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38 山越えて

 出発してしばらくは見晴らしのいい土地が続いたため、八十キロほど速度を出して進む。

 約百分といったところで大陸縦断山脈の麓手前にたどりつく。


「もうここか」


 車から降りて山を見上げてつつアロンドは感心したように言う。ラインやサイニーも似たような表情だ。

 移動が速くなるだろうとはわかっていたが、実際に体験してみると改めてその速さがわかる。


「感心してないで荷物を降ろそうよ」


 平太とサフリャは先に荷物を降ろし始めている。


「ああ、すまん」


 ここから先は車だと移動している人たちの邪魔になりかねないので徒歩での山越えだ。ある程度舗装された道があるので、進むのに苦労は少なく夕方頃には大陸東側ではないかとアロンドは見ていた。

 それぞれの力の強さに合わせて荷物を振り分け、遠くに見える上り坂目指して歩き出す。

 この行軍に一番苦労しそうなラインには荷物は持たせず、ラインの分をアロンドが持っている。

 馬車がすれ違える広さの道の端を歩く。

 いくつもある大きなカーブには、小さな広場が設けられていて休憩所なのか掘っ立て小屋もあり、そこで見回りの兵らしき者たちがベンチに座っていた。

 彼らのおかげでこの道に魔物の姿は少なく、見つけたとしても木々の向こうや空を飛んでいる姿くらいだった。道に近寄れば退治されるとわかっているようで、近寄ってくることはない。

 

「ここらで一度休憩しようか」


 アロンドが無人の休憩所を前にして立ち止まり言う。

 行程的には頂上まで半分を過ぎたといったところか。ラインが少し疲れた様子を見せていたため、休憩を提案した。

 ラインはベンチに座り、平太たちも荷物を下ろして、水を取り出す。

 ついでにと平太はチョコクッキーの詰合せを再現してベンチに置く。そこから六枚とって半分をアロンドに渡す。


「ありがとう」


 礼を言ったアロンドは、早速一枚口に放り込み、甘さに顔をほころばす。


「思った以上に安全な旅になってるね」

「クルマの速さにおいつける魔物はそんなにいないしな。この山道も兵の巡回で治安維持できてるし」

「東側の旅はもうずっとこんな感じになるのかな?」

「そう思っていいんじゃないか。ただ腹をすかせた魔物や獣が襲いかかってくることもあるだろうから、油断はするなよ」

「わかったよ。でも察知能力はそっちの方が高いからさ、気をはっててもあまり役には立てそうにないよ」

「俺も完璧に察知できるわけじゃないからなぁ。不意打ちで大怪我ってことになりかねないから、やっぱり警戒はしておいた方がいい」

「了解」


 二人で話しているうちに女性陣はクッキーを食べ終わる。

 十分な休憩をとれた一行は出発し、昼過ぎに頂上へと到達した。


「この景色の向こうに魔王の住処がある、らしい」

「らしい? まだ誰もありかを知らない?」


 アロンドが指差し見える大陸西側の風景は、森や野原や川といった自然の光景が視界いっぱいに広がるというものだ。

 遠目に本拠地らしきテント群も見え、そのさらに向こうには放棄されたであろう町などが見える。

 こうして見るかぎりでは魔王が暴れているような危険に満ちた世界には見えない。


「いや西側中央からやや北に行ったところの城にいるとは聞いている。俺は行ったことはないから、らしいといった伝聞になった。もともと西側に住んでいたサフリャなら知ってるかもしれないが」

「そこには行ったことはない」


 荷物を下ろして昼食の材料を取り出しつつサフリャは答える。

 サフリャの故郷は大陸西側の中央からみて北東。今いる山脈沿いに北へ徒歩数日行って、少し西に進んだところにある。

 なんの変哲もない農村だったそこは、角族が率いる魔物の群に襲われて壊滅した。


「そっか。じゃあサイニーは?」

「私もないわよ。大陸西側を旅したこともあるけど、主に東側を中心に旅していたから。東にある修練場なら近くまで行ったことはあるんだけどね」

「クルマを使って移動したら、そこまでどれくらいでつくと思う?」


 サイニーは少し考え込んで、おおよその時間を割り出す。


「今日のペースで進むなら十五日はかからないと思う、たぶんだけどね」

「予想より時間がかかっても十分早く到着しそうだな」

「いつまでも話してないでご飯作るの手伝って」


 黙々と作業を進めていたサフリャがアロンドたちを呼ぶ。

 適度な運動に平穏な時間に青空の下での料理というピクニックと言ってもいい状態で、四人は魔物との戦いで疲れた体と心を癒す。ここらで昼寝でもできたら言うことなしなのだが、そこまでゆったりすることもできず、昼食の片づけをして今度は山下りを始める。

 眼下には今日宿泊予定の村が見える。その村は大陸西側へと資材を送るために作られた村だ。規模はわりと大きい。住む者は軍事関連の者だけだが、少なくない訪問者がいるのだ。

 商人やハンターといった訪問者の目的は山から採掘される鉱石と東側から運ばれてくる魔物の素材だ。

 特に魔物の素材は入ってくるとすぐに買い取られるくらいに人気だ。魔王が暴れ、魔物の動きが活発化している現状、強い武具を作ることのできる素材の人気が高い。

 下山の途中でも一度休憩を入れて、薄暗くなる前に村に到着することができた。


「俺はヘイタと素材を売ってくるから、女性陣は宿をとっておいてくれ」

「俺と一緒に?」

「お前はいい武具があったら手に入れておいたほうがいい。ずっとその武具でやっていくつもりはないだろ?」

「あ、そうだな。じゃあライン様も一緒の方がいいんじゃないか?」

「ライン様は明日だな。疲れてるから宿で休ませたい」


 平太も女性陣も納得し、二手に別れる。

 村の建物はここ数年で建てられ新しいはずだが、何度かここまで魔物がやってきたのか大きな傷がついている壁があった。

 売買が許可されている村の南側には、荷台に荷物をいれている商人が何人かいる。そろそろ日が落ちるということで、店じまいをしているのだ。


「さて誰にもっていく?」


 平太の問いかけにアロンドはざっと広場を見てから口を開く。


「大荷物の商人でいいんじゃないか? それだけ取引できる金を持ってるってことだろうし……いややっぱり止めた、一度見て回ろう」


 自分の意見をすぐに翻したアロンドを平太は不思議そうに見る。


「その理由は?」

「これはという商人に目星をつけて、お前さんにその人物の考えを再現してもらおうかなと。誠実な商売しているかわかるだろ」

「そういう使い方ができたか。だとすると模擬戦もするだろうから、一回しか使えないぞ? 再現を使用した模擬戦をしないなら三回使えるけど」

「今日は俺の番だろう? だったら問題ないな。三回で頼む」

「あいよ」


 残っている商人は五人。どのようなものを買えたかと世間話を装い話しかけた。その中から三人を選んで、思考を探る。

 一番多くの荷物を持っていた商人は、買いすぎてお金が心もとないということだった。二番目に探った商人は、難癖つけて少し安く買うという思考で、この商人は除外することにした。三番目の商人も安く買えるのならばそうするという考えだったが、難癖つけてまで買い叩くということはなかった。


「話をつけるなら一番目と三番目か」

「そうだな。とりあえず三番目、そこが駄目そうなら一番目で。ここで絶対売らなきゃいけないってわけでもないし気楽に交渉しよう」


 そう言ってアロンドは目的の商人に話しかける。

 また近づいてきた二人に商人は不思議そうな表情を浮かべた。


「なにか聞き忘れたことでもあったか?」

「いや魔物の素材を持っているんだ。それを買い取ってもらおうとな」

「ほう、さっきはそんなことを言ってなかったが、ひょっとして人柄などを探られていたのか」

「そんなところだ。で、どうだい持っているものを見るか?」

「ああ、見せてもらおう」

「じゃあ、これが目録になる」

「そんなものも用意してあるのか」


 少し驚いたとアロンドが差し出した紙を受け取る。目を通して驚きはさらに大きなものになった。

 この目録はドークが必要かもしれないと準備してくれたものだ。軍に雇われた商人が鑑定したもので、商人にとって欲しい情報が載っている。


「詳細な情報だ。これが本当なら鑑定料はかからず、少しは高めに買い取るぞ」

「売るもの出すぞ」


 二人は処理された皮、綺麗に洗われた骨や牙や爪を取り出し、商人に渡す。

 それを虫眼鏡で見て、素手で触れ、小さな金槌で叩き、詳細に調べていく。その結果、商人の見たかぎりでは目録どおりの本物のように思えた。

 素材から手を放し、値段を脳内で計算していく。

 

「そうですな、ここにあるもので七万ジェラでどうだ」

「俺はそれでいいと思うが、ヘイタはどうだ?」

「文句ないよ」

「ありがとうございます」


 多少の色はつけたが、十分に儲けの出る商談で商人は嬉しそうにお金を渡し、目録を書き写していく。


「そうそう、目録にはまだ素材が載っていたが、それは売らないんで?」


 二人が売りに出したのは半分ほどだ。


「ああ、あれは自分たちの武具を作る用にとっておくつもりなんだ」

「作り手にあてはあるのかい? ないなら知ってる中で一番の鍛冶屋を紹介するが」

「これから南東に行くんだが、その鍛冶屋はそっちに住んでるのか? それなら紹介してもらおうと思う」

「南南東に徒歩十日ってところだよ。ジャローって村に住んでいる。名前はシャンロ、年齢は四十才くらいだったか」

「ジャローのシャンロ。覚えた、ありがとう」


 いいってことよと片手を振って、商人は目録を返す。

 その商人から離れた二人に、交渉から除外した商人が近づいてくる。


「お二人さん。耳に入ってきたんだが、素材持ってるんだって? 見せちゃくれないかい」

「持ってるのはたしかだが、売るつもりはないんだ。すまんね」


 アロンドはそう言って断る。


「そう言わずにさ、少しくらい売ってくれたっていいだろう?」

「武具に使うつもりなんだ。足りなくなったら困る」


 そのそっけなさに商人は溜息を吐いた。


「そうかい、残念だ。ちなみにあの商人に売ったのはなぜなんだ? 俺でもよかったはずだろう」

「特にこれといった理由はない。勘だな」


 平太が答える。再現で思考を読んだなどというよりはわかりやすい理由だ。


「勘ね。それでこっちは儲け話を逃したんだから、残念な話だよ。ちなみに今日はここに泊まって、明日出発かい?」

「ああ、そうだが」

 

 なぜそんなことをとアロンドは不思議がる。


「もしかしたら明日になったら気が変わるかもしれないだろう。もう一度交渉できるかもしれない。その機会を逃さないために一応聞いたんだ」

「気は変わらないと思うが」


 念のためさと言って、商人は自身の荷物のところへ戻っていく。

 平太とアロンドは村の中央に戻り、村の事務を扱う場所を探す。兵士に武器購入の交渉をしたいと伝え、事務関連の人間がいるところまで案内してもらう。

 商人やハンターが交渉しても購入はできないが、ドークの書状を持っているアロンドたちならば邪険にされることはないのだ。

 質のいい鉄の剣とつくりのしっかりとした魔物の革鎧を売ってもらい、二人は宿を探す。

 サイニーが宿の前で二人を待っていてくれたため、すぐに見つけることができた。


「部屋は男女で二部屋とってあるから。これが男部屋の鍵」

「あいよ。こっちの報告は持ってた魔物素材の半分が七万ジェラで売れたってことだな」

「七万もあればしばらくは狩りで稼がなくても大丈夫そうね。ドークからもらった旅費もあるし」

「うん。修行に集中できそうでありがたいよ」


 サイニーと部屋の前でわかれて、二人は部屋に入り荷物を置く。

 平太はベッドに腰かけて、周囲を少し気にしてからアロンドに話しかける。


「ちょっと聞きたいことがあるんだ」

「ん? なんだ」

「アロンドは騎士って言ってたろ。ということは犯罪者を捕まえたりするのも仕事の一つなのか?」

「なんでいきなりそんなことを。まあ、治安維持は大事な仕事だな」

「そっか。さっき交渉を除外した商人がいるだろ。あいつがどうやら盗賊と繋がってるらしいんだよ」

「なんだと? ああ、思考を読んだときに知ったのか」

「そうそう。まあ繋がってるって言っても盗賊子飼いの商人とかじゃなくて、武具とかを売ってる程度の繋がりなんだけどね。あとはたまに盗賊に情報を流して、商売敵の邪魔をしたりもしているらしい」

「どうにかしたいな」


 アロンドならばそう言うだろうなと平太は想像できていた。

 だが問題もあると続ける。


「証拠がないんだよ。俺が思考を読んだから、そういった情報を知れたわけで、今盗賊との繋がりを指摘しても言いがかりだって言われて終わりな気がするんだ」

「あー、たしかにな。証拠か、どうやれば。いっそのこと盗賊の本拠地を襲撃するか?」

「それであの商人がおとなしくなればいいんだけど、これまでのノウハウを生かして他の盗賊と繋がりを得るだけかもしれないし」

「どっちも捕まえた方がいいか」


 なにかいい方法はないかと二人で考えて、いい考えはでないまま時間が流れる。

 扉をノックされて、思考を一時中断する。ラインが扉を開けて声をかけてくる。


「お二人とも食事にしましょう。なにか悩んでいました?」

「わかりますか」

「これでも貴族で、表情を読む教育を受けていますから」


 食事のあとに皆に相談すると言って、この話題は後回しにして食堂に移動する。

 よく動く兵やハンター相手の商売なためか、出てきた料理は質よりも量だった。かといって不味いわけではない。強めの魔物の肉などを使っているので、少々の味付け失敗は素材のポテンシャルでどうにかなってしまうのだ。

 もっと工夫できるのではという疑問を抱いた食事を終えて、皆で集まる。

 商人と盗賊の話をして、アイデアを求める。


「再現ってそんなこともできるのですね。ある程度の地位がある人が欲しがる人材ですよ」

「神に繋がりがあるから、下手に手を出すと碌なことになりませんが」

「……馬鹿な人が手を出さないよう祈りましょう」


 アロンドの言葉にラインは実際に祈る仕草を見せる。

 同時に自分からは情報を広げないようにも決めた。


「少し考えてみたが、商人にばれないように盗賊の本拠地を襲撃するのがいいんじゃないかしら」


 思考にふけっていたサイニーが提案する。

 皆に続きを促されて続ける。


「まず商人にばれないようにするのは、対策を取られないようにするため。商人の家に盗賊との繋がりを示す証拠があるかもしれないからね。んで盗賊襲撃は、向こうにも商人と繋がる証拠があるかもしれないし、盗賊を尋問して証人としてもいい。あとは証拠があったとでっちあげることもできる」

「偽造か。それをして役人が信じてくれるかな」


 平太の疑問にサイニーは自信のある笑みを浮かべた。対策があるのだろう。


「最初から役人を巻き込んで動けばいいのよ。役人だって盗賊がいるのは困るんだし、討伐に誘えば動くでしょ」

「でもそれって盗賊の本拠地がわからないと駄目だと思うんですけど、そこらへんは大丈夫なのでしょうか?」


 どうなのだろうかと平太に視線が集まる。


「今はわからない。でも明日の朝一番に記憶の再現すれば大丈夫。商人が盗賊の本拠地を知らないと再現の意味はなくなるけど」


 盗賊の警戒心が高く、本拠地の位置を隠すため商人にも教えていない可能性がある。

 そうなれば平太たちにはどうしようもない。

 役人に商人が怪しいことを伝えて、こっそりと調査してもらってから動いてもらうしかない。

 本拠地がわかるなら、実際に役人をそこに連れて行って実在を確認してもらい動いてもらえるのだ。


 商人と盗賊の関しての話が終わり、少し雑談してから女性陣は風呂に入るため部屋を出て行った。

 それを見送りアロンドはぽつりと漏らす。


「サフリャが盗賊退治に反対しないかって思ってたけどなにも言わなかったな」


 修行優先のサフリャならば盗賊退治で時間を潰すようことは反対するかもしれないと思ったのだ。

 そこら辺に関してのサフリャの考えは、サフリャの再現をしている平太には推測できる。


「盗賊を放っておくとどこかの村が襲われる可能性があるでしょ? 魔物によって村を失ったサフリャにはそういった事態を見過ごすことはできないんじゃないかな。自分と同じ思いをする人を減らしたいのかもしれない。日々、再現でサフリャの考えを真似ている俺はそう思う」

「なるほどな。もともとは優しい人格だったのかもしれないな」

「そうだね。魔王なんてものが現れなければ穏やかに暮らせてたんだろう。ほかの人にもいえることだけどなー」


 翌日、平太は朝食前に商人の記憶を探り、盗賊の本拠地のおおよその場所を知ることができた。

 おおよそなのは商人はそこに行ったことはなく、口頭で教えてもらったからだ。


「場所はどこなんだ?」

「北に少し行ったところ。徒歩で一日はかからないとか。山中の洞窟で、そこを掘って住みやすくしたらしい」


 言いながら日本に帰る前もそこら辺で賊が騒ぎを起こしたことを思い出す。今回の賊とその賊になにかしらの繋がりがあるのかと考えたが、さすがにそれはないだろうとすぐに否定した。

 ただ賊が隠れやすい場所なだけで、今回の賊とそいつらに関係はない。


「ここの役人と一緒に行く? それともまずは俺たちだけで確認してくる? 近くまでいけば俯瞰の能力で見つけられると思うんだけど」

「役人と一緒に行こう。盗賊がいるかもしれないと言えば、一人くらいは確認のため同行してくれるだろう。見つけたらあとは急ぎ戻って全員で襲撃すればいい。ここら辺の地理に詳しい役人に案内してもらえれば発見はもっと早くなるだろう」


 今日の行動を朝食時に話し、朝食後にアロンドがここのトップに面談を申し込みに行って、残りは戦闘の可能性も考えて出発の準備を整える。

 一人ラインだけはのんびりとしている。留守番が決まったのですることがないのだ。

 まだまだ戦闘技術が未熟なため盗賊との戦闘では足手まといにしかならない。

 最初はついていく気だったラインも、足手まといと言われてしまえばその自覚もあったため素直にひいた。次があれば今度はついていきたいという気持ちを抱いて、実力をつけようと再度決心する。

 一時間たたずにアロンドは戻ってきて、急ぎ出る準備を整える。

 同行する兵は、村の中に賊のスパイがいる可能性をアロンドが説いたことで、村の外で合流することになっている。

 四人で村を出て五分歩くと、木陰で立っていた男が声をかけてくる。二十才を少し過ぎたくらいの、中肉中背で日焼けした肌を持つ男だ。


「同行するファーマです。よろしくお願いします」


 四人はそれぞれよろしくと返し、歩き出そうとするファーマを止める。

 なんだろうかと疑問を抱いたファーマに足を準備すると言って、アロンドは平太に頼む。


「あいよ」


 再現を使い出てきた車にファーマは目を見開き指差す。


「ななななななんですっそれ!?」

「車って言って、神様がくれた移動のための道具。馬車よりも便利だからこれを使って移動しよう」

「神が助力してくれるとはあなたがたは一体?」

「魔王討伐の有力候補なのだそうよ」


 サイニーが答え、ファーマは四人に尊敬の視線を向ける。


「英雄ですか! ついに魔王が討伐される希望が生まれたのですね!」

「いや、残念だがまだまだだ。今の俺たちだと魔王の配下にすら勝てないからな。修行のため修練場に向かおうとしているところだったんだ。だが賊のことを知って、放っておけなくてそちらに話を通したということだ」

「小さな悪も見逃せないのですね、さすがです。一緒に行動できることを光栄に思います」


 持ち上げすぎじゃないかと四人は思うが、ファーマからすれば神から期待されている四人が人助けに動いたということになる。敬意を持って当然なのだ。

 ナビゲートのためファーマに助手席に乗ってもらい出発する。


「案内を出してくれてありがたいんだけど、情報を信じられないっていう意見はなかったの?」


 運転しながら平太は思ったことを聞く。


「今回のように能力で事件を知るというのは、たまに聞く話なんですよ、予知の能力とかですね」

「へー」

「たしかに能力で知ったというだけで証拠はありません。しかし過去事件解決に繋がったという事実があります。なのでそういった情報が入ってきたとき無視はせず、少しでもいいから調査はしようということになっているんです」


 情報が本当ならば兵たちとしては助かるし、情報が間違いでもパトロールの一種として業務処理すればいいだけの話なのだ。


「それに最近二件ほど怪しげな報告が入っているんですよ。襲撃跡があるということと行方不明者がいる。もしかしたらそれは賊の仕業かもしれません。だから兵を出すことに反対意見はでませんでした」

「むしろタイミングがよかったのかもしれないんだ?」

「はい。情報をありがたく思っている人はいますね」


 時速四十キロほどで進み、急げるところは70キロまで出して一時間ほどで賊が潜んでいるであろう場所に到着する。

 その速さにファーマは感心しながら車から降りる。


「こんなに早く到着できるなんて、さすが神の道具ですね」


 ソウダネと平太は棒読みで返し、洞窟がありそうな場所を聞く。


「ええと……たしか向こうに崖があります。あっちには小高い丘陵の森があります。このどちらかじゃないかと」

「じゃあ俯瞰を使ってみるよ」


 高度から見下ろし、ファーマの示した二ヶ所を見る。


「んー……あれかな」


 まずは崖側を見て、穴らしきものがあいている場所をみつけた。

 足跡かなにかないかと目を凝らしていると、男が一人穴に入っていった。


「見つけた洞窟に誰かが入っていった」

「じゃあそこが隠れ家か」


 そう言うアロンドに平太はストップと手を向ける。


「狩人が休憩のため入っていった可能性もあるし、ほかのところも探してみるよ」


 崖をざっと見終わって次は、丘陵の森に視線を向ける。

 森に広場のようなものは見えず、木々に隠れて地面が見えない。


「森の方はさっぱりだ。上からだと見つけられない。この情報を踏まえてどうする?」

「最初はお前が見つけた洞窟を見に行ってみよう。遠くから確認して、誰も出入していなかったら他の場所でどうだろう?」


 アロンドが皆に問いかけ、頷きが返される。


「じゃあサフリャ、警戒を頼む」

「わかった」


 この中で一番、野外活動に慣れていて感覚が鋭いのはサフリャだ。警戒担当に一番向いている。

 サフリャを先頭にして一行は平太が指差した方向へと進む。

 サフリャは警戒しながら、誰かが歩いた跡も探す。それらしきものを見つけると指差して皆に教える。

 そうして二十五分ほど歩いて、洞窟を見つけることができた。そこから隠れるのに適した藪を探して移動し、そこに潜む。

 一時間ほど観察し、少人数だが洞窟を出入するのを確認する。


「出入した人たち狩人には見えなかったし、もう確定でいいのじゃないかしら? ここら辺に洞窟で暮らしている種族はいないのでしょう?」


 小声でサイニーがファーマに確認する。


「はい。私どもはそういった情報を得てはいません。このまま突っ込みますか?」

「人数がわからないからなぁ。こっちの人数より多いと逃がすこともありうるから、こっちも人数をそろえた方がいいと思う」

「大人数で移動したら目立つ。それを察知して逃げる可能性もある」


 アロンドの意見に対し、サフリャは自分の考えを出す。

 平太たちの考えはどうなにかと視線を向ける。


「洞窟の出入口があそこ一つなら突っ込んでもいいと思います。ほかに出入口があるなら今突っ込むのはやめた方がいいかと」


 ファーマの意見に、皆ふむふむと頷く。


「だとしたらここら周辺を探索して出入口探し、なければ突入。あれば引き返す。これでいいかな?」


 アロンドの確認に反論はでなかった。

 アロンドには別の考えもあった。盗賊の一人を捕まえて、平太に考えを読んでもらうというものだ。単独行動する盗賊を見つけたら実行しようと、平太に小声で伝えておく。

 静かに移動し、昼までに粗方の探索を終える。

 探索の途中で盗賊らしき者に遭遇したが、三人組だったので捕えることなく隠れてやりすごした。

 皆で聞き耳をたてて、出入口に関しての情報は彼らからでてこなかったが、かわりにここが盗賊の隠れ家だと確定する情報を得ることができた。


「さて、探したかぎりでは入口はほかになかった」

「突入ですね」


 アロンドの言葉に、ファーマは武者震いか怖さからか体を震わせる。


「その前に確認が二つ。一つはファーマの能力。どんなものか聞いておきたい」

「俺のは戦闘には役立たないですよ。汚れ落としです。これで飲めない水も飲めるようになります。泥で汚れていたり、毒が入っていても能力を使えば飲めるように」

「たしかに戦闘には向いてないが便利だな」

「ええ、家事をする人には羨ましがられますね」


 貴族とかも必要としそうな能力で、そちらからの誘いを受けそうだなと思いつつアロンドはこれからの行動を相談する。


「相手に知られず相手の数をできるだけ減らしたい。なにか考えのある人は?」

「すぐに思いついたのは出てきた奴らに奇襲」

「うん。ほかには?」

「数を減らす方法じゃないけど、注意点なら」


 サイニーが言い、アロンドが視線で続けるように促す。


「行方不明者がここで囚われてる可能性があるから、その人たちを人質にとられたら困ると思うのよ」

「あー、それがあるか。どうにかして位置がわかれば俺が直行して能力を使って守るんだが」

「盗賊を一人捕まえよう。そしてヘイタに探らせよう。捕まっている人の位置や盗賊の人数がわかる」


 サフリャが提案し、ファーマ以外はそれが一番かなと頷く。


「どうしてヘイタ様がわかるんでしょう? 能力は俯瞰ですよね? 応用しても内部は見えないと思いますが」

「あれだ、俯瞰は元々の能力を応用して使っていて、内部を探るのも応用だ」

「応用範囲が広くて羨ましいです」

「ほんとになぁ」


 羨ましいという部分には同意し、アロンドはしみじみと頷いた。

 あらゆる場面に対応できる能力は誰だって欲しがるものだ。アロンド自身の能力に不満はないが、その便利さにはどうしても羨望を持つ。


「まあ、そんなわけで討伐をはかどらせるために盗賊を捕まえよう」

「はい」


 一行は森の中にいるはずの盗賊三人組を探すため移動を始める。

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