40 武具を求めて
のどかと言っていい道を車が進む。助手席にはシャンロの父が道案内のため座っている。
ほどほどの速度でジャローへと向かい、魔物の襲撃はあったものの、簡単に対処できるもので問題なく旅は進んだ。
出発して三日目の昼過ぎ、前方に見える風景を嬉しそうにシャンロの父は見ている。盗賊に襲われたときは、この風景を二度と見ることはできないと思っていたのだ。
村の手前で車から出て、荷物を持って村に入る。
シャンロの父を見た村人たちは、驚いたあとすぐに駆け寄り嬉しそうに声をかけていた。
「盗賊に捕まってな。こちらの人たちに助けてもらったんじゃ」
「よく殺されずに。生きて帰ってこれてよかった」
「運がよかったのじゃろうな」
シャンロの父の感想に、確かにと村人たちは頷く。
「レレネさんやシャンロが心配していた、早く顔を見せてあげな」
誰かが言った言葉に、囲んでいた村人たちはそうだったと我に帰り、道を開ける。
あとでまたゆっくりと話そうと言ってシャンロの父は、自身の家へと歩いていく。
周辺の家より大きな家があり、そこの玄関前で止まる。感慨深そうに家を見て、シャンロの父は玄関に手を伸ばす。
同時に玄関が開いて、ごんっと良い音がした。
額を押さえるシャンロの父に平太たちは心配そうな視線を向けて、玄関を開いた者も慌てたように出てきて謝る。
「すみませんっ大丈夫ですか!?」
四十才ほどの女が手で顔が隠れたシャンロの父に声をかける。
「大丈夫。それよりもただいま帰りましたよ、レレネさん」
「……お義父さん!?」
行方不明だった義父の帰還とその義父に戸をぶつけたことで、レレネはその場であわあわと動揺して立ちつくす。
シャンロの父は苦笑し、レレネの背中をさすって落ち着かせる。
深呼吸を繰り返したレレネは、深々とお辞儀して顔をあげる。
「おかえりなさいませ。夫ともども心配していたんですよ」
「心配かけたね。もう大丈夫だから」
「はい」
安堵したように表情を緩めたレレネは視線を平太たちに向ける。
それに気づきシャンロの父は五人を紹介する。
「彼らのおかげで盗賊の住処から助け出してもらえたんだよ」
「それは! 皆様、ありがとうございます」
盗賊に捕まっていたと聞き、手を口に当てて驚いていたレレネは、再び頭を下げる。
顔を上げたレレネは皆を家に入れて、シャンロを呼びに鍛冶場へと小走りに向かっていった。
すぐに二人分の足音が聞こえてくる。
戻ってきたレレネの隣には、鉢巻をした四十才ほどの男がいる。
椅子に座っているシャンロの父を見ると、顔を歪めて抱き着いた。
「親父っ」
「ただいま、心配かけたようですまんな」
シャンロの背を父が軽く叩く。それにシャンロはうんうんと頷ている。
しばし親子の抱擁が続き、満足と安堵を得たシャンロが離れた。
そのシャンロに、これまでのいきさつを父が説明する。製作し売りに出した武器の一部をなくしてしまったことも詫びる。
五つほど運んでいたのだが、盗賊自身が使っていた二つ以外は現状行方知れずなのだ。
「武器なんてどうでもいいさ。また作ればいい。親父の方が大事だよ」
「そう言ってくれるか」
ありがとうと父は涙ぐむ。
そんな父を見て、再度無事でよかったと頷いたシャンロは顔を平太たちに向ける。
「父を助けてくれてありがとう。まだまだ親孝行したかったんだ。死んでしまっては、それもできなくなるからな」
「孝行ですか、よいことですね。俺も旅が終わって家に帰ったら孝行の一つでもしなければ」
アロンドが微笑み言う。既に両親のいないサフリャもよいことという部分に深々と頷いている。
「シャンロよ、この方々はお前に武器を作ってもらいたいそうだ。どうか頼まれてくれんか」
「もちろんだ。恩返ししなくちゃいけないと思っていたところだ。気合いを入れていい武器を作ろう」
続けて、いくつ作るのか、どのようなものを必要としているのか、シャンロは問う。
「俺とこいつにあわせた剣を二つ。ハルバードを一つ。あとはこの二人に合わせた胴体防具がほしいのだが、防具は専門外だったら作らなくて大丈夫だ」
防具はサイニーとライン用だ。
前衛三人は金属製の防具でいいだろうということで、余る魔物の皮で後衛二人の防具を作ろうと話し合っていた。
困った表情でシャンロは口を開く。
「防具は言うように専門外だ。だが師匠の知り合いが腕のいい職人だったはずだ。そっちに紹介状を書こうか?」
「一応書いてもらっていいか? その職人がいる町に寄らないかもしれないから使わない可能性もあるが」
「あとで書いておく」
「武器に関してだが、材料は持ってきている。それを使ってほしい」
アロンドは目録をシャンロに渡す。
「ほうほう、この横線が入っているのは?」
「売ったやつだな」
「なるほど」
シャンロは頷き、これらを使って作ることのできる武器について考える。
五分ほど集中してから顔を上げた。
「このまま作ってもそこらで売られているものより良い物はできる。だけどここまでそろってるなら、もう少し集めて今できるものよりワンランク上の物を作らないか?」
その提案にアロンドは仲間の顔を見て、どうすると目で問う。それぞれ考え込む様子を見せる。
最終目標が魔王なのだから、少しでも良い武器があった方がいい。ここはシャンロの提案にのった方がいいと皆の考えが一致する。
頷き返されたことで、アロンドは顔をシャンロに向けて「頼む」と答える。
「必要な材料は三つ。凍らせたパンネゼリー、焦銅鉱石、カタツカロの樹液。焦銅鉱石とカタツカロの樹液はお金を出せば買えるから手に入れるのに苦労はないだろう。パンネゼリーは戦う必要があるから少し大変かもしれない。あと倒したあとに凍らせるための能力者を雇う必要もある」
「凍らせるのは俺ができる。パンネゼリーという魔物はどういった魔物なのか教えてほしい」
平太の質問に、シャンロは頷く。
「液体に近い魔物でな。水たまりのふりをして動物が近寄ってくるのを待っているんだ。水たまりとの見分け方は二つ。風がないのに揺れるときがある。あと火を近づけると動き出す。倒すには無色透明の核を叩くか、熱や雷や冷凍の能力を使うしかない」
平太には、RPGに出てくる厄介な方のスライムだち言えば想像しやすいだろう。
核を探すのがめんどうなので、能力を使って倒すのが一般的だ。
弱点看破といった見分ける系統の能力を持っていれば、武器を使って倒すのも容易になる。
「それらはどこに行けば手に入れられるの? あまり遠くだと、今後の予定に差支えがでるんだけど」
サイニーの質問にシャンロはすらすらと答えていく。
幸いと言っていいのか、この村から近い大きな町で焦銅鉱石とカタツカロの樹液は買える。残りのパンネゼリーは離れたところにいるのだが、国外に出るほどでもない。車での移動ならば時間はかからないだろう。ついでにパンネセリーのいる場所に行く途中で、件の防具職人が住む町を通るので、防具の注文もできるだろう。
「そういった感じなのね。先に材料を集める? それとも修練場に行ったあとに?」
「あんたら修練場なんてとこに行くつもりなのか」
「あら、知ってるのね」
サイニーの言葉に、そりゃあなと渋い表情でシャンロは頷く。
シャンロは腕のいい武器職人だ。実力ある者が依頼をしてくるのは当然で、雑談の一つとして修練場のことがでることがあるのだ。
彼らが言うには、確実に強くなれる場所だが命を落とす可能性もあり、積極的には行こうとは思えない場所ということだった。
そんな場所に行くというのだから、シャンロたちは心配する。
「強くなりたいなら地道に鍛えた方がいいと思うぜ?」
「もちろん地道な努力もする。だがそれだけだと足りないと判断したんだ」
そう言うアロンドに、平太たちは同意し頷く。
「足りないって、俺が見たところそこらのハンターを確実に超える実力はあるだろうに」
雰囲気や身のこなしが商売してきた実力者たちに似ているのだ。平太とラインはそうでもないが、アロンドたち三人がいれば魔物に苦戦することはないと思えた。
そのシャンロにアロンドは首を横に振る。
ちらりと視線をアロンドからその周囲に向けてみれば、現状に満足していないのはアロンドだけではないとわかる。
「向上心があるというのか、それとも魔王討伐でも考えているのか」
「どちらかと言えば後者だな」
アロンドの返答にシャンロは呆けたように間の抜けた表情になる。
アロンドは続ける。
「少し前まで俺たちは前線にいたんだ。そこで魔王の幹部と戦い、見逃された。あのまま戦っていれば負けていただろう。幹部にさえ、そのざまだ。魔王と戦うには修練場にでも行かなければな」
「本気なんだな?」
「ああ」
真剣な表情で頷いたアロンドを、いやアロンドたちをシャンロは眩しそうに見つめた。そして笑い始める。その声音に嘲るような色は一切ない。本気で言っているとわかり、嬉しくなったのだ。例えホラでもここまで本気で言っているのなら、あっぱれと感じだのだ。
「いいな! その意思は俺にとって羨ましくありながら同時に心地よいっ。俺には戦う力はない。剣を振るったことはあるが、弱い魔物に当てるのが精一杯だった。かわりにあったのは武器を作る才だ。そんな俺が平和の一助になるのなら、それは誇らしく嬉しいことだ」
シャンロは笑みを引っ込めて背筋を伸ばし、アロンドたちを見る。
「親神に誓おう。これまで学んで鍛えた技術、それら全てを使ってお前たちに良い武器を作ることを。だから修練場などで力尽きず、魔王にも負けず、平和を勝ち取ってほしい」
「わかった。必ず倒すとは言い切れないが、やるからには最高の結果を目指す」
頷き合う二人を平太は、かっこいい姿だと思いつつゲームだと一枚絵が出て来そうなシーンだなと思いながら見ていた。
しっかりとしたものを作るため、各々の手や腕の長さ、今使っている武器、そういった必要な情報をシャンロは求めていく。
作ってもらいたい武器は三人分だったが、話していくうちにサイニーとラインの防御用の杖も作ってもらえるようになった。
「動きも見たいから、外に出ようか」
「私は夕食の準備を始めます。皆さんもぜひ食べていってください」
レレネの誘いをありがたく受け、アロンドたちはシャンロと一緒に外に出る。
アロンドとサフリャと平太はシャンロの要求に応え、まずは素振りを行い、その後に軽く模擬戦を行う。
真剣な表情でそれらをじっと見て、シャンロは作り上げる武器のイメージを確固たるものにしていく。それを忘れないようにメモに残している。
最後に倉庫からいくつかの武器を持ってきて、ちょうどよい重さを調べて、シャンロは満足した表情になる。
「ありがとう、あとは仕上げにちょっと協力してもらうだけだ」
「できあがりが楽しみだ」
そう言った平太に、楽しみにしておいてくれと自信ありげにシャンロは頷く。
シャンロは鍛冶場で道具の整備を行うと言って屋内に入り、平太たちは鍛練を行う。
鍛練は日が暮れるまで続き、夕食ができてレレネに呼ばれたところで終わりとなった。
シャンロの父の帰還とお礼を兼ねて、夕食は豪勢だった。シャンロも報酬でもらった良い酒を出して、久々に明るい食事風景になる。
翌日、平太たちは早速動き出す。
村の外まで見送り来たシャンロたちとアロンドが話している間に、平太は車を出す。
「なんだあれ!?」
「便利な移動の道具だ。あれのおかげで移動時間がだいぶ短縮される」
アロンドが答え、シャンロは興味津々といった視線を向けた。
「へー、だったら下準備は早めにすませておいた方がいいな。ところであれを作ったのは誰なんだ? 遠目に見るだけでも高い技術が使われていそうだ。ちょいと話しを聞いてみたい。あれは武器ではないが、武器を作るのに役立つ技術が得られるかもしれない」
「あれは神の道具だ。だから紹介は難しい」
「……神か、それなら技術の高さも納得できる。紹介が難しいというのもな。無理を言った」
「いや、謝らなくていい」
嘘をついて気がひけたアロンドは困った顔で返す。
話を終えて、全員が車に乗り込み、出発する。
「まずは材料を売ってる町でいいんだよな?」
再確認のため平太が運転しながら聞く。
それにアロンドが頷き、答える。
「うん。在庫がない場合、注文するだけしてあとで取りに行けるからな。時間の無駄がないだろう」
「時間の無駄といえば、こういった移動時間はやることがなくて暇ですよね? どうやって時間を潰せばいいのでしょう」
ふと思いついたようにラインが誰ともなく尋ねた。
最初は車から見える風景は珍しいものだったが、何度も乗っていると見慣れてしまうのだ。
「馬車の移動だと誰かと話したり、周囲の警戒をしたり、寝たりですね」
アロンドの返答に、平太が音楽を聞くとも付け加えた。
本当はラジオを聞くと答えたかったが、聞けるわけないので近いであろう返答になった。
「この部分を操作すると、音楽が聞こえてくるんですが」
言いながらラジオをつけると、ガガビーピーという雑音が車内に響き、すぐにラジオを消す。
「このようにそこまでは再現できなかったですよ」
「そのような機能までついていたのですね。なにかほかにできることはあるのですか?」
「あとは暑さ寒さを調整するくらいでしょうか」
エアコンをいじり、冷風や温風を出す。
肌に当たる風に、平太以外の四人は感心した小さな声を漏らす。
「どこまでも快適な乗り物だ」
「まあ、車が初めて作られてから二百年らしいからね。ただ走るだけじゃなくて、ほかの部分も手を加えて当然だろうね」
二百年も前からとアロンドたちは感心しているが、平太は地球で車が生まれたときのことを言っている。
それに自身で気づき、しまったと内心考えているが修正の説明が難しいため、そのまま放置した。
結局暇潰しのいいアイデアはなく、眠るしかないということになった。
車で二時間、徒歩で一時間進んだ先に、五人は目的地である町を見つけた。
町に入り宿をとった一行は、食糧や薬を買った店の者に焦銅鉱石とカタツカロの樹液を売っている店を聞く。少々珍しい代物なので、扱っている店は多くはないが、大店ならばあるだろうということで、教えてもらった店で尋ねると置いてあるという返事をもらえた。
必要分を買ったはいいものの持ち歩くには少々邪魔になるため、人を雇いシャンロに届けてもらうことにする。
シャンロの住むジャロー村に行くという行商人にお金を払い、荷物を預けた平太たちは町に一日滞在して、次の目的地であるシャンロが紹介した職人が住む町へと出発した。
五日かけて東へ八百キロ弱、そこが目的地のカターラだ。森の近くに作られた町で、その森は国でも有数の大きさだ。そこで手に入る木材は高品質で貴族や金持ちの家具として使われている。
町に足を踏み入れて一行はどこか精彩を欠く人々の様子に首を傾げる。
まずは宿だと、近くを歩いていた町の兵にお勧めを聞くためサイニーが声をかける。
「なんだ?」
返事はどこかとげとげしいもので、この町では余所者は歓迎されないのかと平太たちは思う。
少し驚いた様子の一行を見た兵は、しまったと顔を手を覆い、咳払いして口を開く。
「驚かせたようですまない。それで用事は?」
「今日この町に来たばかりなのだけど、どこかお勧めの宿はあるかしら」
「宿か……火山亭とコロシンドという宿が評判いいんじゃなかったか。向こうとあっちにある」
「ありがとう」
サイニーの礼に頷いた兵は巡回に戻る。
宿に荷物を置いて、シャンロの紹介状を手に平太たちは目的の工房へと向かう。
ボーグヘッド工房と書かれた看板のある建物が見えて、そこの玄関前で平太たちは足を止めた。
「ごめんください」
アロンドがそう言い、玄関をノックする。
もう一度呼びかけノックをすると、屋内から人が近づいてくる気配があり、扉が開く。
出てきたのは二十才後半の男だ。
「なにかご用でしょうか?」
「初めまして、アロンドと言います。シャンロという職人から防具を作るならここにいる職人だと紹介され訪ねてきました。こちら紹介状です。工房主に渡してください」
差し出された紹介状を男は困った表情で受け取った。
「師匠に渡しますが、防具を作ってもらえるとはかぎりません。それでもよろしいでしょうか?」
「予約がいっぱいあるんでしょうか?」
ラインの質問に男は首を横に振った。
「現在この町は問題が発生しています。その問題に師匠も関わりがありまして、作業時間の確保や精神的な問題で作業が難しいのです」
「町の様子が沈んだ感じだったのは、その問題が関係あるのでしょうか」
「ええ、でしょうね」
どのようなことが起こっているのか、アロンドが尋ねる。
「町の始まりから話すことになりますが、よろしいですか?」
そこからかと少し意外に思いつつ平太たちが頷くと、座って話しましょうと中に招き入れる。
全員が座り、男は話を再開する。
「この町の近くに森があるでしょう? そこはこの町ができる前からあり、狼の魔物の群が縄張りとしています。町ができた頃は、安全のため、森から得られる糧のため、狼の魔物たちを討伐しようとしたんです。ですが狼の魔物たちは強く、そして巧みでした。生まれ育った森は、彼らにとって慣れた狩場です。侵入してきたハンターを撃退するくらい簡単でした。町の人々は、強いハンターを呼べばどうにかなると考えましたが、それらも撃退され、強いハンターへの報酬も用意できず諦めました。ここまでの経験で森に一歩でも踏み入れれば撃退されるのではなく、少しくらいなら見逃されるとわかっていたので、入れる範囲で森を利用することになりました。以後、この町は基本的に狼を刺激せずに過ごしてきました」
基本的に、と言う部分をサイニーが聞き返す。
「はい。この町ができて二百年ほど。町長は十五回交代しています。その中には森を人間のものにしようと考えた人もいました。しかしすべて狼に撃退されています」
「聞いていると仕掛けているのは人間だけで、狼は大人しいな」
平太の言葉に男は溜息と共に頷く。
「森に入らなければ襲いかかってきませんし、家畜や畑に悪さするわけでもありません。むしろ森の外の魔物を狩っていて、治安はいいくらいです。森の外で狼に襲われたという者もいましたが、ちょっかいをかけたからですしね」
そう言った男の表情が暗くなる。
「そうです、これまでは向こうからちょっかいかけてくることはなかったんです」
「ということは現在起きている問題は狼の魔物が暴れて?」
アロンドの確認に、男は頷いた。
「始まりはもう数ヶ月前のことです。森から狼が出てきて、町の外に出ている住人や行商人を襲うようになりました」
森でなにかがあったかとサフリャが呟く。
「ええ、町の上層部も同じように思ったらしいですね。やはり魔物なのだと短絡的に思わず。狼の魔物が今更になって暴れることに疑問をだいたようです。そこでまずは調査をと隠密行動に長けたハンターを雇い、森に送り出しました」
そのハンターは狼の魔物にみつかった時点で即座に退いて、情報を持って帰ってきた。
その情報では森の中に異変はなかったというものだ。木々が倒れていたり、草花が枯れていたりはしておらず、剣呑な気配はなかった。
ただし狼の魔物の数が少なかったように思えた。
「少なかったのですか」
ラインの言葉に男はしっかり頷いた。
「ええ、調査はその後二度行われ、やはり森の広さにしては数が少ないという感想が出ていました」
「数が増えすぎたから群を分けた。森に残った方が過激派だった。ということはありませんか?」
「ちょいと難しいですね。過激派がいるなら以前から襲いかかってきてもおかしくありませんから」
「ああ、そうですね」
「話をすすめますね。狼が動きを見せるようになって、町では警戒態勢がとられるようになりました。森に入る際にもハンターに護衛を依頼するようになりました。ここでうちの問題が関係してきます。師匠のお孫さんがハンターなのですが、護衛を受けて行方不明となったのです。二日で帰ってくるはずが、もう二週間弱。死んでしまったのではという悲しみで仕事が手につかず」
それならば防具を作ってもらえないのは無理もないと平太たちは納得した様子を見せる。
アロンドがなにかを決めた表情で口を開く。
「現状狼や森への対応はどうなっているんですか?」
「明確な行動は行方不明者捜索のためハンターを募集しているといったところでしょうか。ほかは警備を増やし狼の行動を警戒していますね」
「この町とは関係のない俺たちでも捜索は参加できますか」
その発言に男は驚いた表情を見せる。
「ええ、可能ですが参加するのですか? どうして」
「お孫さんが見つかれば防具を作ってもらえるという下心もありますが、困っている人の力になりたいのです。なので一度自身の目でたしかめてわかったことがあれば皆さんにお伝えできればなと」
「ぉぉっ」
男は感動したように目を見開く。当たり前のように困った者に手を差し伸べるアロンドの在り方が眩しく、嬉しいものだった。
サイニーとラインはそんなアロンドを誇らしげに見ていて、平太とサフリャは小さく苦笑を浮かべている。
苦笑している二人も探すということに異論はないのだろう、なにか意見を口に出すことはない。
「ありがとうござます。町の者たちも喜びます」
「勝手に森に入っていいんでしょうか? 誰かに許可をもらう必要が?」
アロンドが調査に関して必要な情報を尋ね、男は答えていく。
森に関しては、町長の私兵と自警団が協力して対応している。まずはそこに行って、調査協力を伝え、なにかわかった場合も彼らに情報を渡せば町長などに情報が流れる。
森の中には狼の魔物より強い魔物はいるが、数は少なくまた並外れた強さはない。ほかに毒ガスを発生させる沼といった危険な場所もない。
情報を聞き終えた一行は、男にわかれを告げて、宿をとってから自警団の詰所に向かう。
突然訪ねて来て、調査に協力したいと言ったアロンドたちを兵たちは驚き半分怪しみ半分といった目で見ていた。
森のことを誰に聞いたのか尋ねてくる兵に、ここまでの流れを話す。
ボーグヘッド工房で聞いたということに兵たちは納得した様子を見せ、念のため確認の使者を送る。その使者が帰ってきて、本当のことだとわかると彼らは雰囲気を柔らかいものに変えた。
話し合いで森に入る許可をもらえ、平太たちは早速森に向かう。
今日は森周辺を歩いて、ここらの雰囲気などを確認するだけにとどめることにした。
そして翌朝、本格的に準備を整えた平太たちは森に踏み込む。




