、視線を外しリヒャルトへと声をかける。


「こんばんは、リヒャルト様。あなたからこちらへ来るのは珍しいことですね。なにか話があるということで、宰相たちにも同席してもらったのですが、大丈夫でしょうか」

「問題ない。むしろ一緒に聞いてもらった方が都合がいいかもしれぬ」

「どのような話なのでしょうか。と、その前にそっちの者たちを紹介していただけると助かります」

「うむ。話に関係する者たちじゃ。紹介せぬわけにはいかぬだろう。アキヤマヘイタ、再現使いだ」


 いきなりぶっこんだ紹介に予想していた王以外の者たちは呆けた表情を見せた。王たちの視線が平太に集まる。それらを受けて平太は平然としている。


「やはりか。報告にあった人相だからもしやとは思ったが」

「王よ、もしや再現使いのことを知っておられたのですか?」


 宰相の疑問に王は頷く。


「リヒャルト様から話を聞いていた。そして遠くから行動を見張っていたのだ」

「どうして我らに話してくださらなかったのですか!?」

「神から接触も存在を知らせることも止められていたのだ。話せるわけなかろう」

「ならば再現使いの存在を知っているのは王のみということでしょうか?」

「ラドクリフにも話してある。あやつは外交でフォルウント家と関わることがあるかもしれぬからな。しかししらばくエラメルトから姿を消していたと聞いていたが」

「故郷に帰っておったようでな、最近こちらに戻ってきたと聞いたよ」


 リヒャルトが王の疑問に答える。そのままロナとグラースの紹介もすませて本題に入る。


「ここに来たのは殺し屋組織の捜索を国の力を借りてやりたいからだ」

「あれの捜索か。あれは国にとっても不要だから探し潰すということは賛成ではあるが、どこにあるかまではわからぬ」


 殺し屋組織は上手く隠れているため、ここだろうかという推測はあるが確証はないのだ。


「場所についてはこちらのロナが知っておるようじゃ。本拠地がかわっていなければだがな」


 どうして知っているのかという疑問の視線を受けて、ロナは元アサシンだと短く告げる。


「どうして元アサシンが所属していた組織にこだわる? 抜けた身ならば関わらない方が自然だと思うが」


 王の疑問に、ここにいるに至った理由をロナは話す。


「子を助けるためか、納得だ。しかしトップの孫をさらったということはなにかしらの目的がありそうだな。象徴として組織をまとめたいのか? 宰相、殺し屋組織についてなにかしらの情報は得ているか?」

「特には。トップが死んでいるかもしれないという情報すら入ってきていません」

「そうか。組織をまとめたいからさらったと仮定すると、今組織の力は低下しているのだろう。潰すなら今だな」


 国内の不安は早急になくしたい王の言葉に宰相が首を横に振る。


「仮定ですから、すぐに動くというのは承服しかねます。本拠地の場所を聞き、じっくりと時間をかけて対処していくべき案件かと」


 不安を取り除きたいという思いは王と同じだが、宰相は費用なども考え確実に事を運びたいという考えだ。


「その考えはわかるのだが、時間をかけると組織に力が戻ることも考慮するべきだろう」

「そうなのですが……リヒャルト様はどのようにお考えでしょうか」


 宰相の問いかけにリヒャルトは「王側の考えだ」と口に出す。


「時間をかけると国が動く前に、ヘイタが動く。その場合、町に被害が発生する可能性もあってな」

「そういえば再現使いと紹介されましたが、彼をこの場で紹介する理由は聞いていませんでしたね」


 肩書のインパクトにここにいる理由を尋ねるのを忘れていた。


「さらわれた子の親代わりらしくてのう。独自に動いても取り戻せるだろうが、確実性を求めてわしのところに来たのだよ」

「独自に動くと被害がでるということですか?」

「確実に被害がでるということはないだろう。だが被害が出た場合のことを考えるとな。一人で行かせるよりは国の力を貸した方が、町にいらぬ騒ぎを起こさずにすむと思った」


 単独行動をさせたとき、なにが起こるのだろうと王たちは思い、尋ねる。


「子を助けたあとに組織に甚大な被害を発生させるため、過去で戦った魔王の力を使用すると言っておったよ」

「……過去で戦ったという部分も気になるのですが、魔王の力を使うのは可能なのでしょうか?」


 王が真偽を尋ね、リヒャルトは首を傾げる。


「わしも実行したところを見たわけではないから可能かどうかはわからぬよ。しかし嘘を吐く理由もない」

「できるのか?」


 王が平太を見て聞く。


「何度も使っているので可能です。魔王ほどの威力や範囲は難しいですが、それでも小さな村なら容易に潰せます」


 完全再現ならば魔王が戦いの際に使ったものそのものを使えるため、村を潰すくらいわけないのだ。

 平太が答えたが、王たちはいまだ納得がいっていない様子だ。そもそも魔王が出現したという話を聞いたことがない。リヒャルトが過去と言ったのを、ここ数年のことだと勘違いしているのだ。

 疑問点を解消するため王は魔王について聞く。


「ここ数年で魔王出現の報告を招きの神殿から受けていない。いつどこで魔王と接触したというのだ」

「俺が魔王と戦ったのは千年以上前のことですよ? ここ数年の話は俺も聞いたことがありません」


 千年前という発言に、王たちは平太がいい加減なことを言っているのではと疑いを持つ。事情を知らなければ、なに言っているのかと思っても仕方ない。


「千年生きていることになるが、人間はそれほど長寿ではないぞ」

「俺もそんなに生きてはいません、いや存在していたというだけなら千才以上なのだろうか」

「うーん、どうも理解ができぬ。お主がエラメルトから消えたあとの話を聞かせてくれないだろうか」


 平太は頷き、簡単に話していく。

 王たちにとっては突拍子もない話で、本当なのか判断つきかねた。


「王よ、始源の神が個人に干渉することなど聞いたことありませぬ。リヒャルト様はいかがでしょう」

「わしもヘイタ以外からそういった話は聞いたことはない」

「でしたら彼の言うことには虚偽が混ざっているということになるのではないでしょうか」


 宰相の発言にリヒャルトは首を横に振る。


「干渉しているという証拠があるのだよ。ヘイタ、ブレスレットを見せてやるといい」


 リヒャルトの言葉に従い、平太はブレスレットをはめた腕を胸の辺りまで上げる。

 特に変わったところのないブレスレットを見て、宰相はそれがなんなのかと言おうとして止まる。ブレスレットから放たれた気配に、自然と頭を垂れる。そうすることに疑いはなく、その気配を感じ取れたことが幸せとすら思えた。

 宰相だけではなく、平太以外の者すべてが同じようなことになっている。神であるリヒャルトもだ。

 平太はブレスレットを押さえ、腕を下げる。それで影響は消えた。

 王たちは戸惑いながら顔を上げる。


「今のは?」

「始源の神の気配だ。わしも頭を下げたのは見ただろう? あれは自然とそうなったのであって、事前に打合せしていたわけではない」

「それはわかります。あの気配は畏敬の念を持って当然といったものでしたから」


 王が頷き言う。あの気配の持ち主はありとあらゆる存在の上ということを当たり前のように受け入れられた。

 王たちは神であるリヒャルトにも畏敬の念は持っている。しかしリヒャルトはその行いと威厳から王たちに畏敬の念を感じさせるのに対し、始源の神は気配を感じただけでリヒャルトへ向けたもの以上のものを抱く。


「どうして彼だけに干渉するのでしょうか」

「理由の一つは知っているが、それだけなのだろうかとも思う。ああ、理由に関しては話せない。重大なものなのでな。ともかく始源の神が関わっているのだ、ヘイタの話がまったくの嘘とは言えなくなっただろう?」

「はい」


 王だけではなく、宰相たちも頷く。具体的に始源の神がどういったことを行えるのかわからないが、あの気配の主ならば平太が言った封印で千年以上先の時代への移動を行えそうだと信じられた。


「どういった話だったか。始源の神の干渉、アキヤマ殿の体験、アキヤマ殿が魔王の力を使える、アキヤマ殿が単独行動した場合の被害。こんな感じだったな。たしかに被害が発生する可能性はあるな」


 話の流れを思い出し、王は平太が単独行動した場合に生まれる損害を認める。


「宰相、やはり早めに解決した方がいいと思うが」

「仕方ありません。そういった方向で動きましょう。こういった予定外のことに対する予算は組んでいるとはいえ、頭が痛くなる案件です」

「そこに関してはお主たちの考え次第でどうにかなるかもしれぬ」


 リヒャルトの発言に宰相はどういうことだろうかと不思議そうな視線を向けた。


「ヘイタが国の助力を得られた場合、一度のみ国のために再現を使うと約束している。それで損失分をどうにか補えるかもしれぬということだ」


 平太に本当が視線が集まり、それに頷きを返す。


「城一つ再現したという話もあるが、どれくらいが許容範囲なのだろうか」


 本当になんでもかんでも再現できるのかわからず、宰相は確認のため聞く。

 それに平太はこれまで再現したものを例として説明する。

 説明を聞いて頷いた宰相は、言葉に出して確認し理解を深める。


「なるほど、宝石二つは無理だが、宝石二つが使われた装飾品ならば再現できる。つまりは一つとして考えられるものならば大抵のものは再現可能」

「どうだ、宰相。いい考えは浮かんだか?」

「もっと時間が必要です。今決めなければならないことではないでしょう?」


 宰相は王や平太に聞き、彼らは頷く。だったらそれは後回しにしようと、今は殺し屋組織に関して考えることにする。

 宰相はロナに組織の本拠地を聞き、その周辺調査を王城の諜報部署に任せるため執務室から出ていく。急いだ方がいいと判断したが、今すぐ動くことはさすがにできない。本拠地周辺に抜け道などないかの調査は必要だった。

 そこらへんの調査が終わるまで、平太たちは城への逗留を誘われたが、落ち着かないということでリヒャルトの孤児院で寝泊りさせてもらうことになる。


 平太たちが去り、その場に残った王とロディスが今後について話し合う。

 ちなみにロディスはファイナンダ家からの急ぎの話を受け取っており、平太側につくつもりだったが、口を出さずともよい流れだったため静かにしていた。


「父上、どれくらいで組織の周辺調査が終わると思う?」

「急ぎでやらせるだろうから三日くらいだろう。本当ならば宰相としてはもっと慎重にいきたいだろうが、アキヤマ殿がそこまで我慢できるかどうかわからんからな」

「子供を心配する気持ちが、焦りを生みそうだからな」

「うむ。子を持つ親としては彼らの気持ちはわからんでもない」

「俺には子はまだですが、シェルリアとの子がさらわれたら慌てるでしょう」

「そろそろお前も子を作っていいころだろう」


 孫の顔を見たいと催促する。ラドクリフに今年子供ができて孫はいるのだが、もっといてもいいだろうと王妃とも話していた。


「俺としてはもう一年くらいは夫婦で過ごしたいと思っていたんだが」

「まあ、無理強いはせんよ。それでアキヤマ殿についてだが、国に取り込むことは避けた方がいいと思うか?」

「始源の神は重すぎる。下手に触れると国が傾きかねない」


 ロディスは平太を放置するという考えだ。王も聞いてはみたものの、考えとしてはロディス側だ。エラメーラが保護しているだけならば、交渉次第で家臣までとはいかないが、協力を得られる可能性はあったが、始源の神となると人間が関わるには危なすぎる。


「今回のように向こうから利用していいと言ってくるならまだしも、人間の都合のいいように動かそうとしたら始源の神の機嫌を損ねかねない。そんなの怖すぎる」

「ああ、その通りだな。宰相にもそれを伝えておこう」


 大丈夫とは思うが、宰相が欲をださないように王は釘をさすことにする。


「それにしても再現か。どのように使えばいいのやら」

「大昔に城一つ再現したとか。それだけの建築費用や時間が浮くのは助かることだよな」

「うむ。しかし新たに城を建てる予定はないしな」

「どこか取り壊す施設があったら、そこを壊したあと同じ建物を作ってもらうのがいい?」

「それだと古い施設がまたできるだけではないか?」


 あー、とロディスは納得する。


「だったら新しく施設を建てる予定のところに、よその建物を再現してもらうとかかな」

「私に思いつくのもそれくらいだ。宰相やほかの者ならばなにか思いつくかもしれないが」


 宰相も建築で費用削減は考えていて、ほかに他国へ派遣し大きな借りを作ることも考えていた。

 王とロディスはもう少し再現について話したあと、執務室を出ていく。

 王は妻たちのもとへ向かい、ロディスは話し合いの結果をシェルリアたちに伝えるため自身の部屋へと向かっていく。

 最後に戸締りなどをして、近衛兵たちも去っていく。

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