39 盗賊退治終わり
少し森を歩き、夕食用の狩りをしていた盗賊三人を見つけることができた。
ここで悲鳴を上げても洞窟には届かない距離なので、さっさと突撃して戦い勝った。対魔王前線で戦っているアロンドたちを相手するには、盗賊の実力は低すぎたのだ。
盗賊はファーマの頼みで殺してはいない。被害状況を確かめるため、できるだけ生かしてほしいということだったのだ。
「じゃあ、よろしく」
アロンドに頼まれ、あいよと返し平太は縛られている盗賊に話しかける。
「あんたの名前は? 洞窟にいる人数は? 行方不明になった人がいるんだが、お前たちがさらったのか?」
「答えるわけねえだろ」
馬鹿にしたような視線を向けて言う。
「まあ、そう言わずに」
「馬鹿だろ?」
返答を期待していない会話をしながら、盗賊の肩に触れる。
その様子を見ながらファーマはアロンドに小声で、あれで大丈夫なのかと尋ねる。
「あいつの能力は俺たちも完全には把握できていないからなぁ。あいつのやり方に任せるしかないんだ。今あいつが困った表情を見せてないということは問題ないってことだろう」
三分ほどの接触と意味のない会話を終えて、平太は離れて再現を使う。
じっと目を閉じて、小さく頷いて目を開き、話し始める。
「名前はクシャラス。出身地の名前はパアゼン」
「んな!?」
平太の言葉に盗賊はあからさまに反応する。
その反応から当たっているのだろうとアロンドたちは察する。
「問題ないみたいだね。こいつに用事はないから気絶させるなり、猿ぐつわ噛ませるなりしていいよ」
用事がないという言葉で殺されるのだと体をびくつかせたクシャラスは、続いた言葉にほっと安堵する。
頷いたファーマがクシャラスに猿ぐつわを噛ませる。
「それで欲しい情報はわかったか?」
「うん。盗賊の人数は十五人。行方不明者が二人捕まってるね。洞窟に出入口は二つ。俺たちが見つけたところ以外に、崖上に隠された出入口がある。捕まってる人はそっちの入り口から近い部屋にいる」
リーダーは誰なのか、誰の能力が厄介なのか、洞窟内の構造はどうなのか、わかるかぎりを平太は話す。
次々と出てくる盗賊側の情報に、クシャラスは目を見開いて平太を凝視している。自分たちの情報が丸裸にされ、己の隠しておきたい秘密すらばれているかと思うと恐怖すら抱いた。自分と平太は敵対関係なのだから、自分の情報はあっさりとなんのためらいもなくばらされるだろう。そう考えれば怯えは当然のものだろう。
クシャラスの心は折れた。今なら平太が問えば、何も隠さずに話してしまうだろう。
人の心を折ったとは気づかず平太は商人に関しても話す。
「クシャラスと商人の使いが顔を合わせてるから、商人を捕まえる際はこの線から動けばいいかもしれない。運がいいことに、昨日商人のそばにその使いがいたよ」
「その方向で動くか」
商人に関しての対応を決めて、盗賊に関しての対応を話し合う。
その結果、崖上にはアロンドと平太が行き、行方不明者を確保。残りは正面から突入ということになる。
二手に別れる前に、再度内部構造の確認や盗賊の使う能力の確認をしておく。
最後に崖上から石を三つ落としたら突入の合図と決めて、平太たちは崖上に移動を始める。
「ここが隠してある入口だよ」
「これは遠目にはわからないな」
平太が示した地面は、枯れ草でカモフラージュされている。ここだけではなく周囲の地面にも同じようなカモフラージュがあるため、俯瞰で見たときこういった地形なのだろうと平太はスルーしたのだった。
隠蔽の能力を使って隠されているので、最初から知っていなければ近くに来てもわからなかっただろう。
侵入を知らせる罠などはないので、試しに木板の入口を少し上げてここで間違いないか確認する。
「大丈夫そうだな。じゃあ石を落とすぞ?」
そう言ってアロンドは拾っていた石を崖下へと放り投げた。
これでよしと言ってアロンドは入口を開ける。二人は静かに中に入り、縄梯子を降りて入口を閉じる。
「行方不明者のところまで案内してくれ」
「わかった」
小声で話し歩き出す。
この隠れ家は三階からできていて、自然にできていた一階部分から二階三階へと掘られた。
内部はそれほど広くはない。盗賊団の規模が小さめなため隠れ家の広さもそれに合わせたのだろう。もしかしたら将来掘り広げるつもりだったのかもしれない。
こそりこそり歩いて二人は行方不明者が入れられている部屋の前にきた。布で入口を塞がれているので、少しだけずらして中を覗く。
盗賊がいないことを確認した二人は中に入って、平太が見張りのため入口に立ち、アロンドが縛られている人たちに声をかける。
縛られている二人は新たな盗賊かと警戒した視線を平太たちに向ける。
一人は六十才ほどの男で、もう一人は三十手前の女だ。女の方は殴られたような跡が残っている。
「静かにしてください。俺たちは盗賊討伐に来た者です」
アロンドがそう言うと警戒度は下がる。だが完全には信用していないようで、視線の中に警戒心が見え隠れしている。
「拘束を解きますから、静かにしたままでいてくださいね」
頷きが返されるのを見てアロンドは縄を切り、猿ぐつわを外す。
そのとき女の方が少しの怯えを見せた。触れられることに拒否感が出たのだ。
その反応から盗賊たちの女の扱いを推測し、アロンドは女から少し離れる。距離が開いたことでホッとした様子を見せたことから、アロンドは推測を確信に変えた。
「俺の仲間に女がいるんで、村に帰るまでのフォローはそちらに頼むことにしますね」
「……ありがとうございます」
女はそう言って、助けられたという安堵とアロンドの気遣いに気が緩み、ほろほろと涙を流す。
「俺たちは盗賊と戦ってきますからここでじっとしててください。ここにいるのは嫌だと思いますが、俺の能力で結界をはっていくので安全です」
「わかった。おぬしたちも無茶はせんようにな」
アロンドは頷き、平太と一緒に二階へ繋がる階段に向かう。
一階ではサフリャたちが戦いを始めており、その騒ぎが小さく二人の耳に届く。
二人の耳に届いたということは、二階にいる盗賊も気づくということで部屋から顔を出した盗賊と平太たちは鉢合わせした。
「な、なんだお前ら!?」
「お前らに死を運んできた者だ」
「っ!?」
短い付き合いだが、一度も聞いたことのない声音を出したアロンドに平太は勢いよく顔を向ける。
アロンドの表情は冷たく鋭いものだった。助けた女に盗賊たちがやったことで怒りを抱いているのだろう。
怒りと殺気を叩き付けられた盗賊は小さく悲鳴を上げてのけぞる。
それと同時にアロンドは踏み込み、剣を突き出す。
このままでいけば喉を突き刺すところだったが、ファーマからの生け捕りという頼みを思い出し、軌道をずらして首の皮一枚斬るだけですませて、かわりに顔面を殴る。
「ぶべぇっ」
悲鳴を上げて部屋の中に戻る。
男を縛るため二人も部屋に入ろうとするが、皿が飛んでくる。それをアロンドは避けて、平太は腕で防ぐ。
皿は割れ、破片が顔に飛び、思わず目を閉じた平太。
平太が動きを止めたその間にアロンドは動き、部屋の中にいた男を剣の腹で叩き伏せた。
「これで外にいるやつらを含めて五人。残り七人は下かな」
「そうなんだろう。こいつらはリーダーじゃないんだよな?」
その確認に平太は頷く。
「リーダーも下にいるなら、こいつらはなにをしてたんだろうか。さぼりなのか」
「リーダーに命じられてここで待機かなんらかの作業でもしてたとか」
ちょっと探ってから下に行くかと言う平太に、アロンドは頷いた。
盗賊たちを縛り、急いで家探しした二人は、奥の部屋で人間よりも少し大きな石製ゴーレムを見つける。
「殴られた盗賊は念動力の使い手だし、これを動かして侵入者にぶつけようとしたんだなー」
「一階に置いとけばいいのに、わざわざ二階に置いてある理由はわかるか?」
「穴を掘る作業に使ってそのまま置きっぱなし」
「特別な理由じゃなかったな。下に行こう」
一階への階段に近づくと、部下に指示を出しているリーダーらしき者の声が聞こえてきた。
「このまま静かに移動して奇襲するぞ」
平太は頷きを返し、忍び足で進む。
角から少し顔を出して通路の先を確認すると、二人に気づかず一階出入口にだけ気を向けている盗賊たちを見つけることができた。
通路はそれほど広くはなく、ぎりぎり二人が並んで進める程度で、戦うとなると一対一でやるしかない。
今もサフリャが戦闘に立ち、その背後にファーマ、サイニーと続いている。
盗賊側は部屋に三人がたむろしていて、二人が通路に入っている。残り二人はサフリャにやられたか通路に倒れて動かない。
「盗賊たちがいる部屋なら二人で戦える。ヘイタは人間相手の殺し合いができそうか?」
「やったことあるから大丈夫。でも再現は使わないから苦戦はするかもしれない」
「わかった。まあ再現使わなくとも負けはないだろう」
二人はできるだけ静かに盗賊たちに襲いかかる。
盗賊たちにもある程度の気配察知能力はあったか、無防備にやられるようなことはなく、若干不格好ながらも対応する。
「上の入口が見つかったのか!?」
自信があったのだろうリーダーは驚きの声を出す。
「悪さに関わることなんて、いつまでも隠されることなどないのさ!」
「そんな綺麗事で能力で隠した場所がみつかってたまるか!」
この背後からの奇襲が気になり、通路で戦っていた盗賊の気がそれる。
その隙を逃すサフリャではなく、盗賊はハルバードの穂先で喉を突かれて、血を吐き出し悲鳴を上げて死ぬ。
その悲鳴が盗賊側にさらに動揺をもたらして、形勢はいっきに盗賊不利へと傾いて、そのまま戦いは終わる。
死者は四名、盗賊のみ。サフリャが相手した者ばかりだ。
法の裁きを受けさせたかったファーマは微妙な心持だが、相手が殺しに来ていたので仕方ないと割り切る。
「行方不明者の安全は確保してる。でも女性が乱暴されたらしくてな。男だと安心できないようで、サイニー行ってくれるか?」
「わかったわ、いるのは三階?」
「ああ、そこに結界をはってる」
結界を解除し、二階にいる盗賊も連れてくるため平太とサフリャ以外が移動していく。
平太たちは見張りだ。
「このあとは盗賊たちつれて移動かな?」
平太がサフリャにそう聞くと、首を横に振られる。
「いや迎えを頼みに少人数で移動でしょ。反抗的なこの人数を連れての徒歩移動は大変だし」
「また車での移動かな」
「まあ、そうでしょ。報告としてファーマも。あとは証拠として盗賊の一人くらい」
「かなりとばしても村への到着は日暮れ後だなぁ」
再現の残り回数はあと二回。約一時間の移動になるので、途中から徒歩は確定なのだ。
「こっちに戻ってくるのは明後日になるのかもしれないか。ここに人数分の食糧あるのかしら」
「なければ盗賊分は削るか無しか」
「最初から盗賊の分はないわ」
「餓死はしないだろうけど、水は与えてやってね? さすがに水もなしだと死ぬ可能性もあるし」
「こんなやつら死んでもいいでしょ」
「まあ異論はないけどね。ファーマたちが聞き取りしたいだろうから」
クシャラスの記憶を再現し、かなり好き勝手していたと知っている平太も盗賊の擁護をするつもりはない。
ファーマたちの仕事がスムーズになることを考えて、生存を訴えているだけだ。
盗賊を担いだ男二人と捕まっていた老人が戻ってくる。
サイニーは捕まっていた女の体をふいたりするために二階の部屋にいる。
「あとは外の盗賊を回収して、村に出発でいい?」
サフリャと話したことをアロンドに確認すると頷きが返ってくる。
男たちで盗賊の死体を運び、洞窟の外に置いて、放置していた盗賊を回収して戻る。
「じゃあ俺たちは村に戻るよ」
「頼んだ」
クシャラスを車に乗せて、ファーマが助手席に乗る。
ラインに伝言があるか聞いた後、平太も車に乗り込み出発する。
「できるだけ距離を稼ぎたいからスピード出すよ。かなり揺れるだろうからどこかに捕まっておいた方がいい」
「わかりました。後ろに転がしている彼はどうしましょう?」
「……たんこぶのいくつかは我慢してもらうしかないな」
そう言って平太は徐々にアクセルを踏み込む。
一度通った道なので、どこらへんならば速度を上げていいのかわかっており、平太が言ったように激しく揺れながら進む。
そのおかげか行きよりも長距離を進むことができ、村まで徒歩で二時間弱というところで車が消える時間がきた。
しっかりと揺れに対応できたファーマは少し酔っただけですんだが、クシャラスはぐったりとしていた。
動けないクシャラスの縛られた手足に一本の棒を通して、狩りの獲物のように二人で運ぶ。
途中休憩も入れて、太陽が西の山脈に消えていった頃、平太たちは村に到着する。そのまま兵の使う建物にクシャラスを運び込んだ。
平太たちの帰還の知らせを受けて、兵のまとめ役がやってくる。
「ずいぶんと早い帰りですが、二人だけ引き返してきたのか?」
平太とファーマはどちらが答えるか顔を見合わせる。平太は頼むと言ってファーマに任せた。
「盗賊の隠れ家には行ってきました。とても速い乗り物を使ったので移動はあっという間でした。盗賊団の規模は小型。人数は十二人。行方不明者が二名いました。アロンド様たちは捕まえた盗賊を見張るため隠れ家に残っています。私とヘイタ様は報告と盗賊の一人をこの村まで運ぶため戻ってきました」
「徒歩だと約一日かかる距離をこの時間でとは驚きだ」
言葉通りに驚いているが、疑いもある。
車に乗ってみれば信じるのだろうが、話に聞いただけならばこの反応が当然なのだろう。
「連行してきたという盗賊を尋問したいのだが、その縛られている奴でいいのか?」
「はい。ですが、その前に急ぎやってもらいたいことがあるそうでして」
「なんだ?」
この先は平太に頼むとファーマが視線を寄越す。
それを受けて平太が一歩前に出る。
「こいつら盗賊と繋がっている商人がいまして。そいつはここで商売をしているんです。捕まえるのに協力してもらいたいと思っています」
「どうやって繋がりを知ったんだ?」
「能力です」
「盗賊のことを能力で知ったというのは君だったのか」
「ええ、その関わりで商人のことも知りました」
明確な証拠がないため、クシャラスをきっかけとした調査を行い捕縛したいと説明し受け入れられる。
もともと強引な商売で苦情が出ていて警告も検討されていたので、連行に躊躇いはない。
「ではさっそく動くか」
「俺は仲間のいる宿に行ってきたいんですけど、大丈夫ですか?」
なにかしなければいけないことがあるならと聞く平太。
「明日でいいんだが、盗賊の隠れ家に道具や食糧の調達をしてほしい。お前さんなら早く届けられるんだろう?」
「わかりました。朝食後にここに来れば大丈夫ですか?」
「ああ、それで頼む」
兵たちがいる建物から出て、宿に戻る。
ノックするとラインが出てきた。平太の背後に誰かいないか確認して不思議そうな表情を見せる。
「ヘイタ様だけなのですか?」
「はい。俺とファーマという兵だけが報告のため先に戻っていました。アロンドたちは怪我なく元気です」
ラインは、無事という報告に安堵したように笑みを浮かべた。
「明日車で荷物を運ぶ予定なんですが、ついてきます?」
「ついて行きたいですが、いいのでしょうか?」
「向こうは安全だし問題ないと思います」
でしたらぜひと頷いたラインに出発時間を告げて、平太は男部屋に戻る。
ゆっくりと平太が休んでいる間に兵たちは動いていく。
兵たちは盗賊と繋がっている商人が使っている宿を囲み、宿の主人に事情を話してから商人のいる部屋に向かう。
突然やってきた兵に商人は驚き、抗議の声をあげた。
「突然なんだ!? 兵に捕まるようなことはやっていないぞ!」
「こちらにケルギンという男がいるだろう。そいつに犯罪に関わった疑いがかかっている。取り調べのため連行させてもらう」
「たしかにケルギンというのはうちの店員だが。犯罪など!」
「戸惑われるのは仕方ない。その戸惑いをはらすためにも連行には頷いておいた方がいいぞ。下手に庇うとなにか隠していると疑う材料になる」
「……わかりました」
渋々とだがケルギンの連行に頷く。
「しかし誰がうちの店員を疑うようなことを?」
「今は言えない。疑いが間違いだったら詫びのためにも紹介は必要だろうな」
商人と話していた兵は部下にケルギンを任せて、会話を続ける。
「あと追加だが、ケルギンの取り調べが終わるまでこの村から動かないでもらいたい」
「私にも都合というものがあるのですが」
「誰かに会いに行くのなら、こちらから遅れる理由を書いた手紙を出そう。犯罪に関わったかもしれないということをこのままにしておいたら、今後の商売に不都合がでるだろう? なにせ信用が第一の仕事だ。信用を失わず、未来の利益を失わないためにも了承願いたい」
後ろ暗いところのない商人を装うのならば、頷いておくのが自然だ。
わかりましたと商人は滞在を受け入れ、兵を見送る。足音が遠のくと、不機嫌そうな表情を隠さずテーブルに拳を叩き付ける。
物に当たり散らして気分を落ち着けると、手紙を書き別の部屋にいる下男を呼びつけ命じる。
「深夜に誰にもみつからないよう村を出るんだ。そしてこれを店に届けろ。いいな? 誰にも見つかるなよ」
「暗い中、一人でなんて無理ですっ。魔物に襲われてしまいます」
商人は舌打ちすると、荷物から手のひらサイズの小瓶を取り出す。
「これを持っていけ。魔物避けのため調合された香水だ」
本当ならば自身を守るための奥の手で、安い代物ではない。
正直下男に使わせるのは惜しいが、ここでケチって店に隠してある犯罪の証拠がみつかるような真似はしたくはない。
小瓶と手紙を押し付け、みつかるなともう一度念押しして部屋から追い出す。
「ここらじゃまだ派手には動いていない。なのにどうしてばれたのか」
そんなことを考えながら商人は時間が流れるのを待った。
そして夜更け、ほかの使用人を起こさないように音消しの能力を使って動き出した男は、荷物をまとめて宿を出る。
見張りの近くにある明かりを避けて移動し、村の出入口まで来た。そこで小瓶を取り出し使おうとしたところで、宿からつけていた兵に腕を掴まれた。
兵たちは商人がなんらかの動きがみせるかもしれないと、隠れて宿を見張っていたのだ。
男はそのままケルギンがいる兵の詰所に連れていかれて、取り調べを受けることになる。
持っていた手紙を読んだまとめ役の兵は、すぐに早馬を商人の店がある町に走らせる。
この手紙だけでも証拠になり得るが、決定的な証拠を掴むため店の調査を町の兵に頼んだのだ。
翌朝、朝食後に平太はラインと一緒に兵の詰所へと向かう。
荷物運びの話は知らされていたようで、兵の一人が荷物を置いている町の入り口へと二人を案内する。
そこには馬車と荷物があり、数人の兵が積み込み作業を行っていた。
「こちらが運んでもらいたい物資になります」
「じゃあ早速積み込むか」
車を再現し、後部ドアを開けて後部座席を畳む。
次々と荷を入れて、これ以上入らないというところまで入れてドアを閉める。
見慣れない代物へと荷を入れる様子は、興味をひいたようで商人や兵の視線が集まっていた。
「全部は無理でしたね」
「移動用の乗り物ですからね。軽トラといった荷運び用なら載ったんでしょうけど」
軽トラには触ったことも運転したこともないので、再現は無理だろう。
「こちらに受け取りのサインをお願いします」
「はいはい。ライン様は先に乗っててください。すぐに出発しますから」
「わかりました」
名前を書こうとして自分の名前かリーダー役のアロンドの名前がいいのか悩み、兵に聞く。
兵がきちんと見届けたので、どちらでもいいという返事に、自身の名前をさらさらっと書いて運転席に乗る。
一往復したことで、どこになにがあるかわかり、スムーズに進む。魔物の姿も見えたが、車を追いかける気はないようで襲いかかってくることはなかった。
無事到着したはいいが、ちょうど洞窟前で再現の効果が切れて、荷物がちらばった。
その音に反応して、アロンドとサフリャが出てくる。
「なんでヘイタとライン様は地面に転がっているんだ?」
ラインに手を差し伸べつつ、アロンドは平太に聞く。
「ちょうど再現の効果が切れて。荷物があるから洞窟に来るまで再現を消すわけにはいかなかったから、ぎりぎりまで車に乗っていたんだ」
「この荷物は?」
「兵のまとめ役さんが持っていってくれと。あとから盗賊を運ぶための馬車も来るよ。食糧は勝手に使っていいってさ」
「そりゃ助かる。少々心もとなかったんだ」
手の空いている者で荷物を運び込む。
その作業の間に、平太は自分たちにとっていいニュースを聞く。
捕まっていた老人は、会いに行こうとしていた鍛冶師シャンロの父だった。シャンロが作った武器を町に運んでいるところを盗賊に襲われて、シャンロを脅迫するため捕まったのだ。
助けてくれた礼にシャンロに頼んで、優先して武器を作ってもらえるという話になった。
「盗賊討伐してよかったな。あのままジャローに向かっていたら依頼できなかった」
なにか幸いするかわからないと奇妙な運に平太は感心する。
盗賊たちは昨日と変わらず縛られて転がっている。だがなぜか服が濡れていた。
その疑問に気づいたアロンドは理由を説明する。
そう難しい話ではない。トイレに行きたいと盗賊が言い、漏らされては臭いに困るので、手足を縛ったまま近くの川に放り込み、服を着たままさせたのだ。
「少し顔色が悪いようにも見えたのはそのせいかー。まあその扱いは当然だなぁ」
盗賊たちが抗議のうめき声をあげるが、それを聞こうとする者はいなかった。
兵たちがやってくるまで、魔物の警戒や鍛練をして過ごす。鍛練にはラインも参加し、身のこなしの技術を向上させようと努力する。
兵たちは予定通りにやってきて、盗賊を檻に入れていく。
捕まっていた二人は丁重に扱い、盗賊に捕まったいきさつや捕まってからの扱いを聞く。捕まっていた女については事前に情報を伝えていたので、女の兵が刺激しないように簡単に聞く。
シャンロの父を送っていく約束をしている平太たちは兵と一緒に行動し村に帰る。
村では盗賊と交流していた商人が、多くの兵の移動を見て嫌な予感がして村から移動しようとして、残った兵に止められていた。文句を並べ無理にでも移動しようとしたが、手紙を持たせて村から出そうとした使用人を捕まえていることを聞くと、観念したように大人しくなった。
手紙が見つかったということは、店の方にも捜査の手が伸びたということだ。さすがにそちらを探られて、知らぬ存ぜぬを通せるとは思わなかったのだ。
店からいくつかの証拠が見つかり、商人は死刑。商人の行いを知っていた者は、事情により対処がかわった。商人に従い利益を得ていた者は刑罰を与えられた。脅迫されて従っていた者は事実関係を調べて、事実の場合は軽い罰を与えられ、脅迫されたと嘘をついた者は重い罰を与えられた。
店は賠償金を他店に支払い、規模を小さくして事情を知らなかった商人の妾の子供が継ぐという形で存続がなった。
「捕縛の協力、ありがとうございました」
兵たちのトップが平太たちに頭を下げる。
「被害を出してしまいましたが、より大きな被害が出るまでに捕縛できたことはよろこばしく思います」
「私も同意見です。放置すれば確実に不幸がばらまかれたことでしょう。そうならずよかったと思います」
アロンドの返答に、トップは大きく頷く。
「協力の礼として、いくらかお金を用意しましたので受け取ってください」
「こちらの運営費に負担をかけたのでは?」
「いえいえ、盗賊対策に準備しようとしていた金が浮いた形ですから、負担は極小でした」
準備しようとしてたお金の一部を出しただけですみ、経営担当は喜んでいた。
お金を受け取り、商人について話した平太たちは、兵からいくばくかの支度金をもらい身支度を整えたシャンロの父と合流し村を出る。




